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王城は久しぶりに静けさを取り戻していた。
霧は消え、空は澄み渡り、結界は目に見えぬ輪郭となって王都を包み込んでいる。
魔獣の報告は止まり、聖堂の聖水はかつての輝きを取り戻し、民の表情にもようやく安堵の色が戻り始めていた。
全てが正しい位置に戻った。それは奇跡なんかではなく、あるべき本来の姿への回帰だった。
その数日後、王城では静かな裁定が下された。そこで、第一王子レオンハルト・アルセイフは王位継承権を正式に剥奪され、王都を離れることが決まった。
公の場での糾弾も弁明の機会もなかった。重臣たちは淡々と書を読み上げ、決定はただ事実として告げられただけだった。
彼が何も反抗はしなかったことが唯一の王子らしい行いだった。
怒りも抗議も後悔の言葉さえも口にしなかった。ただ、王城を去るその背中かつて民に夢を見せるはずだった王子のものとは思えぬほど、小さく見えた。
彼の名はやがて歴史とともに語られなくなるだろう。それが彼にとっての最も自然な結末だった。
次代の王が決まる、戴冠式の日が近づいていた。それに選ばれたのは第二王子フリンズ・アルセイフで、彼はその決定を静かに受け入れた。
王城の一室。窓からは柔らかな陽光が差し込み、風が白いカーテンを揺らしている。
リリエルは銀の仮面を手にしたまま、窓辺に立ち、街の風景を眺めていた。
「リリエル様」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはフリンズが立っていて、いつも通り、静かな眼差しで彼女を見ていた。
「戴冠式が近いと聞きました。……どうしてお呼びになったのでしょうか」
リリエルの声は開け放たれた窓から差し込む柔らかな光のせいか、酷く落ち着いて響いた。銀の仮面越しの視線はまっすぐにフリンズを捉えている。
「あなたに礼を言いたいくて……。あなたが拒めば、私が王になることはなかっただろうし、国も今の形では続くことはなかったでしょうから」
フリンズは一度、視線を伏せる。
王としてではなく、王になろうとしている一人の男として、言葉を選ぶために。
しばしの沈黙が落ちる。
その静寂は重苦しいものではなかった。
「だから、私は一つだけ、あなたに伝えておきたい。もし、あなたがこの国に留まりたいと願うのなら。……私の隣を選んでくれないでしょうか」
彼はそう問いながら、静かに手を伸ばした。
その問いは確かに、愛の告白だった。
リリエルが公爵令嬢だからでも、聖女だからでもない。ただ、彼女自身として隣に立ってほしいという、静かな願いだった。
リリエルは仮面の奥でその手を眺める。
そして、彼女は小さく息を吐き——告げた。
「……ごめんなさい」
と。
「今の私には感情が分からないのです」
と。
霧は消え、空は澄み渡り、結界は目に見えぬ輪郭となって王都を包み込んでいる。
魔獣の報告は止まり、聖堂の聖水はかつての輝きを取り戻し、民の表情にもようやく安堵の色が戻り始めていた。
全てが正しい位置に戻った。それは奇跡なんかではなく、あるべき本来の姿への回帰だった。
その数日後、王城では静かな裁定が下された。そこで、第一王子レオンハルト・アルセイフは王位継承権を正式に剥奪され、王都を離れることが決まった。
公の場での糾弾も弁明の機会もなかった。重臣たちは淡々と書を読み上げ、決定はただ事実として告げられただけだった。
彼が何も反抗はしなかったことが唯一の王子らしい行いだった。
怒りも抗議も後悔の言葉さえも口にしなかった。ただ、王城を去るその背中かつて民に夢を見せるはずだった王子のものとは思えぬほど、小さく見えた。
彼の名はやがて歴史とともに語られなくなるだろう。それが彼にとっての最も自然な結末だった。
次代の王が決まる、戴冠式の日が近づいていた。それに選ばれたのは第二王子フリンズ・アルセイフで、彼はその決定を静かに受け入れた。
王城の一室。窓からは柔らかな陽光が差し込み、風が白いカーテンを揺らしている。
リリエルは銀の仮面を手にしたまま、窓辺に立ち、街の風景を眺めていた。
「リリエル様」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはフリンズが立っていて、いつも通り、静かな眼差しで彼女を見ていた。
「戴冠式が近いと聞きました。……どうしてお呼びになったのでしょうか」
リリエルの声は開け放たれた窓から差し込む柔らかな光のせいか、酷く落ち着いて響いた。銀の仮面越しの視線はまっすぐにフリンズを捉えている。
「あなたに礼を言いたいくて……。あなたが拒めば、私が王になることはなかっただろうし、国も今の形では続くことはなかったでしょうから」
フリンズは一度、視線を伏せる。
王としてではなく、王になろうとしている一人の男として、言葉を選ぶために。
しばしの沈黙が落ちる。
その静寂は重苦しいものではなかった。
「だから、私は一つだけ、あなたに伝えておきたい。もし、あなたがこの国に留まりたいと願うのなら。……私の隣を選んでくれないでしょうか」
彼はそう問いながら、静かに手を伸ばした。
その問いは確かに、愛の告白だった。
リリエルが公爵令嬢だからでも、聖女だからでもない。ただ、彼女自身として隣に立ってほしいという、静かな願いだった。
リリエルは仮面の奥でその手を眺める。
そして、彼女は小さく息を吐き——告げた。
「……ごめんなさい」
と。
「今の私には感情が分からないのです」
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