シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
14 / 38
第二章:目指せ婚約破棄

14.確かめ合った愛

しおりを挟む
 頭の中には聞き覚えのあるメロディとリズムが聞こえてくる。鼻歌を続ける王子の腕に抱かれたシンデレラは、緊張と恥ずかしさもあってたどたどしい動きを繰り返すことしかできていない。

 それでも王子に満足してもらいたいと精いっぱい努力はしているつもりなのだが、それはやはり拙いもののようで、時折王子は大げさに笑みを振り向けてくる。

 一通りにコトが済むと、軽く汗ばんだ額にハンカチーフを押し付けた。

「ねえシンデレラ? その同じチーフでいいから僕のこともぬぐってくれないか? そのままにしておくのも気持ち悪いからね。うんうん、キミにしてもらいたいんだ」

「わ、わかりました…… 上手ではなかったら申し訳ございません。それでは失礼いたします」

 シンデレラは王子の要望に応え丁寧にゆっくりとハンカチーフを這わせていく。王子は満足そうに笑みをこぼしシンデレラへ礼を言うと先にソファへと腰かけた。

「どうだったかな? はじめてにしては上手だと思ったし、ちゃんと相手のことを考えているようにも思えたよ。キミはどうも自分に自信が持てないみたいだけど、なんでもちゃんとできているのだから心配しないほうがいいね。次はキミからリードしてもいいんじゃないか?」

「ご満足いただけたなら幸いでございます。でもそれは殿下のお導きが素晴らしかったからだと存じます。ましてやわたしが殿下をリードするなどおこがましいこと。どうぞお戯れはおよしくださいませ」

「まあそれはキミの好きにすればいいさ。おっと、まだ垂れているよ。今度は僕がぬぐってあげよう。ほら、恥ずかしがらずこっちへおいで」

 そういうと王子は自分のすぐ横の座面をポンポンと叩いて、シンデレラに横へ座るよう促した。断れないどころか喜びにあふれたシンデレラはいそいそと近寄り隣へと座る。そのまま王子の胸元へと頭を預けてしまった。

 王子はシンデレラのハンカチーフを受け取ると同時に、その長い髪をやさしくなでながら尋ねる。

「これでちゃんと愛していることが伝わったかい? いつも一緒にいられなくてさみしい思いをさせているかもしれないが、あの夜会で初めて出会ったときから僕はキミに夢中なんだよ?」

「わたしも殿下をお慕い申し上げております。あの晩のことが夢でないことを何度も願いながら床につく毎日でした。それが今は夢よりもすばらしい毎日、感謝しかありません」

「さて、愛を確かめ合ったところで本題に入ろうじゃないか。さすがにもう僕の気持ちを疑ったりはしないだろう?」

「滅相もございません。初めから疑っているわけではなく、わたし自身がどういう気持ちなのか整理しきれていなかっただけのこと。けっして殿下に非があるなどと言うはずがございません!」

「わかったわかった、キミはどうにも卑屈になりがちだな。きっとあの義母たちに相当な目にあわされていたことが原因だろう。キノエネー男爵もとんだ女に引っかかったもんだよ」

「義母も最初はとても気立てが良くやさしかったものですから…… ところであの方たちは今どうされているのでしょう」

「どうしても聞きたいなら教えるけれど、もう二度と会うこともないのだし忘れてしまったほうがいいと思うよ?」

「それは…… かしこまりました。積年の想いが張れたのだと理解しておきます。あの、殿下? 大変失礼なのですが、靴を脱いでもよろしいでしょうか。恥ずかしながら足にも汗をかいてしまって……」

「もちろん構わないよ。僕もブーツを脱ぐとしよう。臭ったらすまないが、これはさすがにダンス用ではなかったから足が疲れたよ。キミも大分疲れただろう? 僕の好みに合わせてくれているのかもしれないが、ずっとそのガラスの靴では辛かろうに」

「いいえ、この靴はわたし専用に作られていて履き心地は最高なのです。ただどうにも蒸れるのが難点だと言うだけで…… 臭ったら申し訳ございません……」

「まあその時はお互いさまってことだな。それにしてもこんなに楽しいダンスは久しぶりだったよ」

 灰賀の心配をよそに、ナルオー王国の貴族社会で愛を確かめ合うと言えば、共にダンスを踊ることに他ならなかった。だからこそ王子の婚活夜会はダンスパーティーだったのだし、城に来てからも毎日ダンスの練習をさせられているのだ。

 幸いガラスの靴のおかげで、踊れば踊るほど肉体は鍛え上げられ疲労知らずである。しかし通気性が全く考えられていないため、水虫の心配をしたくなるほど足は蒸れ蒸れだった。

「そんなことより君の話の続きをしたいのところだね。まあ今日は予定を無くしてもらっているから時間は大丈夫だけれど。その前にひとつ、あまりかしこまりすぎないように頼むよ。なんといってもキミはもう僕の伴侶と決まっているのだから」

「はい、もったいないお言葉、ありがとうございます。このシンデレラうれしゅうございます」

「ほらまた。もっと気さくでいい。少なくとも公務中や来賓の前でないときは楽にしてもらいたいんだよ。それでなくても城での生活は窮屈なんだからさ」

「かし―― わかりました。もっと親しみをこめていくよう心がけます、ね。それでは本題へまいりましょう。わたしの秘密をもう少し詳しく」

「うむ、あの強さのことを知りたいもんだよ。救世主たる存在と言う予言が明らかになりそうだからね。僕はてっきりキミを伴侶に迎えることで王国が続いていくのだと考えていたが、まさかその当人が悪魔と戦うつもりがあるだなんてね」

「はい、わたしにとってもまったくの想定外でした。おそらくは宮廷魔導士様のところへ現れたのと同じ魔女がわたしを導いたのです。そして来たるべき脅威から国や世界を守るための力をくださいました」

 そういうと、シンデレラは目の前のテーブルを片手でひょいと持ち上げて見せた。

「なっ! なんともすごい力だ。きっと王国の騎士にもそんなことをできるやつはいないだろう。いったいどんな仕組みなんだろうね」

「この力はとても限定的なので信頼できる方にしかお話しできません。まずはそのことをご理解ください。実はわたしがあのガラスの靴を履いている間に歩いた歩数分だけ肉体が強化されるのです。すなわち夜には巨大な魔物を倒せるくらいにはなっていると言うことはご覧いただいた通りです」

「それならあの夜会の日からもう数か月、相当強くなっていると言うことになるんだね? だから悪魔をも倒せると考えたわけか」

「いいえ、そこまで都合よくはないのです。このガラスの靴による強化の効力はその日限り。つまり日を跨いだ瞬間、わたしは元のひ弱で貧相な少女へと戻ってしまうのです」

「なんと!? それでは毎日鍛え直しと言うわけか。もし朝のうちに襲われてしまったら大変と言うことになるな……」

「そうなのです。なのでわたしは考えました。悪魔軍勢の脅威から国全体を守るのではなく、魔界門そのものを破壊してしまえばいいと」

「それは名案、と言いたいところなんだが、実のところ門と呼んではいるが今のところ実態はないんだよ。ただし、悪魔が出てくるようになるころには本物の門が現れるらしく、だから魔界門と名付けられたのだそうだ」

「なるほど…… では実態が現れたら即実行へ移すと言うのではどうでしょう。多少は悪魔が出てくるでしょうがそれはその場で撃退すればいいはず。わたしがその場にいれば悪魔もきっと狙ってくるでしょうから街へ流れていくことも避けられます」

「しかしそれではキミの身に危険が! いや、それでもその策が最良であるようには思える。だが先日の戦いでは騎士団二個小隊でウサギの魔物を一体倒すのに大分時間がかかった。悪魔がそれよりも強かったら、キミ一人ではとても太刀打ちできないかもしれないよ?」

「しかし文献によれば騎士団や志願兵たちで悪魔に対処していたのですよね? つまり魔物は大きくて対処が難しい。でも悪魔は数が多いから相手にするのが大変なだけとも考えられます」

「それは確かにそうかもしれない。よし、では具体的にはどうすればいい? まずはシンデレラ、キミの案を聞かせてくれないか?」

「はい、まずはわたしとの婚約を解消してください!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...