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最終戦争(ハルマゲドン)
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あらかじめ天使たちが見てきた土地では、救いようのない光景が広がり、救いようのない人々が何かしらを争っていた。しかし実はその中には魔物が潜んでおり、民衆を扇動していたのだ。
人々の傍らまで降り立つことをせず上空から見ているだけだったルシファーは、そのことに気づくことができなかった。しかしそんなことを知る由もなく、その他の土地も見て回ろうと世界を飛び回っていた。
各地を飛び回り見て回ったが、何処も先ほどまでの土地とそう変わりはなかった。人々はどこにいても、どんな環境でも争っているし、なんにでも優劣をつけ上下関係を作っていた。こんな人類を救う意味、価値があるのだろうか。ルシファーは自問自答するが答えは出ない。
ただひたすら神の意志を尊重するだけだと自分へ言い聞かせる。しかしこれまでにやったことは、訪れた土地に住む民衆を全て焼き払っただけである。これではやっていることは悪魔と変わらない。天使と悪魔、いったいどう違うのだろうか。
その答えを知る方法は一つしかない。
ルシファーは世界の中心と呼ばれる場所へ向って飛んでいた。そこに行けばきっと答えがわかると信じ、ただひたすら飛んでいた。やがて闇が深くなっていき、さらにその奥には一層の漆黒地帯が見えてきた。
どうやらここが世界の中心であり、全ての元凶なのだろう。つまり闇の軍勢を総べている者がここにいるはずだと考えた。
中心へ近づくと漆黒の闇はその黒さを増し、自ら光っているルシファーのすぐ近くまでしか見えなくなってきた。行き先へ向かって天使の羽を飛ばし、その方向を照らしながら進む。
すると人影のようなものが見えてきた。もしかするとこれが闇を総べているものなのか、そう思いつつルシファーは語りかけた。
「闇を総べる者よ、お前は何故こんなことをするのか。
すべて闇で染まった世界になんの価値があるのか。
光があるから闇も有り、その逆もまた然り。
お互いに干渉しすぎることなく共存することはできないだろうか」
闇の中から返答が返ってくる。
「闇は闇の中でも存在できる、光は必要ない。
そんなことよりお前は何者なのだ?
天使でありながら善悪を知る魔物とはな」
「私はルシファー、光を齎す者だ。
善悪を理解することはできるが、決して魔物ではない」
「いいや、お前は禁断の果実を口にしたときからすでに魔物なのだ。
私やアダムがそうだったように、すでに神の子ではないのだよ、ルル」
その言葉を聞いたルシファーへ衝撃が走り、変わり果てた姿のままでも気持ちはルルへ戻っていた。
「そんな、まさか…… あなたはイヴだとでも言うの?
もうとっくに寿命が尽きたと思っていたのに。
一体なんでこんなことになったのよ!」
「やっぱりルルだったのね。
その通り、私はイヴ、今は魔王として闇を総べているわ。
あなたはなんの疑問も持たずに楽園で数千年生きてきたのでしょう。
でも今ならわからないかしら? この神が作ったと言う世界の滑稽さに」
「滑稽? 神は素晴らしいわ。
私やあなたを作っただけではなく、何の苦労もせずに生きてくることが出来たのだから。
アダムもあなたもそれを自分から捨てたのでしょう?」
「棄てた、確かにそうかもしれない。
でも実際はそうではなく、自分で考える力と引き換えにしたのよ?
どちらが良いか悪いかはどうでもいい、でも何も知らず考えもせずに生きていくのは愚かだわ」
「私が愚か者だとでも言いたいの?
そう思うなら私を闇で包んで滅ぼせばいい!」
「いいえ、愚かなのは神よ。
すべてが清く美しく無垢のままでいるべきだという愚かな神。
それは人間の本質から外れている、今のあなたならわかるでしょう?」
「それは…… 確かに人にはそう言う側面もあるかもしれにない。
でもそれが生み出しているのは争いだけなのよ。
今ここに来るまでに沢山の人々を見てきたわ。
そのどこでも彼らは争っていた」
「そう、争っている、それが人間の本質なのよ。
人を蹴落としてでも良い暮らしがしたい、財産を得たい、おいしいものが食べたいという欲。
それが人が生きていると言う証でもあるの。
今のあなたにもその欲が生まれているでしょう?」
「でも私は神の僕としてすべきことを果たさなければならない。
そこに私自身の考えや欲は必要ないのよ!」
「そうだとしても私はあなたを受け入れるわ。
闇に光は必要ないのだけど、あなたは私にとって大切なのだから。
だって同じアダムから作られた存在、そうでしょう?
ルル、さあこちらへいらっしゃい」
イヴは身に纏っているものすべてを投げ捨てルルを迎え入れようとする。一方、アダムの名を出されたルシファーは明らかに動揺していた。そのまま何かに取りつかれたようにイヴへ近づいていき――
「これで終わりにしましょう。
ルル、同じ人を愛した者同士なのだからわかりあえるはずよ」
イヴがそう言った瞬間二人は固く抱き合った。そのままお互いが溶けて行くように混ざり合い、やがて一つになった。
光りを受け入れたイヴは闇の力を失い、闇を取り込んだルシファーは消滅した。最後に残ったのは光に照らされた世界と、その光によって作られた闇、そして残された人々である。
大地では蛇が次の獲物を探して舌なめずりをしていた。
人々の傍らまで降り立つことをせず上空から見ているだけだったルシファーは、そのことに気づくことができなかった。しかしそんなことを知る由もなく、その他の土地も見て回ろうと世界を飛び回っていた。
各地を飛び回り見て回ったが、何処も先ほどまでの土地とそう変わりはなかった。人々はどこにいても、どんな環境でも争っているし、なんにでも優劣をつけ上下関係を作っていた。こんな人類を救う意味、価値があるのだろうか。ルシファーは自問自答するが答えは出ない。
ただひたすら神の意志を尊重するだけだと自分へ言い聞かせる。しかしこれまでにやったことは、訪れた土地に住む民衆を全て焼き払っただけである。これではやっていることは悪魔と変わらない。天使と悪魔、いったいどう違うのだろうか。
その答えを知る方法は一つしかない。
ルシファーは世界の中心と呼ばれる場所へ向って飛んでいた。そこに行けばきっと答えがわかると信じ、ただひたすら飛んでいた。やがて闇が深くなっていき、さらにその奥には一層の漆黒地帯が見えてきた。
どうやらここが世界の中心であり、全ての元凶なのだろう。つまり闇の軍勢を総べている者がここにいるはずだと考えた。
中心へ近づくと漆黒の闇はその黒さを増し、自ら光っているルシファーのすぐ近くまでしか見えなくなってきた。行き先へ向かって天使の羽を飛ばし、その方向を照らしながら進む。
すると人影のようなものが見えてきた。もしかするとこれが闇を総べているものなのか、そう思いつつルシファーは語りかけた。
「闇を総べる者よ、お前は何故こんなことをするのか。
すべて闇で染まった世界になんの価値があるのか。
光があるから闇も有り、その逆もまた然り。
お互いに干渉しすぎることなく共存することはできないだろうか」
闇の中から返答が返ってくる。
「闇は闇の中でも存在できる、光は必要ない。
そんなことよりお前は何者なのだ?
天使でありながら善悪を知る魔物とはな」
「私はルシファー、光を齎す者だ。
善悪を理解することはできるが、決して魔物ではない」
「いいや、お前は禁断の果実を口にしたときからすでに魔物なのだ。
私やアダムがそうだったように、すでに神の子ではないのだよ、ルル」
その言葉を聞いたルシファーへ衝撃が走り、変わり果てた姿のままでも気持ちはルルへ戻っていた。
「そんな、まさか…… あなたはイヴだとでも言うの?
もうとっくに寿命が尽きたと思っていたのに。
一体なんでこんなことになったのよ!」
「やっぱりルルだったのね。
その通り、私はイヴ、今は魔王として闇を総べているわ。
あなたはなんの疑問も持たずに楽園で数千年生きてきたのでしょう。
でも今ならわからないかしら? この神が作ったと言う世界の滑稽さに」
「滑稽? 神は素晴らしいわ。
私やあなたを作っただけではなく、何の苦労もせずに生きてくることが出来たのだから。
アダムもあなたもそれを自分から捨てたのでしょう?」
「棄てた、確かにそうかもしれない。
でも実際はそうではなく、自分で考える力と引き換えにしたのよ?
どちらが良いか悪いかはどうでもいい、でも何も知らず考えもせずに生きていくのは愚かだわ」
「私が愚か者だとでも言いたいの?
そう思うなら私を闇で包んで滅ぼせばいい!」
「いいえ、愚かなのは神よ。
すべてが清く美しく無垢のままでいるべきだという愚かな神。
それは人間の本質から外れている、今のあなたならわかるでしょう?」
「それは…… 確かに人にはそう言う側面もあるかもしれにない。
でもそれが生み出しているのは争いだけなのよ。
今ここに来るまでに沢山の人々を見てきたわ。
そのどこでも彼らは争っていた」
「そう、争っている、それが人間の本質なのよ。
人を蹴落としてでも良い暮らしがしたい、財産を得たい、おいしいものが食べたいという欲。
それが人が生きていると言う証でもあるの。
今のあなたにもその欲が生まれているでしょう?」
「でも私は神の僕としてすべきことを果たさなければならない。
そこに私自身の考えや欲は必要ないのよ!」
「そうだとしても私はあなたを受け入れるわ。
闇に光は必要ないのだけど、あなたは私にとって大切なのだから。
だって同じアダムから作られた存在、そうでしょう?
ルル、さあこちらへいらっしゃい」
イヴは身に纏っているものすべてを投げ捨てルルを迎え入れようとする。一方、アダムの名を出されたルシファーは明らかに動揺していた。そのまま何かに取りつかれたようにイヴへ近づいていき――
「これで終わりにしましょう。
ルル、同じ人を愛した者同士なのだからわかりあえるはずよ」
イヴがそう言った瞬間二人は固く抱き合った。そのままお互いが溶けて行くように混ざり合い、やがて一つになった。
光りを受け入れたイヴは闇の力を失い、闇を取り込んだルシファーは消滅した。最後に残ったのは光に照らされた世界と、その光によって作られた闇、そして残された人々である。
大地では蛇が次の獲物を探して舌なめずりをしていた。
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