ネット民、異世界を行く

灰猫ベル

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第三戦 奇跡と運命

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 第三戦はソウコウ対セーヤだ。

 ソウコウは歴戦の勇者である。
 ベリアルの先代の魔王を封じた経歴を持つ。
 装備は他に類を見ない逸品を揃え、自身の能力も人間界では随一だ。


 対するセーヤは青い月の王子と名乗った。
 王族らしい誇りを持った騎士のようだ。
 美しい装飾が施された甲冑を身につけている。
 ただし、その表情には幼さが残っており、どこか頼りない。

 万に一つもソウコウが負けることは無いだろう。

 ソウコウもそのつもりなのか、牽制の攻撃を繰り出し相手の降参を誘っているようだ。

「真空稲妻斬り!」

 またもや、敵の足元ギリギリを狙って技を放つ。
 さっきから何度も敵に対し寸止めの攻撃を行っている。
 俺のソウコウに対するイメージからすると意外だった。


 セーヤも引かない。
 基本に従った教本通りの剣でソウコウに攻撃を行う。
 ソウコウはその攻撃を盾でいなす。


「ソウコウ、同情は無用だ。一気に倒せよ!」

 なかなか勝負を決めないソウコウに苛立ち、つい声を上げてしまう。

 その指摘に対するソウコウの答えは意外なものだった。


「違うんだ……こいつ、攻撃が『当たらない』」


 ソウコウが訳の分からないことを言う。
 敵の動作は一般兵よりは機敏だが、ベリアルやマァルに比べると赤子同然だ。
 彼の能力であれば一瞬で切り伏せることのできる相手だろう。


「何をふざけているんだ?」


「彼はふざけてはいないよ」
 セーヤが代わりに答えた。


「彼の攻撃は僕には当たらない。僕は因果を操る奇跡魔法の使い手だ」


「奇跡魔法……? 古代魔法の使い手ですか……」
 サーシャが呟く。

「知っているのか?サーシャ」

「……ええ、失われた古代魔法の一つです。『必然』を万に一つの『偶然で上書く』術であると聞いたことがあります。その術者は全ての受難を避け、全ての幸運を手に入れると言われています」


「解説ありがとう。その通りだ。僕には君の攻撃は一切当たらないそして、君は僕の攻撃を避けることは絶対にできない」


 セーヤは剣を振り下ろす。ついにソウコウの太ももに傷がついた。


「長い戦いは苦手なんだ。覆す確率が低いほどに魔力を使ってしまうからね。だからそろそろ終わりにさせてもらうよ」


 セーヤの剣がソウコウの喉元に突き付けられた。

「降参してほしい。
 そうすれば君を殺さなくて済むから」

 セーヤが凄む。その眼は本気だ。

「俺は勇者だ。降参はしない」

「なら死んでもらう」

 セーヤの剣が突き出された。
 ソウコウはその剣を寸前で避ける。

「ちっ、外したか」

「全て避けるというなら、これならどうだ全方位雷撃ギガスパーク!」

 ソウコウの全方位攻撃が炸裂する。
 しかし、電撃はまるで意思を持つかのようにセーヤを避けた。

「当たらないっていっただろ!」

 セーヤが切りつける。ソウコウは全身から血を流す。

 ソウコウは的確に敵を斬るが、一向にあたる気配はない。
 それでも勇者は剣を振るう。

「無駄なんだよ! いい加減理解しろよ!」

 セーヤに焦りが見える。
 ソウコウは依然剣を振り続ける。しかし当たらない……

 いや、当たった。

 致命傷にはならないが、セーヤの頬を剣が掠め、その顔に血がにじむ。
 

「……教えてやるよ……」
 ソウコウが敵を睨む。その眼はまだ諦めてはいない。


「お前が万に一つの奇跡を起こすなら、俺はその奇跡を覆す『運命』を持っている」


「バカな!? そんなこと、あるわけないだろ! 僕は因果を操る。誰も逆らうことはできない!」


 ソウコウが剣を構える。その剣に電撃が生じる。

「それが……」

 一閃。
 セーヤの体に吸い込まれるように剣が滑る。
 
「それが……勇者だ……」

 綺麗な一撃が敵に決まった。
 セーヤの右腕が落ちる。


「そんな!?……なんで……?」


「困難を乗り越え、不可能を可能にする。……それが勇者だ」


 ソウコウが足を引きずりセーヤに近づく。
 セーヤの顔には余裕はない。

「やめて……くるな……」

「お前も戦うことを選んだのだろう? なら死ぬことを恐れるんじゃねぇよ」





「やめてください!」

 女性の声だ。
 どこから聞こえるのかわからないが、はっきりと聞こえる。
 少し緊張したような声だ。


「姉さん目が覚めたんだね!」
 セーヤが言った。


「セーヤ、よう頑張ったね。あとはウチに任せて」


 次の瞬間、俺たちは暗闇の中に立っていた。
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