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第二章:目指せ婚約破棄
10.二人の気持ち
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王子が城から出たまま戻ってきていない。唐突に恐ろしい事実を聞かされて、シンデレラは体の震えが止まらなかった。こんなことなら先ほど話をした際、どんな危機が迫っているのかまで聞いておけばよかったと悔やんでいる。
かといって知ったから何かできるのかはわからないが、魔女いわく、シンデレラはナルオー王国やファンタジアースを救うための存在だと言っているのだ。きっとなにかできることがあるのだろうと考えていた。
つい先ほど二十一時の鐘が鳴ったところ、普通なら真っ暗になる前の十八時過ぎには帰ってくるはずだと聞かされるとさらに心が痛むのだった。
まさか世継ぎを作る行為について心配しているうちに、その相手がいなくなるなんて想像もしていなかったが、実際に直面してみるとシンデレラ当人はやはり王子を慕っていることがわかる。
では灰賀はどうなのかというと、当然のようにホッとしているなんてことはなく、純粋に心配はしており、それどころか感情的にはシンデレラ同様無事であることを強く願っていた。
『もう自分の感情が入り組んで入り混じって訳が分からない。いったい今こうして考えている自分はどちらなのだろう。オレは灰賀振なのか? それとも私はシンデレラなの?』
自問自答しても答えは出ないし何の解決策も思い浮かばない。だが一つだけ心の騒つきを押さえる方法があることにシンデレラは気が付いていた。
『一か八かやってみるしかない! 王子の身に何かあればどうせ私には何の価値もないし、すでに一度死んでいるなら失うものなんてなにもないわ!』
そしてもう一人、灰賀振も結果としては同じことを考えている。
『オレがここにやってきた理由もわからず終わりにされてたまるか。せめてこの世界に迫りくる危機がなんなのかくらい知らないと死んでも死にきれないぜ。そのために救われた命なんだからな』
こうして行動は決めてみたものの、不安材料がないわけではない。それは側仕えの心情である。シンデレラにもしものことがあったら彼女は自らの命を絶つようなことを言っていた。大げさに言っているだけならいいのだが、本気だとしたら自分の行動によって巻き添えにする恐れもある。
それでも王子の身を案じて一刻も早く行動に移したいシンデレラは、いったん大人しく部屋へと戻り側仕えに頼んだ。
「ねえ、こんな騒ぎがあったら落ち着いて眠ることもできないわ。すぐ眠りにつけるお薬をもらってくれないかしら?」
「それもそうですね。気が付かず申し訳ございません。ただいまお持ちいたしますから先にお布団へお入りくださいませ。お水も取り替えて参りますね」
出て行った側仕えにのいない隙に手早く確認しなければならない。そう決意したシンデレラはベッドの縁に手をかけほんの少しだけ力を入れた。するとやはり夜である今なら、巨大なクイーンサイズのベッドを軽々と持ち上げることができたのだ。
次に枕を部屋の奥へ向かって放り投げ、すぐにそれを追いかけ追い越して受け取ってみるとそれも簡単に成功した。つまり単純な力だけでなく動作の速さも相当に向上しているということだ。
これだけわかれば十分だと、シンデレラは側仕えが戻ってくるのを待った。ほどなくして戻ってきた彼女がカップへ睡眠薬を注ぎ運んできてくれる。
「さああ姫様、これを飲んでゆっくりお休みくださいませ。薬効が強いので少しずつですよ? 舐めるようにちょっとから始めてください」
「飲みつけていないから不安だわ。大丈夫かしら? そういえばこれは毒見しないわよね? もちろんあなたを信じているからわざわざ毒見をする必要はないわよ?」
「ああ! 言われてみればそうですね。私が作ったわけではないのでもしもも考えられますし、念のため確かめてみましょう」
普段は食事の時も毒見などしないのだが、業務に対し責任感の強い彼女はシンデレラに乗せられて睡眠薬の入ったカップを口に近づけた。
その際、強烈なにおいに顔をしかめ彼女は目をつぶってしまった。その隙を見逃さなかったシンデレラは素早く近づきカップを押して余計に飲ませたのだ。一瞬たじろいだ側仕えだったが、その強烈な効果にはあらがえずほんのわずかな時間でベッドへと倒れこんだ。
父親が使っていたものと同じならこれで朝まで目覚めないはずだ。シンデレラは念のために何か武器になりそうなものを探し、頑丈そうなつくりのハンガー二本を布でくるみ腰へと括り付ける。
部屋にある着替えは全てひらひらとしたドレスなので動きづらいだろうと考え、申し訳ないついでに側仕えからメイド服を拝借し、急いで着替えれば準備完了である。
『殿下、待っていてください! 今すぐ助けにまいります!』
だがここで大変なことに気が付いた。そういえば王子がどこへ行ったのかを知らないのだ。せめて向かった方角だけでもわかればなんとでもなるだろうに、と、考えなしの自分を責めようとした矢先、部屋の外から歓声のような大声が響いた。
『殿下が帰ってきたんだわ! 良かった! 取り越し苦労だったんだわ』
急いで部屋を出て騎士団の詰所へ向かうと、そこには松明を持ち馬に乗った数名が今にも出かけようと準備を整えていたのだった。つまりこれは救出部隊なのではないだろうか。
そう考えたシンデレラは騎士団の先頭にいる隊長らしき騎士へと確認しに行った。
「騎士様、わたくしシンデレラと申します。これは何の騒ぎでしょうか。もしかして殿下を探しにおもむくのですか?」
「おお、これは姫様、さようでございます。王子殿下に限ってその身に危険があるとは思えませんが、供の騎士たちに何かあって離れられないのかもしれませぬ」
「殿下はいったいどこへ向かったのですか? せめて方角だけでもわかれば無事をお祈りできましょう。隊長様はご存知ですか?」
「はっ! 城を出て北西の森を抜けた岩山へと向かわれました。姫様のお心はきっと殿下へと届きその御身をお守りくださることでしょう」
これで方角と場所はわかった。あとは行動に移すだけである。礼を言ってその場を離れたシンデレラは、救出部隊が城を出るために門を開けた隙を見計らい、とても常人には認識できない速度で駆け出して行った。
かといって知ったから何かできるのかはわからないが、魔女いわく、シンデレラはナルオー王国やファンタジアースを救うための存在だと言っているのだ。きっとなにかできることがあるのだろうと考えていた。
つい先ほど二十一時の鐘が鳴ったところ、普通なら真っ暗になる前の十八時過ぎには帰ってくるはずだと聞かされるとさらに心が痛むのだった。
まさか世継ぎを作る行為について心配しているうちに、その相手がいなくなるなんて想像もしていなかったが、実際に直面してみるとシンデレラ当人はやはり王子を慕っていることがわかる。
では灰賀はどうなのかというと、当然のようにホッとしているなんてことはなく、純粋に心配はしており、それどころか感情的にはシンデレラ同様無事であることを強く願っていた。
『もう自分の感情が入り組んで入り混じって訳が分からない。いったい今こうして考えている自分はどちらなのだろう。オレは灰賀振なのか? それとも私はシンデレラなの?』
自問自答しても答えは出ないし何の解決策も思い浮かばない。だが一つだけ心の騒つきを押さえる方法があることにシンデレラは気が付いていた。
『一か八かやってみるしかない! 王子の身に何かあればどうせ私には何の価値もないし、すでに一度死んでいるなら失うものなんてなにもないわ!』
そしてもう一人、灰賀振も結果としては同じことを考えている。
『オレがここにやってきた理由もわからず終わりにされてたまるか。せめてこの世界に迫りくる危機がなんなのかくらい知らないと死んでも死にきれないぜ。そのために救われた命なんだからな』
こうして行動は決めてみたものの、不安材料がないわけではない。それは側仕えの心情である。シンデレラにもしものことがあったら彼女は自らの命を絶つようなことを言っていた。大げさに言っているだけならいいのだが、本気だとしたら自分の行動によって巻き添えにする恐れもある。
それでも王子の身を案じて一刻も早く行動に移したいシンデレラは、いったん大人しく部屋へと戻り側仕えに頼んだ。
「ねえ、こんな騒ぎがあったら落ち着いて眠ることもできないわ。すぐ眠りにつけるお薬をもらってくれないかしら?」
「それもそうですね。気が付かず申し訳ございません。ただいまお持ちいたしますから先にお布団へお入りくださいませ。お水も取り替えて参りますね」
出て行った側仕えにのいない隙に手早く確認しなければならない。そう決意したシンデレラはベッドの縁に手をかけほんの少しだけ力を入れた。するとやはり夜である今なら、巨大なクイーンサイズのベッドを軽々と持ち上げることができたのだ。
次に枕を部屋の奥へ向かって放り投げ、すぐにそれを追いかけ追い越して受け取ってみるとそれも簡単に成功した。つまり単純な力だけでなく動作の速さも相当に向上しているということだ。
これだけわかれば十分だと、シンデレラは側仕えが戻ってくるのを待った。ほどなくして戻ってきた彼女がカップへ睡眠薬を注ぎ運んできてくれる。
「さああ姫様、これを飲んでゆっくりお休みくださいませ。薬効が強いので少しずつですよ? 舐めるようにちょっとから始めてください」
「飲みつけていないから不安だわ。大丈夫かしら? そういえばこれは毒見しないわよね? もちろんあなたを信じているからわざわざ毒見をする必要はないわよ?」
「ああ! 言われてみればそうですね。私が作ったわけではないのでもしもも考えられますし、念のため確かめてみましょう」
普段は食事の時も毒見などしないのだが、業務に対し責任感の強い彼女はシンデレラに乗せられて睡眠薬の入ったカップを口に近づけた。
その際、強烈なにおいに顔をしかめ彼女は目をつぶってしまった。その隙を見逃さなかったシンデレラは素早く近づきカップを押して余計に飲ませたのだ。一瞬たじろいだ側仕えだったが、その強烈な効果にはあらがえずほんのわずかな時間でベッドへと倒れこんだ。
父親が使っていたものと同じならこれで朝まで目覚めないはずだ。シンデレラは念のために何か武器になりそうなものを探し、頑丈そうなつくりのハンガー二本を布でくるみ腰へと括り付ける。
部屋にある着替えは全てひらひらとしたドレスなので動きづらいだろうと考え、申し訳ないついでに側仕えからメイド服を拝借し、急いで着替えれば準備完了である。
『殿下、待っていてください! 今すぐ助けにまいります!』
だがここで大変なことに気が付いた。そういえば王子がどこへ行ったのかを知らないのだ。せめて向かった方角だけでもわかればなんとでもなるだろうに、と、考えなしの自分を責めようとした矢先、部屋の外から歓声のような大声が響いた。
『殿下が帰ってきたんだわ! 良かった! 取り越し苦労だったんだわ』
急いで部屋を出て騎士団の詰所へ向かうと、そこには松明を持ち馬に乗った数名が今にも出かけようと準備を整えていたのだった。つまりこれは救出部隊なのではないだろうか。
そう考えたシンデレラは騎士団の先頭にいる隊長らしき騎士へと確認しに行った。
「騎士様、わたくしシンデレラと申します。これは何の騒ぎでしょうか。もしかして殿下を探しにおもむくのですか?」
「おお、これは姫様、さようでございます。王子殿下に限ってその身に危険があるとは思えませんが、供の騎士たちに何かあって離れられないのかもしれませぬ」
「殿下はいったいどこへ向かったのですか? せめて方角だけでもわかれば無事をお祈りできましょう。隊長様はご存知ですか?」
「はっ! 城を出て北西の森を抜けた岩山へと向かわれました。姫様のお心はきっと殿下へと届きその御身をお守りくださることでしょう」
これで方角と場所はわかった。あとは行動に移すだけである。礼を言ってその場を離れたシンデレラは、救出部隊が城を出るために門を開けた隙を見計らい、とても常人には認識できない速度で駆け出して行った。
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