魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として

第29話 第8エリア宙域争奪戦(2)

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 サトシは荒野をバイクで走る。
 向かい風の中舞う砂ぼこりに目を細めながら、敵の方をめがけて進む。

 サトシの後部にはソウコウが絶妙なバランスで立っている。短めのマントがはためき、たまに跳ねる小石が鎧に当たって高い音を響かせる。

 上空ではベリアルが風に乗って滑空している。

 どこまでも続く赤い大地は、ここが鉄の産地であることを示していた。

 サトシは「赤い月」との戦争を思い出していた。

 並走するアルデとサーシャも恐らく今、サトシと同じことを思い出しているだろう。


 銃を構えるギガン兵が、バイクの通り道を開ける。
 すれ違い様に吠えるような歓声が轟く。

 敵は目前に迫っている。


「敵との距離、200メートル! アルデ! サーシャ! 変形だ!」

 サトシはハンドル左手にあるスイッチを押す。
 バイクは瞬く間にバラバラになり、空中に放り出されたサトシを包み込む。

 着地。

 サトシのバイクは体高3メートル程の強化外骨格となった。
 アルデとサーシャも同様に変形完了している。

 サトシの機体は直線的なデザインで、身長ほどもある長剣を装備している。
 この剣は表面に簡易組成魔法の刃を備え、刃こぼれしない。

 アルデの機体は重厚な装甲とハンマーを装備。

 サーシャの機体は女性的な曲線デザインで二本の細身の剣を装備している。こちらも刃の部分は簡易組成魔法だ。

 強化外骨格にはデフォルトで身体能力強化魔法の祝福が付与されている。そのおかげで本来の身体能力以上の運動が可能となるのだ。
 強化外骨格にも艦載ロボより規模は小さいが、魔法石が搭載されており、簡易的な魔法であれば使用することができる。高位魔導士のサーシャにとっては無用の長物であるが、魔法の使えないサトシや魔力の低いアルデにとっては心強い武器となる。

「行くぜ!」

 ソウコウの掛け声を合図に、サトシたちは敵陣に突っ込む。
 その後ろをギガン軍が攻め上がる。





 ジェミ軍事同盟の司令官アルゴンはプレアデスの侵攻を把握している。
 アルゴンは黒い豊かな巻き髪を持つ長身の女性で、3つの目を持つ。
 身を包むタイトなボディスーツは豊かな乳房と臀部のふくらみを強調したデザインだ。
 整った顔をしているが、その青い瞳は冷たい光を放つ。

 まずは相手の戦力を把握するため、天球内で最もフェルミ通商条約機構の領宙に近い位置の惑星に哨戒部隊を展開していた。


「さて、どんな戦いを見せてくれるか」

 アルゴンは楽しそうにモニターを眺めている。





 両軍が接触した。

 ギガン軍がマシンガンを乱射する。筋骨隆々とした戦士がマシンガンを撃つ様は一人ひとりがまるでハリウッド映画の主人公の様だ。

 援護の射撃を受け、ソウコウ達は凄まじい速さで敵陣を分断する。
 ソウコウの範囲雷撃魔法が轟き、ベリアルの極大火炎魔法が敵を焼き尽くす。
 サトシ、アルデ、サーシャも近寄る敵を一度に複数人ずつ斬って捨てる。

 対するアルゴン軍だが、銃弾を受けて倒れる仲間をものともせずこちらの軍同様にマシンガンを乱射し前進してくる。

 このままいけばフェルミ軍はさしたる損害を出さずにこの惑星を制圧できそうだ。

 「カテゴリ1、思ったほどじゃないな」サトシは内心そう思った。それはサトシ以外も感じていたことだ。

 しかし、その考えはすぐに慢心だと思い知る。
 倒れた敵が再び立ち上がってきたのだ。

「こいつぁ死霊兵ゾンビだな」

 ベリアルが感心したように言う。

「まぁ、そうと分かりゃ対応は簡単だ。皆、俺から離れろ」

 ベリアルは高く舞い上がった。
 ソウコウらフェルミ軍は一旦後退する。

「食らえァ! 極大火炎魔法インフェルノ!」

 ベリアルの突き出した手のひらから業火が吹き出し、地上を覆う。敵兵は炎の中、叫び声を上げることもなく燃え尽きた。

「まぁざっとこんなもんよ!」

 「しかし……」ベリアルは疑問に思った。

「……死霊使役ネクロマンスは『魔法』の業だぜ?」





「フフフ、『魔法』というのは面白いものだな」

 アルゴンは戦闘の様子を見ながら満足そうに微笑んだ。

「喜んでもらえて光栄です、閣下」

 傍らに侍る黒いフードを纏った男がアルゴンの賛辞に畏まる。

「して、貴様らの要望は……?」

「戦乱の世界、終わらない戦いの日々……」

「フェルミも一枚岩ではないということか」





 戦いは数日に及んだ。
 結果はフェルミ軍の圧勝である。
 ギガン軍の戦死者約200名に対し、ジェミ側の戦死者(ただし死霊兵)は10万に及ぶ。
 ほぼ全ての敵がベリアルの火炎魔法で倒された。

「我らが武勇の前に敵はない! 皆の者、勝鬨かちどきをあげよ!」

 小高い丘の上でラーファが右手を天に掲げると、ギガンの兵たちも同様に右手を天に掲げ、遠吠えをあげた。



 勝利を祝うムードの中、ベリアルがソウコウに耳打ちする。

「おい、ソウコウ。あの敵兵、ありゃぁ『魔法』の産物だぜ」

「……やはりお前も気付いたか」

「それも、『魔法石』なんてチャチなもんじゃなくて、高位魔導士が敵についてるとしか思えねぇ」

 ラーファたちは敵が「魔法」を使っているなどとは夢にも思っていないが、ラーファから戦報を受けたフェルミ中央議会の連中が「ジェミに魔法技術が流出している」ことに気付くのは時間の問題だった。

 ソウコウはユウナに連絡を取った。

「ユウナ、急ぎ『赤い月』へ通信してくれ。緊急の用件だとな」
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