公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

文字の大きさ
30 / 39
第二章 変動

29話 違和感

しおりを挟む
本日もクレーネと共に朝食を摂っていた。こうして二人だけで食事をするのにも大分慣れてきたものだ。クレーネとシアリィルドそれぞれの体調に配慮したメニューが並んでいた。とはいえ、シアリィルド自身はそれほど気を遣われるような体調ではない。時折発熱することはあるが頻度は減ってきているからだ。
一方、クレーネは少量の食事で、メインがスープだった。足りないのではとシアリィルドも感じたが、動くことがあまりないので、これで十分なのだと言われてしまっていた。実際、その食事で何年も過ごしてきているのだ。その間のことを知らないシアリィルドには何も言えない。

「シア、今日は何をするの?」
「特に何も。いつも通り過ごすつもりです」
「そう……ここは、貴方には退屈でしょうに。街に降りてもいいと思うのだけれど……」
「父上が許可しませんので」

許可するまで、外出については禁止を命じられている。せいぜい許されるのは、庭までだ。第二邸も本邸も庭は丁寧な手入れがされており、様々な花が咲いている。しかし、シアリィルドはそれほど花に興味があるわけではない。綺麗だと愛でる気持ちはあるが、それだけだ。寝転び、陽の光を浴びる程度のことしか庭に出てもやることがなかった。
クレーネは困ったように笑う。

「本当に、心配症ね」
「心配、ですか?」

心配症。意外過ぎる言葉に、シアリィルドは思わず目を見開く。誰が心配症なのか。クレーネが言っているのは、父であるルトギアスだ。それは間違いない。しかし、シアリィルドの中ではルトギアスが心配をしている姿が想像できないのだ。似合わないといってもいい。
シアリィルドの反応に、クレーネも思わず声を出して笑いだした。笑われたことに眉を寄せるが、仕方のないことだと思う。それほど、ルトギアスとは結び付かない言葉だったのだから。

「母上……」
「ふふっ、ごめんなさい。それほど不思議がるとは思わなかったものだから。うふふ……」
「……」

笑いが止まらないといった風のクレーネに、何かを言うのは止めてシアリィルドは食事を再開する。

「ルトは顔に出ない人なのよ。でも、本当はね。とても貴方たちを想っているわ。マナフィールも、シアのことも……可愛くて仕方ないのよ」
「少なくとも、可愛いはないと思います。俺も兄上も、そんな年齢ではありません」
「でもシア、小さい頃の貴方は女の子みたいだったわ……出来ればドレスを着せてみたかったもの」
「……思いとどまってくださって感謝します」

幼い頃ならば、言われるがままに着ただろう。今は、事実でないことに感謝しかない。己の小さい頃が女の子の様だったというのは、ジークランスを始めとした王族らにも言われていることなので、仕方ないと諦めてはいる。決して嬉しくはない誉め言葉はたくさんもらった。それがたとえ父だとしても、嬉しくなかったと断言できる。

「勿体ないことをしたわ……ルトもね、可愛くて貴方に触ることを怖がっていたの。男の子で良かったと、今でも思っているわ。女の子だったら、領地から出してもらえなかったわ」
「はぁ……」

話が脱線し始めているが、止めるものはいない。給仕をしている侍女らは、口を挟むことは出来ないし、執事らも同様だ。微笑ましそうにクレーネとシアリィルドを見守る彼らは、止める権利があったとしても、止めることはしないだろう。止められるのは、シアリィルドだけということになる。

「母上」
「ん? まだまだ話は一杯あるのだけれど」
「もう結構です」

即答する。シアリィルドでさえ、あまり覚えていない幼い頃のことなど、聞かされても反応に困るだけだ。微笑ましい視線をこれ以上浴び続けるのも、勘弁してほしいと思う。
だが、クレーネはこれを拒絶と受け取ったらしい。急に表情から笑みが消えたのだ。

「シアは、お父様が嫌いかしら?」
「別にそういうわけでは」
「でも、貴方をここに留めているのには納得していない?」
「まぁ……それは、ありますが」

父を嫌うとかではない。確かに、クレーネの言う通り納得していないこともある。領地に来たのが、クレーネに会わせるためだったとしても、その目的は達した。いつまでもここに滞在する意味はないとシアリィルドは考えている。しかし、ルトギアスはシアリィルドの外出までを禁じた。ここまでする理由は全くわからないのだ。
現在の世界状況を見る限り、戦力は必要とされている。シアリィルドも王国軍に所属する軍人の一人だ。有事の際には、戦いに赴くのが当然のこと。こうしている間にも状況は変わっているかもしれない。王都に居なければ、情報も入ってこないので、知ることが出来ないのだ。己の体調が戦闘できるまでに回復していないことはわかっているが、それでも王都から離れなければならないことにはならないはずである。恐らくは、別の理由があるのだ。シアリィルドには知らせていない何かが。

ドクンっ。

「っ……何だ……?」

刹那、シアリィルドは身の毛がよだつような悪寒が走るのを感じた。そうして次には、ピリリとした何かが襲ってくる。

「っ……」
「シア!?」

襲い掛かってくるモノに耐えられず、シアリィルドはテーブルを掴もうと手を伸ばすが、掴む前にその意識が遠のくのを感じた。耳の奥で、クレーネが叫んでいるのが届く。大丈夫だと言いたいが、言葉を伝えることは出来ずにシアリィルドはそのまま倒れこんでしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...