僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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ピンチの後にチャンスあり

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「お前さ、さっき捕球した後にボールを自分で後ろへ投げたんだろ。
 後逸のフリとか危なすぎだよ」

「うはは、ばれてた? まあ結果オーライよ。
 走ってこなけりゃそれでいいし、バッターにはコントロール乱れてると思わせりゃ儲けもんだしな。
 それより最終回の攻撃だ、もう負けはねえから遠慮なく振り回して行くぜ!」

 おう! と威勢よく声をそろえたナナコーナインだが、一人落ち込んでいるやつがいた。さっきの回の守りで二連続ボーンヘッドのオノケンである。

「なんだオノケン、落ち込んでんのか?
 俺なんてお前がまさかの一発で打順回ってこなかったらどうしようって思ってんのによ」

 中学時代の先輩である丸山がそう声をかけた。言ってることは無茶だけど、もしかしたら本気で言っているのかもしれない。

「マル先輩…… 自分やっちゃいました……
 向こうのピッチャーの事も打てる自信がないっす」

「バッキャロー、自信なんて打ってつけるもんだ。
 ピンチの後にチャンスありって言うだろ?
 つーことはエラーしたやつがキーマンになるってことなんだよ」

「マジっすか……?
 これでもクリーンナップ任されてるし…… 自分、シマみたいに思い切り振ってきます!」

 丸山の例えは明らかにおかしいが、オノケンが打つ気満々で向かっていけるならこの際何でもいい。それよりも引き合いに出された嶋谷の方が心配である。

 なんにせよ、落ち込んだまま打席に入るという最悪な事態は免れたオノケンは、ヘルメットをかぶり左の打席へ向かった。

「ダメだあいつ、シマちょっと行って来い」

 何かに気が付いたのか、丸山が嶋谷に伝令を言いつけている。僕はバッターボックスへ向かう嶋谷を見て唖然とした。なんと、その右手にはバットが握られていたのだ……

「オノケンのやつバット持たないで行っちゃったのか。
 緊張してるんだろうな……」

「あいつは中学の頃からどこか抜けてるんだよ。
 守備交代でグラブ忘れたりよ? 
 そういや、試合する場所間違えて別の中学へ行っちまったこともあったぜ」

「そ、そうか…… 意外とお茶目なんだな……」

 僕はフォローしてるんだかなんなんだかわからないことを言うのが精いっぱいだった。まあなんにせよ、オノケンで試合が決まることはないと思うから思い切り振ってきてほしいものだ。

「なあ、嶋谷もそう思うだろ?」

 オノケンにバットを届けて戻ってきた嶋谷にそう言うと、さっき引き合いに出されたことすら気が付いてなさそうに首をかしげている。

 結局オノケンは塁に出ることなく、元気にベンチへ帰ってきた。その表情は、嶋谷ほどではないがなにか吹っ切れた様子だ。

「すんません、なかなか打てませんね。
 でも次は打てるよう頑張ります!」

「うん、一本出ると気持ちが楽になって打てるようになるさ。
 あの二人のようになるのは大変だろうけどな」

「マル先輩は中学の時からヤバかったっすからね」

 中学の時は丸山や木戸と対戦したことはないが、大会が始まる度に二人の名前は話題になっていた。つまり他の中学でもその名が知れ渡るくらいの選手だったということだ。

 その木戸がバッターボックスへ入った。

「せんぱい、随分前に立ってますね。
 今までそんなことなかったように記憶してますけど、変化球を嫌っての事なんでしょうか?」

 由布がいち早く木戸の異変に気が付いた。言われてみるといつもより前、バッターボックス先頭ギリギリのところに立っているようだ。

「あいつはああ見えて野球の事だけには頭を使うからなあ。
 なにか考えがあるんだろう」

 そうこう言っている間に、矢島学園エース、山尻勝実が初球を投げた。インコースへのスライダー、いやカットボールだろうか。ストライクゾーンをきわどく攻めたそのボールを、木戸は平然と見送った。

 二球目、おそらく次は外に早い球だろう。矢島のキャッチャーは配球が単調で読みやすい。ボールを散らすのは基本的なリードではあるけど、かといって内外、真っ直ぐと変化球と交互に投げたらバレバレだ。

 そして案の定外角低めへストレートが投げ込まれる。しかし木戸はまったく反応せずに、ボールを目で追いながら見送った。

 まったく打ち気を見せずにツーストライクと追い込まれてしまったが、何か考えがあるのだろう。いったんボックスを外して二度素振りをしてからまた構えなおす。

「立ち位置元に戻しましたね。
 あの見逃し方はピッチャーの嫌がるタイプでしたし、次はきっとやってくれますね!」

 まさに由布の言う通りで、同じストライクでも空振りと見送りでは質が違うし、同じ見送りでも手が出なかったのとじっくり見られるのとではまた違ってくるものだ。

 僕は思わず唾を飲み込んで三球目を待った。待ち構える木戸へ向かって勝実が投げ下ろす。

「カキン!」

 緊迫したグラウンドに乾いた音が響いた。内角低めへのストレート、いやスプリットのような早くて沈む球かもしれない。その勝負球を真芯でとらえたするどい打球が三塁線を襲う。

 三塁手が反応できていないほどの早い打球は長打になりそうだ。その時!

「ぼこん」

 まさか!? サードベースにボールが当たってしまった。運の悪いことに、そいつは軽くバウンドをしてから内野の内側へ転がって戻ってきたのだった。

 たらればを言っても仕方ない、野球に限らず勝負事は結果がすべてだ。長打になるかと思われた木戸の打球は惜しくもシングルヒットとなってしまった。

 それでもチーム二本目のヒットにベンチは大騒ぎだ。次は丸山の打順、ここで何とか決めてもらいたいがどうだろうか。ここまで抑えているのだから、まさか敬遠はないだろう。

 ここで向こうのベンチが動いた。キャッチャーと共に伝令がマウンドへ向かう。

「敬遠されると厳しいなあ。
 練習試合だから勝負、って言ってくれると有難いんだけどね」

「ここは勝負に来るだろうな。
 へんにトラウマになるより勝負して結果に期待した方がマシだろう」

 ハカセの言う通りだ。押さえればそれでよし、打たれたなら本番に備えればいい。しかし逃げただけでは何も得るものがないということになる。向こうの監督はいったいどういう考えの持ち主だろうか。

 動いた矢島の取った策は選手交代だった。しかし投手交代ではなく、キャッチャーと外野の交代だ。最終回同点で延長戦はないため守備固めと言ったところか。

「キャッチャーは去年の正捕手ですね。
 たしかバッティングがあまり良くなかったはずです。
 外野手は…… すいません、データがありません」

「そうか、どうもバッテリーの息がいまいちあってないように感じてたんだよな。
 きっと今年は打撃中心のチームにしようとしてるんだろう。
 去年は準決勝で松白に完封負けだっけ?」

「相手は矢島実業の決勝ですね、3-2で敗れてます。
 先日の練習試合で最後に投げた、あの大柄な投手に抑えられてしまったみたいですよ」

 なるほど、去年は勝実を中心とした守りのチームだったんだろう。しかし由布は他の学校の事を良く調べているなと感心する。

 さてと、仕切りなおして丸山対勝実が再開される。どっちへ転んでもこれもいい勝負になりそうだ。おそらく丸山は木戸がヒットを打ったからには自分も打ってやると気負っているだろう。

 今日はラーメンを賭けたりしていないようだけど、そんなことに関係なく、あの二人は常にお互いをライバル視しているのだ。

 どちらのベンチも固唾を飲んで見守っている。声援を送るのもはばかられるくらいの場面だからか、誰一人声を出すこともなく勝負の行方を気にするだけだ。

 初球は高めに上ずったストレート、今までで一番早かったかもしれないが、この試合初めて大きく外れたボール球だった。今まではコントロール重視だったのか、もしかしたらキャッチャーとの呼吸がうまく取れていないせいで全力が出せずにいたのかもしれない。

 二球目も真っ直ぐだ。初球より早い! しかし丸山も負けじとフルスイングする。

「カッキーン!」

 甲高い金属バットが鳴らす快音、一瞬時間が止まったかのような静寂、そして――


◇◇◇


「俺はたい焼き二個食ってもいいと思うんだ。
 なんてったって決勝打を打ったんだぜ?
 あれは間違いなくどの球場でもホームランだったさ」

「そうですよ!
 ナナコーのグラウンドじゃなくてもあれは入ってましたね!
 丸山先輩の打球凄かったです! 感動しました!」

 劇的なサヨナラホームランを打ってご機嫌な丸山と、勝利に大興奮し続けている由布がたい焼き屋の前で大騒ぎしていた。

「まあいいんじゃねえの?
 仕方ねえから真弓ちゃんの代わりに俺が奢ってやんよ」

「お、さすが主将だ、気が利いてるねえ。
 それじゃ遠慮なくいただくとするか。
 他にもおかわりするやつがいたらこっちにこいよ」

「んのやろう、そんな大勢には奢れねえって、予算オーバーだ。
 お前の分は俺が出すから残りは割り勘な」

 相変わらずむちゃくちゃなやり取りをしている二人のところへ何人かの部員が駆け寄っていく。

「カズ、どうした? なにか考え事か?」

「うーん、向こうのピッチャー、山尻勝実が帰り際に言ってたことが気になっててさ。
 チビベンはジャイロってボール知ってるか?」

「ジャイロ? 名前しか知らないな。
 そういうのあんまり詳しくないし。
 最近投げ始めた決め球のことなのか?」

『まさか君もあんなジャイロ投げるなんて驚いたよ』

 僕はチビベンの質問に頷きながら勝実の言葉を思い出しつつ、たい焼きのしっぽを口へ放り込んだ。
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