魔法宇宙戦艦プレアデス!

灰猫ベル

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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として

第30話 第8エリア宙域争奪戦(3)

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 プレアデスは「第8エリア宙域」と呼ばれる巨大な天球内を攻略中だ。

 ここに至るまで複数の惑星を制圧したが敵の部隊は死霊兵のみであり、生きている敵にはまだ遭遇していない。死霊兵は元々この宙域に住んでいた民たちだ。

 即ち、現時点でまだ敵の本隊には損害を与えることができていない。

 プレアデスは天球内で生存反応のある惑星をピックアップ、その中でも熱量の大きい星を目指して天球内を航行している。


 一方で外交的な問題も発生した。
 敵の死霊兵は「赤い月」の特殊能力「魔法」で作られた兵である事が分かった。この事で今、赤い月はフェルミ内で裏切りの疑いをかけられている。





 「赤い月」の大使クローディアは、フェルミ中央議会で追及されていた。

「今日の議題は第8エリア宙域派遣部隊からの報告についてだ」

「派遣部隊より現地で敵が『魔法』と思われる兵器を使用したとの報告がある。これについて赤い月の大使は意見があるか」

「我々の政府としてはフェルミへの忠誠を誓っています。ジェミに加担はしていません」

 クローディアは毅然とした態度で受け答えをする。

「ではなぜジェミが『魔法』を使用できる? 赤い月の裏切りがあったのではと言う意見も聞くが」

 追及の急先鋒は、尖った耳と大きな一つの目を持つバロッティ人のバレン大使だ。

「聞けば、赤い月には我々フェルミとの同盟を快く思わない者も多くいると言う」

「確かに、同盟に反対する勢力も確かに存在します」

 「それ見たことか」と言わんばかりの表情を浮かべるバレン。

「しかし、我が文明は宇宙への航行は完全に管理しており、簡単に外の星に行けることはありません。しかもジェミとは国際交流を絶っている。もしジェミに通じることができるとしたら相応の技術を持った者の手引きが必要かと思われます」

「何が言いたい?」

 ムーハのニオータ議長がクローディアを見つめる。

「我々より高度な文明を持った何者か、それも赤い月に出入りできる者の中にジェミとのパイプを持つものがいるのではないかと」

 場がざわめく。

「今日、この場に13の文明が参加している。この中に卑劣な裏切り者が紛れ込んでいると申すか?」

「恐らくは」

「おのれ! この期に及んで他人の裏切りと言うか!」

 色彩豊かな豹紋の入った肌を持つティガシンファ人のケフカ大使が叫んだ。怒りのあまり豹紋が歪み、隈取のようになっている。

「クローディア。敵が魔法を使用した以上、我らは君を疑わざるを得ない」

 巨大な体を持つフォクバン人のオーサ大使が穏やかな声で言った。

「待って! クローディアがウソを言ってるかどうか見てみるよ」

 流れを遮ったのはパシィ人のミイナ大使だ。
 パシィ人は「マインドトランス」という精神共有の能力を持つ種族だ。同種族間であれば意識は常に共有されている。また、他種族であっても本人の同意、あるいは意識を失っている状態であれば相手の意識を読むことができるのだ。

 ミイナがクローディアの意識の中を覗き込む。

「……クローディアの心の中を読んだけど、言ってることは本当だよ」

 「あ、そうだ!」とミイナが手を叩く。

「私が全員の意識を覗けば犯人が見つかるんじゃない?」

 場に緊張が走った。
 誰も口を聞かず沈黙が流れる。

 沈黙を破ったのは議長のニオータだ。

「ミイナ……。パシィ人は秘密を持たないそうだな。君には理解できないかもしれないが、我々にはそれぞれ明かせない機密というものがあるのだ」





 プレアデスは目当ての小型惑星ゴドに着陸した。
 天球内部の恒星から最も近いこの星は、砂漠の星だ。もっとも、その砂粒は金の粒であるが。
 余談だが、金を多く含むゴドは他の星に比べて非常に重い。

「恐らくここに敵の本拠地がある」

 ソウコウの勇者の運命が全身で敵の存在を感じている。果たしてその予感は的中した。敵の部隊が地平線の彼方から近づいてくる。その姿は死霊兵とは異なる生きた者の動きだ。

 その動きはこれまでの死霊兵とは違って素早く、砂漠の凹凸に巧みに身を隠しながら狙撃してくる。

 ギガン人の司令官ラーファが吠える。

「敵は少数だ! 数で押せェェッ!」

 その掛け声に合わせ怒濤のように攻めるギガン兵。ソウコウらもその波に乗り敵にかかる。

 地平線がキラリと輝いた。

「敵航空機攻撃に備えよっ!」

 ギガン軍の対空部隊が斜め上空に向けて対空兵器を発射する。

 対空機雷。打ち上げ花火のように拡散し、拡散後は滞空する小型爆弾だ。

 敵機は対空機雷の中に超音速で突っ込み爆散。墜落する破片の中で両軍は激しい銃撃戦を繰り広げる。

 その中においても赤い月の5人は銃弾をものともせず剣を振るう。

「食らえ! 広範囲雷撃魔法サンダーボルト!」

 ソウコウの雷撃魔法が広範囲に敵を討つ。敵の銃の弾倉に着火し銃が暴発する。

 しかし、敵自身は雷が直撃したにも関わらず生きている。

「頑丈な奴らだな……」

「それでも、相手の武器をつぶした分楽になった。ソウコウ、この調子で敵の銃火器を無効化してくれ」

「了解! どんどん行くぜ! 広範囲雷撃魔法サンダーボルト!」

 銃を使用不能にされた敵は両手にナイフを構え向かいかかってきた。隙のない素早い動きにギガン兵が次々と倒される。

「怯むな! 敵を飲みこめぇぇぇぇっ!」

 ラーファが怒号を上げる。ギガンの兵も奮起し敵にあたるが、銃はおろか近接戦闘でも敵に動きを読まれているようだ。

「流石はカテゴリ1よ! 簡単には倒せぬかぁっ……」

 ラーファが歯噛みし、自ら大剣を振り上げ敵陣に切り込む。
 その前に4人のアルゴン兵が立ちはだかる。

「ギガン軍司令、ラーファ! 推して参る!」

 ラーファは大剣を軽々と振り回し、敵の頭部を狙う。しかし、アルゴン兵はラーファの大剣を紙一重で躱しつつ、ナイフでラーファの手足を切りつける。一撃が致命傷にはならないが、手足の傷は確実にラーファの動きを鈍らせる。

「ラーファ、下がれっ!」

 サトシはラーファとアルゴン兵の間に割って入った。

「俺が相手だ! 行くぞ!」

 強化外骨格と強化魔法が生み出す身体能力はラーファのそれを超える。およそ人間では歯が立たないほどだ。
 サトシは長剣を操り、素早い斬撃を繰り出す。

 しかし、ラーファ同様にその剣は空を切る。

「くっ! 決して素早くはないのに、当たらない!」

 敵は完全にサトシの動きを見切っている。
 三つ目のアルゴン兵は、特殊な知覚を持つ。相手の体に流れる電流から次の動きを予測できるのだ。その能力がある限り、予測可能な範囲であればすべての攻撃を避けることができる。

「じゃぁこれならどうだ! 爆発魔法ボム!」

 サトシの前方で小規模の爆発が発生。礫が飛散する。
 これには敵も反応できず、礫を体にまともに受ける。どうにか4人中2人を倒すことができた。

「まったく、骨の折れる敵だ……」





 アルデは苦戦していた。

「まったく、チョコマカと煩いやつらじゃ」

 繰り出すハンマーをことごとく敵に避けられる。

「おい! ベリアルよ、なんとかしてくれんかのう」

「ったく、しゃぁねぇなァ」

 ベリアルは素早く印を切る。

「アルデ! 俺にぴったりくっついとけ!
 いくぜ! 極大火炎魔法インフェルノ
 おまけに大旋風魔法トルネード!」

 炎の竜巻でできた壁がベリアルを中心に生じる。
 炎の発生地点にいた敵は蒸発した。

 壁の中には10数人の敵兵がいるが、豪風のなか姿勢を保つだけで精一杯だ。

「さて、どう料理してやろうか……」

 魔王の目が赤く光る。魔力の低いアルデでも感じるほどにベリアルの魔力が高まる。
 やがてベリアルの爪が鋭く伸び、敵の首を、胴体を切り裂いた。

 動きの予測ができるアルゴン兵には、自分の死ぬ展開しか見えないというのは絶望であったろう。響く叫び声に飛び散る血液。それらはすべて竜巻の轟音の中に吸い込まれる。





 サーシャの双剣が煌めく。
 半魔の体、強化外骨格による補助、高位身体強化魔法、それらの噛み合い、サーシャの身体能力を向上させる。身体強化魔法の青い光が残像のように目に焼き付く。
 サーシャの速さはもはや通常の人間であれば目視できないほどだ。
 その速さから繰り出される斬撃は避けることはおろか、防御することすらできない。

 サーシャからしてみればアルゴンの兵も静止した目標も対して変わりがないのだ。

 ツバメのように飛び回るサーシャの後ろにはおびただしい数の敵の死体が転がっている。

「!」

 サーシャは突然動きを止め、左を見た。一瞬何かの影が見えたからだ。
 次に感じたのは激しい熱さ。
 この熱さの正体をサーシャはすぐに理解した。

 左腕の肘から先が炭化している。強力な火炎魔法による攻撃だ。
 すぐさま敵の死体を盾にして回復魔法を施す。

「やはり敵に魔導士が……!」

 サーシャの周囲から敵の気配が消える。

「見失ったか……」





 プレアデスはギガンの揚陸艇とともに着陸地点にあった。
 周囲はギガン軍が警備しており、アイラ、西野、吉川も艦載ロボで警備している。

 一陣の風が吹いた。
 舞い上がる金混じりの砂埃に一同が目を覆う。


 砂煙が落ち着くと、ギガン軍の大半が焼死体になっていた。
 そのほとんどは倒れることもなくオブジェのようにそこに立っている。

「て……敵襲!」

 吉川が焦って速射火炎魔法をあたりに乱射する。

「吉川! 落ち着きなさい!」

 ユカが制止するが吉川は混乱している。

「西野、吉川を止めて!
 アイラさん、敵が近くにいます! 警戒を強化して。
 マァルさんは艦内の警備をお願いします」


 西野はその吉川の機体頭部に人が立っていることに気付いた。
 無言でその人物に狙いを定め、火炎魔法を放つ。

 火炎魔法は吉川の機体頭部もろとも敵を粉砕したかに見えた。

「やったか?」

「……いいや、『やってない』よ。 素晴らしいね、『防御魔法』っていうのは」

 炎が風に吹き消される。
 そこには一人の女が立っていた。

「私の名前はアルゴン。この天球を管理している者だ」

「一人だと?」

「ええ。一人で十分だからな」

 アルゴンはそういうと微笑みながら吉川の機体頭部を踏み抜いた。
 衝撃が機体を縦に貫通、吉川の機体は大破した。

 コックピットの残骸が機体の足元に転がる。
 スクラップのように潰れその隙間からは絞りだされた血液が流れる。

「あぁっ! 吉川ぁ!」

 ユカは作戦室で崩れ落ちた。
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