醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄された公爵令嬢ですが、実は本物の聖女だったので王国が滅びかけています

きまま

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王城の大広間は今宵も王国の栄華を誇示するかのように眩いほどの光に満ちていた。
無数のシャンデリアが反射する光の輝きを今度は貴族たちが身につけている宝石に反射させ、輝きを弄ぶ。
そんな煌びやかさしか許さないような夜会の中心に、一際、異質な存在が立っていた。

リリエル・アルヴァリア。王国随一の名門、公爵家の令嬢にして、第一王子の婚約者である。
足元から追えば、絢爛なドレスをまとい、一見他の令嬢と遜色ないように思えるが、その顔には顔全体を隠すような異質な銀の仮面があった。
そして、彼女の名が囁かれるとき、必ず添えられる言葉がある。

『醜貌の聖女』

と。
もちろん、仮面の下にあるリリエルの顔を誰も見たことはない。
だが、彼女が聖女として王家に居るそのせいか、妬みか、仮面の下は醜貌に歪んでいるという噂が広まり、肥大し、いつしか仮面の下が噂で染まっていることがあたかも真実のように語られるようになった。

一方、当の本人は慣れていた。視線が仮面を値踏みするように滑ることも、ひそひそとした嘲笑が背後で弾けることも。

(今夜も……同じですね)

細く息を吸い、胸の奥に沈め、感情を表に出してはいけない、と吐く。それは幼い頃から理解していた、彼女なりの処世術だった。そして、彼女の視線は広間の正面へと向かう。

玉座に近い位置には婚約者である第一王子のレオンハルトが立っていた。整った顔立ちと王家の象徴である金髪碧眼。彼は周囲に微笑みを振りまきながらも、リリエルには一瞥すら寄越さなかった。

(……当然、ですよね)

リリエルとレオンハルトの婚約は政略だった。だから、感情など、最初から存在しなかった。
それでも、リリエルはこの関係を壊さぬようにと、努めてきたつもりだった。王妃教育にも真面目に取り組み、沈黙を正とした。
しかし、今夜の空気はどこか違っていた。
そうリリエルは感じていた。
レオンハルトの隣——そこには見知らぬ令嬢が居るから。

レオンハルトが一歩前に出る。楽団の音が止み、ざわめきが波を引くように静まる。

「諸君、お集まり頂きありがとう。本日は皆に伝えるべきことがある」

その声はよく通り、王子にふさわしい威厳を帯びている。嫌な予感を打ち消す暇もなく、レオンハルトは続ける。

「私は本日をもって、リリエル・アルヴァリアとの婚約を破棄する」

一瞬、時間が止まる。
次の瞬間、大広間はどよめきに包まれる。驚愕、興奮、期待……。そして、好奇の視線が一斉にリリエルへ突き刺さった。

「理由は明白だ。王妃たる者は民の希望でなければならない。仮面で顔を隠すような女みはその資格がない。不要でしかない」

彼女は動けなかった。耳鳴りの向こうで、レオンハルトの声だけがやけに鮮明に響く。
嘲るような視線が届く。
そして、彼の隣の令嬢が笑む。

……ああ。
やはり、自分は不要なのだ。
銀の仮面の奥で彼女は静かに目を閉じた。

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