こんな出来の悪い乙女ゲーなんてお断り!~婚約破棄された悪役令嬢に全てを奪われ不幸な少女になってしまったアラサー女子の大逆転幸福論~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
51 / 76
第五章 戦いの日々

51.アレ

しおりを挟む
 目の前には巨大な木造建築がそびえたっている。もちろん砦も木造なのだけどそれとはまた別の物だ。

「ねえ…… これがアレってやつなのね。
 思ってたよりもその…… 相当大きいわね……」

「すげえだろ? こいつが二台あるんだぜ?
 コイツがあれば千人二千人くらいの兵士が相手でもなんてことないさ」

「私が言ってたのはもっとこう小さくて四、五人で押しながら進むものだったんだけど?
 こんな大きいものどうやって動かすのよ」

「それが意外に軽く動くんだよ。
 試験走行した時は馬二十頭で登りも余裕だったぜ。
 話によると車軸に工夫があると言ってたがよくわからねえ、まったくディックスは天才だな」

 鉱山で秘密裏に製造していたのは現代風に言うと戦車である。本当は丸太造りのバリゲードを数人で押しながら進むものと言っておいたのだが、どこでどう間違ったのか、馬車よりもはるかに大きく人が何十人も乗れるようなものが出来上がっていた。

 中央の空洞部分に馬を配置して引かせるので前方からの攻撃にも耐え、屋根もあるので矢が飛んで来ても安心だと説明された。

 その珍妙で巨大な馬車の下を覗き込むと鉄でできた車軸が見えた。もちろん構造はわからないがグランの言うようにきっと何かすごい工夫がしてあるのだろう。

 しかも荷台? には丸太が縦に積み上げてある。これは一体何のために存在するのだろうか。まさか木材運搬用の荷車として作ったと言うことか? これでは戦車ではなくまるでダンプカーだ。

「ほれ、ここに伯爵用の武器も用意してある。
 ちょっと持ってみろよ」

 グランが指を差したダンプカーの荷台には、直径が私の背丈とそう変わらないほど大きなトンカチが置いてあった。一体こんなものどうやって作ったのだろうか。

「ちょっと大きすぎたかもしれねえがお前なら持てるんじゃねえか?。
 地面へ穴を掘って鉄を流して作ったんだぜ、すげえだろ。
 ここへ乗せるときは十人がかりだったけどな」

「こんな大きな鉄の塊!
 出荷したらいくら分なのかしら、まったく贅沢な武器ね」

「これであの丸太をぶっ叩くと荷台から飛んでいくって寸法よ。
 巨大な弓矢みたいなもんだな」

 いやいや弓矢どころではなくまるで大砲だ。こんなのが直撃したら人なんてペチャンコになってしまうだろう。そんな光景想像しただけで背筋が寒くなる。

「せっかくだから試してみるわね。
 どのくらいの重さなのかしら……」

 私はこれまた金属で出来た太い柄を掴むと力を込めて持ち上げてみた。どうやら森から引き抜いた大木とそう変わらないくらいの重さのようだ。これなら軽々と振り回すことが出来る。

 頭上へ持ち上げてクルクルと回すと背後からどよめきが起きる。私が人間離れした怪力の持ち主であることを知らない者はもういないが、それでも目の当たりにすると恐ろしいのかもしれない。

 人の近くでは危ないので離れた場所まで歩いて行き、鉱山の岩盤へ向かって一振りしてみた。するとすごい音と振動が当たりに響き、鉱山の岩肌が大きく崩れてきた。このままでは下敷きになってしまう。

 すかさずトンカチを振りかざし落ちてくる大岩を空中で叩くと、粉々になってそこら中に鉄鉱石がばらまかれた。すると今度はうわああっと歓声が上がった。

「なかなかいいんじゃない?
 これなら採掘がぐっと楽になるわね」

「ホントにまったくどうなっちゃってるのかわからねえな。
 二度も殴られて生きてる自分を褒めてやりたいぜ」

「俺は一回だけだがもう二度とごめんだ。
 あんときは半日目が覚めなかったからな」

 グランが余計なことを言うとカウロスも負けじと一言。なぜか自慢げなのが理解に苦しむが……

「二人ともそんなむかしばなしはどうでもいいわ。
 私たちは未来のために前へ進むのよ!」

 我ながらうまいことを言ったなと思いつつ、兵士たちにダンプカーへ乗るよう指示を出す。どうやらグラン隊、ルモンド隊のほぼ全員が乗ってもちゃんと動くようで、その巨大なアレはゆっくりと進み始めた。

 乗りきれなかった者は馬で並走、私とグランにルモンドは馬車で後ろからついていく。もしものためにと連れていくことになった軍隊だが、これでは完全に臨戦態勢である。きっとタダでは済まないだろうと思いつつも、もう引き返すこともできないのだ。

 王都までの遠い道のりを歩かないで済むことが嬉しいのか、兵士たちはご機嫌で歌っている。すでに勝利を確信しているのか、異常に士気の高い軍勢は頼もしいが少し不安でもある。

 そして屋敷を出て四日目の昼、私たちは王都近くにある森のそばに陣を構えることにした。ここは王族領だがトーラス卿の屋敷にも大分近い。

「それでは私とルモンドで会合へ向かうわね。
 あと二人早馬を出すかもしれないからついて来てもらおうかしら」

「それではモナスとヤルマン、ついて来てくれ。
 ではグラン殿、部下たちをよろしく頼む」

「任せてくれ、ルモンド殿もお気をつけて。
 くれぐれも伯爵の勝手を許さないように」

「何よ失礼ね、いくら私でも城の中で暴れたりしないわよ。
 それくらいわきまえているんだからね。
 ルモンド、さあ行きましょ」

 馬車が走りだし王城が近づいていくといつの間にか手には汗がにじんでいた。さすがに緊張しているのだろうか。この会合に私たちの命運は握られていると言っても過言ではない。

 城下へ入る頃には陽が落ちかけておりなんだかお腹が空いてきた。会合は明日の昼間だが今夜は城で晩餐会がある。贅沢な食事なんて何年振りだがべつに嬉しくはなく、それよりも贅沢三昧暮らしている王族や貴族に腹が立つだけだった。

「姫様、間もなく正門です。
 共の二人はどこかで待たせておきますか?」

「明日の昼にいてくれればいいから今夜は宿でゆっくり休ませてあげて。
 でも深酒はダメだからね」

「かしこまりました、良く言い聞かせておきます。
 それとグラン殿の密偵はどこにいるのでしょうか」

「一般兵のどれかのはずだけどみんな同じ格好だからわからないわね。
 向こうから接触してくるはずだからあまり気にしなくていいと思うわ」

 そんな打ち合わせをしてから城門を通り、来賓室へ案内されようやく一息つけた。喉が渇いたのでお茶を飲もうとしたがティーセットは無く、いちいちメイドを呼ばないといけないのがわずらわしい。こんなに何もしたくないのなら国政も辞めてしまえば良いのだ。

 お茶と一緒にはちょっとした焼き菓子までついて来てまた私の神経を逆なでする。こんな事ならアキたちも連れてきてあげれば良かったなんて思わなくもない。

「ルモンドは甘いもの好きよね、せっかくだから頂けば?
 帰ったらいつ食べられるかわからないわよ」

「なんというのでしょうか。
 姫様に感化されたのか、メアリーたちへ持って帰ってあげたいという気になりますな。
 こんな事ならなにか容器を持ってくれば良かった」

「いい心構えね、でも持って帰るのは難しいから食べちゃいましょ。
 帰りにお土産を買っていってあげればいいのよ。
 きっとみんな喜ぶわ。
 そういえばルモンドの奥様が亡くなってから何年くらい経つの?」

 未亡人であるメアリーの名が出たことでルモンドも奥さんを亡くしていたことを思い出した。確か私が生まれる前のことだったからまだ相当若かったはずだ。

「もう十六年でございます。
 翌年に姫様がお生まれになったのでしたね。
 教育係をお任せいただいた時には嬉しゅうございました。
 子宝に恵まれなかったわたくしにとってなによりの癒しでした」

「物心つくころまでは、でしょ?
 子供の頃はわがままで大分迷惑かけたもの、ごめんなさいね」

「とんでもございません。
 子供はわがままなものですから気になどしていません。
 それよりも少し離れている間にすっかり立派になられたことが何より」

 まさか人格が変わったからなんて言えるわけもなく、苦笑いで応えるくらいしかできなかった。もしかして打ち明けるべきなのかと考えているうちにお菓子を全て食べつくしてしまい、小腹が満たされた私はしばし夢の時間へと旅立った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...