37 / 38
第五章:エピローグ
37.新たな花の咲くとき
しおりを挟む
王城の庭には、ようやく春の訪れを知らせるように花が咲き鳥が鳴き始めた。悪魔へ立ち向かったあの恐ろしい戦いからまもなく二年ほどになる。
暗雲立ちこめる絶望の春ではないし、まだ癒えぬ傷にうなされた春でもない。ようやく人々には笑顔が戻り、まるで街のあちこちで大輪の花が開いたようだ。
差し迫った脅威のない王国ではもはや騎士団も飾りの様なもの。その任務は以前と同じように農村部での猛獣退治や、盗賊狩り等の治安維持ばかりだ。
シンデレラとともに悪魔たちと戦った様々な経験が彼らを成長させ、一般国民からは英雄のような存在となった。そのため騎士を希望する者は増えていた。
人数が増えたことで騎士団の下に自衛団が新設されたのも変化の一つ。こうして細分化された騎士団はより細かな対応が可能となっているが、それらを統括し率いているのはやはり今も王子であることに変わりはない。
そして過去、騎士団を中心とした各部隊の総指揮を取り仕切っていた隊長、そしてともに激しい戦いに身を置いたシンデレラはもうここにはいない。現在は新たな指揮官となった各部隊長たちが不慣れながらも指揮を執っている。
こうして騎士団を直接見る必要は無くなった王子だが、管理職への教育が必要なため今までよりもさらに多忙となったと愚痴をこぼすことも多かった。
そんな王子はこの数日は公務を休んでいる。とはいえ別に体調が悪いとか怪我をしているわけではなく、単に別の用事のため騎士団へ顔を出せないだけであった。
「殿下、いったい朝からどのくらい歩いておられるのですか? 見ているこちらが疲れてしまいそうです。別にその歩数計を受け継がれたからと言って、必要以上に歩くことはないのですぞ?」
「別に歩数を数えたいわけではない。もちろん自分が強くなるとも考えてはいないぞ? 言われる前に自分で言っておかないと隊長はすぐに僕をバカにするからな」
「まさかまさか、敬愛する王子殿下のことをバカにするだなどと言う不敬、王国へ仕えて四十年になろうと言うこの私が考えるはずもございません。一点申し上げるならば、私はもう騎士団隊長ではありませんがな?」
「そうだったな、ブセライ相談役。なんなら相談役もこの歩数計をつけてみたらどうだい? さすれば、この増えていく数字が気になって歩きたくなる気持ちがわかるかもしれないよ?」
「いやはや、どうにもご自身のお気持ちをごまかしたくて仕方ないと言ったところでしょうか。落ち着かないのであれば温めたワインでも持ってこさせますぞ?」
「いいや、それだけはダメだ。もうかれこれ二晩はまともに寝ていないんだぞ? ここで酒を入れてしまったらあっという間に寝てしまって、簡単には目を覚まさないだろうからな」
そういうと、王子はまた止めていた足を動かし、廊下を行ったり来たりしはじめる。その様子をただ眺めていたはずの隊長改め相談役は、いつの間にか義足をカチャカチャさせながらつま先を動かしていた。
結局どちらも落ち着きがなく、かといってこの場を離れるわけにはいかないと断固として譲らないのだから困ったものだ。そのため、部屋を出入りする者たちにとっては邪魔でしかない。
それからしばらくして部屋から女性が飛び出し、大声で叫びながら走り去っていった。その様子を見た王子と相談役はそろって部屋を覗き込む。
「ダメです! 殿下も相談役もいい加減にしてください! 今ここには男性が入れないことを何度も説明しておりますよね? あまり面倒をかけるなら廊下からも立ち去っていただきますよ!?」
「い、いや、つい出来心、はずみなんだ。覗こうと思ったわけじゃない。それに覗き込んでも部屋の中にカーテンがあって見えないのもわかっているのだからな。ちゃんと大人しく待っているからあまり怒らないでくれ」
「わ、私も殿下につられてつい部屋の方向を見てしまったにすぎません。決して覗き見ようなどと考えたわけではないので、どうかご勘弁を……」
純白の衣服に身を包んだ女性が一喝すると、次期国王である王子も、長年騎士団を支えてきた元騎士団隊長も形無しである。
二人が叱られてしょんぼりしているところへ先ほど出ていった女性が戻ってきた。こちらも同じ純白の衣服を身につけているため、王子と相談役は邪魔にならないようつぶれた蛙のように壁へと張り付いた。
再び女性が二人の前を走りすぎると、その後ろから今度は中年女性が二人、さらには大きなワゴンで大なべを運んでくる給仕係、さらには山のようにタオルを抱えた侍女たちと大行列である。
そんな大所帯が部屋へ入っていくと、再び扉は固く閉ざされた。
『ほぎゃぁぁぁあ、ほんぎゃあぁぁぁあ―― お、おぎゃあ、おぎゃぁあ――』
どれくらいの時間が経ったのか測っていたものはいないが、王子が身につけている歩数計の数字は大きく加算されていた。
それほどの時間が過ぎ、部屋の中から聞こえてきた大声に色めき立つ二人。それは誰がどう聞いてもすぐにわかる人間の泣き声である
聞こえてきた声は言うまでもなく赤ん坊の産声であり、王子たちが待ちに待っていた瞬間であることに説明は不要だろう。
出産は命がけであると同時に女の聖域でもある。当然部屋の中へ入れてもらえなかった二人は廊下で顔を見合わせ思わず抱き合っていた。
だがしかし、一呼吸おいてから二人は不思議そうに顔をゆがめる。どうにも想像していた泣き声とは違っているような――――
「これは―― まさかの双子なではないか!? それも声からすると男女両方にも聞こえたが気のせいだと思うか!?」
「私めにもそう聞こえました。殿下! これは妃殿下の大手柄ですな!」
「まさにまさに! さすが我が姫は只者ではないな!」
こうして王子殿下とシンデレラ妃殿下の間に授けられた初めての子は男女の双子であり、この国では珍しくどちらも元気で無事に生まれたのであった。
暗雲立ちこめる絶望の春ではないし、まだ癒えぬ傷にうなされた春でもない。ようやく人々には笑顔が戻り、まるで街のあちこちで大輪の花が開いたようだ。
差し迫った脅威のない王国ではもはや騎士団も飾りの様なもの。その任務は以前と同じように農村部での猛獣退治や、盗賊狩り等の治安維持ばかりだ。
シンデレラとともに悪魔たちと戦った様々な経験が彼らを成長させ、一般国民からは英雄のような存在となった。そのため騎士を希望する者は増えていた。
人数が増えたことで騎士団の下に自衛団が新設されたのも変化の一つ。こうして細分化された騎士団はより細かな対応が可能となっているが、それらを統括し率いているのはやはり今も王子であることに変わりはない。
そして過去、騎士団を中心とした各部隊の総指揮を取り仕切っていた隊長、そしてともに激しい戦いに身を置いたシンデレラはもうここにはいない。現在は新たな指揮官となった各部隊長たちが不慣れながらも指揮を執っている。
こうして騎士団を直接見る必要は無くなった王子だが、管理職への教育が必要なため今までよりもさらに多忙となったと愚痴をこぼすことも多かった。
そんな王子はこの数日は公務を休んでいる。とはいえ別に体調が悪いとか怪我をしているわけではなく、単に別の用事のため騎士団へ顔を出せないだけであった。
「殿下、いったい朝からどのくらい歩いておられるのですか? 見ているこちらが疲れてしまいそうです。別にその歩数計を受け継がれたからと言って、必要以上に歩くことはないのですぞ?」
「別に歩数を数えたいわけではない。もちろん自分が強くなるとも考えてはいないぞ? 言われる前に自分で言っておかないと隊長はすぐに僕をバカにするからな」
「まさかまさか、敬愛する王子殿下のことをバカにするだなどと言う不敬、王国へ仕えて四十年になろうと言うこの私が考えるはずもございません。一点申し上げるならば、私はもう騎士団隊長ではありませんがな?」
「そうだったな、ブセライ相談役。なんなら相談役もこの歩数計をつけてみたらどうだい? さすれば、この増えていく数字が気になって歩きたくなる気持ちがわかるかもしれないよ?」
「いやはや、どうにもご自身のお気持ちをごまかしたくて仕方ないと言ったところでしょうか。落ち着かないのであれば温めたワインでも持ってこさせますぞ?」
「いいや、それだけはダメだ。もうかれこれ二晩はまともに寝ていないんだぞ? ここで酒を入れてしまったらあっという間に寝てしまって、簡単には目を覚まさないだろうからな」
そういうと、王子はまた止めていた足を動かし、廊下を行ったり来たりしはじめる。その様子をただ眺めていたはずの隊長改め相談役は、いつの間にか義足をカチャカチャさせながらつま先を動かしていた。
結局どちらも落ち着きがなく、かといってこの場を離れるわけにはいかないと断固として譲らないのだから困ったものだ。そのため、部屋を出入りする者たちにとっては邪魔でしかない。
それからしばらくして部屋から女性が飛び出し、大声で叫びながら走り去っていった。その様子を見た王子と相談役はそろって部屋を覗き込む。
「ダメです! 殿下も相談役もいい加減にしてください! 今ここには男性が入れないことを何度も説明しておりますよね? あまり面倒をかけるなら廊下からも立ち去っていただきますよ!?」
「い、いや、つい出来心、はずみなんだ。覗こうと思ったわけじゃない。それに覗き込んでも部屋の中にカーテンがあって見えないのもわかっているのだからな。ちゃんと大人しく待っているからあまり怒らないでくれ」
「わ、私も殿下につられてつい部屋の方向を見てしまったにすぎません。決して覗き見ようなどと考えたわけではないので、どうかご勘弁を……」
純白の衣服に身を包んだ女性が一喝すると、次期国王である王子も、長年騎士団を支えてきた元騎士団隊長も形無しである。
二人が叱られてしょんぼりしているところへ先ほど出ていった女性が戻ってきた。こちらも同じ純白の衣服を身につけているため、王子と相談役は邪魔にならないようつぶれた蛙のように壁へと張り付いた。
再び女性が二人の前を走りすぎると、その後ろから今度は中年女性が二人、さらには大きなワゴンで大なべを運んでくる給仕係、さらには山のようにタオルを抱えた侍女たちと大行列である。
そんな大所帯が部屋へ入っていくと、再び扉は固く閉ざされた。
『ほぎゃぁぁぁあ、ほんぎゃあぁぁぁあ―― お、おぎゃあ、おぎゃぁあ――』
どれくらいの時間が経ったのか測っていたものはいないが、王子が身につけている歩数計の数字は大きく加算されていた。
それほどの時間が過ぎ、部屋の中から聞こえてきた大声に色めき立つ二人。それは誰がどう聞いてもすぐにわかる人間の泣き声である
聞こえてきた声は言うまでもなく赤ん坊の産声であり、王子たちが待ちに待っていた瞬間であることに説明は不要だろう。
出産は命がけであると同時に女の聖域でもある。当然部屋の中へ入れてもらえなかった二人は廊下で顔を見合わせ思わず抱き合っていた。
だがしかし、一呼吸おいてから二人は不思議そうに顔をゆがめる。どうにも想像していた泣き声とは違っているような――――
「これは―― まさかの双子なではないか!? それも声からすると男女両方にも聞こえたが気のせいだと思うか!?」
「私めにもそう聞こえました。殿下! これは妃殿下の大手柄ですな!」
「まさにまさに! さすが我が姫は只者ではないな!」
こうして王子殿下とシンデレラ妃殿下の間に授けられた初めての子は男女の双子であり、この国では珍しくどちらも元気で無事に生まれたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる