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第二章 変動
32話 宗主の事実
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別視点続きます。
※※※※※※※
マルクトとトルセイルの二人は、最上層へと向かう階段を登っていた。
第10層フロアに至ったところで、強い風に煽られる。
「何だ?」
「シヴィルバーン卿、あれを!」
「どうされ……なっ!?」
トルセイルが示す場所には、大きな穴が空いていた。よく凝らしてみれば、魔力の残り香が漂っている。何かがあったことは明白。しかし、ここがどのような場所かもわからないマルクトらには、それを知ることは出来ない。
「……バルムンク卿、今は先に進みましょう」
「えぇ、そうですね」
気にならない訳ではないのだが、優先すべきことではない。気持ちを切り替え、マルクトらは上層へと向かう。
漸く登りきったところには、衛兵……いや、天護士と呼ばれている専属護衛がいた。護衛は二人。マルクトらを見るなり、二人とも顔色を変えて剣を引き抜くとその刃を向けてきた。
「何者だ? ここは宗主様以外、立ち入ることはできない場所。どうやってここまで来た」
「……急を要するに事態が起きた。宗主殿に面通りさせてもらいたい」
「馬鹿げたことを!」
今にも飛びかかってきそうな様子に、マルクトもトルセイルも肩を竦める。他国であるマルクトたちも宗主がただのお飾りであり、何もなし得ていないことを知っている。この奥にいるのは、それをであることを強要されたただの女性だ。それでも、筋を通すためには法国のトップである宗主の言葉が必要だった。それだけのために、ここに来たのだ。
「さて……どう突破しましょうか」
「……はぁ」
「何事ですか?」
奥の扉がそっと開いたと思うと、白い巫女服を纏った女性が姿を見せた。物音や怒鳴り声は奥にも届いていたのだろう。
マルクトとトルセイルを見ると、口元を両手で隠しながらもその瞳は大きく開かれていた。
「あ、なた方は……?」
「レーリア様っ! 出てきてはなりませんっ」
天護士の一人が彼女を視線から隠すように、より前に出てくる。奥の部屋へと戻そうと彼等は動くが、レーリアと呼ばれた彼女は首を横に振り、マルクトらの方へと歩み寄ってきた。流石に歩みを止めることは出来ないのか、天護士らは動きを止める。
「……ヴェルダン王国とディルケルド公国の方とお見受けしますが」
「以下にも。私はヴェルダン王国白騎士団を預かる者、マルクト・フォン・シヴィルバーンと申します」
「私は、ディルケルド公国の副将軍をしております、トルセイル・バルムンクでございます」
騎士礼は世界共通のようなもの。マルクトもトルセイルも、胸に手を当てて頭を垂れる。
「頭をあげてください……わかりました。中へお入りください」
「なりませんっ! 何人たりともレーリア様の部屋へ招くなど!」
「私が良いと申し上げています。下がりなさない……」
「ですがっ!」
天護士の一人は、尚も声を荒げる。しかし、彼女も一歩も引くつもりはないようだ。もう一人の天護士が重い息を吐き、荒げている天護士の肩を叩く。
「……止めろ。宗主様のご意志だ。奴等もいないのだから、好きにさせてやれ」
「カインっ!」
「宗主様、我らは前におります。くれぐれも」
「わかっております。ありがとう、カイン」
頷いた天護士は、まだ納得がいかない片割れを引っ張り、その場を離れていった。
「ではお二方とも、こちらへ」
彼女にうながされ、マルクトとトルセイルが先ほど彼女が出てきた奥の部屋へと入る。室内は、数多くの書物が納められているだろう本棚と、大きな女神像があるだけだった。人を招くような造りはしていない。
女神像の前で立ち止まると、マルクトらと視線を合わせてくる。その立ち振舞いはお飾りのという立場だとしても、堂々としたものだった。
「申し訳ありません。部屋に人を招くことなどないものですから」
「構いません。悠長に話をするつもりはありませんので」
「そう、ですね……シヴィルバーン殿、バルムンク殿とお呼びしても?」
「はい」
「無論です」
「ありがとうございます……既にご存知かと思いますが、私は611代目宗主レーリアと申します」
深々と頭を下げ、名を名乗る。レーリアという名は代々受け継がれているもの。その名を名乗ることが許されるのは、宗主のみだ。
「宗主殿、現状を報告させていただきたい」
「……先ほどの強い衝撃のこと、でしょう。私は、巫女としてここには居りますが、ただ魔力が高いだけの存在です。それでもあれが、単なる襲撃でなかったことは理解しております」
ぎゅっと力が入れられた拳は白く、耐えているのがまる分かりだった。必死に取り繕うとしている。これも宗主としての矜持なのだろうか。
マルクトは、第1層フロアで起きた出来事を伝える。合わせて第10層フロアに出来た穴のことも。レーリアは、黙って聞いているだけだが、その身体は震えはじめていた。堪えるのも限界ということか。
目を閉じて一呼吸するレーリアを、マルクトらはただ待っていた。
「……」
「申し訳、ございません……怖いのは私だけでは、ないというのに。本当に、魔族がここを襲撃するとは、思わなかったものですから」
「ええ、思いの外動きが速かったと言うことでしょう」
「ただ、私は宗主ではありますが、法国として何を考えいたかはわからないのです。彼らは、私には何も教えてはくれませんでした」
お飾りだから言う必要はないということ。なら、レーリアが彼らという側近らに聞くしかない。
「その、彼らというのはどこに?」
「普段は第40層フロアにいると思いますが、選定の儀の後は第10層フロアの……え、円卓の、間に……」
「なっ……まさか」
トルセイルとマルクトは顔を見合わせる。レーリアも顔から色が抜け落ちたように、白くなっていった。
第10層フロア。ここに来るまでに通ってきた、穴の開けられた場所。円卓の間と呼ばれるらしいが、であるなら円卓があってもおかしくない。それがない、ということは消し去られたということか。
スイと呼ばれた彼女が我が君と呼んでいた存在は、何をしていたのか。何故、マルクトらを捨て置き去っていったのか。
「バルムンク卿、どう思いますか?」
「……過去、法国の宗主を含めた上層部の方々は、女神の力を行使していたと言われています。故に、この塔を狙ったと考えたならば、その力がないことに失望し、消し去ったということでしょうか」
推測ではあるが、マルクトもトルセイルの考えに同意する。法国に女神の力が失われて久しく各国の代表らの中では常識だが、それはあくまで人間たちの中の話。魔族らが知らなくても不思議ではない。
何れにしても、円卓の間に居たとするならば、彼らは亡くなったと考えるのが妥当だろう。
「……宗主殿」
「……わ、え……あ……その……も、申し訳ありません。取り乱して、しまいました」
必死に取り繕おうとしているが、声は震えており顔色は全く戻っていない。
「レーリア様」
「っ……わ、わたくしは……その」
「何か、聞かされてませんか? 宗主殿」
最早、レーリアが落ち着くのを待ってはいられない。そう判断し、マルクトはレーリアに尋ねる。震えてはいるものの、レーリアは視線をさ迷わせて何かを考えているようだ。
「何か、何か……あっ!」
「宗主殿?」
何かを思い付いたのか、レーリアは本棚へ走り出した。沢山ある本の中から何冊かを手にとって持ってきた。
「レーリア様、これは?」
「わたくしが引き継いだ時に、万が一の時、これを見るようにと……代々の宗主へ引き継がれているものです。それと……これも」
「これは?」
レーリアがマルクトへ差し出したのは、一つの鍵だ。かなりの年代物だということは、見ればわかった。
「……ち、地下に……宝物庫があるのです。そこ、には選定の儀で用いた剣以外の武器が、あります……その」
「下手に触れれば死に至る武器。持って行くことは出来ません……」
「その……私なら、主がわかるかも、しれません」
「「え?」」
何か衝撃的な発言を聞いた気がした。だが、聞き間違いではなかったようだ。まだ青白い顔ではあるが、その瞳は嘘を言っていない。どう言うことなのだろうか。
「……宗主殿、何を」
「私が宗主に選ばれた理由。それは……宝物庫の武器に、触れられるから、です」
「どういうことですか?」
「代々宗主となる者は、多大な魔力を持っていることが最大の条件です。そして、更に宝物庫に向かい武器に触らされる……死に至らず、力を感じとることが出来る。宗主とは、ただそれだけの存在なのです……それ以外の権限は持ち得ません」
初めて聞く話だ。法国の中でも、上層部しか知らない話なのだろう。しかし、ならば尚のこと納得がいかない。
「宗主殿、ならば何故」
「わかっています……ですが、誰も、居なかったのです。あの人たちが、連れてきた者の中には……違う青年だと、ハッキリと、伝えました。けれど……方々は、信じては下さらなかった……ごめん、なさい。わたくしが、ちゃんと……ちゃんと伝えていれば、申し訳、ありません!ごめんな、さいっ! っ……」
泣き崩れるレーリア。お飾りの宗主。その言動さえも、軽くみられたということか。
過去より五百年。女神の力も失われて宗主の権威も既にない状態。軽々しく扱われてしまったのだろう。レーリアを責めることは出来ない。
どうしたものかと、マルクトは考えていると、トルセイルが動いた。崩れるレーリアの側で、膝をつきその肩に触れた。
「……レーリア様、貴女がすべきことはまだあります。貴女の力で、少しでも魔族に対抗出来るのならば、我々は藁にもすがりたい状況なのです」
「バルムンク殿」
「お願いします、どんなに小さなヒントでもいいのです。もし、現代に他の英雄らの武器を扱える方がいるのなら、その力が我々には必要です」
「……で、ですがいるとは限りませんし……私は、上手く説明することが、出来ないかもしれません。それでも、信じて……いただけますか?」
涙をいっぱいに溜めて、確認をしてくるレーリア。一度否定されたからか、拒絶されまた力に敗れ死者が出ることを畏れているのだろう。
馬鹿馬鹿しい。マルクトは呆れたように肩を落とす。
「宗主殿……我々は、この国の者ではありません。貴方がおっしゃることが信ずるに足るかどうか、それはこれからの行動次第だと、進言させていただきます」
「これからの、わたくし次第……?」
「レーリア様、私たちに協力していただけますか?」
「シヴィルバーン殿、バルムンク殿……私で、力になれるのでしょうか? 本当に……」
レーリアが言うことが本当ならば、朗報なのだ。捨て置くことはできない。何よりも世界のために。
不安そうなレーリアに、マルクトとトルセイルは強く頷いた。魔王の存在が確定してしまった今は、過去の伝説に頼るしかない。
二人の説得に、レーリアは漸く頷いたのだった。
「わかりました……その、よろしくお願いします」
期待していなかった予想以上の結果に、マルクトは少しだけ希望が見えた気がしていた。
※※※※※※※
マルクトとトルセイルの二人は、最上層へと向かう階段を登っていた。
第10層フロアに至ったところで、強い風に煽られる。
「何だ?」
「シヴィルバーン卿、あれを!」
「どうされ……なっ!?」
トルセイルが示す場所には、大きな穴が空いていた。よく凝らしてみれば、魔力の残り香が漂っている。何かがあったことは明白。しかし、ここがどのような場所かもわからないマルクトらには、それを知ることは出来ない。
「……バルムンク卿、今は先に進みましょう」
「えぇ、そうですね」
気にならない訳ではないのだが、優先すべきことではない。気持ちを切り替え、マルクトらは上層へと向かう。
漸く登りきったところには、衛兵……いや、天護士と呼ばれている専属護衛がいた。護衛は二人。マルクトらを見るなり、二人とも顔色を変えて剣を引き抜くとその刃を向けてきた。
「何者だ? ここは宗主様以外、立ち入ることはできない場所。どうやってここまで来た」
「……急を要するに事態が起きた。宗主殿に面通りさせてもらいたい」
「馬鹿げたことを!」
今にも飛びかかってきそうな様子に、マルクトもトルセイルも肩を竦める。他国であるマルクトたちも宗主がただのお飾りであり、何もなし得ていないことを知っている。この奥にいるのは、それをであることを強要されたただの女性だ。それでも、筋を通すためには法国のトップである宗主の言葉が必要だった。それだけのために、ここに来たのだ。
「さて……どう突破しましょうか」
「……はぁ」
「何事ですか?」
奥の扉がそっと開いたと思うと、白い巫女服を纏った女性が姿を見せた。物音や怒鳴り声は奥にも届いていたのだろう。
マルクトとトルセイルを見ると、口元を両手で隠しながらもその瞳は大きく開かれていた。
「あ、なた方は……?」
「レーリア様っ! 出てきてはなりませんっ」
天護士の一人が彼女を視線から隠すように、より前に出てくる。奥の部屋へと戻そうと彼等は動くが、レーリアと呼ばれた彼女は首を横に振り、マルクトらの方へと歩み寄ってきた。流石に歩みを止めることは出来ないのか、天護士らは動きを止める。
「……ヴェルダン王国とディルケルド公国の方とお見受けしますが」
「以下にも。私はヴェルダン王国白騎士団を預かる者、マルクト・フォン・シヴィルバーンと申します」
「私は、ディルケルド公国の副将軍をしております、トルセイル・バルムンクでございます」
騎士礼は世界共通のようなもの。マルクトもトルセイルも、胸に手を当てて頭を垂れる。
「頭をあげてください……わかりました。中へお入りください」
「なりませんっ! 何人たりともレーリア様の部屋へ招くなど!」
「私が良いと申し上げています。下がりなさない……」
「ですがっ!」
天護士の一人は、尚も声を荒げる。しかし、彼女も一歩も引くつもりはないようだ。もう一人の天護士が重い息を吐き、荒げている天護士の肩を叩く。
「……止めろ。宗主様のご意志だ。奴等もいないのだから、好きにさせてやれ」
「カインっ!」
「宗主様、我らは前におります。くれぐれも」
「わかっております。ありがとう、カイン」
頷いた天護士は、まだ納得がいかない片割れを引っ張り、その場を離れていった。
「ではお二方とも、こちらへ」
彼女にうながされ、マルクトとトルセイルが先ほど彼女が出てきた奥の部屋へと入る。室内は、数多くの書物が納められているだろう本棚と、大きな女神像があるだけだった。人を招くような造りはしていない。
女神像の前で立ち止まると、マルクトらと視線を合わせてくる。その立ち振舞いはお飾りのという立場だとしても、堂々としたものだった。
「申し訳ありません。部屋に人を招くことなどないものですから」
「構いません。悠長に話をするつもりはありませんので」
「そう、ですね……シヴィルバーン殿、バルムンク殿とお呼びしても?」
「はい」
「無論です」
「ありがとうございます……既にご存知かと思いますが、私は611代目宗主レーリアと申します」
深々と頭を下げ、名を名乗る。レーリアという名は代々受け継がれているもの。その名を名乗ることが許されるのは、宗主のみだ。
「宗主殿、現状を報告させていただきたい」
「……先ほどの強い衝撃のこと、でしょう。私は、巫女としてここには居りますが、ただ魔力が高いだけの存在です。それでもあれが、単なる襲撃でなかったことは理解しております」
ぎゅっと力が入れられた拳は白く、耐えているのがまる分かりだった。必死に取り繕うとしている。これも宗主としての矜持なのだろうか。
マルクトは、第1層フロアで起きた出来事を伝える。合わせて第10層フロアに出来た穴のことも。レーリアは、黙って聞いているだけだが、その身体は震えはじめていた。堪えるのも限界ということか。
目を閉じて一呼吸するレーリアを、マルクトらはただ待っていた。
「……」
「申し訳、ございません……怖いのは私だけでは、ないというのに。本当に、魔族がここを襲撃するとは、思わなかったものですから」
「ええ、思いの外動きが速かったと言うことでしょう」
「ただ、私は宗主ではありますが、法国として何を考えいたかはわからないのです。彼らは、私には何も教えてはくれませんでした」
お飾りだから言う必要はないということ。なら、レーリアが彼らという側近らに聞くしかない。
「その、彼らというのはどこに?」
「普段は第40層フロアにいると思いますが、選定の儀の後は第10層フロアの……え、円卓の、間に……」
「なっ……まさか」
トルセイルとマルクトは顔を見合わせる。レーリアも顔から色が抜け落ちたように、白くなっていった。
第10層フロア。ここに来るまでに通ってきた、穴の開けられた場所。円卓の間と呼ばれるらしいが、であるなら円卓があってもおかしくない。それがない、ということは消し去られたということか。
スイと呼ばれた彼女が我が君と呼んでいた存在は、何をしていたのか。何故、マルクトらを捨て置き去っていったのか。
「バルムンク卿、どう思いますか?」
「……過去、法国の宗主を含めた上層部の方々は、女神の力を行使していたと言われています。故に、この塔を狙ったと考えたならば、その力がないことに失望し、消し去ったということでしょうか」
推測ではあるが、マルクトもトルセイルの考えに同意する。法国に女神の力が失われて久しく各国の代表らの中では常識だが、それはあくまで人間たちの中の話。魔族らが知らなくても不思議ではない。
何れにしても、円卓の間に居たとするならば、彼らは亡くなったと考えるのが妥当だろう。
「……宗主殿」
「……わ、え……あ……その……も、申し訳ありません。取り乱して、しまいました」
必死に取り繕おうとしているが、声は震えており顔色は全く戻っていない。
「レーリア様」
「っ……わ、わたくしは……その」
「何か、聞かされてませんか? 宗主殿」
最早、レーリアが落ち着くのを待ってはいられない。そう判断し、マルクトはレーリアに尋ねる。震えてはいるものの、レーリアは視線をさ迷わせて何かを考えているようだ。
「何か、何か……あっ!」
「宗主殿?」
何かを思い付いたのか、レーリアは本棚へ走り出した。沢山ある本の中から何冊かを手にとって持ってきた。
「レーリア様、これは?」
「わたくしが引き継いだ時に、万が一の時、これを見るようにと……代々の宗主へ引き継がれているものです。それと……これも」
「これは?」
レーリアがマルクトへ差し出したのは、一つの鍵だ。かなりの年代物だということは、見ればわかった。
「……ち、地下に……宝物庫があるのです。そこ、には選定の儀で用いた剣以外の武器が、あります……その」
「下手に触れれば死に至る武器。持って行くことは出来ません……」
「その……私なら、主がわかるかも、しれません」
「「え?」」
何か衝撃的な発言を聞いた気がした。だが、聞き間違いではなかったようだ。まだ青白い顔ではあるが、その瞳は嘘を言っていない。どう言うことなのだろうか。
「……宗主殿、何を」
「私が宗主に選ばれた理由。それは……宝物庫の武器に、触れられるから、です」
「どういうことですか?」
「代々宗主となる者は、多大な魔力を持っていることが最大の条件です。そして、更に宝物庫に向かい武器に触らされる……死に至らず、力を感じとることが出来る。宗主とは、ただそれだけの存在なのです……それ以外の権限は持ち得ません」
初めて聞く話だ。法国の中でも、上層部しか知らない話なのだろう。しかし、ならば尚のこと納得がいかない。
「宗主殿、ならば何故」
「わかっています……ですが、誰も、居なかったのです。あの人たちが、連れてきた者の中には……違う青年だと、ハッキリと、伝えました。けれど……方々は、信じては下さらなかった……ごめん、なさい。わたくしが、ちゃんと……ちゃんと伝えていれば、申し訳、ありません!ごめんな、さいっ! っ……」
泣き崩れるレーリア。お飾りの宗主。その言動さえも、軽くみられたということか。
過去より五百年。女神の力も失われて宗主の権威も既にない状態。軽々しく扱われてしまったのだろう。レーリアを責めることは出来ない。
どうしたものかと、マルクトは考えていると、トルセイルが動いた。崩れるレーリアの側で、膝をつきその肩に触れた。
「……レーリア様、貴女がすべきことはまだあります。貴女の力で、少しでも魔族に対抗出来るのならば、我々は藁にもすがりたい状況なのです」
「バルムンク殿」
「お願いします、どんなに小さなヒントでもいいのです。もし、現代に他の英雄らの武器を扱える方がいるのなら、その力が我々には必要です」
「……で、ですがいるとは限りませんし……私は、上手く説明することが、出来ないかもしれません。それでも、信じて……いただけますか?」
涙をいっぱいに溜めて、確認をしてくるレーリア。一度否定されたからか、拒絶されまた力に敗れ死者が出ることを畏れているのだろう。
馬鹿馬鹿しい。マルクトは呆れたように肩を落とす。
「宗主殿……我々は、この国の者ではありません。貴方がおっしゃることが信ずるに足るかどうか、それはこれからの行動次第だと、進言させていただきます」
「これからの、わたくし次第……?」
「レーリア様、私たちに協力していただけますか?」
「シヴィルバーン殿、バルムンク殿……私で、力になれるのでしょうか? 本当に……」
レーリアが言うことが本当ならば、朗報なのだ。捨て置くことはできない。何よりも世界のために。
不安そうなレーリアに、マルクトとトルセイルは強く頷いた。魔王の存在が確定してしまった今は、過去の伝説に頼るしかない。
二人の説得に、レーリアは漸く頷いたのだった。
「わかりました……その、よろしくお願いします」
期待していなかった予想以上の結果に、マルクトは少しだけ希望が見えた気がしていた。
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