公爵家次男の巻き込まれ人生

加賀りょう

文字の大きさ
34 / 39
第二章 変動

33話 狭間で

しおりを挟む
どれくらい眠っていたのだろうか。シアリィルドは、目を開ける。

「あ、気がつかれましたか?」
「なた、りあ?」
「はい、シアリィルド様」
「お、れは……どう、して……」

何かを忘れている気がしたが、それ以上に何故寝ているのかが思い出せなかった。酷く汗をかいているし、頭も重い。熱を出したのだろうか。
側についていくれたのだろう、ナタリアがシアリィルドの額に置かれていたタオルを取り、置いてあった水桶に浸していた。絞られたそれを、再びシアリィルドの額へ乗せる。タオルから伝わる冷たさが心地よく、目を閉じる。気だるさが残る身体は、動くのが億劫だ。やはり、熱を出したのだろう。己の状態からそう結論付ける。

「ナタリア」
「はい」
「……どの、くらい寝ていた?」
「一日半程度になります」
「……」

確か、シアリィルドは母のクレーネと共に朝食を摂っていたはずだった。それから一日以上が経っているらしい。領地へ来てから、これほど多くの時間寝込むのは、初めてだ。

「そう、か……」
「シアリィルド様、どこかお辛いところはありませんか?」
「……いや、多少身体は怠いが」
「そうですか……お食事はどうされますか?」

外を見れば陽が沈み初めていた。ここで食事を摂らなければ、二日近く何も食べないことになる。しかし、食欲はない。

「今は、いらない」
「……では、何か飲み物を」
「それもいい……」
「シアリィルド様……ですが」
「いいんだ」

食い下がるナタリアだが、何も口にしたくない。それがシアリィルドの素直な気持ちだった。
シアリィルドの頑なな態度にナタリアは困っている。起きた時の指示に、食事のことがあったのだろう。

「ごめん……何も口にしたくない」
「シアリィルド様。いえ、わかりました。では、何か欲しいものはございますか?」
「いや、大丈夫だ・・・悪い、少し休む」
「……わかりました」

話をして疲れたのか、シアリィルドは目を閉じると直ぐに眠りについてしまった。



再び目を覚ましたのは翌日だ。
目覚めると、側にはオリヴァーがいた。

「オリヴァー、か?」
「おはようございます、シアリィルド様」

ゆっくりと身体を起こす。昨日までの倦怠感はなかった。オリヴァーが差し出したコップを受け取り、口に含む。冷たい水が喉を潤してくれた。

「ありがとう」
「いえ……ご気分はいかがですか?」
「……問題ない」

昨日目覚めた時よりも体調はいい。軽く腕を動かすが、問題はなさそうだった。。
そうして身体の状態を確認しているシアリィルドだが、いつにない視線を感じてオリヴァーを見る。オリヴァーは思いつめたような真剣なまなざしでシアリィルドを見ていた。いつもならば、軽口を言うくらいはしてくるオリヴァーだ。

「どうかしたのか?」
「……覚えていらっしゃらないのですか?」
「何のことだ?」
「魘されておいででした。その後、突然起き上がられて……」
「俺が?」

コクンと頷くオリヴァー。しかし、シアリィルドは覚えがない。ナタリアが側にいた時は起き上がることなんて出来なかった。ならば、別の時か。

「俺は、何か言っていたのか?」
「……それは」

一瞬言葉に詰まってから、否定する。とすると、何かを言っていたのかもしれない。
何か夢でも見ていただろうか。シアリィルドは、思い返す。魘されていたというが、オリヴァーの様子はそれ以上のことを案じているようにも見える。
しかし、シアリィルドには覚えがない。

「……すまない、覚えてない。面倒かけたな」
「いえ……その……」
「オリヴァー?」
「……」

手をぎゅっと握りしめて、何か言いたそうにしているオリヴァー。しかし言えない。言ってはいけないという何かが、オリヴァーの思いを塞き止めているようだ。
オリヴァーはここ領地にいる間は、シアリィルドの専属となっている。王都にいる時は軍の宿舎で暮らしているためシアリィルドに専属は必要なく、一介の侍女としての立場。どちらにしても、雇い主はシアリィルドではなく当主であるルトギアスだ。ならば、オリヴァーが言葉を抑えているのはルトギアスからの指示なのかもしれない。

「俺について……父上が何か言っていたか?」
「っ……その……はい」
「そうか……」

その反応が答えだった。何を言われたのかはわからないが、オリヴァーの態度からシアリィルドにとって良いことではないのだろう。
ここにきてから、ルトギアスのシアリィルドに対するものはどれも納得できるものではないので、今更一つや二つ増えたところで、どうということではない。

「気にしなくていい。父上が俺に何も言わないのは、いつものことだ」
「……シアリィルド様」
「……」

領地にきてから、シアリィルドは蚊帳の外におかれている。情報から遠ざけられ、何もしないことを強要されているのだ。ルトギアスからの命令に逆らうことなど考えてはいないが、このままで良いのだろうか。本当に。
シアリィルドは深く息をはいて、何となく窓の外を眺めた。空は青く晴天だ。雲は遠い。白い雲と黒い雲がそこにはある。

「……っ!」

一瞬、黒い雲・・・否、暗い空が脳裏を過った。
空の色が暗くなるなど、夜以外には知らないはずだ。あの黒い雲はただの雨雲。だが、何故か違う光景が浮かぶ。
暗くて、陽の光が届かない空。血と焼け焦げる臭いが充満していた。

『アルドっ!』
「……!?」

何かに呼ばれたように、シアリィルドはハッとなる。だが、ここにはオリヴァーしかいない。

「シアリィルド様?」
「……あ、あぁ。何でもない。気にしないでくれ」
「?」

首をかしげるオリヴァーの顔は不安そうだ。シアリィルドは安心させるように、大丈夫だと笑う。しかし、その胸の中は激しく動揺していた。

(……呼ばれたのは、気のせいじゃない……確かに、俺を呼んだ……どうして……俺を……アルド・・・と呼ぶんだ……?)



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...