【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま

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本編【全40話】

32.

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「くしゅっ!」

王都を目指して、一日と少し。
その道のりの終わりがようやく近づき、煌びやかな王都の風景が見え始めたところだった。
空は雨季が終わってカラカラと乾いているというのに、私は馬車の中で思わず盛大にくしゃみをもらした。

「どうした?風邪でも引いたのか?」

隣で座るエルンが心配そうに声をかけてくる。昨日はしっかりと食事も睡眠もとったはずだし、体調不良だとは思えないのに、どうにも少し寒気がした。
これは単なる風邪なのか、それとも、誰かが私を噂しているのか。
それは分からないが、後者であれば良いなと思う。それに、噂話をする人には一人心当たりがあった。

「ほら、これを飲め」

そういう考えをしていれば、エルンが薬草で煎じたお茶を差し出した。それは心地よく鼻をくすぐる匂いを香らせている。……随分と手際がいいらしい。

「お茶を入れるのも手慣れましたね」

「お前に色々と教わったからな」

熱いお茶に息を吹きかけながら、言えば、彼は誇らしげに胸を張った。
貴族の跡取りが誇ることでもないだろうに、とも思うが、彼が回復してからの頑張りようを思えば、そういうのを口にするのも妙にはばかられる気がした。

「……感心ですね」

そして、私はそれに返す言葉が見つからず、ふと呟いた。その言葉は自分でも少し可笑しく思えるほどに、素っ気なく偉そうな言い方で、小さな笑いが込み上げてくる。
それでも、彼はこの無礼さえも笑って許してくれるのだろう。

エルンが回復してから、私たちの関係はただの医師と跡取りの貴族からは少し近くなった気がする。
それは単に彼の独り善がりを辞めたいという気持ちか、私の独占欲がそうしたのかは分からないが、共に過ごす時間が長くなったからだろう。

朝起きてから、夜眠るまでの一日の時間。
薬草を採り、薬を作り、患者を診る、一週間の時間。
思えば、そのほとんどを彼と過ごしていた。
そして、そういう時間を共に過ごせば、次第と無遠慮になっていくもので、今はその無礼ささえも許されるくらいの関係にはなっていた。親友と言えるくらいの立ち位置にはなったのだろうか。

……それでも、まだ距離があるように感じている。手を伸ばせば、届くほどに近くにいるというのに、指先だけが触れないような、そんなもどかしさで。
もう少しだけ、ほんの少しだけ。
その距離を縮めたいと、そう邪に思ってしまう私は強欲なのだろうか。

やがて、馬車の車輪の音はゆっくりと小さくなり、最後の振動を残して止まった。
窓の外を見れば、荘厳な王都を背景に、整然と人が並び待っている。そのほとんどは一様にして同じ制服で、彼らが王都の使用人であることを雄弁に語っていた。

「フォルセイン領からお越しの皆様、長旅の旅路、お疲れのことでしょう。恐れながら、もうしばらくお付き合い頂きますようお願い致します」

馬車を降り、彼らに近づくと、少しばかり年老いた男がそう言いながら前に出てきた。
彼は一人だけ丁重な服で、どうやら執事長らしい。続けて男は口を開いた。

「貴族の皆々様は私、ダニエがご案内させていただきます。医師の皆々様は、こちらのスチアの後にお続きくださいませ」

と、彼は指示を出す。しばしの別れか、と思いながら、エルンの方をちらりと見て、腰元で手を振れば、それにエルンは困ったような笑みを返した。

王都の空気は少し冷たく、頬を撫でる。
遠くでは鐘の音が響く。
それは私たちを歓迎している、そんな気がした。
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