公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

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第二章 変動

25話 手紙

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シアリィルドが公爵家の領地に着てから一週間が経過した。
朝起きて、クレーネと朝食。読書。昼食。読書。夕食。同じような日々に辟易していた。食事は全て、クレーネと二人だ。ルトギアスは本邸にいるのが基本であり、あれ以来シアリィルドを訪ねてくることもない。第二邸には来客も来ないため、常に淡々とした空気が流れている。騒がしかったのは、シアリィルドらが来た日くらいだ。

「流石に、気が詰まるな」

シアリィルドは部屋に一人。机に向かっていた。その手には、手紙がある。渡されたものは、3通だ。そのうちの一つは、ジークランスからだった。今この場にいたならば、少しは退屈もまぎれただろうが、生憎ジークランスは王都だ。


『シアへ
元気にしているか? 私は変わらず元気だ。ここまで長くお前が側にいないのは、随分と久しぶり……いや、なかったかもしれないな。
体調は、変わりないか?公爵が側にいるんじゃ、無理も出来ないだろうから、そこまで心配はしていない。だが、全快するまでは剣を握るなよ。私が言わなくても、言われているだろうがな。

あぁ、それと一応伝えておく。シュリアーヌが学院にいることは知っているだろ? もうじき通い初めて3ヶ月位だが、学院にまた問題児が現れたらしい。
今度は、男爵家出身の庶子だ。似たような愚か者はどの年代にもいるものらしい。お前が王都にいたら巻き込まれていたかもしれないな。

お前は安心してその身体を癒すことに専念しろ。ただ、返事は返せ。それくらいなら出来るだろう?
待っている。

ジークランスより』

内容は、差し障りのないものだった。近くにいることが当たり前だったこともあり、こうして手紙でやり取りをするのは滅多にないことだ。どこかくすぐったいような気分にさせられる。苦笑しながら、シアリィルドは違う手紙を手に取った。こっちは、ケイオスからだ。これはこれで珍しい。
実は、倒れて以来、一度も顔を見ていない。ケイオスだけではない。部隊の誰の顔も見ていなかった。唯一見たのは、後宮に向かったときに会った彼らだ。どうしているのか気にしてはいたが、聞くことも出来なかった。

『シアリィルド・フォン・ファルシース様

お加減はいかがですか。目が覚めたと報告を受け、我々部隊一同、本当に安堵しております。隊長ならばと思っておりましたが、本当にようございました。

部下の皆も沈んではおりますが、引き続き殿下の護衛任務を誠心誠意勤めて参ります。貴方が戻られるまで、部隊の名を汚すことのないように。

今回の件から、第一からも第四へ半数を協力という形で魔族の対応をすることになりました。具体的には、例の森となります。統括団長指示の下、王都近郊を守るため、急務ということです。私も同感ですし、異論がある師団もありませんでした。

以上が、軍の現状となります。

お目通りは叶いませんでしたが、貴方の姿を見ることが出来る日を、部隊一同、心待ちにしています。どうか、今はお身体をご自愛くださいますよう。

護衛部隊  ケイオス・フォン・ブルネーシア


ケイオスの手紙からは、マナフィールとのことは書いていなかった。話をしていたことは知っているのだが、マナフィールは詳しいことは話してくれていない。一方的に責め立てたらしいのだが、恐らくはシアリィルドに話すつもりはないのだろう。この手紙にも書かれていないということは、ケイオスも伝えるつもりはないということだ。
軍の動きは、想定通りのもの。王都の近くに魔族が出るなど、これ以上に民衆の不安を煽るものはない。最優先で排除に動くはずだ。
ジークランスの護衛部隊であるため、最優先とは言え王族の護衛を減らすことはない。ケイオスらが出向くことはないとはいえ、警戒を強めなければならない状況は、精神的に負担になるだろう。シアリィルドのように、結界を張れるような魔法師は部隊にはいないのだから。

「無茶はするなよ、ケイオス」

心の中で謝罪をしながら、手紙を閉じる。
返事は後で書くとして、残りの手紙を先に読むことにした。こちらは、前の2通とは違う鮮やかな色合いの紙だった。

「ルリア嬢か……」

最近、良く届くようになったように思う。最初は、助けたことのお礼や相談。その後は、カレンのことや相談がメインだった。だが、今はそこに世間話のような近況報告も含まれてきている。
男性に慣れるためという主旨から始めたやり取りだ。ここまで書けるのならば、その目的は達したと思うのだが、シアリィルドから止めるとは言えない。
手紙を開けば、貴族令嬢らしく綺麗な字体が並んでいた。

『シアリィルド様

シアリィルド様が領地へと向かわれてから一週間が経ちました。どのようにお過ごしでしょうか。ご無理はされていないでしょうか。

(中略)

軍の宿舎の前を通る時は、今でも怖いです。出来るだけ後宮から出ないようにしていますが、それでもどうしても用事がある場合は、シアリィルド様からの手紙をお守りにさせていただいております。
いつまでも、頼っていてはいけないことだと理解はしています。姉からも、注意を受けました。サレーテヌ殿下の言葉に甘えて、シアリィルド様にはご負担をかけてしまい申し訳ありません。

今回、お手紙を書いたのは、そのお礼をお伝えしたかったのです。戻られるのを待つという選択もございましたが、勇気があるうちにとペンを取りました。拙いものではありますが、受け取っていただけますか。

いつもありがとうございます。

ルリア・フォン・フォーニック



同じ封筒には、白いハンカチと押し花の栞が入っていた。ハンカチには刺繍がされている。ファルシース公爵家の紋章と、シアリィルドのイニシャルだ。栞に使われている花は、紫色の花だが名前まではわからない。間違いなく、ルリア自身が作ったものなのだろう。

「……これ、受け取っていいのか」

通常、貴族の間では女性が刺繍を施したハンカチを渡す場合、その相手は恋人か家族に限られる。下手をすれば、誤解を生むことになり兼ねない。ただでさえ、ルリアは婚約者に捨てられた女性として、名前だけではあるが噂になっている。そこにシアリィルドへハンカチを送ったことが広まれば、どうなるか。想像するに難くなかった。
今この場に誰もいないことが救いだ。受け取ったとしても、これがルリアからのものだとは思わないだろう。とはいえ、シアリィルド自身は人からハンカチをもらったことなどなかった。母からでさえ。誰かからもらうのはこれが初めてなのだ。だからこそ、捨てることはしたくない。嬉しくないはずがないのだから。

「ルリア嬢……ありがとう」

少し迷ったが、シアリィルドの胸の中にだけしまっておけばいいと、受け取ることにした。
出来れば言葉でちゃんと礼を伝えたいが、今それはできない。シアリィルドは、返事を書くためペンを取った。

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