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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第34話 暗殺事件の始末
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マァルはニオータ議長暗殺の下手人として追われる身にある。
フェルミ・セントラルの内部には無数の監視カメラが設置されており、下手人の特定は容易なものだった。もっとも、マァル自身も隠れているつもりはなかったので、この展開は予測の範囲内であった。
プレアデスは下手人であるマァルの行方が明らかになるまで離陸を禁じられ、乗員たちはフェルミ・セントラルのホテルに軟禁されている。
大使であるクローディアも同様に大使館に軟禁された状況だ。
「マァルの野郎、何やってやがる」
ソウコウは苛立っている。
ソウコウが苛立つのも当然だ。自分が依頼した相手ではなく、依頼元の人間が暗殺されたのだから。なぜそんなことになったのか、誰の差し金だったのか疑問は残るが、今はマァルを見つけ出し討つことが「赤い月」にとって身の潔白を証明する唯一の方法のように思われた。
もっとも、赤い月以外のフェルミ加盟文明では裁判制度も整備されており、誅殺は必ずしも正しいこととは言えないのだが、ソウコウの価値観ではマァルの始末こそが正であった。
「ベリアル、マァルを始末してくれ」
「あぁ、任せとけ」
ソウコウはベリアルにマァルの始末を依頼した。
ベリアルは煙のような姿に変身すると、ホテルの窓から外へ飛んでいった。
◇
フェルミ・セントラルの路上。
マァルは物陰に身を潜めている。
街頭映像では議長死亡という未曽有の事態について緊急特番を流している。
「ニオータ議長の死去を受け、フェルミ中央議会では副議長であるタルフが繰り上げで議長となりました。その結果、2席のうち片方が空席となった副議長にはエンディア人のゴッツが就任しています」
その知らせを街頭映像で見たマァルは笑ったが、続く映像を見て真顔になった。
「議会は緊急事態を宣言。赤い月がフェルミを裏切った可能性についても視野に入れて調査を始めています」
調査官が赤い月の大使館を訪れ、重要参考人としてクローディアを連行する映像が流れる。
「クローディア……」
◇
クローディアへの尋問は密室で行われた。
それは凄惨なものだった。拷問と言った方がよいだろう。
フェルミでは原則囚人への拷問は禁止されているが、集団的破壊工作の容疑者に対してはその原則は適用されない。
全裸に剥かれ棘の鞭を打たれるクローディア。意識を喪ったら頭から逆さに水桶に沈められる。
柔らかだった肌は今やどこを見ても血で汚れ、鉄の匂いを放っている。
クローディアは高位の魔導士であるため、肉体の傷については回復魔法で修復可能であったが、精神的には消耗しきっていた。もちろん反撃も可能だが、それをしなかったのは全ては故郷「青い月」のためだ。
そんなクローディアにとって最も過酷だったのは性器への拷問だ。
穴という穴に針を刺され、その針に電流を流される。
敏感な粘膜を焼かれ、のた打ち回るクローディアの様子を見て、拷問官たちは劣情を覚える。
その劣情はクローディアに向かう。
複数の拷問官に強姦されることはクローディアにとって最大の恥辱だった。
◇
数日後の夜――。
物陰に隠れていたマァルは背後に気配を感じた。
この気配には覚えがある。
「……魔王か」
「あぁ」
振り向かず会話する。
「主とは決着をつけておきたいと思っておったわ」
「俺もだぜマァル」
マァルは一気に通りに飛び出した。
夜を迎えたフェルミ・セントラルは、マァルの事件もあり人通りはなかった。
遠くの方で衛兵の巡回する戦闘車両のエンジン音が聞こえる。
暗闇の中で向かい合うベリアルとマァル。
共に黒い装束であるため、かなり近寄らないとそこに人がいることすら見えない。
ベリアルの背中に真っ黒な羽が生え、両手の爪は長く伸び金属の輝きを放つ。
マァルは艶のない真っ黒な2本の大鎌を水平に構えた。その様は蝙蝠の様だ。
先手を打ったのはベリアルだった。
一気に間合いを詰め右手の爪で下から切り上げる。
マァルはそれを体をのけ反らせて避けるとともに、ベリアルの顎に蹴りを入れる。
軽い脳震盪がベリアルを襲い、ミリ秒の隙を生む。
マァルは続けざまに大鎌による斬撃をベリアルに叩き込む。
ベリアルは大鎌を両手の爪で受け止め、マァルの両手が塞がった所に口から火を噴き顔を焦がした。肉の焼ける匂いが漂う。
「ククク……やはり殺し合いはこうでなくてはな」
そういうとマァルは片方の鎌をベリアルに向けて投げつけた。
ベリアルはその初撃を躱す。
回転しながら弧を描く鎌は空中で軌道を変え、ベリアルの背中を狙う。
高く舞い上がりその鎌を避けるベリアル。空中から火炎魔法をマァルに発射する。
戻ってきた鎌が火炎魔法を切り捨てる。
両手に戻った鎌をヘリコプターのローターの様に回転させ、マァルも空を飛んだ。
暗い空に踊る2つの黒い影。
ベリアルは向かってくるマァル目掛けて急降下した。
マァルは上昇しながらそれを待ち受ける。
空中で2つの影が交差した。
地上に降りるベリアルとマァル。
ベリアルの胸には2本の大鎌が深々と突き刺さる。
マァルは笑った。
「これまでか……」
「ああ。これまでだ」
次の瞬間マァルの腹が裂け、内臓が路上にまき散らされる。
「魔王よ。頼みがある」
「何だ?」
「クローディアを救ってくれ」
「……分かった」
マァルは微笑みながらその場に崩れ落ちた。
その内臓をドブネズミが食らう。
◇
赤い月の王の間――。
「マァルはよくやってくれた。 ニオータは始末した。これでタルフは我々を認めるだろう」
高笑いする赤い月の王。
その上空にはジェミのカテゴリ1、ティターンの艦がその主砲を王城に向けている。
「ジェミにようこそ、赤い月。そしてさらばだ。赤い月の王よ」
ティターン艦の主砲が火を噴いた。
フェルミ・セントラルの内部には無数の監視カメラが設置されており、下手人の特定は容易なものだった。もっとも、マァル自身も隠れているつもりはなかったので、この展開は予測の範囲内であった。
プレアデスは下手人であるマァルの行方が明らかになるまで離陸を禁じられ、乗員たちはフェルミ・セントラルのホテルに軟禁されている。
大使であるクローディアも同様に大使館に軟禁された状況だ。
「マァルの野郎、何やってやがる」
ソウコウは苛立っている。
ソウコウが苛立つのも当然だ。自分が依頼した相手ではなく、依頼元の人間が暗殺されたのだから。なぜそんなことになったのか、誰の差し金だったのか疑問は残るが、今はマァルを見つけ出し討つことが「赤い月」にとって身の潔白を証明する唯一の方法のように思われた。
もっとも、赤い月以外のフェルミ加盟文明では裁判制度も整備されており、誅殺は必ずしも正しいこととは言えないのだが、ソウコウの価値観ではマァルの始末こそが正であった。
「ベリアル、マァルを始末してくれ」
「あぁ、任せとけ」
ソウコウはベリアルにマァルの始末を依頼した。
ベリアルは煙のような姿に変身すると、ホテルの窓から外へ飛んでいった。
◇
フェルミ・セントラルの路上。
マァルは物陰に身を潜めている。
街頭映像では議長死亡という未曽有の事態について緊急特番を流している。
「ニオータ議長の死去を受け、フェルミ中央議会では副議長であるタルフが繰り上げで議長となりました。その結果、2席のうち片方が空席となった副議長にはエンディア人のゴッツが就任しています」
その知らせを街頭映像で見たマァルは笑ったが、続く映像を見て真顔になった。
「議会は緊急事態を宣言。赤い月がフェルミを裏切った可能性についても視野に入れて調査を始めています」
調査官が赤い月の大使館を訪れ、重要参考人としてクローディアを連行する映像が流れる。
「クローディア……」
◇
クローディアへの尋問は密室で行われた。
それは凄惨なものだった。拷問と言った方がよいだろう。
フェルミでは原則囚人への拷問は禁止されているが、集団的破壊工作の容疑者に対してはその原則は適用されない。
全裸に剥かれ棘の鞭を打たれるクローディア。意識を喪ったら頭から逆さに水桶に沈められる。
柔らかだった肌は今やどこを見ても血で汚れ、鉄の匂いを放っている。
クローディアは高位の魔導士であるため、肉体の傷については回復魔法で修復可能であったが、精神的には消耗しきっていた。もちろん反撃も可能だが、それをしなかったのは全ては故郷「青い月」のためだ。
そんなクローディアにとって最も過酷だったのは性器への拷問だ。
穴という穴に針を刺され、その針に電流を流される。
敏感な粘膜を焼かれ、のた打ち回るクローディアの様子を見て、拷問官たちは劣情を覚える。
その劣情はクローディアに向かう。
複数の拷問官に強姦されることはクローディアにとって最大の恥辱だった。
◇
数日後の夜――。
物陰に隠れていたマァルは背後に気配を感じた。
この気配には覚えがある。
「……魔王か」
「あぁ」
振り向かず会話する。
「主とは決着をつけておきたいと思っておったわ」
「俺もだぜマァル」
マァルは一気に通りに飛び出した。
夜を迎えたフェルミ・セントラルは、マァルの事件もあり人通りはなかった。
遠くの方で衛兵の巡回する戦闘車両のエンジン音が聞こえる。
暗闇の中で向かい合うベリアルとマァル。
共に黒い装束であるため、かなり近寄らないとそこに人がいることすら見えない。
ベリアルの背中に真っ黒な羽が生え、両手の爪は長く伸び金属の輝きを放つ。
マァルは艶のない真っ黒な2本の大鎌を水平に構えた。その様は蝙蝠の様だ。
先手を打ったのはベリアルだった。
一気に間合いを詰め右手の爪で下から切り上げる。
マァルはそれを体をのけ反らせて避けるとともに、ベリアルの顎に蹴りを入れる。
軽い脳震盪がベリアルを襲い、ミリ秒の隙を生む。
マァルは続けざまに大鎌による斬撃をベリアルに叩き込む。
ベリアルは大鎌を両手の爪で受け止め、マァルの両手が塞がった所に口から火を噴き顔を焦がした。肉の焼ける匂いが漂う。
「ククク……やはり殺し合いはこうでなくてはな」
そういうとマァルは片方の鎌をベリアルに向けて投げつけた。
ベリアルはその初撃を躱す。
回転しながら弧を描く鎌は空中で軌道を変え、ベリアルの背中を狙う。
高く舞い上がりその鎌を避けるベリアル。空中から火炎魔法をマァルに発射する。
戻ってきた鎌が火炎魔法を切り捨てる。
両手に戻った鎌をヘリコプターのローターの様に回転させ、マァルも空を飛んだ。
暗い空に踊る2つの黒い影。
ベリアルは向かってくるマァル目掛けて急降下した。
マァルは上昇しながらそれを待ち受ける。
空中で2つの影が交差した。
地上に降りるベリアルとマァル。
ベリアルの胸には2本の大鎌が深々と突き刺さる。
マァルは笑った。
「これまでか……」
「ああ。これまでだ」
次の瞬間マァルの腹が裂け、内臓が路上にまき散らされる。
「魔王よ。頼みがある」
「何だ?」
「クローディアを救ってくれ」
「……分かった」
マァルは微笑みながらその場に崩れ落ちた。
その内臓をドブネズミが食らう。
◇
赤い月の王の間――。
「マァルはよくやってくれた。 ニオータは始末した。これでタルフは我々を認めるだろう」
高笑いする赤い月の王。
その上空にはジェミのカテゴリ1、ティターンの艦がその主砲を王城に向けている。
「ジェミにようこそ、赤い月。そしてさらばだ。赤い月の王よ」
ティターン艦の主砲が火を噴いた。
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