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第四章 魔術研究と改革

48.ガチギレ少女

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 マハルタは母親を無事説得し、自分の荷物を抱えてうちまでやってきた。真琴は相変わらず不機嫌なままだがこうなってしまっては諦めてもらうしかない。彼女には二階の客間を一つ貸し家賃は村の税金と同じ月に100ルドもらう事になった。

 別に家賃なんて貰わずにタダで貸しても良かったが、賃貸なのだと言うことを内外へはっきり示すため貰うだけの話である。そうでないと村長があれこれ勘ぐってくるので面倒なのだ。とにかく跡取りだなんだとうるさくて仕方ない。爺ちゃんがこっちの世界で子供を残さなかったことが影響しているのは間違いない。

「いいかい? 地下には絶対に行ってはいけない。
 こう言うと却って興味を持ってしまうかもしれないけど絶対にダメだからね。
 地下には僕たちでも解除できない自動防犯装置が働いているんだ。
 だからマハルタが立ち入ったら作動してしまうからね」

「なんだか怖いわね。
 絶対に行かないようにする……」

「お茶を淹れたいときは階段の向こうに給湯室があるよ。
 メイクすることがあるなら一階の突き当りにパウダールームがあるからね。
 部屋の手入れはどうしたらいいかな。
 浄化装置が働いてるから掃除はいらないけどベッドメイクがあるでしょ?
 必要ならメンマとナルに頼んでおくから遠慮なく言ってね」

「そんな至れり尽くせりなの!?
 部屋を貸してもらうだけでも夢みたいなのに!
 それに…… 私メイクなんてしたことないけど、妹さんってメイクしてるの?
 いつもお人形さんみたいでカワイイよね」

「ああ、あれはメンマがやってくれるんだよ。
 興味があればやって貰ったら?
 僕から言っておこうか?」

「そんな! お姫様じゃないんだからいいよ。
 きれいにしたって仕事行くときは落とさないといけないしね」

「そっか、それじゃ出掛ける時とかに頼むといいよ。
 他になにか用があればいつでも言ってね」

 マハルタへの説明が終わって自室へ戻ろうとすると向かいの部屋から真琴が出てきてのだが、やっぱり不機嫌で僕を睨みつけている。そりゃ無断で誰かを住まわせるなんて気に入らないに決まっている。

「お兄ちゃん? あのマハルタって人をお嫁さんにするんじゃないでしょうね?
 マコは反対だからね! 絶対マイちゃんのほうがいいんだから!」

「それ前にも言ってたけど考えすぎだってば。
 マハルタとはそう言う関係じゃないし向こうもそう思ってないってば」

 微妙に嘘が混じっているが真琴を刺激しないようにするためには仕方ない。大体我が妹は昔から嫉妬深過ぎるのだ。それはきっと両親のせいで真琴に悪いところは一つもない。

 親父はグウタラ母親は男狂いで僕たちの面倒なんてろくに見てくれなかった。保育園の送迎だけでなく卒園式だって僕が行ったし、小学校の入学式に行ったのも僕だった。あげく母親の失踪で決定的となり、真琴は僕にべったりとくっついたまま、友達と遊ぶことも無くなってしまった。

 それに比べてコ村に来てからの真琴はとても楽しそうだ。一時期はどうなることかと思ったけど、今は自分のやりがいを見つけて張り切ってるし表情も明るい。それを僕はまた曇らせてしまうのだろうか……

「お兄ちゃんがそう言う事するならマコにも考えがあるからね。
 空き部屋いっぱいあるんだし、ロミちゃん呼んじゃうよ? いい?」

「えっ? ロミは今どうしてるの?
 まさか移住組だったのか?」

「いや違うけど…… お兄ちゃんだけズルだから……
 マコも友達と一緒に住みたいもん」

「わかったよ、ロミなら僕も賛成だけど本人がどうしたいかだからね。
 我がままで無理やりとかは止めておきなよ?」

「前に森が近くて羨ましいって言ってたからね。
 多分住みたいと思うから連絡してみるー
 お兄ちゃんありがとー」

 急に機嫌をなおした真琴は、僕に飛び込んで強く抱きしめたと思ったらすぐに部屋へと戻って行った。思っていたよりもずっと簡単に解決しそうでホッとしたが、マハルタの他にロミまでやってきたら相当にぎやかになりそうだ。

 真琴がロミへ連絡を入れてからはとんとん拍子に話は進み、あっと言う間に引っ越しが完了した。そして僕は再び同じ説明をすることになった。


 新たな同居人を迎えてバタバタしているうちに数日が経ち、僕はうっかり忘れそうになっていたことを思い出した。あの難民たちがやってきたきっかけとなったのは明らかにプレイヤーたち、すなわちドーンのせいで間違いない。そう思ってあのポンコツ魔神に詳しく聞いてみることにしたのだが――

『RPGにはクエストが付き物でしょ?』

 あまりにもあっさりとした返事が来て怒りが込み上げてくる。勝手な振る舞いのおかげで本来の住人たちが迷惑をこうむっていると言うのに、それを気にしないなんてとんでもない神様だ

 だが天神信仰側の人たちがどうなろうが魔神に関係ないと考えるのも当然で、本来なら八百数十年前に全滅していてもおかしくなかった。正直言って僕の怒りも、勝手なことをして何の説明もしないし聞いても一言で終わらせる魔神に対してのものだ。別に仲間割れしている人間族に同情しているわけではない。

 だがそう他人事を言っていられないくらいトラストでの弾圧は激しくなっているようで、住人に暴力を振るったり店で暴れたりする姿が目に付くようになっていた。トラストには神殿が有り、そこには神官と呼ばれる人たちがいるのだが、どうやら本当に力を取り戻しつつあるようでプレイヤーたちへ加護の神術をかけている姿が映ることもあった。

 僕たち魔人とは別の種族だからと言っても、酷い扱いを受けているところを見て何とも思わないわけではない。それは真琴も同じようだった。

「お兄ちゃん! あいつらやっつけに行こうよ!
 マコは弱いものイジメするやつは許せないんだよね!」

「そうは言っても結構遠いんだぞ?
 馬に乗っても十日以上かかるらしいからな」

「アレで行こうよ、オートバイでさー
 マコが魔力流すからお兄ちゃんが運転ね」

「そんなことできるのか?
 というか魔力流すと動くっていつから知ってた?」

「うーん、結構前からかな。
 座ってみたらあの時計みたいなところが光ったんだよー
 でもそれ以上はやり方わからなかったの」

「知らないのにそんなことしたら危ないぞ?
 いきなり動いちゃったらどうするんだよ」

「魔道具は作った人が命じないと壊れないから平気だよ。
 どういう仕組みかわからないけどすごいよねー」

 まさか魔道具にそんな性質があるとは驚きだが、そんなことよりも真琴がけがをしたりしなくてホッとした。だがそんなことよりも真琴がやる気になってしまっているトラスト行きをなんとしても止めなければいけない。

 奴らの様子を見る限り危険なことはないだろうが、真琴が他人を痛めつけるところは見たくないし、場合によっては殺してしまうかもしれない。いや、プレイヤーどころかトラストごと消滅させてしまう可能性だってあるのだ。

 これからどうやって話を逸らせばいいのか必死に考えたがいい案は浮かばず、苦し紛れにガレージへ行こうと促したのだった。
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