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第六章 番外 閑話集
63.暇を持て余す魔王
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魔王なんて名前、一見甘美なる響きなんて思ったけど全然そんなこと無かった。まあ自分にも責任はあるのだけど、わざわざ待ってるなんて言うんじゃなかった。魔王を名乗った真琴は退屈で退屈で仕方なかった。
あれから数日経ったけど勇者なんて影も形も見えないし、かといってあれだけおおっぴらに宣言した手前、自分から人間の街へ攻め入るのは恥ずかしい。全部放り出して村へ帰ろうにも、お兄ちゃんに酷いことをしてしまったから顔を合わせづらい。
でもきっとお兄ちゃんならわかってくれる、いやわかってはくれないかもしれないが許してはくれるだろう。メンマやナルにも会いたいし、ロミも心配してるだろう。話し相手が一人もいないから余計な事ばかり考えて寂しくなってしまう。
「ちょっと魔王? ここには自分一人なんてことはなかろう?
このポチ様が一緒におるではないか」
「だってポチはなんかヒヨコじゃん。
話し相手って感じしないんだよね」
「まったく失礼な、ワシはヒヨコではないわ!
何度も言っているようにドラゴンじゃ、ドラゴン!」
「えー、ドラゴンって言ったらもっとこんな感じでさぁ。
あれ? 難しいな…… こうかな? えっと、これでどう?」
真琴が両手をかざしながら地面へ産み出したのはなかなか立派な泥人形のドラゴンだった。立派な翼と牙や角まで形作られた細かな造形は、頭の中で記憶している絵本に出てくるドラゴンそのものと言える。
「せっかくだからこれをどっかに置いてボスにしよう。
このダンジョンってあんまり強そうな魔獣もいないからちょうど良さそうね。
せっかく鍛えてから来てくれる勇者をおもてなししないとだし。
そうだ、一面ごとに置いていってゲームみたいにしたらいいよね」
「うむ、その考えは悪くないな。
魔王が命を吹き込んでやるのじゃろ?
ワシよりは弱いだろうが、そこらの魔獣よりはマシになるだろう」
「ポチより強くしちゃったら勇者がここに来るのに何年かかるかわからないもんね。
そうだ、強さは勇者十人分よりちょっとだけ強くなるようにしておこっかな。
そしたらやりがいも感じてくれるだろうし、うんうん、いいアイデアだー」
「せっかくだから倒したら強い武器を落とすのはどうじゃ?
ゲームには伝説の剣とか賢者の杖とかあるじゃろ」
「じゃあなんでも切れる剣となんでも防ぐ盾にしよう。
あとは自爆する魔法の杖と、呪われて脱げなくなる鎧もいいなあ。
ちゃんと十人分考えてあげないとケンカになっちゃうね。
ポチもなにかいいの考えてよ」
「そんな性格の悪そうな装備、とても思いつかんわい。
お主、幼いくせに意外と腹黒だのう」
「お父さんもお母さんもサイアクな人たちだったからね。
ポチは育児放棄とか児童虐待とかって知ってる?
小さな子供だからなにも感じてないって思ってるのは親だけなんだよね。
マコだって生きてる人間なんだもん」
「世知辛いのう……
ダイキの記憶にあった真琴はろくに口もきけない幼子だったんじゃが。
まあその経験が魔王に相応しき精神力を身につけたと言う事か。
お主の思うままにやってみれば良い。
どうせあ奴らは死なんのじゃろ?」
「そうなんだってさ。
仕組みはよくわかんないけど、ゲームと同じだってお兄ちゃんは言ってた。
ゲームならいくら死んでも殺してもいいもんね。
とりあえずただ待ってるだけじゃつまんないからちょっとだけ攻めちゃおうかな」
真琴はポチを伴って地上へ出ると、両手をかざして何やらもごもごと唱え始める。するとその両目が不気味に光りおもちゃの兵隊が大量に現れた。その様子はいっぱしの軍隊のようであり、全員が槍を持って立っている。
「それじゃ人間の街へ向けてしゅっぱーつ!
勇者以外には攻撃したらダメだからね。
ちゃんと倒されて勇者たちの糧になること、いい?」
「おお、サービスが行き届いておるな。
これなら奴らも早く強くなれることじゃろうて」
魔王による進軍開始の合図に従って、おもちゃ兵の軍団は足並みをそろえて荒野を進んでいった。
あれから数日経ったけど勇者なんて影も形も見えないし、かといってあれだけおおっぴらに宣言した手前、自分から人間の街へ攻め入るのは恥ずかしい。全部放り出して村へ帰ろうにも、お兄ちゃんに酷いことをしてしまったから顔を合わせづらい。
でもきっとお兄ちゃんならわかってくれる、いやわかってはくれないかもしれないが許してはくれるだろう。メンマやナルにも会いたいし、ロミも心配してるだろう。話し相手が一人もいないから余計な事ばかり考えて寂しくなってしまう。
「ちょっと魔王? ここには自分一人なんてことはなかろう?
このポチ様が一緒におるではないか」
「だってポチはなんかヒヨコじゃん。
話し相手って感じしないんだよね」
「まったく失礼な、ワシはヒヨコではないわ!
何度も言っているようにドラゴンじゃ、ドラゴン!」
「えー、ドラゴンって言ったらもっとこんな感じでさぁ。
あれ? 難しいな…… こうかな? えっと、これでどう?」
真琴が両手をかざしながら地面へ産み出したのはなかなか立派な泥人形のドラゴンだった。立派な翼と牙や角まで形作られた細かな造形は、頭の中で記憶している絵本に出てくるドラゴンそのものと言える。
「せっかくだからこれをどっかに置いてボスにしよう。
このダンジョンってあんまり強そうな魔獣もいないからちょうど良さそうね。
せっかく鍛えてから来てくれる勇者をおもてなししないとだし。
そうだ、一面ごとに置いていってゲームみたいにしたらいいよね」
「うむ、その考えは悪くないな。
魔王が命を吹き込んでやるのじゃろ?
ワシよりは弱いだろうが、そこらの魔獣よりはマシになるだろう」
「ポチより強くしちゃったら勇者がここに来るのに何年かかるかわからないもんね。
そうだ、強さは勇者十人分よりちょっとだけ強くなるようにしておこっかな。
そしたらやりがいも感じてくれるだろうし、うんうん、いいアイデアだー」
「せっかくだから倒したら強い武器を落とすのはどうじゃ?
ゲームには伝説の剣とか賢者の杖とかあるじゃろ」
「じゃあなんでも切れる剣となんでも防ぐ盾にしよう。
あとは自爆する魔法の杖と、呪われて脱げなくなる鎧もいいなあ。
ちゃんと十人分考えてあげないとケンカになっちゃうね。
ポチもなにかいいの考えてよ」
「そんな性格の悪そうな装備、とても思いつかんわい。
お主、幼いくせに意外と腹黒だのう」
「お父さんもお母さんもサイアクな人たちだったからね。
ポチは育児放棄とか児童虐待とかって知ってる?
小さな子供だからなにも感じてないって思ってるのは親だけなんだよね。
マコだって生きてる人間なんだもん」
「世知辛いのう……
ダイキの記憶にあった真琴はろくに口もきけない幼子だったんじゃが。
まあその経験が魔王に相応しき精神力を身につけたと言う事か。
お主の思うままにやってみれば良い。
どうせあ奴らは死なんのじゃろ?」
「そうなんだってさ。
仕組みはよくわかんないけど、ゲームと同じだってお兄ちゃんは言ってた。
ゲームならいくら死んでも殺してもいいもんね。
とりあえずただ待ってるだけじゃつまんないからちょっとだけ攻めちゃおうかな」
真琴はポチを伴って地上へ出ると、両手をかざして何やらもごもごと唱え始める。するとその両目が不気味に光りおもちゃの兵隊が大量に現れた。その様子はいっぱしの軍隊のようであり、全員が槍を持って立っている。
「それじゃ人間の街へ向けてしゅっぱーつ!
勇者以外には攻撃したらダメだからね。
ちゃんと倒されて勇者たちの糧になること、いい?」
「おお、サービスが行き届いておるな。
これなら奴らも早く強くなれることじゃろうて」
魔王による進軍開始の合図に従って、おもちゃ兵の軍団は足並みをそろえて荒野を進んでいった。
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