コーラを飲んだらゲップが出る、焼き芋食べたらおならが出る、そんなことから始まる恋があってもいいじゃない?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
8 / 12

8.待ち合わせと先生

しおりを挟む
 時間はまだ十二時を少し回ったところだ。あまりに早く来過ぎた僕は公園の鉄柵に座ってコーラを飲んでいた。無性に落ち着けなくて走って来たから冷たいものが欲しくなり、頭をスッキリさせるために炭酸飲料を選んだのだ。僕はコーラを一気に飲み干すとゴミ箱へ突っ込み、震えながらまた同じところへと戻る。

『僕はなんてバカなんだ、脚を止めたら寒いに決まってるじゃないか』そんな感想が浮かぶくらいには木枯らしが冷たい。さらに言えば公園内にはやっぱり子供たちが大勢いるし、母親たちは立ち話に興じているおなじみの風景ときた。僕みたいな小僧が待ち合わせするには少々不釣り合いな気がする。

 さらに待つこと五十分ほど、美咲が現れたのは十二時五十五分くらいだ。なるほど、どうやら時間に正確な性格らしい。と頭の中で駄洒落を思い浮かべている場合じゃない。

「ごめんね、待たせちゃった? 出てくるのに手間取ってしまったの、寒くないかなあ? マフラー貸そうか?」美咲が巻いてきたマフラーを借りるなんて、色々な意味で出来るはずがない。

「なに言ってんの、そしたら小野さんが寒いじゃないか。それに少しくらい待ってたってたからってなんてことないってば。ほんの五分かそこらだしね」こういう時はどうしても見栄を張ってしまうもの、正直に早く来過ぎたなんて言えないに決まっている。

「それじゃいこっか、立ち話するには今日は寒すぎるもん。暖かいものでも飲みながらさ、ね?」

「うん、それもいいね、どこか手近にイイ店があるといいんだけど」と言ってはみたもののさすがにクリスマスイブである、見える範囲のカフェは表まで人が溢れていて入れそうなところは無さそうだ。きっと駅の近くと言うこともあってどこも混雑してるのだろう。

「大丈夫だよ、私についてきてくれるかな? もっとちゃんと話がしたいし、お願いしたいこともあるの。小浦君の話はそのあとに言うかどうか決めてもらえると嬉しいな」

「随分思わせぶりと言うか、もったい付けてるけどどういうこと? 僕はてっきり昨日――」

「だから小浦君からの話は全部あとなの。まずは私からって言ったでしょ」そう言って美咲は頬を膨らませて怒ったふりをした。いつぞやも見せてくれたその表情と仕草は、彼女の百面相の中でも僕のお気に入りの一つである。


 そして歩くこと十五分以上だっただろうか。軽く汗ばむくらい歩いてやってきたのは大きな平屋造りの建物だった。立派な門と広い庭、それに庭に設置されたジャングルジムのような大型の遊具を見ただけで、普通の個人宅でないことははっきりしている。

「美咲ちゃん、おかえり。それに昨日のえっと何君―― そうそう、小浦君だったね、いらっしゃい」

「ど、どうも、えっと何さんでしたっけ? 聞いてなかったかもしれないです」

「昨日は自己紹介する間もなく帰ってしまったものね。僕は高山孝彦、君たちから見たらオジサンに思われそうな二十八歳だ。ここでは代理って呼ばれているからそう呼んでもらって構わない」

 僕が美咲に連れられてきたところは、まさかの幼稚園のような施設だった。代理と言うことは代理ではない立場の人がいるってことになる。つまりここの様子を見る限り『園長代理』ってとこだろう。

「あー、みさきせんせいおかえりなさーい、どこいってたの?」
「みさきせんせい、みさきせんせい、つぎは輪投げしようよー」

 小さな子供たちが次々に美咲へと群がっていく。しかも先生と呼んでいるのだからいつもここにきていると言うことか? もしかして高校に通いながら保育士をしているだなんてそんな大変なことをしているのか? 別に体が弱くなくても倒れてしまいそうな重労働だと思うのだが、一体これはどういうことなのだろう。

「小浦君、驚いたでしょ? 子供たちは先生って呼ぶけど私は週末や祝日にちょっと顔出すくらいなんだけどさ。でもここの子たちにとって大人はみんな先生なんだよね」

「なるほどそういうことか。いや待って? だって今日は土曜日だから幼稚園でもやってるんだろうけど、日曜とか祝日にも来てるの?」

「うん、休みの日は大抵来てるよ。それとここは幼稚園じゃなくて児童養護施設なの。知ってるかな? 様々な事情がある子たちが暮らすとこってこと」

 日々何不自由なくのほほんと過ごしている僕でもそれくらいは知っている。親が亡くなっただけでなく、事情があって離れるしかない子供たちが集まって生活している施設のことだ。

 だがそんなことよりも、僕はその後に続けられた美咲の言葉に一番驚いていた。

「そして私の育った家でもあるんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...