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第三章:激しくも長き決戦
29.見えない終わりに向かって
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ここまで戦ってきた赤い悪魔が細マッチョだとしたら、この二十一日目からの敵である黒い悪魔はまるでプロレスラーか何かのようだ。
通常の人間と大差ない体格だった赤悪魔から、横幅が倍ほど増えて見るからに強靭そうな黒悪魔、シンデレラが最初に見て感じたことである。いや、これは灰賀としての考えか。
悪魔との戦いですべきこと、考えることが一気に増えたせいだろうか。シンデレラの思考は王子を慕う少女としてのものなのか、進んだ文明社会からやってきた成人男性のものなのかがあいまいになっていると感じていた。
『なんだか戦いを繰り返している割りには、もっと自分の体を大切にすべきとの考えが強くなっている気がする。それに王子との関係を考えた時の嫌悪感が薄まっているような……』
『わたしの中にはもう一人の自分がいるみたい。そのせいかしら、殿下と親しくなっていくことに嫌悪感に似た感情が湧きあがってしまうわ』
『『もしかしてこれは完全な融合へ向かっているのかもしれない!? もしそうならわたしは、オレは、いったいどこの誰になってしまうのだろう』』
相変わらずシンデレラは、自分を囮にして悪魔をひきつけなるべく効率的に倒していく作戦を遂行している。だが心身ともに疲労が蓄積しており、体には生傷が増え続けていく。そんなこともあってどうにも気が進まなくなりはじめていた。
灰賀は灰賀で、隊長と話している際に彼から感じられる洞察の深さや思考力判断力の高さに感銘を受けている。さらにはなぜかそれを心惹かれるように感じてしまうようになっていた。それと同時に、王子に対しての罪悪感を持ってしまう。
『オレの思考はどうなっちまってるんだ!? 隊長は人間的に能力が高くて素晴らしいと感じ、こんな上司の元で働きたかったと思っただけだ。それなのに彼が娘の話をしたとき落胆しただと!? 頭がどうかしてるぜ……』
彼自身うすうす感じているのだが、簡単な言葉で表すなら好意である。人間としての魅力に好意を持つことは性別と無関係だが、そこから愛情へ発展することは社会的には珍しくなかったし身近にも見てきた。
しかしこの世界、この時代の社会常識や一般的な感覚では伴侶以外へ好意を抱くことは好ましくないとされている。シンデレラは独身だが形式上は今でも王子の婚約者筆頭の立場、別の男性へ心惹かれてよいはずがない。さらに言えば相手は既婚者で王国に使える騎士で王子直属の部下なのだ。
灰賀が隊長を好ましく思うことでシンデレラが心を痛めるのも当然のこと。王子と言う唯一無二の相手がいる立場でありながら、それ以外の男性に異性としての好意的感情を持つことは決して許されない。
ここで隊長に好意を持っているのがシンデレラではなく灰賀なのが、事情を複雑にしている。
『違う、オレはそういうんじゃない。男に対してそんな気持ちを持つはずがないんだよ。これはきっとシンデレラが抱いた感情に違いない』
自分の中でそう言い訳をすると、今後はシンデレラが罪悪感を抱くことになり、これでは終わることのない無限ループだ。今はそんな擬似的な四角関係に気を取られている場合ではない。何を考えていたとしても時間は変わらず過ぎていく。
「ようやく陽が射してまいりましたな。ここまでくれば残りが消え去るのも時間の問題。だが当然また次の悪魔が現れるのでしょうなぁ」
「ええ、この終わりの見えない戦い、わたしも少々疲れて参りました。おそらく部隊員たちの疲弊も相当なものかと思われます。なんとか終焉への道筋が見えてくると良いのですが……」
「ここはいかがでしょう。いったん後衛の騎士団と入れ替え、しっかりとした休息を三日、二日ほど取らせてみては。むろん私も休みを取ったうえで、改めて戦いに赴く所存でございます」
「ですが騎士団にはいま指揮官がおりません。代理の副騎士団長では荷が重いのではありませんか?」
「さようでございますなぁ。殿下の容体は報告を聞く限り芳しくなさそうですし、それでも二日ならなんとでもなりましょうぞ。副官とて騎士団の中では一番優秀な男ですからな」
「今は信じて託すしかないのかもしれませんね。それともう一点、わたしが気になっているのは悪魔たちの知能についてです。それこそ誰かが率いている様子はありませんよね? それなのに全員が一斉に向かってきて、時間と共に襲来を終えていくことが不自然に感じて仕方ないのです」
「ふむ、言われてみればそうかもしれません。ですが私は自然発生的に現れ、本能のままに人間を襲っているように感じます。朝とともに襲来がやむのは単に生存していられないからではありませんか?」
「もちろんその可能性は高そうです。どうも気が立っているのか、悪いほうへばかり考えているのかもしれません。あまり考えすぎず、今は目の前の脅威に対処することを考えることにいたします」
悪魔の襲来が収まった朝、ぐったりとその場へ倒れこむように休息を取る部隊員たちを見ながら、シンデレラと隊長は今後についての相談を続けていた。
通常の人間と大差ない体格だった赤悪魔から、横幅が倍ほど増えて見るからに強靭そうな黒悪魔、シンデレラが最初に見て感じたことである。いや、これは灰賀としての考えか。
悪魔との戦いですべきこと、考えることが一気に増えたせいだろうか。シンデレラの思考は王子を慕う少女としてのものなのか、進んだ文明社会からやってきた成人男性のものなのかがあいまいになっていると感じていた。
『なんだか戦いを繰り返している割りには、もっと自分の体を大切にすべきとの考えが強くなっている気がする。それに王子との関係を考えた時の嫌悪感が薄まっているような……』
『わたしの中にはもう一人の自分がいるみたい。そのせいかしら、殿下と親しくなっていくことに嫌悪感に似た感情が湧きあがってしまうわ』
『『もしかしてこれは完全な融合へ向かっているのかもしれない!? もしそうならわたしは、オレは、いったいどこの誰になってしまうのだろう』』
相変わらずシンデレラは、自分を囮にして悪魔をひきつけなるべく効率的に倒していく作戦を遂行している。だが心身ともに疲労が蓄積しており、体には生傷が増え続けていく。そんなこともあってどうにも気が進まなくなりはじめていた。
灰賀は灰賀で、隊長と話している際に彼から感じられる洞察の深さや思考力判断力の高さに感銘を受けている。さらにはなぜかそれを心惹かれるように感じてしまうようになっていた。それと同時に、王子に対しての罪悪感を持ってしまう。
『オレの思考はどうなっちまってるんだ!? 隊長は人間的に能力が高くて素晴らしいと感じ、こんな上司の元で働きたかったと思っただけだ。それなのに彼が娘の話をしたとき落胆しただと!? 頭がどうかしてるぜ……』
彼自身うすうす感じているのだが、簡単な言葉で表すなら好意である。人間としての魅力に好意を持つことは性別と無関係だが、そこから愛情へ発展することは社会的には珍しくなかったし身近にも見てきた。
しかしこの世界、この時代の社会常識や一般的な感覚では伴侶以外へ好意を抱くことは好ましくないとされている。シンデレラは独身だが形式上は今でも王子の婚約者筆頭の立場、別の男性へ心惹かれてよいはずがない。さらに言えば相手は既婚者で王国に使える騎士で王子直属の部下なのだ。
灰賀が隊長を好ましく思うことでシンデレラが心を痛めるのも当然のこと。王子と言う唯一無二の相手がいる立場でありながら、それ以外の男性に異性としての好意的感情を持つことは決して許されない。
ここで隊長に好意を持っているのがシンデレラではなく灰賀なのが、事情を複雑にしている。
『違う、オレはそういうんじゃない。男に対してそんな気持ちを持つはずがないんだよ。これはきっとシンデレラが抱いた感情に違いない』
自分の中でそう言い訳をすると、今後はシンデレラが罪悪感を抱くことになり、これでは終わることのない無限ループだ。今はそんな擬似的な四角関係に気を取られている場合ではない。何を考えていたとしても時間は変わらず過ぎていく。
「ようやく陽が射してまいりましたな。ここまでくれば残りが消え去るのも時間の問題。だが当然また次の悪魔が現れるのでしょうなぁ」
「ええ、この終わりの見えない戦い、わたしも少々疲れて参りました。おそらく部隊員たちの疲弊も相当なものかと思われます。なんとか終焉への道筋が見えてくると良いのですが……」
「ここはいかがでしょう。いったん後衛の騎士団と入れ替え、しっかりとした休息を三日、二日ほど取らせてみては。むろん私も休みを取ったうえで、改めて戦いに赴く所存でございます」
「ですが騎士団にはいま指揮官がおりません。代理の副騎士団長では荷が重いのではありませんか?」
「さようでございますなぁ。殿下の容体は報告を聞く限り芳しくなさそうですし、それでも二日ならなんとでもなりましょうぞ。副官とて騎士団の中では一番優秀な男ですからな」
「今は信じて託すしかないのかもしれませんね。それともう一点、わたしが気になっているのは悪魔たちの知能についてです。それこそ誰かが率いている様子はありませんよね? それなのに全員が一斉に向かってきて、時間と共に襲来を終えていくことが不自然に感じて仕方ないのです」
「ふむ、言われてみればそうかもしれません。ですが私は自然発生的に現れ、本能のままに人間を襲っているように感じます。朝とともに襲来がやむのは単に生存していられないからではありませんか?」
「もちろんその可能性は高そうです。どうも気が立っているのか、悪いほうへばかり考えているのかもしれません。あまり考えすぎず、今は目の前の脅威に対処することを考えることにいたします」
悪魔の襲来が収まった朝、ぐったりとその場へ倒れこむように休息を取る部隊員たちを見ながら、シンデレラと隊長は今後についての相談を続けていた。
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