魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として

第18話 侵攻!ヘリウス赤い月へ

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 ジェミ軍事同盟の中堅カテゴリ2に属する、第9エリア宙域司令官ヘリウスは自軍を引き連れ『赤い月』の近くまで接近していた。

 そこへ副司令官ヒドロが戦死した旨の報告が届く。

「『魔法』に『人型兵器』……ワシは『赤い月』を舐めすぎていたようだな」





『赤い月』は惑星『ヌージィガ』の衛星だ。
 この衛星はかつて強大な軍事力を背景に同じ衛星である『青い月』、『白い月』を征服。その後、母星であるヌージィガも支配下とした。現在は赤い月がこの惑星系における支配権を握る。


 ヘリウスはヌージィガの衛星軌道上、赤道直上に部隊を展開した。

 旗艦である戦艦を中心としたその部隊の兵力は、実に随伴戦艦5隻、重巡洋艦7隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦30隻に及ぶ大軍だ。

「偉そうに、4つ星の文明か……契機付けに一つ破壊してやろう」

 ヘリウスの合図で各艦は艦砲射撃の準備を行う。





 ヌージィガ惑星系の中でも最も小さい『白い月』は、農耕と鉱物採掘を主な産業とする長閑のどかな星だ。

 土壌は肥沃とは言えず、住民は数年前まで飢饉の危機に常に晒されていた。

 数年前、赤い月の配下に下って以来、赤い月の技術で土壌改良が進み、少しずつではあるが生活が豊かになってきた。

 この星の人口は半分以上が15歳以下の子供だ。大人は殆どが4年前の戦争の時に徴兵され、帰ってきたのは一割程度だった。


 少年たちが畑を耕す。
 その目に燃える空が映る。


 ヘリウス軍の爆弾は地表300メートル上空で次々に炸裂した。

 燃える空は地上に落ち、たちまち辺りを焼き尽くす。

 子供たちは焼かれ逃げ惑うが次々に倒れ、やがて灰になる。


 白い月が燃える。
 その様子は赤い月からもはっきりと確認できた。


 焼けた地表を見てヘリウスは満足げに頷く。

「さて、赤い月に立体通信を送れ」

「はっ!」


 赤い月の上空にヘリウスの姿が映し出される。

「赤い月の王よ。ワシはジェミ軍事同盟のヘリウス。これよりこの星は我らジェミがいただく。ついてはこれよりそちらへ向かうので降伏の準備をしておくように」

 一方的な指示を与え、通信を切る。


「挨拶はこれでよかろう。降りるぞ。赤い月とやらを食らってやる」

 側近はヘリウスの言葉に驚く。

「殲滅作戦ではないのでありますか?」

「服従させ、奴隷とするのよ。『魔法』とやらを我が物とする」

「閣下、危険であります!」

「なぁに、ワシを倒せる者などこんな星におるとは思えん」

「しかし……」

 ヘリウスは自分に逆らう側近の頭に手を触れる。
 次の瞬間、側近の頭は粉々に吹き飛んだ。

「さぁ、行くぞ者共」



 ヘリウスは赤い月の王城から500メートルの地点、城下町のど真ん中に艦を降ろした。

 吹き飛ぶ家々。

 そして挨拶と言わんばかりに王城に対して威嚇の砲撃をする。

 その様子を赤い月の王は黙って睨み付けていた。そして口を開き、
「キリークとセーヤに成敗させよ」
と、指示を出した。



 ヘリウスは部下たちと共に街に降り立ち、王城へと歩みを進める。途中、逃げ惑う民衆を射殺しながら歩く。

 王城まであと100メートルと迫った地点でヘリウスたちは奇妙な物体を見つけた。

 直径2メートル程の大きな鉄球が一つ。
 その周囲半径100ほどの空間には無数にピンポン玉くらいの鉄球が転がっている。

「おやおや、物騒な連中が来たもんだねぇ……」

 大きな鉄球からしわがれた声が聞こえる。

「この球が喋っているとでもいうのか!? ハハハ! 流石は魔法の国といったところか!」

 そう言ってヘリウスは足下の鉄球を拾い上げ、大きな鉄球に向かって投げつけた。

 高い音を響かせ鉄球が弾かれる。それは放物線を描き……その頂点で静止した。

「ムゥ? これは?」

「バカだねぇ……あんたらァもうあたしの手の中だよ」

 黒光りする鉄球から不敵な笑い声が聞こえる。

「何っ!? 鉄球が!?」

 気が付くとその場にあった無数の小さな鉄球が浮き上がっている。

「あたしァ、赤い月のA級エキスパート。鉄球のキリークってモンだ……」

 小さな鉄球は大きな鉄球を中心にとり周囲を回転し始める。

「この鉄球であんたらを擦り殺してあげようかねェ」


 やがて無数の鉄球は高速で旋回する。周囲の家々は破壊され飛び散り、その破片がヘリウスの軍を襲う。

「奇妙な事を! 撃て!」

 ヘリウスは部下にキリークを銃撃させるが、厚さ50センチ以上ある鋼鉄の鎧の前には効果はない。

「そんなオモチャであたしらに喧嘩を売ったのかい……お馬鹿過ぎて泣けてくるネェ」

 次々に鉄球の餌食となるヘリウスの部下たち。
 辺りにはおびただしい死体が転がる。

「クソ! 退却だ! こうなったら上空から焼き尽くしてくれる!」

 ヘリウスは命からがら自艦まで走った。

 搭乗ハッチの前に一人の青年が立っている。金髪に碧眼、全身を白い鎧で覆った細身の優男だ。

「逃がさんぞ……! 侵略者どもめ!」

「新手かっ! 撃て!」

 ヘリウスの部下たちが一斉に青年に向けて銃を放つ。

 ……しかし、銃弾は紙一重で全て外れた。

「お前ら! ちゃんと狙わんか!」

「無駄だ。因果を操り奇跡を起こす。それが奇跡魔法だ」

「何っ!?」

「『青い月』の王、神憑かみがかりのセーヤ。参る!」

 そう言うとセーヤは剣を抜きヘリウスの元へ駆け寄る。

 兵士たちはなおもセーヤを銃撃するものの、その弾は掠りもしない。

「この至近距離でも当たらんとはぁっ!?」

 横一閃、セーヤの剣がヘリウスの胴を斬る。
 ヘリウスの軍服が破れ、金属の体が露になる。

「死ね! 小僧!」

 ヘリウスの全身から銃弾が乱射される。
 ヘリウスの部下も巻き添えをくらい倒れるが、やはりセーヤには銃弾は当たらない。

「ば……バカな!?」

 セーヤはヘリウスの顔面を剣で貫いた。
 貫いた箇所から鮮血が迸る。

 ヘリウスはあっけなく死んだ。



 セーヤは艦内に侵入、敵兵の抵抗を難なく抑え司令室に入ると通信機で勝利を宣言した。

「お前たちの大将は死んだ。我々の勝ちだ。降伏しないなら、この艦で貴様らと一戦交える」


 赤い月はたった2人でヘリウスの軍を退けた。
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