僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
64 / 158

自由と不自由と束縛と

しおりを挟む
 勘の鈍い僕は臨機応変に考えを巡らせることが苦手だ。

 今までそんなことを意識する機会は少なかったけど、咲と一緒にいるとそのことを考えていることが多いと感じる。

 それは咲は僕に対して何かと鈍いとか言ってくるからなのだが、それは別に嫌な感じではないし見下されているように感じることもない。あくまで会話の流れの中で愛情のある表現だと考えている。

 そんな鈍い僕でもすぐにわかることはあるわけで、由布の強引な愛情表現や園子のはっきりと口にした好意、それに亜美の内に秘めた恋心だ。

 もし咲と出会っていなかったならどうしていいかわからないことになっていたかもしれないし、今までと同じように相手にせず聞き流していたかもしれない。

 でも今の僕には咲と言う存在がとても大きく、それゆえに女子と言うものを意識し始めてしまっている。それは遅ればせながらやってきた僕の思春期と言うことになるだろうか。

「ねえどうしたの? こんな時に考え事?」

 合わせていた唇が離れ、すぐ目の前で咲が言う。その吐息が僕の顔に当たり、二人の距離がごく近いのだと改めて感じた。

「ごめん、でもこうやって咲と二人でいるとさ、僕が今まで女子を避けていたのは何だったんだろうって思っちゃったんだ」

「あら? こんなに楽しくて気持ちが良いものならもっと早く知っておけば良かったって意味かしら?」

 それを聞いて僕は言い方が悪かったことを知った。そしてもちろん咲の顔は笑っていない。これはかなりまずい発言だったのかもしれない。

「違うんだ、そういう意味じゃないんだよ」

 慌てて否定するものの続く弁明の言葉がうまく出てこない。なんと言えば良かったんだろうか。

「あのさ、今まで女子を意識したことはなかったんだけど、あの時、初めての日になんで咲の事を探して追いかけたんだろうって思ったんだ」
「僕だって男だから、女子を見てかわいいと思うこともあったけど、行動に移すようなことはなかったし、そんな気持ちがわいてきたことすらなかったんだよ」
「でも咲のことは違ったんだ、初めて教室で見た時から気になって仕方なかったんだ」
「他の子と同じことをしてみたいなんて今までも、今も、これからも思ってないよ」

 慌てた僕はとにかく自分の考えを吐き出すことばかり考えていて、目の前の咲がどう感じたか、今どんな気持ちなのかを考える余裕はなく、ひたすら言葉を重ねた。

「バカね、別に怒っているわけじゃないわよ」
「でもあまりいい表現ではなかったことは事実ね、なんでも素直に話せばいいってものではないわ」

「うん…… そうかもしれないね、でも僕には駆け引きじみた会話なんてできないんだよ」

「うふふ、そういうところもかわいいのよね、キミは」
「だからこそ私もキミのところへやってくることができたのかもしれないわ」

「それ! それだよ、前にも言っていたけど、会ったこともなかったのになんで僕の事を前から知っているような口調なのさ?」
「精神世界では繋がってるなんて言われてなるほどね、なんてとても思えないままなんだ」

「そんなことは些細なことよ、今こうして私とキミとが係わりをもって心がつながっている、それが全てよ」

「なんだかはぐらかされているような気がするんだけどなあ……」
「本当はどこかで会っていたとかじゃないの?」

「そうね、今こうやって顔を合わせていることは現実の出来事よね?」
「でもそうじゃない場所で出会ったことがあるのよ、思い出してみて?」

「えっ、それって本当の事なのか?」
「思い当たることがないんだけど、咲はそれがいつどこでの出来事かわかっているの?」

「うふふ、今まで何度も、そして昨晩も一緒だったじゃないの、夢の中でね」

 それを聞いた僕は一気に顔が紅潮し、今朝起きた時のことを思い出した。

「そ、そんなこといってまたひっかけようとしてるんじゃないの?」
「まあ確かに昨日は咲と一緒の夢を見たけどさ……」

「夢の中っていいわよね、現実や肉体に縛られることない自由な空間だわ」
「そこでは誰もが自由で不自由、平等で不平等、そんな面白い世界よね」

 相変わらずよくわからない言い回しだが何となく同意は出来る。特に自由で不自由と言うのはまさにその通りだ。

 今日の夢も僕の願望がそうさせたのか、咲と二人きりと言えるものでその夢を見る自由があった。でも夢の中ではうまく行動できることばかりでもなく、そこは圧倒的な不自由があるんだと感じる。

「咲…… 今は夢の中じゃないよね? だからもうそろそろ行かないといけないんだ」
「僕は意志が強いと自信を持っていたけど、最近はそうでもないかもと落ち込むこともあるよ」

「わかったわ、私もキミの邪魔をしたいわけじゃないのよ、そろそろ帰るわね」
「でもね、意思が強いかどうかなんて気にするものじゃないわ、人間は弱い生き物なのよ」

「そうかもしれないな、だから僕はさ……」

「何も言わなくていいの、わかっているわ」
「今日も頑張ってね、できれば授業も寝ないで受けられるといいのだけれど」

 そう言ってから咲は僕に顔を近づけキスをしてくれた。これで今日一日も頑張れそうだ。授業はともかくとして、だが。

「さ、いってらっしゃい、私の愛しいキミ」

「うん、今日も調子よさそうだし頑張るよ、練習試合も近いしね」

 僕はネクタイを首にかけてから上着を着てバッグを背負った。野球用品が詰まったバッグは肩にずっしりと重い。

「ちょっと待ってて」

 咲はそう言ってから僕の首元に手を伸ばし、ネクタイをきれいに締めてくれた。

「きれいに結びすぎたかしら?いつもだらしなく曲がっているのが気にはなってるのだけどね」
「でも歩きながらでいいから崩してちょうだい、女の子が見たらいつもと違うって気が付くかもしれないわ」

「そんなところ見ているものなのかなあ、気にしすぎじゃないの?」

「まあそのままで行って言い訳をするのも面白いかもしれないから試してみたら?」

 咲はいつものように笑いながらのからかい口調だった。おかしな話だが、これが僕には心地よく感じるのだ。

「それも困るから行きながら崩すよ、でも直すんじゃなくてわざわざ崩すなんておかしな気もするな」
「しかも、せっかくいつもよりきれいに結んでくれたのに悪い気がするよ」

「そんなのいいのよ、それより女がネクタイを締めてあげるってどういう意味があるか知ってる?」
「束縛って意味が込められているのよ」

「えっそれ本当? と言うことは咲が僕を」

「いいから行ってらっしゃい、遅刻するわよ」

 咲は僕の言葉を途中で遮り、軽く唇を重ねてから二人そろって玄関を出た。

 僕は咲の言った言葉が気になって気になって仕方なく、かといってそのままでいるわけにもいかずに残念な気持ちでネクタイを崩しながら学校へ向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...