34 / 38
第四章:魔界門を破壊せよ
34.完全な勝利へ
しおりを挟む
ここまでほぼひと月にわたり続いてきた悪魔との戦い。それがこの夜には起きていない。その事実を、シンデレラだけでなくすべての者が信じられない思いで噛みしめていた。
「わたしたちは―― やったのですね。勝利をつかみ取ったのですね!」
「はい、姫様のご活躍あってのことです。おそらく殿下の体調も回復へ向かうでしょう。本当に良かった」
「ですが多くの犠牲を出してしまいました。中には亡骸さえ残っていないものまでおります。ご遺族になんとお詫びをすればいいのやら…… 戦と言うのは勝利したとて素直に喜べないものなのですね」
「さようですなあ。私も過去何度か部下を死なせてしまいましたが、これほど大規模な戦は初めてですから、今の感情をどうすればよいのかわかりません。ですがひとまずは残った者たちへねぎらいの言葉をおかけくださいませ」
「はい、ここまでついてきてくれて本当にありがたいことです。こんな素人のわたしを信じてくれた皆に感謝を――」
シンデレラは安堵と後悔、そして重責からの解放、負うべき責任などが入り混じり、とうとうこらえきれず涙を流してしまう。それだけではなく声を押さえることもできず嗚咽するのだった。
彼女の目の前には片側の柱が折れたせいで崩れ落ちた、憎き魔界門の残骸が積みあがっている。どうやら不浄の大気発生も止まっているようだ。
シンデレラはその瓦礫の山へ足をかけ、一歩一歩踏みしめながら登っていく。もちろん崩れた瓦礫の山などそれほどの高さではないが、一番上まで登ると得も言われぬ思いが込み上げてくる。
ここで初めて勝利を実感した彼女は、片手を天へと掲げ叫んだ。
「これは全ての民による勝利です! 決して生き残ったわたしたちの手柄ではありません。まずは殉死した同胞たちに黙祷を!」
皆はいっせいにうつむき口を閉じる。シンデレラにとってもここまで共に訓練してきた仲間である。部隊員にとってはそれ以前から騎士団で一緒であったもの、友だったもの、中には家族ぐるみの付き合いだった部隊員もいたと聞く。
さすがに大声を上げて泣くものはいなかったが、それでも鼻をすする音は聞こえていた。
「みなさん疲れているでしょうがもうひと頑張りです。馬車を点検して亡骸を連れて帰りましょう。装備は遺品としてご家族へお渡ししたいのでできるだけそのままでお願いします」
シンデレラはあえて事務的な口調を保つようにしている。そうでもしないといつまた泣き出してしまうかわからなかったからだ。今なら小石につまずいただけでも泣き出すかもしれない。
そんなことを考えながら彼女もまた、地面を這いながら遺品になりそうなものを探していた。そこへ若い部隊員が何かを運んできた。
「姫様、これはどうしましょうか。ここへ置いていきたい気もしますが、さすがに放置するのはまずいかなと思いまして……」
「こっ、これはまさか!? そのままの形で残っていたのですか!? 先ほどは見当たらなかったと思うのですが、どこにあったのでしょう」
「どうやら魔界門の崩壊と同時に向こうへ転がっていたようです。触るのはちょっと怖かったんで、これで転がしながら運んできました」
そういって杖のような細い枝で、運んできて地面に置いてあるものをつついた。
「そんな風につついて平気なのですか? その…… あの結界を通っているときは泡のように見えていたのでてっきり柔らかいものだとばかり。ですので破裂してなくなったと思っておりました」
「僕も見つけたときはびっくりしました。まさかこれって卵じゃないですよね?」
確かにその真っ黒い球体はなにかの卵だと言われるとそんな気もしてくる。しかし発生の瞬間はまるでシャボン玉のように膨らみ、そしてその場へ落ちていった。今までだと地面へ落ちて爆ぜたときに悪魔が発生していたのだ。
だから卵のように悪魔が産み落としたものではないと考えている。悪魔が卵を産むのかどうかは知らないが。
「破壊しましょう。できるかわかりませんが、もし悪魔が発生したとしてもたかが一匹です。それに不浄の大気が収まった今、大した強さでもないでしょう」
「まさか割るんですか!? 僕が!?」
「いいえ、そんな危険なことをお願いするはずありません。これはわたしの責任において行いますからご心配なく。皆は念のため下がって剣を構えていてください」
いったいこの黒い球はなんなのか。本当に中に悪魔が入っていたとして、それはどの程度の強さなのだろう。そんなことを考えるとシンデレラの手には自然と力が入る。
彼女は牽引棒を固く握り締め、頭上高く構えてから一気に振り下ろした。
『バッフォーン』
おそらく不浄の大気が詰まっていたのだろう。煙とは違うが明らかに普通ではなさそうな気体が放出されたようである。だがそこから何かが現れることはなく、皆は構えた剣を下ろし一斉に安堵した。
一番近くにいたシンデレラだけが煙のように消えていった気体を浴びて驚いてしまったらしくしばらく立ちつくしていた。しかし見た目や体調に異常は見られないため、シンデレラもようやく安堵しながら振り返る。
するとここで改めて喜びが込み上げてきた皆は、心からの雄たけびをあげた。
シンデレラも、そして灰賀もようやく張りつめていた緊張の糸をほぐし、大きく息を吐いて力を抜くことができる。だがこれですべてが終わりと言うわけではない。
後始末は深夜まで続きようやくすべての支度が整った。つまりこの忌むべき場所を立ち去る準備ができたと言うことである。
長いようで短かった戦いが終わり、迎撃部隊と騎士団の合同軍は帰路につくのだった。
「わたしたちは―― やったのですね。勝利をつかみ取ったのですね!」
「はい、姫様のご活躍あってのことです。おそらく殿下の体調も回復へ向かうでしょう。本当に良かった」
「ですが多くの犠牲を出してしまいました。中には亡骸さえ残っていないものまでおります。ご遺族になんとお詫びをすればいいのやら…… 戦と言うのは勝利したとて素直に喜べないものなのですね」
「さようですなあ。私も過去何度か部下を死なせてしまいましたが、これほど大規模な戦は初めてですから、今の感情をどうすればよいのかわかりません。ですがひとまずは残った者たちへねぎらいの言葉をおかけくださいませ」
「はい、ここまでついてきてくれて本当にありがたいことです。こんな素人のわたしを信じてくれた皆に感謝を――」
シンデレラは安堵と後悔、そして重責からの解放、負うべき責任などが入り混じり、とうとうこらえきれず涙を流してしまう。それだけではなく声を押さえることもできず嗚咽するのだった。
彼女の目の前には片側の柱が折れたせいで崩れ落ちた、憎き魔界門の残骸が積みあがっている。どうやら不浄の大気発生も止まっているようだ。
シンデレラはその瓦礫の山へ足をかけ、一歩一歩踏みしめながら登っていく。もちろん崩れた瓦礫の山などそれほどの高さではないが、一番上まで登ると得も言われぬ思いが込み上げてくる。
ここで初めて勝利を実感した彼女は、片手を天へと掲げ叫んだ。
「これは全ての民による勝利です! 決して生き残ったわたしたちの手柄ではありません。まずは殉死した同胞たちに黙祷を!」
皆はいっせいにうつむき口を閉じる。シンデレラにとってもここまで共に訓練してきた仲間である。部隊員にとってはそれ以前から騎士団で一緒であったもの、友だったもの、中には家族ぐるみの付き合いだった部隊員もいたと聞く。
さすがに大声を上げて泣くものはいなかったが、それでも鼻をすする音は聞こえていた。
「みなさん疲れているでしょうがもうひと頑張りです。馬車を点検して亡骸を連れて帰りましょう。装備は遺品としてご家族へお渡ししたいのでできるだけそのままでお願いします」
シンデレラはあえて事務的な口調を保つようにしている。そうでもしないといつまた泣き出してしまうかわからなかったからだ。今なら小石につまずいただけでも泣き出すかもしれない。
そんなことを考えながら彼女もまた、地面を這いながら遺品になりそうなものを探していた。そこへ若い部隊員が何かを運んできた。
「姫様、これはどうしましょうか。ここへ置いていきたい気もしますが、さすがに放置するのはまずいかなと思いまして……」
「こっ、これはまさか!? そのままの形で残っていたのですか!? 先ほどは見当たらなかったと思うのですが、どこにあったのでしょう」
「どうやら魔界門の崩壊と同時に向こうへ転がっていたようです。触るのはちょっと怖かったんで、これで転がしながら運んできました」
そういって杖のような細い枝で、運んできて地面に置いてあるものをつついた。
「そんな風につついて平気なのですか? その…… あの結界を通っているときは泡のように見えていたのでてっきり柔らかいものだとばかり。ですので破裂してなくなったと思っておりました」
「僕も見つけたときはびっくりしました。まさかこれって卵じゃないですよね?」
確かにその真っ黒い球体はなにかの卵だと言われるとそんな気もしてくる。しかし発生の瞬間はまるでシャボン玉のように膨らみ、そしてその場へ落ちていった。今までだと地面へ落ちて爆ぜたときに悪魔が発生していたのだ。
だから卵のように悪魔が産み落としたものではないと考えている。悪魔が卵を産むのかどうかは知らないが。
「破壊しましょう。できるかわかりませんが、もし悪魔が発生したとしてもたかが一匹です。それに不浄の大気が収まった今、大した強さでもないでしょう」
「まさか割るんですか!? 僕が!?」
「いいえ、そんな危険なことをお願いするはずありません。これはわたしの責任において行いますからご心配なく。皆は念のため下がって剣を構えていてください」
いったいこの黒い球はなんなのか。本当に中に悪魔が入っていたとして、それはどの程度の強さなのだろう。そんなことを考えるとシンデレラの手には自然と力が入る。
彼女は牽引棒を固く握り締め、頭上高く構えてから一気に振り下ろした。
『バッフォーン』
おそらく不浄の大気が詰まっていたのだろう。煙とは違うが明らかに普通ではなさそうな気体が放出されたようである。だがそこから何かが現れることはなく、皆は構えた剣を下ろし一斉に安堵した。
一番近くにいたシンデレラだけが煙のように消えていった気体を浴びて驚いてしまったらしくしばらく立ちつくしていた。しかし見た目や体調に異常は見られないため、シンデレラもようやく安堵しながら振り返る。
するとここで改めて喜びが込み上げてきた皆は、心からの雄たけびをあげた。
シンデレラも、そして灰賀もようやく張りつめていた緊張の糸をほぐし、大きく息を吐いて力を抜くことができる。だがこれですべてが終わりと言うわけではない。
後始末は深夜まで続きようやくすべての支度が整った。つまりこの忌むべき場所を立ち去る準備ができたと言うことである。
長いようで短かった戦いが終わり、迎撃部隊と騎士団の合同軍は帰路につくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる