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第2章 フェルミ通商条約機構の一員として
第35話 反乱
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赤い月はプレアデスの不在中にジェミ軍事同盟の支配下となった。
カテゴリ1、ティターンの強襲により一夜のうちに占領されてしまったのだ。
王城への一撃で赤い月の王は崩御し、その時点で選局は決まった。
残る兵の一部は徹底抗戦したが、ティターンの敵ではなかったという。
赤い月陥落の報を受け、アイラはショックを受けた。
自分の生まれ故郷が敵に蹂躙されたのだ。当然の反応だろう。
◇
タルフ体制になったフェルミ中央議会は、ジェミの赤い月侵攻を受けジェミとの停戦の方向に動き始める。
文化的には遅れているとはいえ、戦闘能力においてはフェルミ最強であった赤い月の陥落は停戦のきっかけとしては十分だった。少なくとも表向きは。
実際のところは、この侵攻自体が現フェルミ議長であるタルフの仕組んだものであったわけだが。
停戦の議論はとんとん拍子に進み、議論開始から一週間で議会は停戦の決議をした。
◇
議決のさらに一週間後、ジェミがフェルミとの停戦交渉のテーブルについた。フェルミの代表は中央議会議長のタルフ、ジェミの代表はカテゴリ1のルイ、立会人は中立文明レーヴァの外務大臣レアローだ。
「交渉を開始する。この場での発言は全て記録される」
レアローは大袈裟な口調で開会を宣言した。
「この度は我らの提案を受け入れて頂き感謝する」
「我らとて無駄な争いは好みはしない。停戦は吝かではない。尤も……そちらの出方次第ではあるが」
「では本題に入ろう」
「うむ」
「フェルミの要件は領域内の航行の安全を保障することと、君たちが不当に占拠した第7エリア宙域からの撤退、現在激戦区となっている第9エリア宙域からの撤退だ」
「ほぉ、これは……」
「君たちの元の勢力圏よりは広がったはず。これで手を打ってくれないか?」
「航行の安全保障と第7エリア宙域からの撤退はよかろう。……しかし、第9エリア宙域はただでは渡せんな」
「では割譲するというのはいかがか?」
「具体的には?」
「『赤い月』星団の分割統治でどうかと言っている」
「よかろう」
交渉の結果、ヌージィガと青い月がフェルミ、赤い月と白い月がジェミの統治下に入る事となった。
◇
フェルミ・セントラルの政治犯収容所。
窓のない拷問室。クローディアはそこにいた。
赤い月は滅亡し、クローディアの政治的存在意義はもはや無いものとなっている。
フェルミ上層部は拷問の事実を隠蔽するために形式上の密室裁判を行い、クローディアを死刑とした。
クローディアの死刑は判決の即日執行される事となった。
二人の拷問官に刑場に連れられるクローディア。
その周囲を黒い霧が包む。
「この気配は、ベリアルさん……?」
「おう、クローディア。帰るぞ」
霧がクローディアの耳元で囁く。
「じゃけど、ウチが行ったら『赤い月』が……」
「あー、問題ねぇよ。もう侵略されちゃったわ」
「え?」
クローディアは呆気にとられた。
そして、事態を理解して笑った。
「なんだ、じゃぁもうコイツらの言いなりにならんでもええんですね!」
「おぃ、さっきから何をぶつぶつ言っている!」
拷問官の一人がクローディアの腕を乱暴につかむ。
が、その腕は砂のように崩れる。
「こ……これは!?」
クローディアの形がどんどん崩れていく。
「どうなってんだ……一体?」
拷問官たちは後ずさりした。
が、すぐに壁に背中があたる。
さっきまで無かった壁がそこにあった。
「え!?」
焦る拷問官たちは気付いた。
自分達の回りにいつのまにか壁ができていることに。そしてその壁はどんどん内側に入り込んでくる。
「何でこんなことに!?」
「幻楼……奇跡魔法の秘術なんよ」
やがて壁は中の空間を押し潰し、自壊した。
「あー、スッキリした」
「プレアデスにいくぞ、クローディア」
ベリアルが霧の状態から実体を表す。
「うん」
◇
プレアデスの周囲はフェルミの衛兵に囲まれている。
赤い月の割譲を受け、プレアデスの航行は凍結されたのだ。
確かに、母星占領された以上、プレアデスには航行の理由はない。
メンバーはフェルミ・セントラルのホテルで今後の対応について作戦を練る。
「赤い月は敵の手に落ちた」
ソウコウが言う。
「敵とは……?この際、はっきりとしておきたい」
サトシがソウコウに尋ねる。
「敵は……フェルミ通商条約機構、ジェミ軍事同盟両方だ」
「つまり俺たちは祖国解放のために戦うというわけか」
「そういうことだ」
「待ってください、皆さん! フェルミと戦争を始めるつもりですか?」
ムーハ人のウサが当然ながら慌てる。フェルミと戦闘するということはウサにとっては祖国との戦争だ。
「ウサはムーハの人間だ。もちろんこの戦いには参加できないだろう。ここで去ってくれても構わない」
ソウコウはウサに理解を示した。
ウサは少し悩んだが、艦を降りることを選択した。
「これより我々はプレアデスを奪還、フェルミ・セントラルを脱出する。その後、赤い月へ帰還し、祖国解放のために戦う。みんな、つらい戦いになるが、ついてきてくれ」
さすがは勇者と言ったところか。
彼の声は聞く者を勇気づけ、奮起させ、高揚状態を作る。
◇
プレアデスを包囲していた衛兵は50人程度であった。
ソウコウ、ベリアル、サーシャ、クローディアの前ではこの程度の数の敵はまったくの無意味だ。
難なくプレアデスを奪還した一行は、フェルミ・セントラルを後にした。
プレアデスの反乱が始まる。
カテゴリ1、ティターンの強襲により一夜のうちに占領されてしまったのだ。
王城への一撃で赤い月の王は崩御し、その時点で選局は決まった。
残る兵の一部は徹底抗戦したが、ティターンの敵ではなかったという。
赤い月陥落の報を受け、アイラはショックを受けた。
自分の生まれ故郷が敵に蹂躙されたのだ。当然の反応だろう。
◇
タルフ体制になったフェルミ中央議会は、ジェミの赤い月侵攻を受けジェミとの停戦の方向に動き始める。
文化的には遅れているとはいえ、戦闘能力においてはフェルミ最強であった赤い月の陥落は停戦のきっかけとしては十分だった。少なくとも表向きは。
実際のところは、この侵攻自体が現フェルミ議長であるタルフの仕組んだものであったわけだが。
停戦の議論はとんとん拍子に進み、議論開始から一週間で議会は停戦の決議をした。
◇
議決のさらに一週間後、ジェミがフェルミとの停戦交渉のテーブルについた。フェルミの代表は中央議会議長のタルフ、ジェミの代表はカテゴリ1のルイ、立会人は中立文明レーヴァの外務大臣レアローだ。
「交渉を開始する。この場での発言は全て記録される」
レアローは大袈裟な口調で開会を宣言した。
「この度は我らの提案を受け入れて頂き感謝する」
「我らとて無駄な争いは好みはしない。停戦は吝かではない。尤も……そちらの出方次第ではあるが」
「では本題に入ろう」
「うむ」
「フェルミの要件は領域内の航行の安全を保障することと、君たちが不当に占拠した第7エリア宙域からの撤退、現在激戦区となっている第9エリア宙域からの撤退だ」
「ほぉ、これは……」
「君たちの元の勢力圏よりは広がったはず。これで手を打ってくれないか?」
「航行の安全保障と第7エリア宙域からの撤退はよかろう。……しかし、第9エリア宙域はただでは渡せんな」
「では割譲するというのはいかがか?」
「具体的には?」
「『赤い月』星団の分割統治でどうかと言っている」
「よかろう」
交渉の結果、ヌージィガと青い月がフェルミ、赤い月と白い月がジェミの統治下に入る事となった。
◇
フェルミ・セントラルの政治犯収容所。
窓のない拷問室。クローディアはそこにいた。
赤い月は滅亡し、クローディアの政治的存在意義はもはや無いものとなっている。
フェルミ上層部は拷問の事実を隠蔽するために形式上の密室裁判を行い、クローディアを死刑とした。
クローディアの死刑は判決の即日執行される事となった。
二人の拷問官に刑場に連れられるクローディア。
その周囲を黒い霧が包む。
「この気配は、ベリアルさん……?」
「おう、クローディア。帰るぞ」
霧がクローディアの耳元で囁く。
「じゃけど、ウチが行ったら『赤い月』が……」
「あー、問題ねぇよ。もう侵略されちゃったわ」
「え?」
クローディアは呆気にとられた。
そして、事態を理解して笑った。
「なんだ、じゃぁもうコイツらの言いなりにならんでもええんですね!」
「おぃ、さっきから何をぶつぶつ言っている!」
拷問官の一人がクローディアの腕を乱暴につかむ。
が、その腕は砂のように崩れる。
「こ……これは!?」
クローディアの形がどんどん崩れていく。
「どうなってんだ……一体?」
拷問官たちは後ずさりした。
が、すぐに壁に背中があたる。
さっきまで無かった壁がそこにあった。
「え!?」
焦る拷問官たちは気付いた。
自分達の回りにいつのまにか壁ができていることに。そしてその壁はどんどん内側に入り込んでくる。
「何でこんなことに!?」
「幻楼……奇跡魔法の秘術なんよ」
やがて壁は中の空間を押し潰し、自壊した。
「あー、スッキリした」
「プレアデスにいくぞ、クローディア」
ベリアルが霧の状態から実体を表す。
「うん」
◇
プレアデスの周囲はフェルミの衛兵に囲まれている。
赤い月の割譲を受け、プレアデスの航行は凍結されたのだ。
確かに、母星占領された以上、プレアデスには航行の理由はない。
メンバーはフェルミ・セントラルのホテルで今後の対応について作戦を練る。
「赤い月は敵の手に落ちた」
ソウコウが言う。
「敵とは……?この際、はっきりとしておきたい」
サトシがソウコウに尋ねる。
「敵は……フェルミ通商条約機構、ジェミ軍事同盟両方だ」
「つまり俺たちは祖国解放のために戦うというわけか」
「そういうことだ」
「待ってください、皆さん! フェルミと戦争を始めるつもりですか?」
ムーハ人のウサが当然ながら慌てる。フェルミと戦闘するということはウサにとっては祖国との戦争だ。
「ウサはムーハの人間だ。もちろんこの戦いには参加できないだろう。ここで去ってくれても構わない」
ソウコウはウサに理解を示した。
ウサは少し悩んだが、艦を降りることを選択した。
「これより我々はプレアデスを奪還、フェルミ・セントラルを脱出する。その後、赤い月へ帰還し、祖国解放のために戦う。みんな、つらい戦いになるが、ついてきてくれ」
さすがは勇者と言ったところか。
彼の声は聞く者を勇気づけ、奮起させ、高揚状態を作る。
◇
プレアデスを包囲していた衛兵は50人程度であった。
ソウコウ、ベリアル、サーシャ、クローディアの前ではこの程度の数の敵はまったくの無意味だ。
難なくプレアデスを奪還した一行は、フェルミ・セントラルを後にした。
プレアデスの反乱が始まる。
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