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変わっていくもの
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朝練は一年生が校外学習で不在のためあっさり目に終わった。中身はきちんとしたものだったが、チェックや指導がいらないので二年生それぞれが黙々とこなすのみだ。
一年生不在と言うことはもちろん由布もいないということだ。そのため今日は久しぶりに静かな一日となりそうで少しだけホッとしている。
「今日は一年生がいないから放課後の練習は守備が足りないな」
「久しぶりに野球盤でもやらないか?」
朝練を終えて着替えている最中にチビベンが木戸へそう進言した。
「お、いいね、そういや今年になってから一回もやってなかったな」
「マルマンは不満かもしれねえけどこれもいい練習になるしよ」
「んなことねえよ、俺だってチームバッティングは得意だぜ」
「レギュラーなら去年よりも打席数があるんだから、誰にも文句の言えない成績でチーム二冠はもらうぜ」
自他ともに認めるスラッガーの丸山だが、バットコントロールがうまく長距離打者にありがちな無駄な空振りが少ない。去年、一年生の時には打席に立つ機会が少なかったにもかかわらず、そのほとんどで結果を出していた。
レギュラーでは現三年生の池田先輩が打率トップで、その次に良かったのは木戸だった。その下はチビベンがほんの少し抜けているくらいで、後はドングリの背比べと言ったところで僕もそのドングリの一つだ。
「そう言えば部員のデータだけど、マネージャーが昨日中にまとめてくれてメールで送って来たよ」
「でも僕はノートパソコンを持ってるわけじゃないから、受け取ったデータは家に置いたままだけどな」
「なんだ、どんなふうになってるのか見たかったな」
僕はハカセにそう言った。そういえば最初に由布と会ったときにうちのチームの事をかなり細かく知っていたから、それがどんなふうにまとめてあるのか知りたかったのだ。
「それがさ、あの子凄いよ」
「どこで見てたのか知らないけど、去年のデータまであったんだよ、よく見てるわ」
「へえ、そりゃ頼りになるかもしれないな、自分だけで長所短所を把握するってのはなかなか難しいからな」
「たとえば木戸の長所はバッティングならスイングスピードと懐の広さだと思うんだ」
「まあそうかもな、俺は心の広い男だからよ、来るものは拒まない主義さ」
「それだよ、その性格が野球にも出てるんだなあ」
「だから難しいコースに来ても手を出してしまったり、逆に甘めに来てもヤマと違ったらあっさり見送ったりするじゃん?」
「それって短所なのかね? まあカウントにもよるけどよ、なるべく長打が打てそうなところを待ちてえんだよ」
「でもそれで追い込まれた後厳しいところ突かれたりするだろ?」
「その前の球打ってりゃって場面、記憶にあるだろ?」
「それは結果論さ、全て思い通りに行くなら全員プロ野球選手になれるぜ」
木戸はカラカラと笑い飛ばしながらそう言った。確かに木戸の言い分もわからないわけじゃないし正しいことを言っているともいえる。
でも僕は木戸には四番として大いに期待しているのだ。チームの士気を高めるような熱い姿を、食い下がる意地を、あきらめない強さを、と言ったところか。
「まあいいさ、木戸が打とうが沈もうが、俺が残り全員返してやるさ」
「そのためのクリーンアップだし、それがチームプレイだろうよ」
「マルマンは五番打つつもりなのか? てっきり俺と四番を張り合うのかと思ってたぜ」
「去年燻ってた分今年はもっとガツガツするかと思ったけど、なんかいい意味で変わったなお前さ」
「自分で言うのは嫌だけどよ、やっぱ四番は花がないとよ」
「俺はその後ろで自分の仕事するだけさ、終わってみたら五番の方が凄くない? みたいな声援のためにな!」
「なんだか控えめなのか野心家なのかわからん物言いだな」
「下心ありありじゃ野球でも恋愛でも結果はついでこんぞ?」
ハカセが丸山にそういうと全員が笑い、言われた本人も笑っていた。今日もいい雰囲気だ。野球はメンタルスポーツでもあるので、チームの雰囲気は大切だと考えている。
それは他の部員、もちろん木戸もわかっているので三田を戻そうって話になり辛いのだろう。どちらにせよ早く一年生も雰囲気に慣れてもらいたいものだ。
「じゃあまた昼にな」
「おう、おつかれー」
校舎へ戻った僕達は、時間に余裕をもってそれぞれの教室へ入って行った。
教室の中には生徒が半分くらいか、すでに座っている。その中に咲もいるのだが、僕の方をチラリとも見ずに窓から外を眺めていた。僕はクラスメートに挨拶をしながらその前の席へ行き、バッグを机の脇へ置いた。
「おつかれさま、調子は良さそうね、いい顔してるわ」
横を向いたまま咲がつぶやいた。こっちを見たように感じなかったのにいい顔してるなんてわかるのかな、とも思ったけど咲なら僕の事をすべて全部わかっていてくれるような気もする。そんなことを考えながら僕は小さな声でうん、とだけつぶやいた。
その直後にはチャイムが鳴り残りの生徒が慌ただしく入ってくる。その後ろから急かすように真弓先生の声が聞こえている。今日も朝から職員室に来ていたからまた一番乗りかもしれない。いったいどうしちゃったのだろうか。
今週の頭に副校長に脅されてから生活見直したのかもしれないし、罰ゲームをやらされるのがどうしても嫌なのかもしれない。なんにせよ時間に間に合うよう行動するのは悪いことじゃない。
出席を取り始めた真弓先生を見ながらそんなことを考えていた僕に、後ろからまたささやき声が聞こえてきた。
「人って他人との深い関わりで変わるものよね」
声の主はもちろん咲だが、その言葉はいったい何を示しているのだろう。おそらくは僕の事だと思うけど、なんで改めて今そんなことを言っているのかは全くわからなかった。
一年生不在と言うことはもちろん由布もいないということだ。そのため今日は久しぶりに静かな一日となりそうで少しだけホッとしている。
「今日は一年生がいないから放課後の練習は守備が足りないな」
「久しぶりに野球盤でもやらないか?」
朝練を終えて着替えている最中にチビベンが木戸へそう進言した。
「お、いいね、そういや今年になってから一回もやってなかったな」
「マルマンは不満かもしれねえけどこれもいい練習になるしよ」
「んなことねえよ、俺だってチームバッティングは得意だぜ」
「レギュラーなら去年よりも打席数があるんだから、誰にも文句の言えない成績でチーム二冠はもらうぜ」
自他ともに認めるスラッガーの丸山だが、バットコントロールがうまく長距離打者にありがちな無駄な空振りが少ない。去年、一年生の時には打席に立つ機会が少なかったにもかかわらず、そのほとんどで結果を出していた。
レギュラーでは現三年生の池田先輩が打率トップで、その次に良かったのは木戸だった。その下はチビベンがほんの少し抜けているくらいで、後はドングリの背比べと言ったところで僕もそのドングリの一つだ。
「そう言えば部員のデータだけど、マネージャーが昨日中にまとめてくれてメールで送って来たよ」
「でも僕はノートパソコンを持ってるわけじゃないから、受け取ったデータは家に置いたままだけどな」
「なんだ、どんなふうになってるのか見たかったな」
僕はハカセにそう言った。そういえば最初に由布と会ったときにうちのチームの事をかなり細かく知っていたから、それがどんなふうにまとめてあるのか知りたかったのだ。
「それがさ、あの子凄いよ」
「どこで見てたのか知らないけど、去年のデータまであったんだよ、よく見てるわ」
「へえ、そりゃ頼りになるかもしれないな、自分だけで長所短所を把握するってのはなかなか難しいからな」
「たとえば木戸の長所はバッティングならスイングスピードと懐の広さだと思うんだ」
「まあそうかもな、俺は心の広い男だからよ、来るものは拒まない主義さ」
「それだよ、その性格が野球にも出てるんだなあ」
「だから難しいコースに来ても手を出してしまったり、逆に甘めに来てもヤマと違ったらあっさり見送ったりするじゃん?」
「それって短所なのかね? まあカウントにもよるけどよ、なるべく長打が打てそうなところを待ちてえんだよ」
「でもそれで追い込まれた後厳しいところ突かれたりするだろ?」
「その前の球打ってりゃって場面、記憶にあるだろ?」
「それは結果論さ、全て思い通りに行くなら全員プロ野球選手になれるぜ」
木戸はカラカラと笑い飛ばしながらそう言った。確かに木戸の言い分もわからないわけじゃないし正しいことを言っているともいえる。
でも僕は木戸には四番として大いに期待しているのだ。チームの士気を高めるような熱い姿を、食い下がる意地を、あきらめない強さを、と言ったところか。
「まあいいさ、木戸が打とうが沈もうが、俺が残り全員返してやるさ」
「そのためのクリーンアップだし、それがチームプレイだろうよ」
「マルマンは五番打つつもりなのか? てっきり俺と四番を張り合うのかと思ってたぜ」
「去年燻ってた分今年はもっとガツガツするかと思ったけど、なんかいい意味で変わったなお前さ」
「自分で言うのは嫌だけどよ、やっぱ四番は花がないとよ」
「俺はその後ろで自分の仕事するだけさ、終わってみたら五番の方が凄くない? みたいな声援のためにな!」
「なんだか控えめなのか野心家なのかわからん物言いだな」
「下心ありありじゃ野球でも恋愛でも結果はついでこんぞ?」
ハカセが丸山にそういうと全員が笑い、言われた本人も笑っていた。今日もいい雰囲気だ。野球はメンタルスポーツでもあるので、チームの雰囲気は大切だと考えている。
それは他の部員、もちろん木戸もわかっているので三田を戻そうって話になり辛いのだろう。どちらにせよ早く一年生も雰囲気に慣れてもらいたいものだ。
「じゃあまた昼にな」
「おう、おつかれー」
校舎へ戻った僕達は、時間に余裕をもってそれぞれの教室へ入って行った。
教室の中には生徒が半分くらいか、すでに座っている。その中に咲もいるのだが、僕の方をチラリとも見ずに窓から外を眺めていた。僕はクラスメートに挨拶をしながらその前の席へ行き、バッグを机の脇へ置いた。
「おつかれさま、調子は良さそうね、いい顔してるわ」
横を向いたまま咲がつぶやいた。こっちを見たように感じなかったのにいい顔してるなんてわかるのかな、とも思ったけど咲なら僕の事をすべて全部わかっていてくれるような気もする。そんなことを考えながら僕は小さな声でうん、とだけつぶやいた。
その直後にはチャイムが鳴り残りの生徒が慌ただしく入ってくる。その後ろから急かすように真弓先生の声が聞こえている。今日も朝から職員室に来ていたからまた一番乗りかもしれない。いったいどうしちゃったのだろうか。
今週の頭に副校長に脅されてから生活見直したのかもしれないし、罰ゲームをやらされるのがどうしても嫌なのかもしれない。なんにせよ時間に間に合うよう行動するのは悪いことじゃない。
出席を取り始めた真弓先生を見ながらそんなことを考えていた僕に、後ろからまたささやき声が聞こえてきた。
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