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第三章 浮遊霊たちは探索する

31.異変

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 僕と千代は翌日、その翌日も、朝と夕方は国道での監視、日中はファミレスやうどん屋へ行って好きなものを食べる真似をし、お昼過ぎからは家電量販店で幼児向けのアニメを見た。

 しかしたかが三日では何の成果も得られなかった。それは想定していたことだしそんなに甘くはないだろう。ただ今のところ可能性が高そうなのは国道での監視だと考えているのでこのまま続けていくつもりだ。

 僕達は夜になってから橋の下へ戻った。今日で三日経ったのでここで大矢を待つのだ。

「大矢は何時頃来るかなぁ」

「のりにいちゃんげんきかなー」

 どんなに仲の良い友人でも普通は一日八時間前後の付き合いだが、幽霊になってからは一日二十四時間、数日一緒に行動していた。そのためか三日会わないだけで随分長いこと会っていないように感じる。三日経つ前に来なかったということは特に成果はなかったということになる。それは予想していた事だけれど残念だ。まあ成果が無かったのはこちらも同じではある。

 夜になって大分時間がたったが大矢はやってこない。まだ病院にいるのだろうか。それとも向かっている途中だろうか。下手に動いてすれ違ってしまっても仕方ないし、ここは待つしかない。幸い今日も月明かりがあたりを照らしているので、千代がご機嫌で飛び跳ね遊んでいるのが良く見える。

 ただし、なんとなく月にもやがかかっているようにも見える。こういうのを何と言ったろう。確かおぼろ月と言うような気がするがうっすらとした記憶だ。上空に雲はほとんどないが、おぼろ月の翌日は雨になる確率が高いと記憶しているが定かではない。もしかしたら明日は雨の予報なのかもしれない。

 英介は、こんなことならテレビの天気予報をきちんと見ておくべきだったと反省した。もしかすると大矢は、降水確率が高いことを知って病院で待機しているのかもしれない。それならつじつまはあう。

「千代ちゃん、これから雨が降るかもしれないよ」

「そうなの?だからのりにいちゃんこないのかなぁ」

「かもしれないね、雨は嫌だなぁ」

「いやよねぇ」

 だが翌朝になっても雨は降らず、そして大矢はとうとうやってこなかった。

 なにかトラブルがあったかもしれないが、ただ単に天気予報が外れただけかもしれない。もし何かあったとしても僕達幽霊にとって大事になるようなことはそうそうないのだから心配いらないだろう。

「のりにいちゃんこなかったね」

「そうだね、雨が降ると思ったんじゃないかな。だからきっと心配いらないよ」

「そっか、そうだよね、しんぱいいらないよね」

 大矢の事が気にならないわけではないけど、それでもいつものように行動したほうがいいだろう。僕と千代はいつも通り橋を渡り神社へ向かった。神社でいつものようにおばあさんと一緒にお参りをし、帰りを見送った後空を見上げてみると空は薄暗く、太陽が昨晩のおぼろ月のように霞みがかっていた。

「やっぱり雨が降るかもしれないね。国道までは結構時間かかるし、途中で降られると大変だから今日はやめておこうか」

「そうね……てれびみられないけど千代だいじょうぶだよ」

 この言い方からするとかなり楽しみにしていたようだ。少ない楽しみがなくなってしまうのは残念だけど、身の安全には代えられない。

 さてどうしよう、橋の下へ戻るべきか神社に留まるべきか。大矢との待ち合わせを考えると橋の下にいるべきかもしれないが、もし雨が振ってきたら大矢も動くことはできない。

 となるとこの神社に留まるのが最善かもしれない。なんといっても毎日長い時間橋の下にいるのだから僕は数日離れていても大丈夫なはずだ。しかし千代は毎朝立ち寄っているだけなので、橋の下やほかの場所に数日もいたら消滅してしまうかもしれない。

 それだけは絶対に避けなければならないのだ。

「千代ちゃん、もし雨が降ってくると動けなくなっちゃうからさ、今日はここで様子を見ようか」

「うん、わかった。じゃあ千代がいつもいたところがいいかしら」

「いつもこの神社にいたんじゃないの?」

「おきつねさまのなかにははいれないでしょ?だからいつもはあっちのおみこしのおうちにいたのよ」

「他に建物があるんだ?」

「うん、こっちよ」

 僕は千代の後について祠の脇へ進んだ。表からも見えていた大きな銀杏の木にそって外からは見え辛いところに通路があり、その先には神社本殿だろうか、大きな建物がありその裏手に出た。

 そこには神社の本殿があり、川沿いから見える鳥居は末社である稲荷神社の物だった。銀杏の木で隠れて見えていなかったが、そこには稲荷の鳥居よりも倍以上大きな鳥居があった。

「こっちに神社の本体があったんだね。外から見ただけじゃ全然わからなかったよ」

「ずっとずっとまえはおまつりやってたんだけどもうずっとやってないの。千代おまつりだーいすきなのになー」

「そっかぁ、どこかでお祭り見かけたら行ってみようね」

「うん!たのしみー」

 お祭りか。英介が最後に祭りに出かけたのはいつの事だろう。少なくとも中学生になってからは行っていない。同級生たちは物流倉庫駅や絹原駅の祭りや、中学校近くの神社で毎年開かれている盆踊りに行ったりしていたようだけど、僕はあの雰囲気が苦手だった。

 祭り自体と言うよりは、学校のお調子者たちが集団でバカ騒ぎをしているところが嫌いなのだ。もしかするとそこへ入って行かれない自分の事が嫌いだったのかもしれない。

 でも今ならば自然体で祭りを楽しむことができるかもしれない。もちろん千代が一緒ならば、という条件付きだが。

 英介はそんなことを考えながら千代の後に続いた。

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