#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)

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第三章:姫様暴走戦記

27.明らかにならない出来事

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 ヴーケが目覚めたのは例の出来事から翌々日の朝だった。その頃にはウオーヌ=マサンの街全体にはびこっていたつる性植物は枯れ果てており、捕らえられていた兵たちも無事と言っていいかはともかく解放されていた。

 ぼんやりとベッドの上で身体を起こしたヴーケのところに、ハルトウが朝食をもってやってきた。

「どうだいヴーケ? 体調に問題が無いといいんだけど。それにしても随分長いこと寝ていたからもんだよ。あのときキミの体を乗っ取っていた星の神のせいで相当疲れてしまったのだろうと心配していたんだ」

「乗っ取って? アタシになにか起きていたのですか? ごめんなさい、全く何も覚えてないんです…… なにかとんでもないことをしてしまったんでしょうか」

「いいや、心配はいらない、問題が起きたわけじゃないんだ。ただ星の神と名乗った者と色々な話をしたんだけど、僕には内容が難しすぎてどうしたらいいかわからなくてね。ああ、そんなことを言ってもキミは意識が無かったのだから余計に混乱させてしまうだろう、すまない」

 実のところヴーケは本当に覚えていなかったのだ。それでもハルトウへ向かってもっともらしいことを並べ立てるため、自己暗示の魔法をかけたところまでは辛うじて覚えていた。

 しかしその直後、本当に意識を乗っ取られたかのようになってしまい、記憶はひとかけらも残っていない。自分でも何をどうしたのか、なにを言ったのかは気になっているが、これを明らかにする方法は限られる。

「朝食ありがとうございます。でも食欲が無いのでミルクだけいただきますね。それで街の人たちは? さらわれた軍の偉い方々は無事なのですか?」

「いいかいヴーケ。いくらキミが優しく素晴らしい心を持っていたとしても、今は自分のことだけを考えていいんだ。まずはしっかり休息をとって元気になってくれ」

 そう言い残し、ハルトウは部屋を出て行った。あの様子だと誰も戻って来てはいないのだろう。もちろんそれ自体はヴーケの計画通りなのだから問題は無い。大分頭がはっきりしてきたヴーケは、そこまでしっかりと考えてからミルクを一気に飲み干した。

『てゆうかアタシなにしちゃったワケ? てゆうかランドはちゃンと見ててくれたンでしょ? ぶっちゃけチリ一粒だって覚えてなぃカラ教えてょ?』

『まさか演技に夢中になり過ぎて覚えていないとか? それとも自己暗示を効かせすぎて自分を洗脳してしまったんですかねえ。とりあえずことの顛末はこのような感じでして――』


『ふーん、てゆうかアタシってば賢すぎン? ぶっちゃけランドに聞かされても自分が何ゆってたのかさっぱり理解できなぃンだケド? とりま作戦がどんなンなってるかサノっちに聞いてみょっかナ』

 ヴーケは自分の行動や発言をランドから聞いて驚きつつ、計画の進行状況や人質の様子を確認するため魔導通信でサーノウへ連絡を取ることにした。すると当然のように彼は連絡を今か今かと心待ちにしており、敬愛する姫からの連絡に大喜びだ。


『姫様! ご無事でしたか!? 一体何が起こったのか私には理解が及びませぬ。予定から大分逸れ、あの勇者と延々話しこんだまではまあ良いとして、その内容が問題、いえ問題ではなく謎だらけといったところでしょうか』

「てゆうかアタシもぜーんぜン覚えてないからどんな話をしたのかあンまわかってないンだょねぇ。ぶっちゃけその辺りを教えてもらいたぃワケ。もちランドには聞いたけどサノっちからも聞いとけばもっと詳しくわかるカナってネ」

『かしこまりました。では最初からご説明いたしますね。まず最初に――――』


 こうしてサーノウから詳細を聞き取ったヴーケは、やはりまったく覚えていないことと、自分がそんな小難しいことを並べ立てたことに疑問を感じるのだった。

「てゆうか星の神々って設定がまず謎だょネ。考えたアタシでも適当過ぎン? って思ぅょ。せめて月にしとけばよかったくなぃ?」

『疑問を感じるのはまずそこですか? 私は神の代弁者と言うところと、人間の勇者が我々魔人族の暴走を止める役割を持っているというあたりですなあ。いやはや、随分と説得力のある設定だなと感心しきりでございます』

「てゆうか代弁者とかゆっときながら神様が直接話してるンだからイミフ。あとサあとサ魔人族の暴走ってのが二千年前、ホントにあったのカナ? てゆうかアタシらって二千年以上前からいるンだねぇ」

『左様ですな。ですがそれは姫様の創作では? それともどこかで読んだとかなのでしょうか?』

「てゆうか英雄譚っていつのお話かは書いてなかったンだケド? あとサあとサぶっちゃけ意識なぃ時の方が頭良くてワロ。てゆうか人間も滅びかけたことあるなんて知ってた?」

『いいえ、ですがそれも姫様の創作かと…… 事実なのですかね? だとしたら姫様は一体どこでそんな話を知ったのか不思議です。今はそんなことをおっしゃった記憶がないのですよね? 無意識の創作とは恐れ入ります』

「てゆうか恐ろしいのは無意識のアタシだよネ。いったぃナニモノって感じ? まさかホントに星の神様がアタシに降臨して乗り移ってたとか? マジありえなぃンですケド?」

『そうそう、もう一つ疑問が。他の国にも勇者がいると言うのはどうです? まさかそれはさすがに事実ですよね?』

「てゆうかそんなのしンなぃ。てゆうかアタシ最近まで城と城下町以外行ったことなかったし? 人間だってその時初めて見たンだもン。ぶっちゃけ二人に話を聞いたら余計にどこまでホントかどこまでアタシの作り話なのかわかンなくなっちゃった」

『ですがあの様子だと勇者はほとんどのことを信じていたように見えました。これは今後の戦局に影響が出ると考えていいかと。といっても人間の王へ進言できるかどうかによるでしょうがね』

「てゆうか知ってた? 人間の王様って誰も見たこと無いンだってサ。側近の数人しか会ったことのなぃ王様ってどんなのだろネ。ぶっちゃけアタシってば興味津々なンですケドー」

『そこは知りませんでした。随分と胡散臭い話ですねえ。つまり今のマイナト王国を動かしているのは王ではなく側近たちと言うこと。それすなわち傀儡政権と言っていいでしょうな』

「てゆうか王様いないのに戦争バッカやってるとか頭おかしくなぃ? ぶっちゃけ戦争しなぃ方がお金かからンくていぃ生活できそうなのにネ。アタシってば誰がそんなに国を広げたいと思ってるかってトコ気になっちゃうカモ」

『姫様? くれぐれも早まった行動はおやめくださいませ? それで人質はいかがいたしましょうか。ヤツラ囚われの分際で、飯がまずいだの酒が呑みたいだのとうるさくて仕方ありません。相当贅沢三昧な毎日を送っていたのでしょうなあ』 

「てゆうかハルトウに聞いたこともあわせて考えると人質とってもクマちゃんとこへの侵略やめなそうみたぃな? てゆうかぶっちゃけアタシも最初からそう思ってたンだけどサ」

『それではいかがいたしましょうか? 武力でウオーヌ=マサンを取り返すだけなら人質は必要ありませんし』

「ぶっちゃけいても邪魔なだけなら帰しちゃおっか。てゆうか次の満月まで待たなくてもいいンじゃなぃ? 最後にアレをたっぷり食べさしてあげてネ」

『はあ、アレですか…… あまり気が進みませんが仰せのままにいたしましょう』

 結局あらたになにかわかったこともなく、決まったことと言えば人質の釈放くらいだが、それでもヴーケは満足そうに笑いながらベッドへと寝ころんだ。
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