シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
11 / 38
第二章:目指せ婚約破棄

11.救世主の目覚め

しおりを挟む
 そういえばどのくらいの距離があるのかまで聞いていなかったが、方角がわかっているのだからとにかく走ればいい。幸い王城の城壁は東西南北に正対しており、そこへ城下町が広がっている造りである。

 南にはシンデレラの実家があるが今は無人、いずれ父が帰ってくるだろうが次はいつになることやら。しかし今はそんなこと関係ない。見覚えのある方角とはほぼ真反対へ向かって走り出した。

 その足取りは軽やかで人のものとは思えない。まるで馬か天かけるペガサスのようだった。それはシンデレラ自身が想像していたよりもはるかに速い。

 後ろを振り返ると城の四隅に焚いてあるかがり火がはるか彼方にぽつりと光っているのがわかる。その位置を見て自分が進んでいる方向を誤らないようにしているのだが、それも間もなく役に立たなくなるだろう。

 それでも空にはたくさんの星々が見えている。新月なので月は出ていないが幸い星の配置で方角はわかりそうだ。北西の方角をしっかりと確かめたシンデレラは、赤く光る星を瞳に見立てた大ドラゴン座の翼めがけて走り続けるのだった。

 ほどなくして森の入り口までやってきたが、中へ入ってしまうと空が見えず方角がわからなくなるかもしれない。そう考えた彼女は思い切って木の上を進もうと飛び上がってみる。

 すると案外たやすく気のてっぺんへと到達することができたため、星座を確認しつつ木々の上を次々に渡っていく。どうやらこの行動が正解だったようだ。

 高い場所から見下ろすことで、先ほど聞いていた岩山へ到達する前に王子が戻ってこない理由がわかったのだ。確かにこれでは難しいだろう。それにしてもあれはなんだ?

『まさかこれが魔女の言っていた脅威ってこと!? 私にどうにかできるものなのかしら。でもまさかファンタジアースではこれが普通なわけ!?』

 木々の上から見下ろした光景に、シンデレラは目を疑った。そこには通常の十倍はあろうかという獣たちが闊歩かっぽしていたのである。シカやウサギのような大人しそうな動物から、イノシシやクマなどの強暴そうなものまでさまざま。その数はパッと見るだけで三・四十と言ったところだろうか。

 こんなのがいたら森を戻ってくることはできまい。かといって周囲は高い崖のある岩山のため迂回路もない。それよりも無理やり通ろうとして人的被害が出ていないかが心配だった。

 だが森の途切れるあたりに灯りを確認したシンデレラは安堵した。通常ではありえない大きさになっていてもしょせんは獣、火を怖がるところは変わらないようで安全が確保できているに違いない。

『殿下! 今すぐ参ります! 今少しお待ちくださいませ!』

 王子の無事を願い、自分の身を投げ打ってでも助けに向かうシンデレラの心情は、彼を慕い愛しているというのが明確である。せっぱつまった今は灰賀の精神は頭の片隅に追いやられていた。

 それくらい、目の前で起きている光景は異常なことなのだが不思議と恐怖は感じない。シンデレラにとって最優先なのは王子の無事、そして灰賀にとっての優先は自分が必要とされているかどうか、つまりはやりがいが行動の原動力である。

 ブラック企業でいいようにこき使われていたとはいえ、業務へは進んで取り組んでいた。ありていな言葉でいえばやりがい搾取にはめられていたのだが、灰賀自身はあまりネガティブに考えておらず、おそらくは残業代や休日出勤分の賃金さえ支払われていたなら文句はなかった。

 では今はやりがいに見合うだけの対価を得られるのだろうかと考える。するとそこにはシンデレラとして得られる、王子との結婚や次期王妃の立場がそれだと考えられる。

 特にナルオー国の女性であれば、王子に見初められると言うのは最高の栄誉であり最高の喜びなのだ。そこに灰賀の価値観が踏み込む余地はない。

 こうしてやる気最高潮のハイテンションになっているシンデレラは、布でくるんだハンガーを取り出して両手に持ち、木の上から巨大な獣へ向かって飛び降りていった。

『グワシャアアーンッ! バギッ!』

「な、なんだなんだ!?」
「敵襲ううう! 殿下をお守りしろおお!!」

 騎士団が最大級の警戒をするのも無理はない。ものすごい音とともに、少し離れた森の入り口で突如大量の砂塵が舞ったのだ。何かがこちらへ進行してきたと考えても無理はない。

 そしていくつもの砂塵が立ち上りながら陣へ近づいてくる。その光景に目を奪われている隙に彼らの間を疾風が駆け抜ける。そこそ最愛の王子の元へと駆けつけたシンデレラであり、彼らにとってまさしく救世主だった。

「殿下、ご無事でしたか!? わたし、いても経ってもいられず駆けつけてしまいました。お力になれるかわかりませんが精いっぱいお守りいたします!」

「し、シンデレラ!? どうやってここまでやってきたんだ!? 簡単な道のりではなかったはず。それにその恰好は――」

「あ、ああ、お恥ずかしい…… 動きやすい服がなかったので側仕えから借りて・・・しまいまして…… でもこの場所は方角がわかったのであとは一本道でしたから迷いませんでした」

「いや、そうではなくてだな…… まあ来てしまったものは仕方ない。全員で協力して脱出することを考えよう」

「殿下お待ちください、今ここに来る間にウサギとシカとイノシシの大獣おおけものを倒してきましたが、武器が壊れてしまいまして…… なにか丈夫な鉄棒か何かお借りできたら助かるのですが…… クマがかなり手ごわそうなので素手では太刀打ちできそうにありません」

「キミは何を言ってるんだ!? 我々は騎士団総勢でウサギ一匹倒すのが精いっぱいだったんだぞ? それをシンデレラ、キミが数体の魔物を倒してきたと言うのかい? いやいやいや、そんなバカなことあるものか」

「また私を嘘つきだとお疑いなのですか? それでも構いません。私はとにかく殿下のお力になりたいのです。お助けしたいのです!」

 シンデレラが嘘を言っているようには見えないが、その内容はとてもじゃないが信じられない。だが彼女は自らの言葉を証明したいのだと言うように手に持ったハンガーを差し出した。

「これは? なぜハンガーなんてもっているんだい?」

「武器になりそうなものがほかになかったので護身用に持ってまいりました。でもイノシシを殴ったところで折れてしまったのです。ですから代わりが欲しいと申し上げているのですが……」

「なるほど。僕もキミがウソをついているとも思いたくない。では試しにその手腕を見せてもらおうか。あそこにいる騎士団長の長剣を使うのはどうかな? 奪えれば、だがね」

「私…… 刃物は使用したくないのです。実家では料理の際によく手をけがしていましたからどうにも苦手です。麺棒のような叩く道具があれば―― あの荷馬車を引いている棒をお借りできますか?」

「あれとは輓曳ばんえい用の牽引棒のことかい? あれは鉄の棒で相当の重さがあるのだが、試してみたいなら構わないよ。
 おい馬係、シンデレラへ牽引棒を渡してやってくれ」

「ありがとうございます。それでは試しにクマを倒しに行ってまいります」

「えっ!? おい、シンデレラ、ちょっと待ちなさい! 待てと言うのに――」

 馬係が二人掛かりで差し出した、彼女の背丈ほどある鉄の牽引棒を受け取ったシンデレラは、その武器・・を軽々と振り回しながらあっという間に森の中へと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...