27 / 38
第三章:激しくも長き決戦
27.単純な作戦
しおりを挟む
魔界門が顕現し悪魔の襲来が始まってから十三日目となった。最初の五日間が矮小なる悪魔のインプ、次の五日は鋭いかぎ爪をもつガーゴイルと戦った。
それが過ぎた現在、相手は犬の姿した悪魔へと変わっており、双頭の犬悪魔と三つ頭の犬悪魔の二種類が相手である。これらはとにかく動きが早く、困ったことに負傷者が激増している。
「姫様、このままではまずいですぞ。満足に戦える者が大分減っております。もはや救援を呼ぶべきところまで来てしまっていると具申いたします」
「残念ながらおっしゃる通りですね…… わたしの弓がきちんと当たっていればこんなことにはならなかったのに、まことに申し訳ありません」
「それは責任をかぶりすぎと言うもの。まずは後方に控えている騎士団から応援を呼びましょう。幸い奴らは空を飛ぶ気配がありません。対空部隊による弓攻撃で掃討いたしましょうぞ」
「その前にひとつだけ試したいことがあるのですがよろしいですか? 魔界門の前にはこれまで放って来た丸太が転がっています。あれを積み上げて防護柵とするのはいかがでしょう。その中央に通路を設けて犬たちが直線的にしか進めないようにするのです」
「おお、それは悪くない案かと存じます。そこへ弩弓の一撃を撃ちこむと? まさに一網打尽の妙案と言えるでしょう。漏れた犬どもは騎士団に手伝ってもらえばあっという間に全滅ですな!」
灰賀はなぜこんな簡単な案を思いつかなかったのかと悔いていた。通路へ誘導したところへ丸太の矢をお見舞いするくらい思いつかないでどうする。おそらく疲れが頭を鈍らせているのだと自己分析し、反省を次へ生かそうと心に留めておくのだ。
作戦には思わず相槌を打ったものの、これは彼女の案ではなく完全に隊長案への相乗りだった。それでも今できる最善案には違いない。シンデレラはまだ陽が高いうちに作業を終わらせるため、魔界門のすぐそばまで急いだ。
護衛の騎士と工作兵を伴い次々に丸太を持ち上げ積み上げていくと、あっという間に誘導罠のような通路が出来上がった。ただし、このままでは簡単に飛び出して逃げられてしまうだろう。
ここで必要となるのが犬悪魔たちをとどめておくためのエサである。それはつまりシンデレラ本人がバリゲートの内部で囮となって悪魔たちを誘うことを意味していた。
「ダメに決まっているではございませんかあ! 姫様はなぜそうも危険な方法ばかり思いつくのです!? 御身に何かあれば殿下が悲しむ、もうそんな次元の話ではないのです! おわかりですか? それはもう敗北に等しい……」
「ですから万全を期すためには囮が必要なのです。ご理解はいただけているのでしょうし、わたしの身を案じてくれているのも重々承知です。しかしほかに良い手があるのでしょうか?」
「ぐっ、そ、それは……」
最終的には隊長が折れるしか道はなく、シンデレラはバリゲート内からバリスタの弓を引き、自らめがけて発射することになった。当人は逃げ遅れたらどうなるのか興味を持ったが、あえて試すつもりはない。
バリスタの最後部には新たに滑車がつけられ、弦と同じ太縄が通されてバリゲートの中へと引きこまれた。これで準備は万全である。
全員が緊張しながら見守る中、いつもと同じように陽が落ちていく。すると魔界門の暗幕のような中央部分に犬悪魔たちの影が見えてきた。
果たしてどれくらいいっぺんに向かってくるだろうか。できるだけ一直線に襲い掛かってくれると効率がいい。そう考えながら、シンデレラはロープをつかんで弓を引き絞っていく。
プツン、プツンとしみだすように実体化してくる犬悪魔たちは魔界門のすぐ前に落ちていく。それはまるで熟れた果物のようだが、それを見て喜ぶものは誰もいない。
しばらくすると次々に起き上がり、一斉にシンデレラのほうへ向きなおった。視線を感じた彼女は、女を素早く察知するその本能に恐ろしさを感じたが、余計なことを考えている場合ではないと気を引き締め直す。
『グルルルゥゥ』
『ガアァウ、ウウウゥウ』
『アッオォォオン』
鳴き声や遠吠えによって犬たちの攻撃対象は完全に決まったことを察し、シンデレラは覚悟を決めた。タイミングを間違えたら自分もまきこまれてしまう。矢を放ったら即座に飛び上がらなければならない。
『ガウゥ、グアアアルゥウ、ガアウ』
犬悪魔たちが一斉に走り始めた。もちろん細道になっているのでやつらは互いにぶつかりながら直線隊列になっていく。その行動に疑問を感じなくはないが、都合良くことが進んでいるうちにカタをつけなければならない。
シンデレラの手が緩むと後方で『ビュワン』と空気を切り裂く音が聞こえた。
ワンピースの裾がひらりと広がりながら少女は宙を舞う。成人男性の騎士とほぼ同じ鉄あつらえの胴鎧と手甲に腰当ては相当の重量だ。しかしそんなことを全く感じさせない身軽さである。
彼女が宙を舞ったすぐ下を、丸太がものすごいスピードで通り過ぎて行った。それとほぼ同時に犬悪魔たちの断末魔が鳴り響く。
もちろん全数まとめてとはいかなかったので、予定通りに弓騎士隊が残党を始末していった。作戦は大成功で、統率がとれているわけではない犬悪魔たちは、ただ個別に向かってくるだけしかできなくなっている。
通路が細くなるところでぶつかり合う悪魔たち。そこから這い出るようにしてシンデレラへ向かってくるが、通れるのは一匹だけなので相手にするのはたやすい。
当然のように各個撃破となり、迎撃部隊員も騎士団もさほど疲弊せずに戦いを優位に進めていった。その間にシンデレラはまた矢をセットして次を発射していく。
日付を跨ぐころには大勢が決しており、シンデレラがその場にいなくとも楽に相手ができていた。つまり完全勝利となったのだった。
それが過ぎた現在、相手は犬の姿した悪魔へと変わっており、双頭の犬悪魔と三つ頭の犬悪魔の二種類が相手である。これらはとにかく動きが早く、困ったことに負傷者が激増している。
「姫様、このままではまずいですぞ。満足に戦える者が大分減っております。もはや救援を呼ぶべきところまで来てしまっていると具申いたします」
「残念ながらおっしゃる通りですね…… わたしの弓がきちんと当たっていればこんなことにはならなかったのに、まことに申し訳ありません」
「それは責任をかぶりすぎと言うもの。まずは後方に控えている騎士団から応援を呼びましょう。幸い奴らは空を飛ぶ気配がありません。対空部隊による弓攻撃で掃討いたしましょうぞ」
「その前にひとつだけ試したいことがあるのですがよろしいですか? 魔界門の前にはこれまで放って来た丸太が転がっています。あれを積み上げて防護柵とするのはいかがでしょう。その中央に通路を設けて犬たちが直線的にしか進めないようにするのです」
「おお、それは悪くない案かと存じます。そこへ弩弓の一撃を撃ちこむと? まさに一網打尽の妙案と言えるでしょう。漏れた犬どもは騎士団に手伝ってもらえばあっという間に全滅ですな!」
灰賀はなぜこんな簡単な案を思いつかなかったのかと悔いていた。通路へ誘導したところへ丸太の矢をお見舞いするくらい思いつかないでどうする。おそらく疲れが頭を鈍らせているのだと自己分析し、反省を次へ生かそうと心に留めておくのだ。
作戦には思わず相槌を打ったものの、これは彼女の案ではなく完全に隊長案への相乗りだった。それでも今できる最善案には違いない。シンデレラはまだ陽が高いうちに作業を終わらせるため、魔界門のすぐそばまで急いだ。
護衛の騎士と工作兵を伴い次々に丸太を持ち上げ積み上げていくと、あっという間に誘導罠のような通路が出来上がった。ただし、このままでは簡単に飛び出して逃げられてしまうだろう。
ここで必要となるのが犬悪魔たちをとどめておくためのエサである。それはつまりシンデレラ本人がバリゲートの内部で囮となって悪魔たちを誘うことを意味していた。
「ダメに決まっているではございませんかあ! 姫様はなぜそうも危険な方法ばかり思いつくのです!? 御身に何かあれば殿下が悲しむ、もうそんな次元の話ではないのです! おわかりですか? それはもう敗北に等しい……」
「ですから万全を期すためには囮が必要なのです。ご理解はいただけているのでしょうし、わたしの身を案じてくれているのも重々承知です。しかしほかに良い手があるのでしょうか?」
「ぐっ、そ、それは……」
最終的には隊長が折れるしか道はなく、シンデレラはバリゲート内からバリスタの弓を引き、自らめがけて発射することになった。当人は逃げ遅れたらどうなるのか興味を持ったが、あえて試すつもりはない。
バリスタの最後部には新たに滑車がつけられ、弦と同じ太縄が通されてバリゲートの中へと引きこまれた。これで準備は万全である。
全員が緊張しながら見守る中、いつもと同じように陽が落ちていく。すると魔界門の暗幕のような中央部分に犬悪魔たちの影が見えてきた。
果たしてどれくらいいっぺんに向かってくるだろうか。できるだけ一直線に襲い掛かってくれると効率がいい。そう考えながら、シンデレラはロープをつかんで弓を引き絞っていく。
プツン、プツンとしみだすように実体化してくる犬悪魔たちは魔界門のすぐ前に落ちていく。それはまるで熟れた果物のようだが、それを見て喜ぶものは誰もいない。
しばらくすると次々に起き上がり、一斉にシンデレラのほうへ向きなおった。視線を感じた彼女は、女を素早く察知するその本能に恐ろしさを感じたが、余計なことを考えている場合ではないと気を引き締め直す。
『グルルルゥゥ』
『ガアァウ、ウウウゥウ』
『アッオォォオン』
鳴き声や遠吠えによって犬たちの攻撃対象は完全に決まったことを察し、シンデレラは覚悟を決めた。タイミングを間違えたら自分もまきこまれてしまう。矢を放ったら即座に飛び上がらなければならない。
『ガウゥ、グアアアルゥウ、ガアウ』
犬悪魔たちが一斉に走り始めた。もちろん細道になっているのでやつらは互いにぶつかりながら直線隊列になっていく。その行動に疑問を感じなくはないが、都合良くことが進んでいるうちにカタをつけなければならない。
シンデレラの手が緩むと後方で『ビュワン』と空気を切り裂く音が聞こえた。
ワンピースの裾がひらりと広がりながら少女は宙を舞う。成人男性の騎士とほぼ同じ鉄あつらえの胴鎧と手甲に腰当ては相当の重量だ。しかしそんなことを全く感じさせない身軽さである。
彼女が宙を舞ったすぐ下を、丸太がものすごいスピードで通り過ぎて行った。それとほぼ同時に犬悪魔たちの断末魔が鳴り響く。
もちろん全数まとめてとはいかなかったので、予定通りに弓騎士隊が残党を始末していった。作戦は大成功で、統率がとれているわけではない犬悪魔たちは、ただ個別に向かってくるだけしかできなくなっている。
通路が細くなるところでぶつかり合う悪魔たち。そこから這い出るようにしてシンデレラへ向かってくるが、通れるのは一匹だけなので相手にするのはたやすい。
当然のように各個撃破となり、迎撃部隊員も騎士団もさほど疲弊せずに戦いを優位に進めていった。その間にシンデレラはまた矢をセットして次を発射していく。
日付を跨ぐころには大勢が決しており、シンデレラがその場にいなくとも楽に相手ができていた。つまり完全勝利となったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる