【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま

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本編【全40話】

30.

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静かで温かな感触をふと感じて、目を覚ました。
意識が朦朧としたまま、夢から現実へと感覚を戻せば、耳には雨音とセリンの寝息が、頬にはかすかな温かみを感じた。それに夢心地な心地良さを覚えながら、昨夜、あの花を見てからのことを順々に思い返してみる……。

昨夜の光景がふと、頭に蘇る。

『まさか、これは——』

と、青白く光る花に見蕩れていれば、セリンが息を呑み、呟いた。その声音は、それがどこか懐かしさを孕んでいることを雄弁に語っていた。

『これを知っているのですか』

涙ぐんだままの声で聞けば、セリンは「ええ」とだけ呟き、懐かしさに浸るようにじっとそれを眺めていた。

『……昔、サイラスが見せてくれました。詳しいことは教えてくれませんでしたが、すごく綺麗で、願いの籠った大切な花ができたんだ、とそれだけを』

確かに、この花は鑑賞用の花だと思えるほど幻想的な綺麗さを持っている。ただ、その花弁に触れて、人肌のような温かみを感じれば、それが鑑賞用以上に別の意義があるような、そんな気がした。

花の感触を確かめながら、その意義を考える。
よく見れば、本に挟まったあの枯れた花の栞から、この花は咲いている。
この花は良いことが起きるらしい、とエルンが、そして、願いを込めた大切な花だ、とセリンが、彼に言われた言葉を反芻する。

そうすれば、やがて一つの結論が出た。
——この花の栞はサイラスが託した願いなのではないだろうか。
サイラスがセリンに見せ、エルンに渡し、良いことが起きる、という大切な願いを込めた花はすぐ近くにあったのではないだろうか。

そう思えば、ふと、父の言葉が胸をよぎる。大事なものはすぐ近くにある、と。
その言葉の意味をようやく理解できた。ならば、今の私ができるのはそれを見落とさずに、丁寧に向き合うことだろう——。

……ああ、そうだった。
確か、青白い花を見た後、我を忘れて薬を作って、エルンに飲ませて——。それでも、起きない彼のベッドの側で祈るように泣いていたような気がする。
多分、幻想を見た高揚感に駆られて、エルンが回復するなんて奇跡を夢見てしまっていたのかもしれない。ただ、現実はそう甘くなく、その花はエルンの目を開かせることはなかった。
そして、どうやらそのまま泣き疲れて眠ってしまったらしい。この微睡んだ視界でも、布団の白さだけはよく理解できた。

それでは、頬に感じるこの温かみはなんだろう。
そう頭の中で考えて、結局、回らない思考では何も思いつかず、何気なしに私の頬を執拗に撫でるそれに触れてみて——そして、感じた。その硬くゴツゴツとした指の温かみを。

「エルン様——!?」

思わず、声を大きくしながら顔を上げる。
すると、私の瞳にはエルンが映った。血色のよく、生気に満ちた——エルンの顔が。
そして、彼は震えるように息を吸い込み、口を開いた。

「エリシア、すまなかった……!どうか、独り善がりな私を許してくれ!」

私の驚きも束の間、彼は私を力強く抱き寄せ、そう懺悔した。
彼がどうして、そんなことを言うのか、そもそも、どうして起きているのか、目の前で起こっている何もかもがよく分からない。よく分からなかったが……

「大丈夫ですよ。……私はずっとここにいますから」

と。
エルンの背中を撫でる。彼の想いが全て吐き切られるその時まで。
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