#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
28 / 45
第三章:姫様暴走戦記

28.何角関係?

しおりを挟む
 夕方になりさすがに腹が減ってきたヴーケは、これまでの態度からして自ら何か食べたいと言いだすのは気が引けて我慢しているところだった。あと少しすれば夕飯の時間になるはずなのでもう少しの辛抱なのである。

 しかし、なにやら表が騒がしくなってきたことに気が付いた。まさかそのせいで夕飯の支度が遅れるなんてことがあってはたまらない。これは好奇心ついでに様子を見に行くのがいいだろうと部屋から出てみると、明らかに待ち構えていたと言った様子のハルトウと出くわした。

「おやヴーケ、もう体調は良くなったのかい? 今ちょっと表が騒がしくて落ち着かないかもしれないが、食事を用意しておいてもらったから食べるかな? 僕が温めてきてあげるよ」

「そんな、勇者さまにメイドの真似事などしていただいては申し訳ありません。自分でできますからお気遣いなさらぬよう」

「キミは周囲に気を使いすぎる。それはとても好ましいことだとは思うよ? でも体調が良くない時は周りを頼ってもいいんだ。僕に出来るのはそれくらいだしね。それと―――― 僕に敬意を持ってくれているのはわかるけど、できれば名前で呼んでもらえると嬉しい、かな」

「アタシごときが勇者さまをお名前で呼ぶなんて無礼なことを!? でもなんでそれを嬉しく思うのですか?」


『いやー主さまったら名演技ですな。これでは百戦錬磨の勇者もイチコロですぞ?』

『てゆうかハルトウってばおかしくなぃ? コッチは気を使ってンのにサ。ぶっちゃけ人格生成魔法使ってるから途中で変えるのめんどぃし?』

『ええっ!? そこですか?』

『てゆうかランドってば驚き過ぎくなぃ? アタシおかしぃことゆった?』

『いいえ、全然。どうぞお続けくださいませー』


「ヴーケ? どうかしたのかい?」

「いえ、その―― かけ直しを」

「だから僕がやるから部屋で待っていてくれ。ははーん、わかったぞ。焦がさないか心配してるんだろ? こう見えても村にいた時は身の回りのことを全部自分でやっていたんだから得意なんだよ」

「いや、その…… わかりました。ではお言葉に甘えてお願いしてしまいますね―― ハルトウ」

「――! ヴーケ、今! ――いや、なんでもない。用意は任せてくれよ。すぐに持って行くからさ」

 居間のテーブルでひとり歯ぎしりをしているチカを不思議そうな目で見てから、ハルトウは調理場へと去って行く。部屋へ戻ろうとしたヴーケは、他の面子はどうしたのかとキョロキョロと見回したところでそのチカと目があった。

「いい気なもんね。ハルトウに気に入られてるからってさ。あざといにもほどがあるんじゃないの? まだ尻振って甘えてるやつらのほうがマシってもんだわ」

「あざとい? アタシがですか? アタシはただ、皆さんに出来るだけお手間を取らせたくないだけなんです。今回も一人だけ安全なところにいたくせに捕まって面倒かけてしまいましたし……」

「それよ! その態度! なんなわけいったい、どうしたらそんな態度出来るのかしらねえ。 ずうずうしいかと思えばしおらしくて遠慮がちだし、自己中なのかと思ったら気遣いばかりだし…… まったくもってアナタってつかみどころがないわ」

「なにか不快な態度を取ってしまっているならごめんなさい。指摘してくれたら治せると思うんですけど、例えばどこがいけませんか?」

「もうね…… そういう態度も気にいらないのよ! ウチはそんな風にへりくだれないし、カワイらしくもできないってのに! だから―― ううん、なんでもない……」

「だからゆう―― ハルトウが振り向いてくれないってことですね? もっと自分に正直になったらいいと思うんですけど……」

「なっ! なっに言っちゃってんのかな!? ウチは別にハル、トウに振り向いて欲しいなんておもっ、思ってないし! それじゃまるでウチがアイツのこと好きみたいじゃないのさ!」

「違うんですか? 態度や視線から明らかだと思っていたんですけど。もし違うなら他の女性といい関係になっても構わないんですか? それなら――」

「アンタが奪うっての? そ、そんなの、すっ好きにしたらいいじゃない! ウチは別に咎めたりしな…… い…… し……」

「いいえ、アタシじゃなくてサキョウです。彼女はなるべく表に出さないようにしてますけど結構わかりやすいんですよね。うふふ、皆さんいい関係で微笑ましいです」

「なによ、まるで他人事ね。そう言うアンタはどうなのさ。少なくともハルトウがアンタに入れ込んでることくらいはわかってるでしょ? まさかそれで余裕見せてウチらを見下してるんじゃないでしょうね?」

「見下すって…… 色恋の問題でそこまで考えるなんて、チカはよっぽどハルトウのことが好きなんですね。もっと素直になれば今の関係性も変わってくるかもしれないのもったいない。幼馴染なんだからいくらでも親密になれるでしょう?」

「そ、そりゃね? でも好きとか恋とかは別にして、ハルはウチのことを嫌ってるから仕方ないわ。理由? アイツが勇者となって村を出るときにはさ、ウチの治癒術と棍術が役に立つだろうって村長が連れて行けって言ったのよ」

「実際凄く力になってるじゃないですか。ハルトウだってチカのこと頼りにしてるように見えますしね。だからこそ今の関係性が不思議なんです」

「まあね、だからずっと一緒にいるんだけどさ。アイツを取り巻く環境が変わって行ったのも全部見てるわけ。王都へ来て最初の頃は訓練したり戦争へ出かけて行ったりして忙しかったからまだよかったんだけど、しばらくすると争いが落ち着いて時間に余裕が出てきたのよ」

 チカは少しずつ苦しそうな表情に変わっていく。それは今思い出しても嫌な想い出だからである。そして自らの想いと態度にずれ・・が出てきたのもこのころだった。

「それでさ、これまでの戦いの苦労をねぎらってくれるって王国軍執行部の政務官パーティーを開いてくれたわけ。あ、政務官ってのはウチらに直接指示を出してくる軍の偉い人ね」

「慰労パーティーを開いて下さるなんていい方なのですね。日々の緊迫した心労を癒すことができたことでしょう」

 実のところ、ヴーケは事の真相を知っている。ヴーケの兄、つまり魔人と裏取引をしている例の商人タックボルを通じて裏事情を聞いていたからだ。

 軍の上層部であぐらをかいている一部の者は、有力者の希望によって勇者を夜会へ参加させている。それにはもちろん表にも裏にも金を積む必要が有り簡単なことではないが、もし勇者を身内に加えることができたならゆうゆう元が取れる。

 勇者を呼んでほしいと請うのは、そんな腹黒い思惑を持った上流階級の家々や成金たち、はたまた友好国の大金持ちまで様々だった。勇者であるハルトウ自身は当然そんなことは知らない。

 なにも知らないのはチカも同じことで、その不自然な出来事をヴーケへ熱く語り続けるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...