ネット民、異世界を行く

灰猫ベル

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終幕

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 数か月が経った。

 結局、俺たちは処刑を免れた。

 ソウコウはその影響力から赤い月の宣伝塔として利用され、
 サーシャは魔法研究所の研究員となった。

 ベリアルは魔界で復活を遂げたという噂だが、
 何も手を出してこないので実態は不明だ。


 アルデと俺は先端技術の研究を進めている。
 今研究しているのは、星間移動の新しい方式だ。

 赤い月の星間移動は多くの犠牲を生むが、
 俺がググって得たロケットの作り方は犠牲の少ない画期的方法として支持を受けた。

 国王は大臣たちと一緒に離島で幽閉されている。

 なにはともあれ何とかなった。







 今、俺は初めてここに来たときの小高い丘にいる。
 隣にはアルデがいる。

 今日は休暇でアルデと出かけているのだ。

 気持ちいい風が吹いている。

「アルデ」

「なんじゃ?」

 俺は今日、前に言いそびれたことをアルデに伝えようと思っていた。

「俺も……いや、俺はアルデの事が……」

 強い風が吹き、言葉がかき消された。

「なんじゃ?よく聞こえんかった」

「仕方ないな、もう一度言うぞ。俺は…………あれ……?」


 意識が遠のく。
 視界が歪み、体が倒れこむのを感じる。

 あれ?なんで……?










 目が覚めるとそこは明るい部屋だった。
 右手に管が繋がっている。

「これは……一体……」

 体の自由がきかない。
 全身に力が入らない。
 何らかの方法でとらわれているようだ。

「アルデは……?」


「……サトシ……」
 目の前に男の顔が現れた。


 知ってる顔だ。

「親父……」

「良かった、本当に良かった……」

 親父が俺を抱きしめる。

 そうか、俺、戻ってきたんだ。









 聞くところによると1年近く俺は意識がなかったらしい。
 俺はグローバルシステムズに復職した。
 ドクターストップがかかっているので長時間の残業は原則無しだ。
 (とは言え、月に1,2度は午前様になってしまう)

  俺が入院している間に後輩のユカはチーフ職に昇進していた。
 真面目さが売りの娘だ。相当頑張ったのだろう。


 時々あの世界の事を思い出す。
 あれはただの夢だったのか、それとも本当に存在したのかは今になっては分からない。
 

 あの掲示板には相変わらず訪れている。
 怪しいリンクはもう踏まない。
 (内心、踏みたい気持ちもある)
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