こちら異世界観光タクシー ~SSSSパーティーから追放されたマッパーのオッサンは辺境で観光ガイドを開業してみた~

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第六章:オッサンは絶望と刺激と変化と充実で出来ている

63.旧態依然(きゅうたいいぜん)

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 井戸が完成したことで実現できるもの、それは当初の目的である風呂が第一なのは言うまでもない。しかしもう一つ大きな役目を果たすことを、いざ駆り出され初めて気が付いたエンタクである。

「いや、まあ確かに水が使い放題ってのは便利なのはわかるがよ? それをなぜオレがやらされてるのかがわからねえぜ……」

「情けないこと言わないでおくれよ。ここはオレに任せろと頼もしい台詞が聞きたかったのにねえ。アタイの期待に応えて望めばなんでもしてくれるって言ったんだからちゃんと責任取っておくれよ?」

「それはこういうことじゃねえと思うんだがなあ…… 魔法でちょちょいと出来ねえもんなのか?」エンタクは文句を言いながら思い切り力を込めた。

「いいから愚痴こぼしてないでさっさと干してくれよ。乾かすのは魔法でできるけど干すまでは人力だからアンタが頼りさね。部屋が多いからシーツの枚数が多くて大変だったから井戸が出来上がって助かるねえ」

「こんなもん毎日洗濯する必要があんのかねえ。オレには理解できねえぜ。まあ客が望むんだとしたらやれることはやっておいた方がいいんだろうがな」エンタクにとっては馬小屋に敷かれた藁の寝床も、洗い立てでまっさらなシーツが敷かれたベッドも寝る場所という観点では同じ物との認識である。

 しかし成り上がってからはいつも高級な宿に泊まり、清潔に整えられた環境の快適さを知っているハイヤーンにとっては、この安宿でもベッドくらいは高級宿に出来る限り近づけたいと考えている。

 ナロパ王国では街道整備がそれなりに進んでおり街と街の往来は盛んだ。だからこそ宿屋はどの街にも複数あるし、ジョト村のように温泉と言う明確な売りがあれば、小さな村でも宿泊前提で訪れる者が多い。

 しかしこのムサイムサ村に外部からやってくるのは、いいとこ駆け出し冒険者で懐寂しい者ばかりだったことも有り今まで宿屋は存在しなかった。その村の歴史を、エンタク一人が始めた観光案内業と言う他に類を見ない商売が変えようとしているのだ。

 エンタクが観光名所と目を付けた場所は村人たちにとって目新しさはない。なのにそれを宣伝文句だけで観光名所に仕立てあげてしまった。おかげで酒場の売り上げは今までの倍どころではないし、ゴロチラムが気まぐれで作り酒場へ並べておいた、動物を模した木工細工までが土産物として売れてしまうほどである。

 もちろん大昔から今の今まで変化なく時間が流れていたムサイムサ村の急激な変化に戸惑う村人もいるが、このまま年寄りだけになり過疎化した村が消滅していくよりはよほどいいと前向きにとらえている者がほとんどだった。

 そんな村で一番若い・・・・夫婦であるエンタクとハイヤーンの両名は別に村のために尽力しているつもりは無かったが、二人の人柄や行動に好感を持つ者が多かったことも有り、村へ早くなじめたのは幸いだったと言えよう。

 なにより、今ではすっかり風物詩のようになっている、ハイヤーンがエンタクの尻をせっついている様子は年寄りの目を楽しませるに十分な娯楽である。こうしてすべての部屋を掃除し洗濯を終えて部屋を整え終ると、ようやく遅い昼食の時間となった。


「次の予約はあんまり気が進まないねえ。本当に大丈夫なのかい? ジョト村の家具職人の紹介って言うから悪くは言いたくないけどさ」そう言いながらもハイヤーンの表情は暗い。

「まあまっとうに働いているヤツラからすれば冒険者も碌なもんじゃねえし、そこはお互い様だと思っておけよ。普段は人を差別するようなこと言わねえオメエさんにしては珍しく嫌悪感丸出しなのもわからんでもねえが……」エンタクはチラリとクプルを見やってから呟いた。

 明日やってくる予定の予約客は、ライモンの有力者の息子とその女友達と言うことなのだが、それが表向きの名目であるのは明らかだった。ようは紹介してくれた家具職人の上客である成金の息子が、ライモンの蔵呑み屋キャバクラの女をはべらす目的で遊びに来ると言うことなのである。

 こんな事なら実態の説明をするんじゃなかったとエンタクは後悔しているが、どうせやって来てしまえばばれることだ。内緒にして後から叱られるよりは事前に機嫌が悪くなる方がマシであろう。

 こんなことがちょくちょくあって判明したのだが、ハイヤーンはどうにも嫉妬深い性格、いや、心配性なのだろうか。それは結婚してしばらくたっていると言うのに未だ別の部屋で過ごしていることも影響している。

 エンタクは男としてまだまだ現役であり、同じベッドへ入ったらなにもしない自信は無い。しかしハイヤーンにとって『男女の行為』が心的外傷トラウマになっていることも十分に理解していた。だからこそ家庭内別居を選択しているのだが……


『なあ、本当にアタイを見捨てたりしないよな? 信じてはいるよ? でもまだ怖くて体を寄せるだけが精一杯なんだよ……』

『あんまり考えすぎるんじゃねえよ。オレはオメエのことを大切にしてえからあえて別の部屋で寝るんだぜ? 男なんてバカなもんでよ、頭でダメだとわかっていても体が言うこと効かねえことなんてザラさ』

『アタイのことを考えてくれてるのはわかるけど、我慢できなくなって他の女へ走ったりするんじゃないかい? そんな目に合うくらいなら度胸を決めて身を任せた方がいいのかもしれないとも思うのさ』

『オレが他の女に? オレにいい寄ってくるやつがいるわけねえってわかって言ってんだろ。第一他の女なんざどこにいるってんだよ。一番若い独身女だってギルド受付のヨマリマで俺より上だぞ?』

『でも若い女の客が来るかもしれないじゃないか。そうしたらアタイは追い出されちまうかもしれない。まあその時はミチュリと一緒に森にでも住むさね』

『オメエはいちいち極端すぎるぜ。若い女が田舎の観光になんて来るはずねえし、そいつにオレが手を出すことが前提なのがおかしいだろ。若くて美人なハイヤーンが逃げちまわねえかって考えるオレの不安のがよほど強いってんだ』

『まったくオマイさんったら昼間から恥ずかしいこと言わないでおくれよ……』

 そんな会話を横で聞いている二人の反応は対照的である。面白く無さそうなのは共通しているのだが、かたや聞いていられないとそっぽを向いて果物にかじりつく妖精、かたや無表情で煮た豆を頬張る少女である。

 ある時から始まったこのような会話によってハイヤーンは安心と共に不安も抱えることになっていた。しかも話はそれっきりでもなく、暇さえあればお互いの心情を吐露し合っているのだから聞かされる方はバカらしくてたまらない。

 そして仕事の無い昼間は、飽きもせずに同じような会話をしてのんびりと過ごすことの多い一家であった。


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きゅうたい-いぜん【旧態依然】  
 昔のままで少しも進歩や発展がないさま。
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