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第三章:激しくも長き決戦
28.希望の夢
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犬悪魔相手は知恵の勝利と言えるくらいの完勝だった。とはいえ途中まではじり貧だったのだが、隊長の機転により消耗戦とならずに済んだのだ。
あのような単純な作戦、歴史の中でも当然使われてきただろう。それを知識豊富だと思い込んでいた灰賀自身が思いつかなかったことに恥じ、犠牲を出すことになって悔いている。
それでもけが人だけで済んだのだからまだ良かった。ただしこれは幸運であっただけで今後も窮地を無傷でやり過ごせるとは限らない。シンデレラは、命を落とした部隊員のためにもこれ以上の被害は出さないと誓いを立てた。
今までの戦いを振り返り、いくら考察を重ねてもあっという間に無に帰してしまうのがこの悪魔との戦いの特徴ともいえる。小型中型までは似たようなものだが、その次に動物型が来るとは予想外にもほどがある。
あげく十六日目からはほぼ人型で背丈も同じような姿の悪魔が現れた。その全身は赤く染まり曲がったツノと大きな翼を持っている。しかしどうやら知能は低そうなのが救いか。
その戦いでもケルベロスたちとの戦いで使ったバリゲートをあらかじめ強化、拡張していたことが功を奏していた。昼間は比較的安全に活動できることも優位に働いたことは言うまでもない。
魔界門を囲うように拡張したバリゲートは、地表を歩いて出ようとすれば一本道となり、空を飛ぼうとすればやはり同じように途中から狭くなっている。
この赤い悪魔は脱出の工夫なく直線的にに出ようとするので、それを各個撃破していくだけだ。
さらにバリスタもなるべく連続で撃てるよう細めの木を矢としている。それでも破壊力は十分で、縦列で歩いてくるレッサーデーモン複数をまとめて打ち抜くことができた。
「どうでしょうか姫様、これで大分軽くなったのでは?」
「ええ、これなら次がすぐ撃てます。さすが隊長、経験豊富なので助かります」
「経験豊富などと言うことはございませぬ。なんせ大陸には我が国が残るのみ、戦う相手がおりませんからな。剣を振るう機会など、民衆の通報を受け猛獣駆除などを行うときくらいでしょうか」
「では元からご聡明だと言うことですね。余計に素晴らしいではありませんか。わたしなんて――」
灰賀は、豊富なはずの現代知識をろくに活かせていない、と言おうとしたがそれをここで明かすのはいいことではないと考えた。そんな風に自分を卑下するよりも、活かせる何かを思いつけるよう、状況に敏感となるよう心がけるべきなのだ。
知っただけで使えないならそれは無駄な記憶にしか過ぎない。知識を生かせるひらめきと応用力はもっているはず。あとは冷静でいられれば……
そんなことを考えているうちにウトウトしてきたシンデレラは、暖かい日差しを浴びながらしばしの休息についた。日暮れまで許された、およそ三時間の安息である。
その短い休息時間でシンデレラは夢を見ていた。もしかするとそれは灰賀だったのかもしれない。何もない真っ暗な場所と、その先に見える光が射す出口。だが走れど走れど近づかない。
夢の中では悪魔は襲ってこないが、その代りなのか今まで体験してきた苦労、苦悩が次々に回想された。これはまるで死ぬ直前に過去の記憶が走馬灯のように映し出されるという現象のようである。
その走馬灯にはシンデレラの体験と灰賀の体験が混ざっており、どちらにとっても体験済みであり未体験だった。そして最後のほうはシンデレラが頭を打ち、灰賀は資材の下敷きになったところで目を覚ます。
「はあ、はあ、はあ…… 夢だったのね……」
「姫様どうかなされましたか? きっときちんとご自身のベッドへ行かずにここで寝てしまったので夢見が悪かったのでしょう。まだ少し時間がございますので、休憩所へ行かれてはいかがですか?」
「いいえ、もう大丈夫です。それにわたしだけが立派なベッドを用意してもらっているのが少々気まずいので…… わたしはどこでも構いませんので、負傷して治療が済んだ人たちを寝かせてあげてください」
「そのようなご厚意!? ですがここは厚かましくお受けいたしましょう。きっと彼らも喜ぶでしょうな。それにしても今日で二十日ですか…。まさかこれほどの長丁場になるとは……」
「しかも先が見えませんから精神的な疲労も大きいでしょう。隊長さまも無理無きようお願いいたします。なんせ最後の砦ですから元気でいてくれないと困ります」
「これはずいぶんと買いかぶられたものですな。ですが私も部隊を預かる身、精いっぱいのことはさせていただきます。まずは今晩を乗り切り、明日の夜は先鋒隊として一番槍を喰らわせてやりましょうぞ」
「おそらくレッサーデーモンは今日で終わるのでしょうね。明日からはもっと強くなった別の悪魔だと思うと気が重いです。一体どんな敵がやってくるのやら……」
「レッサーデーモンから多少強くなった程度なのか、それとも全く別の形状や特性を持っているのか。現段階では全く分かりません。しかしやってきた悪魔たちを殲滅することだけは決まっているのですから迷うことはありません」
常に強気な隊長の言葉に勇気づけられたシンデレラは、心の底から安堵しながら気を引き締め直した。どちらにしても悪魔の侵攻が続く限り彼女たちの戦いも続くことは間違いない。
それにしても夢の最後に見た光景ななんだったのだろうかとシンデレラは考え込んでいた。現代日本のような高層ビルが立ち並ぶ大都会の真ん中に、今と同じ格好の自身が立っている光景はもちろん見覚えのあるものではない。
それが今後を予見させるものなのか、何らかの比喩的なものなのか、それとも心の中では日本へ戻りたいと思っているから見たものなのか。本人さえも見当がついていなかった。
寝起きと言うこともあってシンデレラの頭の中では混乱が続いていたが、今はそんなことに気を取られている場合ではないと脳裏の奥へと押し込んだ。
あのような単純な作戦、歴史の中でも当然使われてきただろう。それを知識豊富だと思い込んでいた灰賀自身が思いつかなかったことに恥じ、犠牲を出すことになって悔いている。
それでもけが人だけで済んだのだからまだ良かった。ただしこれは幸運であっただけで今後も窮地を無傷でやり過ごせるとは限らない。シンデレラは、命を落とした部隊員のためにもこれ以上の被害は出さないと誓いを立てた。
今までの戦いを振り返り、いくら考察を重ねてもあっという間に無に帰してしまうのがこの悪魔との戦いの特徴ともいえる。小型中型までは似たようなものだが、その次に動物型が来るとは予想外にもほどがある。
あげく十六日目からはほぼ人型で背丈も同じような姿の悪魔が現れた。その全身は赤く染まり曲がったツノと大きな翼を持っている。しかしどうやら知能は低そうなのが救いか。
その戦いでもケルベロスたちとの戦いで使ったバリゲートをあらかじめ強化、拡張していたことが功を奏していた。昼間は比較的安全に活動できることも優位に働いたことは言うまでもない。
魔界門を囲うように拡張したバリゲートは、地表を歩いて出ようとすれば一本道となり、空を飛ぼうとすればやはり同じように途中から狭くなっている。
この赤い悪魔は脱出の工夫なく直線的にに出ようとするので、それを各個撃破していくだけだ。
さらにバリスタもなるべく連続で撃てるよう細めの木を矢としている。それでも破壊力は十分で、縦列で歩いてくるレッサーデーモン複数をまとめて打ち抜くことができた。
「どうでしょうか姫様、これで大分軽くなったのでは?」
「ええ、これなら次がすぐ撃てます。さすが隊長、経験豊富なので助かります」
「経験豊富などと言うことはございませぬ。なんせ大陸には我が国が残るのみ、戦う相手がおりませんからな。剣を振るう機会など、民衆の通報を受け猛獣駆除などを行うときくらいでしょうか」
「では元からご聡明だと言うことですね。余計に素晴らしいではありませんか。わたしなんて――」
灰賀は、豊富なはずの現代知識をろくに活かせていない、と言おうとしたがそれをここで明かすのはいいことではないと考えた。そんな風に自分を卑下するよりも、活かせる何かを思いつけるよう、状況に敏感となるよう心がけるべきなのだ。
知っただけで使えないならそれは無駄な記憶にしか過ぎない。知識を生かせるひらめきと応用力はもっているはず。あとは冷静でいられれば……
そんなことを考えているうちにウトウトしてきたシンデレラは、暖かい日差しを浴びながらしばしの休息についた。日暮れまで許された、およそ三時間の安息である。
その短い休息時間でシンデレラは夢を見ていた。もしかするとそれは灰賀だったのかもしれない。何もない真っ暗な場所と、その先に見える光が射す出口。だが走れど走れど近づかない。
夢の中では悪魔は襲ってこないが、その代りなのか今まで体験してきた苦労、苦悩が次々に回想された。これはまるで死ぬ直前に過去の記憶が走馬灯のように映し出されるという現象のようである。
その走馬灯にはシンデレラの体験と灰賀の体験が混ざっており、どちらにとっても体験済みであり未体験だった。そして最後のほうはシンデレラが頭を打ち、灰賀は資材の下敷きになったところで目を覚ます。
「はあ、はあ、はあ…… 夢だったのね……」
「姫様どうかなされましたか? きっときちんとご自身のベッドへ行かずにここで寝てしまったので夢見が悪かったのでしょう。まだ少し時間がございますので、休憩所へ行かれてはいかがですか?」
「いいえ、もう大丈夫です。それにわたしだけが立派なベッドを用意してもらっているのが少々気まずいので…… わたしはどこでも構いませんので、負傷して治療が済んだ人たちを寝かせてあげてください」
「そのようなご厚意!? ですがここは厚かましくお受けいたしましょう。きっと彼らも喜ぶでしょうな。それにしても今日で二十日ですか…。まさかこれほどの長丁場になるとは……」
「しかも先が見えませんから精神的な疲労も大きいでしょう。隊長さまも無理無きようお願いいたします。なんせ最後の砦ですから元気でいてくれないと困ります」
「これはずいぶんと買いかぶられたものですな。ですが私も部隊を預かる身、精いっぱいのことはさせていただきます。まずは今晩を乗り切り、明日の夜は先鋒隊として一番槍を喰らわせてやりましょうぞ」
「おそらくレッサーデーモンは今日で終わるのでしょうね。明日からはもっと強くなった別の悪魔だと思うと気が重いです。一体どんな敵がやってくるのやら……」
「レッサーデーモンから多少強くなった程度なのか、それとも全く別の形状や特性を持っているのか。現段階では全く分かりません。しかしやってきた悪魔たちを殲滅することだけは決まっているのですから迷うことはありません」
常に強気な隊長の言葉に勇気づけられたシンデレラは、心の底から安堵しながら気を引き締め直した。どちらにしても悪魔の侵攻が続く限り彼女たちの戦いも続くことは間違いない。
それにしても夢の最後に見た光景ななんだったのだろうかとシンデレラは考え込んでいた。現代日本のような高層ビルが立ち並ぶ大都会の真ん中に、今と同じ格好の自身が立っている光景はもちろん見覚えのあるものではない。
それが今後を予見させるものなのか、何らかの比喩的なものなのか、それとも心の中では日本へ戻りたいと思っているから見たものなのか。本人さえも見当がついていなかった。
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