【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま

文字の大きさ
12 / 49
本編【全40話】

12.

しおりを挟む
その声を耳にした瞬間、私は椅子から飛び上がりそうになった。
心臓が跳ね、思考が追いつかない。

「……お父様!?」

まさか、こんな場で父が現れるなんて。
婚姻の話だけでも頭がいっぱいなのに、今度は父の存在が加わり、思考は真っ白になった。
目の前の光景が現実なのか夢なのかすら疑わしい。
それに、父にはここに来ていることは言っていなかったはずだ。いや、言おうとはしていたが、時間がなかっただけで——。

混乱の最中、父の背後からひょっこりと、金髪を垂らした令嬢が顔をのぞかせた。
そして、にこやかな表情で私を見て、静かに口を開いた。

「私も居るわよ」

「お姉様まで……!」

思わず声が漏れ、膝の力が抜けそうになる。
変な状況が一度に押し寄せ、息を整える暇もないまま、私は二人の存在を受け止めるのに精一杯だった。

「あら、どうして、そんな迷惑そうな顔をするのかしら。傷心の可愛い妹のために、はるばる王都から駆け付けてあげたって言うのに」

「そうだぞ。婚約破棄の書簡が届いてからすぐに、仕事を放り投げて、馬車を走らせてきたのだ。だから、もっと嬉しそうな顔を見せてくれ」

「仕事を放り投げてきたの?そしたら、私は違うわ」

私がため息を零すと、父と姉はやいやいと、文句を垂れた。——王都のときと接し方は何一つ変わらない。それを喜ぶべきなのか、今の私には分からなかった。

「コホン!……アレクシス様、セレーネ嬢。再会の喜びは分かりますが、まだ、話は残っていますので」

オルディンの低く響く声が、部屋の空気を再び一つにまとめあげる。
父と姉は顔を見合わせ、肩をすくめると、二人は揃って小さく笑い、やや不満げに口を閉ざした。
その様子を一瞥すると、オルディンはゆっくりとこちらを見据え、重々しい声で言った。

「それでは、エリシア=フィオレン。もう一度、問おう。——どうか、私の息子エルンとの婚姻をお受けいただけないだろうか」

オルディンの重々しい問いかけが胸にのしかかる。けれど、すぐに肯定を出せるほど、私は無責任に言葉を出せなかった。——その失敗は嫌というほど、脳裏にこびりついているから。

それに、後ろが騒がしい。
耳を傾ければ、父と姉が「婚姻ですって」「昨夜の語りの甲斐があったのかもしれないな」「そうに決まってますわ」と、コソコソと耳打ちをし合っていた。
今でこそ、オルディンは顔色一つ変えていないが、それが長く続けば、怒りを堪えられないかもしれない。挨拶に来なかった私が言えたことではないが、怒らせるのは相当不味いと見える。
それでも、回答を出すには早計で。

「すみませんが、少々考えてもよろしいでしょうか。まずは薬の方に集中したいのです」

結局、どっちつかずの回答をするしかなかった。失礼は承知だが、これが最善の選択だと思う。

「ああ、構わない。それに家族と相談もしたいだろう。回答は急がなくては良いが……、前向きな返答を期待しているぞ」

思いの外、オルディンは軽妙に承諾してくれた。そればかりか「家族で積もる話もあるだろう。客室に案内してやれ」と、セリンに指示を出した。

父と姉を一瞥する。彼らは揃ってニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
オルディンの申し出はありがたいはずなのに……。私の胃は、結局休まる暇がなさそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女の証を持っていますが、転生前に聖女は断っていたようなので、国を救う事は出来ません

花見 有
恋愛
聖女の証を持って産まれたマデリーナはレチュベーテ王国で日々聖女としての鍛練を積んできた。だがある日、自身が転生前に聖女になる事を断っていた事を思い出す。聖女になれないマデリーナは国を救う事が出来るのか!?

婚約破棄ですか? では契約通りに――王太子も聖女も教会も、まとめて破綻させていただきます

ふわふわ
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ。聖女こそが、真に国を救う存在だ」 王立舞踏会の夜。 王太子カイルベルトは、公衆の面前で公爵令嬢エレシアとの婚約を一方的に破棄した。 隣には涙を浮かべる義妹ミリア。 神託を告げる聖女ルチア。 それを正当化する教会の司祭。 ――すべては“神の意志”だと言う。 けれど、エレシアは動じない。 「では契約通りに」 その一言から、静かな崩壊が始まった。 王家と教会を支えていた資金・技術・物流は、すべて公爵家の支援によるもの。 婚約破棄と同時に、それらは正当に停止される。 奇跡は止まり、港は滞り、帳簿の穴が暴かれ、聖女の“奇跡”の正体が白日の下に晒されていく。 やがて明らかになるのは―― 王太子の国庫私的流用。 聖女の偽装。 司祭の横領。 そして義妹の虚偽証言。 「俺は悪くない!」 叫びは虚しく、地位も名誉も王籍さえも剥奪される王太子。 聖女は投獄、司祭は労役、義妹は修道院幽閉。 救済はない。 赦しもない。 あるのは、選択の結果だけ。 これは、感情で怒鳴らない令嬢が、 契約と事実だけで王家と教会を崩壊させる物語。 静かで冷徹。 そして、徹底的に最強のざまぁ。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...