シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う

釈 余白(しやく)

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第三章:激しくも長き決戦

30.気力を振り絞ること

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 二十六日目に入ると当然のようにまた敵は強くなり、今度は大きな翼で縦横無尽に空を駆ける上位種のデーモンが現れていた。その翼はまるで大鷲のように羽を蓄えており、まるで黒い天使のようだ。

 頭には聖なる輪の代わりに禍々しく大きな角を生やし、デーモンよりも一回り大きな体躯を持っている。すなわちこれは黒い堕天使と呼んで差支えないだろう。

「このままでは押し切られてしまいます。援軍はまだですか!?」
「だ、だめだ、もう逃げられない! うわああ」
「ここを通してなるものか! 我が剣は王国のために!」

 あるものは助けを求めながら切り刻まれ、あるものは勇猛果敢に特攻するも返り討ちにあっていく。いくらシンデレラに特別な力が備わろうとも、周囲に気を配り続け全員を救うことは無理と言うものだ。

 やがて彼女は絶望に呑まれ始めていた。ここまで負傷者は多かったものの、それでも何とか死者は一名のみだったのだ。それが一気に形勢が傾きはじめると崩れていくのはあっという間である。

 戦力的にも精神的にも大きな支えだった隊長までもが、すでに深手を負って前線からは退いてしまった。おかげで部隊員たちの士気にも多大な影響が出ているのだ。

 それでもこの防衛線をむやみに下げることはできない。後方で待機していた騎士団の半数以上がすでに合流し、悪魔との戦いは総力戦の兆しを見せている。この場からの後退は王都までの敗走へと繋がるだろう。

 だがシンデレラはこの時ひらめいた。現状を打破するために必要なのは必ずしも力とは限らない。

「皆さん! 後方の陣まで全員退避してください、」

 空中から襲い掛かってくる堕天使たちに翻弄され、訓練通りの陣形を組むこともままならないのが現状。それをうまく誘導していた隊長がいない今、シンデレラは自分が立て直さなければならないと考えた。

 彼女の指示により、ここまで激しく抵抗していた部隊員や騎士たちが一斉に下がり始めた。もちろん堕天使たちが指をくわえて眺めているはずがない。

 そう考えていた部隊員たちにとっては想定外の、いや、忘れてしまっていた悪魔たちの行動原理を目の当たりにすることになる。

 堕天使たちの群れは退却する部隊員たちを追走せず、そのすべてが一か所に集まるようにして急降下を始めたのだ。もちろんその一か所とは当然シンデレラである。

「ひ、姫様! お逃げください!」
「我々を逃がすために!? それはいけません!」
「今お助けにまいります!」

「全員隊列を組んで構え!」

 堕天使の羽ばたく音でどこまで聞こえるのかわからなかったが、シンデレラは精一杯大きな声で指示を出した。するとどうやら声帯も強化されているようで、まるでスピーカーから出ているような大声が戦場に響き渡った。

 これは士気の下がりかけていた皆に大きな勇気を与え、再び剣を持ち立ち上がることへと繋がったのだ。それどころか堕天使たちへの威嚇にもなった様子が見て取れる。

 直前まで我先にとシンデレラをとらえようとしていたはずの堕天使たち。それが突然の大声によって混乱を招いた。変わらず向かっていくもの、急停止するもの、展開して上空へ戻ろうとするものなどさまざまだ。そうなると当然ぶつかり合うものが現れ混乱はさらに大きくなっていく。

 ここまでの効果は彼女も考えていなかったが、都合よく進んだことは間違いない。そしてこの状況を作り出すことこそが作戦の肝だった。統率のとれていない烏合の衆が地上近辺に集まれば十分対処可能である。

 皆が構えていてくれる心強さを背に、想定通りことを進めるべくシンデレラは向かってくる堕天使たちの攻撃をすんでのところで回避した。夕方ならいざ知らず、深夜になればシンデレラのスピードを目で捕えられるものは少ない。

 緩い動きで誘い素早い回避でやつらをなるべく一か所へと固めると、その意図がわかっている部隊員たちが一気に突進を始めた。

「狙うは翼です! 極力優先して切り裂いてください! 弓兵も同様に!」

「おおお! 行くぞお!」
「かしこまりましたあ!」

 人間とは不思議だ。一度落ちた気持ちを持ち上げ直せた際には、それまでよりも大きな力を出せることがままある。身体の疲労を精神がカバーできるというのだろうか。

 シンデレラにとっては未体験だったが、灰賀は過去何度も同じ経験をしていた。ただしそれはあまりいいことではなく、寝不足でふらふらになりながらもわずかな評価で持ち直し、また睡眠を削って働き続けた苦い思い出である。

 そうやって実績を積み上げると、今度は自分がリーダー的なポジションへ抜擢ばってきされるものだ。すると今度は自分が部下へ向かってやりがい・・・・を与える側へと移っていく。

 それが嫌で起こした行動の結果、情けない死に方となったわけだし、その死を経てこうして別の世界にやってきた。にもかかわらずまた同じことを繰り返すのか。

 灰賀は少々情けなさと申し訳なさを感じつつ、それでも指示を出し続けた。



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