シンデレラ転生の左遷リーマンは零時までの身体能力チートで異世界を救う

釈 余白(しやく)

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第四章:魔界門を破壊せよ

34.完全な勝利へ

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 ここまでほぼひと月にわたり続いてきた悪魔との戦い。それがこの夜には起きていない。その事実を、シンデレラだけでなくすべての者が信じられない思いで噛みしめていた。

「わたしたちは―― やったのですね。勝利をつかみ取ったのですね!」

「はい、姫様のご活躍あってのことです。おそらく殿下の体調も回復へ向かうでしょう。本当に良かった」

「ですが多くの犠牲を出してしまいました。中には亡骸さえ残っていないものまでおります。ご遺族になんとお詫びをすればいいのやら…… 戦と言うのは勝利したとて素直に喜べないものなのですね」

「さようですなあ。私も過去何度か部下を死なせてしまいましたが、これほど大規模な戦は初めてですから、今の感情をどうすればよいのかわかりません。ですがひとまずは残った者たちへねぎらいの言葉をおかけくださいませ」

「はい、ここまでついてきてくれて本当にありがたいことです。こんな素人のわたしを信じてくれた皆に感謝を――」

 シンデレラは安堵と後悔、そして重責からの解放、負うべき責任などが入り混じり、とうとうこらえきれず涙を流してしまう。それだけではなく声を押さえることもできず嗚咽おえつするのだった。

 彼女の目の前には片側の柱が折れたせいで崩れ落ちた、憎き魔界門の残骸が積みあがっている。どうやら不浄の大気発生も止まっているようだ。

 シンデレラはその瓦礫の山へ足をかけ、一歩一歩踏みしめながら登っていく。もちろん崩れた瓦礫の山などそれほどの高さではないが、一番上まで登ると得も言われぬ思いが込み上げてくる。

 ここで初めて勝利を実感した彼女は、片手を天へと掲げ叫んだ。

「これは全ての民による勝利です! 決して生き残ったわたしたちの手柄ではありません。まずは殉死した同胞たちに黙祷を!」

 皆はいっせいにうつむき口を閉じる。シンデレラにとってもここまで共に訓練してきた仲間である。部隊員にとってはそれ以前から騎士団で一緒であったもの、友だったもの、中には家族ぐるみの付き合いだった部隊員もいたと聞く。

 さすがに大声を上げて泣くものはいなかったが、それでも鼻をすする音は聞こえていた。

「みなさん疲れているでしょうがもうひと頑張りです。馬車を点検して亡骸を連れて帰りましょう。装備は遺品としてご家族へお渡ししたいのでできるだけそのままでお願いします」

 シンデレラはあえて事務的な口調を保つようにしている。そうでもしないといつまた泣き出してしまうかわからなかったからだ。今なら小石につまずいただけでも泣き出すかもしれない。

 そんなことを考えながら彼女もまた、地面を這いながら遺品になりそうなものを探していた。そこへ若い部隊員が何かを運んできた。

「姫様、これはどうしましょうか。ここへ置いていきたい気もしますが、さすがに放置するのはまずいかなと思いまして……」

「こっ、これはまさか!? そのままの形で残っていたのですか!? 先ほどは見当たらなかったと思うのですが、どこにあったのでしょう」

「どうやら魔界門の崩壊と同時に向こうへ転がっていたようです。触るのはちょっと怖かったんで、これで転がしながら運んできました」

 そういって杖のような細い枝で、運んできて地面に置いてあるものをつついた。

「そんな風につついて平気なのですか? その…… あの結界を通っているときは泡のように見えていたのでてっきり柔らかいものだとばかり。ですので破裂してなくなったと思っておりました」

「僕も見つけたときはびっくりしました。まさかこれって卵じゃないですよね?」

 確かにその真っ黒い球体はなにかの卵だと言われるとそんな気もしてくる。しかし発生の瞬間はまるでシャボン玉のように膨らみ、そしてその場へ落ちていった。今までだと地面へ落ちて爆ぜたときに悪魔が発生していたのだ。

 だから卵のように悪魔が産み落としたものではないと考えている。悪魔が卵を産むのかどうかは知らないが。

「破壊しましょう。できるかわかりませんが、もし悪魔が発生したとしてもたかが一匹です。それに不浄の大気が収まった今、大した強さでもないでしょう」

「まさか割るんですか!? 僕が!?」

「いいえ、そんな危険なことをお願いするはずありません。これはわたしの責任において行いますからご心配なく。皆は念のため下がって剣を構えていてください」

 いったいこの黒い球はなんなのか。本当に中に悪魔が入っていたとして、それはどの程度の強さなのだろう。そんなことを考えるとシンデレラの手には自然と力が入る。

 彼女は牽引棒を固く握り締め、頭上高く構えてから一気に振り下ろした。

『バッフォーン』

 おそらく不浄の大気が詰まっていたのだろう。煙とは違うが明らかに普通ではなさそうな気体が放出されたようである。だがそこから何かが現れることはなく、皆は構えた剣を下ろし一斉に安堵した。

 一番近くにいたシンデレラだけが煙のように消えていった気体を浴びて驚いてしまったらしくしばらく立ちつくしていた。しかし見た目や体調に異常は見られないため、シンデレラもようやく安堵しながら振り返る。

 するとここで改めて喜びが込み上げてきた皆は、心からの雄たけびをあげた。

 シンデレラも、そして灰賀もようやく張りつめていた緊張の糸をほぐし、大きく息を吐いて力を抜くことができる。だがこれですべてが終わりと言うわけではない。

 後始末は深夜まで続きようやくすべての支度が整った。つまりこの忌むべき場所を立ち去る準備ができたと言うことである。

 長いようで短かった戦いが終わり、迎撃部隊と騎士団の合同軍は帰路につくのだった。
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