シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う

釈 余白(しやく)

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第二章:目指せ婚約破棄

12.王国へ迫る危機

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 後に残された王子や騎士団の面々は、目の前で行われた非現実的な光景を見てあっけにとられ立ちすくんでいた。シンデレラのか細い腕が、あの重厚な鉄の棒をまるで小枝のように振り回していたのだか当然である。

 さらには森へ消えていった直後、あちらこちらで砂煙が上がり、空気まで震わせるほどの振動や大きな音までが聞こえてくる。いったい森の中でなにが行われているのか気になるのも当然だった。


 しばらくすると森の中から悠然と歩み出てくる影を見つけた。それはもちろんシンデレラであり、手には例の牽引棒を持ち肩へもたれかからせていた。メイド服を身にまとっている姿は明らかに華奢な花嫁候補であるのに、その行動は歴戦の猛者のそれである。

「殿下、あらかた片付きましたのでもう森の中を通ることができるでしょう。念のため私が先頭の馬車の御者台へ座ります。なにがあろうと殿下だけはお守りいたしますからご安心くださいませ」

「あ、ああ、ありがとう。先ほど森の中から聞こえてきた騒ぎはキミが?」

「―― 聞こえていたのですか? 私ったら…… お恥ずかしいです…… 」

 シンデレラは戦闘時においては誰でもよくするように、気勢を上げるために奇声を発して戦っていたのだ。王子は砂塵が高々と上がるさまについて聞いたのだが、彼女は別の意味で受け取ってしまったと言うわけである。

 たった今行われていた魔物討伐の功労者と、顔を赤らめもじもじと科を作っている姿とが、王子の頭の中ではまったく一致しない。本当にこの少女が魔物を倒してきたのだろうかといぶかしんだ。

 だが確かに森へ入っても魔物が襲ってくる気配がない。どうやら本当に倒してしまったと知った王子たちは、驚きと同時に恐怖すら感じていた。

「シンデレラ? キミはいったい何者なんだ? ありふれた貴族の娘だなんて言わないでくれよ。先ほどの獣たちは魔物と呼ばれている強大な敵なんだ。本当は先に話しておくつもりだったんだ。例の約束の件でね」

「やはりそうなのですね。王国に迫っている脅威が片付いたのなら良かった。私も一安心です。それで私のことなのですが―― 不安を感じるとは思いますが、お人払いができたときにお話しいたしますのでお時間を作っていただけますか?」

「そうかわかった。キミが何者であろうと命を救われたのは事実。信じて時間を作ろうじゃないか。だがその前にひとつ言っておこう。脅威はなにも去っていない。魔物の出現はこれから起こる未曾有の危機の予兆にすぎないのだから」

「ええっ!? それではこれからもこのようなことが起こると? そういえばンノーミヤン帝国が壊滅した際に、襲ってきた魔物と同じ数の帝国民が消えたとおっしゃっておりましたね?」

「うむ、魔物にはいくつかの種類がいるのだけれど、今出現し始めているのは獣が魔獣化したものなんだ。なぜそうなったかと言うのは先ほどの森を抜けた先に出現した魔界門と呼んでいる次元の裂け目から流れてくる不浄の大気が原因と言われている」

「魔界門…… つまりこれから一年以内ほどで、そこから何かがやってくると言うことなのですね?」

「キミは自分で考えているよりもずっと聡明だな。まさにその通り、今はまだ大気と言ううっすらとしたものが流れ出て森の獣たちを巨大化させているだけに過ぎない。しかし過去の記録によると強暴な悪魔たちが直接出てくると言うことなのさ」

「その悪魔たちが人をさらうのですか!? ではできるだけ多く倒しましょう。わたしもできるだけのことはいたします。限定的ではありますが……」

「そうだな。あの様子を見ると助力を頼むことになるだろう。そのか細い手足に見合わない活躍の秘密も聞かせてもらわないとならない。さあ城へ急ぐとしようじゃないか」

 今ここで話せる程度の会話を交わしたシンデレラと王子は、騎士隊の出発準備が整ったことを確認してから先頭の馬車へと乗り込んだ。シンデレラは予定通り御者台へ、王子はそのすぐ後ろへと陣取り出発した。


 道中では騎士たちの手前もあって大した話はできなかったが、シンデレラは魔界門についてできる限りの説明をしてもらい、その対処についての方針も大まかで説明を受けていた。

 その中でも卒倒しそうになってしまったのは、魔界門から現れる悪魔は全て男性型であり、さらわれる人間は女性、それも未懐妊で適齢期のものだけだと言うことだ。

 もちろん灰賀振としての常識に沿ったものではなく、このファンタジアースの常識で言うところの適齢期である。すなわち具体的には十二歳程度から上は四十手前あたりが標的となるらしい。

 それが意味するところはひとつしかない。つまり悪魔たちは自分たちの子を産ませるために女性をさらっていくのだ。

「だからキミにはその時が来る前に子を宿してもらおうと考えているのだよ。形式的な式典はことが済んでからでもできるから心配することはない。王国にどれくらいの被害が出るのかわからないし、国としての体裁を守りきれるかもわからないけれどね」

「こっ、こっ、子を宿す!? ですか!? それはもちろんわたしが殿下の、と言うことでございますよね?」

「当り前さ。他に誰がいると言うんだね? キミもそのつもりでパーティーへやってきたのだからそのための教育は受けているのだろう? もちろんわからなくてもこれから学べば十分間に合うだろうから心配はいらないよ」

 確かに子を作ることに関しての教育は受けてきている。身体の構造や変化、それに周期についてなどの知識はすでに身についていた。そして灰賀にはその行為についての経験もある。ただしとして、だが……

「ですが今身重になってしまっては悪魔たちと戦うことができなくなります。みすみすさらわれるよりも、できるだけ数多く倒し被害を防ぐほうが大切でございますよね? いったいどれくらいの悪魔が襲来するのでしょうか」

「百六十年前はおよそ人口と同程度ほどだったと記録されている。直近のンノーミヤン帝国を襲った悪魔は五万以上だったようだ。もちろん国を挙げて抵抗したしこちらも援軍を出したが、それでも半分も撃退できていなかっただろう」

「それではンノーミヤン帝国の女性が二万五千名も失われたのですね……」

「実際には対象となる女性はそこまで多くなかったようだ。しかし戦いで兵士や有志、それに国民のほとんどは倒れた。もちろん皇帝の一族も同様さ。結果として国家としての体裁はとても保てなくなり滅んだと言うわけだな」

「残りの悪魔たちはどこへ行ったのですか? 大人しく帰って行ったと?」

「女たちをさらい損ねた悪魔たちは、陽が上るとすべて消えるらしい。全ては一晩で灰となり消え去ったと記録されているからね。だからもしやつらが消え去るまで抵抗戦を続けられたなら大勝利となるだろう」

「それが六十年前のことなのですね…… 恐ろしいことです。しかしそれよりも許せないとの気持ちが大きくなりました。できるだけお力になりましょう!」

 詳しい内容を知ったシンデレラは、女性たちを拉致する悪魔への憤りを隠さず、手綱を握る手に力をこめ城への道を急いだ。
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