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ググるという特技
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俺がこの世界に来てから丸一日経った。
勇者一行から聞いた話によると、この星の名前はヌージィガ、いま俺達はフゥトと言う国にいるらしい。文明の程度は中世程度、ただし魔法が使える世界のようだ。
標準言語は日本語、世界のどこにも言葉の壁はないとのことだ。これは助かった。(俺は英語を話せない)
俺と酒井の二人は馬車の中で横になっている。
酒井はスマホをずっといじっているようだ。どうやらこの世界でも電波は繋がるらしい。
俺は手持ち無沙汰で取り敢えず自分のギルドカードを眺めていた。
外では勇者たちがモンスターと戦っている。
勇者たちはかなり強く、トラより大きいモンスターを容易に倒す。
勇者たちがモンスターを倒す度に俺のギルドカードの「経験値」欄の数値が上がっていく。
即ち、一切の戦闘を経験しなくても俺は強くなっているらしい。
「なぁサトシ」
酒井が話しかけてきた。俺はこいつがいまいち好きになれない。
「腹減らん?」
どうでもいいことを聞いてくる奴だ。と思ったが、確かに腹が減っている。
ついさっき食事をとったばかりなのに、空腹感は全く解消されていない。
「確かに。さっき食べたのになんでだろうな...」
「まさかとは思うんやけど、...」
酒井が何か話そうとしたその時、
ドンッ!ゴロゴロゴロゴロッ!
毛むくじゃらの塊が馬車の中に飛び込んできた。
「なんや!?モンスターか!?」
「いや、違う。これは...」
その塊は武道家の頭部だった。
意識があるかは判らないが口を動かしている。
小さな口許からは血の泡が垂れていた。
「酒井っ!!」
馬車の外で勇者が叫んだ。
次の瞬間、酒井の体は目の前から消え、馬車の前に現れた。
【部隊編成】。勇者のみが使える『特技』だ。
------------
「ファッ!?」
一瞬の暗転のあと、ワイは馬車の外におった。
目の前にはプリウスサイズのカマキリがおる。
「こ、こんなもん、どないせぇっちゅうねや...」
そや!取り敢えず逃げるんや!
ワイは全力で馬車の下に向かって走った。
シバッ!!!
背中に強い衝撃!目の前が真っ暗になる。
「酒井がやられた!僧侶、回復だ!魔法使い、火炎魔法!」
「光回復魔法!」
「強力炎竜巻魔法!!」
あったかいなぁ、ええ気持ちや。
意識を取り戻したワイに向かって勇者が叫ぶ。
「酒井! 検索!」
なんやろ?人に命令されるのは好かんワイやが、こいつの命令には何故か従いたくなるわ。(これが勇者か)
ワイは言われたままに目の前のモンスターをスマホでWEB検索する。
<カマキリ>
カマキリは、昆虫綱カマキリ目(蟷螂目、学名:Mantodea)に分類される昆虫の総称。
前脚が鎌状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。
漢字表記は螳螂、蟷螂(とうろう)、鎌切。
「そうか…戦闘系スキルじゃないんだ。」
勇者があからさまに残念そうに吐き捨てよった。失礼な話やで。
そんなやり取りをしとる間に魔法使いがモンスターを追い詰めとる。
「高速多段雷撃剣!!!」
勇者の全身から電撃が迸り、その電撃は長剣に集約される。
バリバリバリバリッ
轟音と共に光を帯びた剣は嵐のように振り回される。
カマキリは粉微塵になった。
「ふえぇー。すごいンゴ…」
やっぱり勇者ってだけあって強いンゴねぇ。
しかし、さっきみたいな目に合うのはもう御免やね。
------------
戦闘は終わった。
一行は馬車の中で小休止をとっている。
目の前には少女の生首。
昨日知り合ったばかりだからか悲しい気持ちは湧かなかった。
「僧侶、蘇生できるか?」
勇者が尋ねる。
「無理ですね。時間が経ちすぎています。」
「そうか、仕方ない…次の町で仲間を補充しないとな。」
勇者の言葉には後悔の念や悲哀の感情はなかった。
恐らく彼らの旅では日常茶飯事なのだろう。
酒井は馬車の外で首のない少女の体を興味深そうに眺めている。
装備を取り外された少女の遺体は裸同然だった。
「ワイはグロ耐性あるんやで!
…とはいえ、勿体ないことをしたなぁ。」
酒井の態度に心底腹が立つ。
一行は仲間を補充するために町に向かうようだ。
俺はそこで彼らと別れようと思った。
こんな状況に置かれたらいずれ死ぬことになるだろう。
ふと、勇者と目が合った。
「大丈夫、お前たちはレアジョブだからな。死なせねぇよ。」
俺の考えを見透かしてやがる!!背中を冷や汗が伝った。
こいつは多分、俺と同種の人間だ。
7年前の春、俺は上京した。
行くあてはなかった。
ただ漠然と成功したいと思っていた。
何のスキルもない高卒の俺を新卒扱いで雇ってくれたのが今の会社だ。
同期は俺以外に大卒男1名、大卒女2名、高卒男2名、高卒女2名だった。
俺たちは死にもの狂いで働いた。
8時に出社、終電で帰宅。月の半分は会社に泊まり込みで仕事をした。
いつ見てもケータイゲームで遊んでいる部長の口癖は
「言いたい事があるなら使える人間になれ」
「働くってのは『傍が楽する』ってことだぞ」
だった。
1年後、同期は俺を含め3人に減っていた。
女子社員はもれなく社長や上司の愛人になった。
大卒男は早々に退職した。
2年後、同期の一人が死んだ。過労自殺だという噂が流れた。
その後もう一人の同期も会社を辞めた。
そのうち俺も上司の立場になった。
女子社員は性の対象、男子社員は奴隷として見ることができるようになった。
恫喝することにも慣れた。
一命は取り留めたがトイレで首を吊った部下もいた。
いつしか俺は人を「駒」として見るようになっていた。
今、目の前にいるこの男は俺を「駒」として見ている。
今の俺は「使われる者」だということだ。
「逃がさないぜ。」
勇者は冗談ぽく言ったが、その眼は笑ってはいなかった。
勇者一行から聞いた話によると、この星の名前はヌージィガ、いま俺達はフゥトと言う国にいるらしい。文明の程度は中世程度、ただし魔法が使える世界のようだ。
標準言語は日本語、世界のどこにも言葉の壁はないとのことだ。これは助かった。(俺は英語を話せない)
俺と酒井の二人は馬車の中で横になっている。
酒井はスマホをずっといじっているようだ。どうやらこの世界でも電波は繋がるらしい。
俺は手持ち無沙汰で取り敢えず自分のギルドカードを眺めていた。
外では勇者たちがモンスターと戦っている。
勇者たちはかなり強く、トラより大きいモンスターを容易に倒す。
勇者たちがモンスターを倒す度に俺のギルドカードの「経験値」欄の数値が上がっていく。
即ち、一切の戦闘を経験しなくても俺は強くなっているらしい。
「なぁサトシ」
酒井が話しかけてきた。俺はこいつがいまいち好きになれない。
「腹減らん?」
どうでもいいことを聞いてくる奴だ。と思ったが、確かに腹が減っている。
ついさっき食事をとったばかりなのに、空腹感は全く解消されていない。
「確かに。さっき食べたのになんでだろうな...」
「まさかとは思うんやけど、...」
酒井が何か話そうとしたその時、
ドンッ!ゴロゴロゴロゴロッ!
毛むくじゃらの塊が馬車の中に飛び込んできた。
「なんや!?モンスターか!?」
「いや、違う。これは...」
その塊は武道家の頭部だった。
意識があるかは判らないが口を動かしている。
小さな口許からは血の泡が垂れていた。
「酒井っ!!」
馬車の外で勇者が叫んだ。
次の瞬間、酒井の体は目の前から消え、馬車の前に現れた。
【部隊編成】。勇者のみが使える『特技』だ。
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「ファッ!?」
一瞬の暗転のあと、ワイは馬車の外におった。
目の前にはプリウスサイズのカマキリがおる。
「こ、こんなもん、どないせぇっちゅうねや...」
そや!取り敢えず逃げるんや!
ワイは全力で馬車の下に向かって走った。
シバッ!!!
背中に強い衝撃!目の前が真っ暗になる。
「酒井がやられた!僧侶、回復だ!魔法使い、火炎魔法!」
「光回復魔法!」
「強力炎竜巻魔法!!」
あったかいなぁ、ええ気持ちや。
意識を取り戻したワイに向かって勇者が叫ぶ。
「酒井! 検索!」
なんやろ?人に命令されるのは好かんワイやが、こいつの命令には何故か従いたくなるわ。(これが勇者か)
ワイは言われたままに目の前のモンスターをスマホでWEB検索する。
<カマキリ>
カマキリは、昆虫綱カマキリ目(蟷螂目、学名:Mantodea)に分類される昆虫の総称。
前脚が鎌状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。
漢字表記は螳螂、蟷螂(とうろう)、鎌切。
「そうか…戦闘系スキルじゃないんだ。」
勇者があからさまに残念そうに吐き捨てよった。失礼な話やで。
そんなやり取りをしとる間に魔法使いがモンスターを追い詰めとる。
「高速多段雷撃剣!!!」
勇者の全身から電撃が迸り、その電撃は長剣に集約される。
バリバリバリバリッ
轟音と共に光を帯びた剣は嵐のように振り回される。
カマキリは粉微塵になった。
「ふえぇー。すごいンゴ…」
やっぱり勇者ってだけあって強いンゴねぇ。
しかし、さっきみたいな目に合うのはもう御免やね。
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戦闘は終わった。
一行は馬車の中で小休止をとっている。
目の前には少女の生首。
昨日知り合ったばかりだからか悲しい気持ちは湧かなかった。
「僧侶、蘇生できるか?」
勇者が尋ねる。
「無理ですね。時間が経ちすぎています。」
「そうか、仕方ない…次の町で仲間を補充しないとな。」
勇者の言葉には後悔の念や悲哀の感情はなかった。
恐らく彼らの旅では日常茶飯事なのだろう。
酒井は馬車の外で首のない少女の体を興味深そうに眺めている。
装備を取り外された少女の遺体は裸同然だった。
「ワイはグロ耐性あるんやで!
…とはいえ、勿体ないことをしたなぁ。」
酒井の態度に心底腹が立つ。
一行は仲間を補充するために町に向かうようだ。
俺はそこで彼らと別れようと思った。
こんな状況に置かれたらいずれ死ぬことになるだろう。
ふと、勇者と目が合った。
「大丈夫、お前たちはレアジョブだからな。死なせねぇよ。」
俺の考えを見透かしてやがる!!背中を冷や汗が伝った。
こいつは多分、俺と同種の人間だ。
7年前の春、俺は上京した。
行くあてはなかった。
ただ漠然と成功したいと思っていた。
何のスキルもない高卒の俺を新卒扱いで雇ってくれたのが今の会社だ。
同期は俺以外に大卒男1名、大卒女2名、高卒男2名、高卒女2名だった。
俺たちは死にもの狂いで働いた。
8時に出社、終電で帰宅。月の半分は会社に泊まり込みで仕事をした。
いつ見てもケータイゲームで遊んでいる部長の口癖は
「言いたい事があるなら使える人間になれ」
「働くってのは『傍が楽する』ってことだぞ」
だった。
1年後、同期は俺を含め3人に減っていた。
女子社員はもれなく社長や上司の愛人になった。
大卒男は早々に退職した。
2年後、同期の一人が死んだ。過労自殺だという噂が流れた。
その後もう一人の同期も会社を辞めた。
そのうち俺も上司の立場になった。
女子社員は性の対象、男子社員は奴隷として見ることができるようになった。
恫喝することにも慣れた。
一命は取り留めたがトイレで首を吊った部下もいた。
いつしか俺は人を「駒」として見るようになっていた。
今、目の前にいるこの男は俺を「駒」として見ている。
今の俺は「使われる者」だということだ。
「逃がさないぜ。」
勇者は冗談ぽく言ったが、その眼は笑ってはいなかった。
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