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凱旋
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こうして県営球場から学校へたどり着いた僕たちは、正門から中へ入っていった。校舎へ入ってから職員室の前で副校長へ報告をする。この時ばかりは誰しも神妙な面持ちだ。
「なんであいつって偉そうなんだろうな。
何もしてねえし、なんなら邪魔することだってあったのによ」
丸山は副校長が大嫌いで、事あるごとに文句を言っている。それは去年、三年生部員の一部ともめたときに間に入った副校長は理由もなく上級生の肩を持ち、その結果丸山は実力に反して長い間干され、レギュラーにしてもらえなかったのだ。
「まああんなことがあったんだから恨むよな。
僕だったら辞めてシニアに行ってたかもしれないよ」
「あの時は本当に悪いことをしたわね。
私がメンバー自体には詳しくないって言っちゃって、昔顧問だった副校長へ任せて失敗だったわ」
「いやあ、真弓ちゃんは悪くねえさ。
悪いのはあいつらだからな。
さっさと辞めてくれて良かったよ」
今残っている三年生以外は、部内のいざこざで辞めてしまったのだが、それがあったからこそ木戸が主将になり、今のまとまったチームが出来たということになる。
「まあ不幸中の幸いだよな。
あいつらがいたら決勝までなんて来られなかったわ。
そんで俺が活躍できなくて彼女もできてないってことになるな」
「おっ、もう付き合うことになったのか?
結構手が早いな、マルマンのくせに」
「いや、今のは今後の願望だった。
実はまだ先が長そうな気がしてる……」
丸山のトーンが急激に落ちていき、僕たちは各々の教室へ散らばる前に廊下で大笑いしてしまった。すると教室から誰かが顔を出して叫んだ。
「野球部が返ってきたぞ! やったなー! おめでとう!!」
「「松白に勝つなんてすごいね! おめでとう!!!」」
まだ授業中だと言うのに、廊下側の窓が次々に開いて大勢の生徒が祝福の言葉をかけてくれる。これはかなり恥ずかしいけど嬉しいものだ。
指笛や拍手の音は、静かだった県営球場のスタンドと違って心地よく聞こえる。でもさすがにうるさすぎたのか副校長から校内放送が入った。
「ちぇっ、またあいつかよ、ホントウッゼー。
んじゃま、また昼休みに部室で会おうぜ」
丸山にとっては気分の良くない凱旋だったかもしれないが、祝福の騒ぎはとても嬉しい喧噪だった。
しかしこの時間になっても咲からは返信が来ておらず、僕はちょっと残念な気分ではあるが、咲がいた場所は学校なので想定内とも言える。
それでも席へ座った僕に、背中越しではあるけどおめでとうとつぶやいてくれたので、僕は舞い上がってウキウキ気分になっていた。我ながら単純すぎるが、これも咲が魅力的過ぎるので仕方ない。
結局、教室へ入ってからも騒ぎは続き、他のクラスも同じようだった。というか、木戸たちが大声で話しているのか二つ隣のここまで聞こえてくる。
この興奮はいつ納まるのだろうか。僕はまだまだ収まらなそうに感じている。きっとチームメイトも同様だろうし、それはいつまでも騒ぎ続けている一組の様子を聞けば分かる。まあ羽目を外しすぎないようにしてくれよ、と、野球部員が僕しかいない三組でひとり余韻に浸るのだった。
席に座って授業が再開され他所までは記憶があったのだが、いつの間にか昼になっていた。木戸たちはまだ興奮から覚めていないのか、いつもよりさらに大声で打ちの教室へ近づいてくる。
このままではまた小町にうるさく言われるだろうと考えるだけでうんざりだ。僕は席を立ってから咲へ目配せし、やつらが入ってくる前に教室を出た。
弁当持ち以外は購買へ寄ってから部室へ向かう。しぶしぶながら今日はチビベンも部室飯だと諦めていた。僕は購買へ並んでいる間に江夏さんへメールを打ち、学校が終わったら連絡すると伝えておいた。
ダブルシャケ弁当を片手に部室へ到着すると、そこには野球部員以外の運動部や、全く無関係の生徒が押しかけていて大変なことになっていた。特にメディア研究部はカメラやビデオを持ちこんでインタビューすると息巻いているらしい。
勝負の前に応援してくれていたらもっと嬉しかったけど、勝ったからこそ注目されるというのもまあ当たり前の話だ。去年までは色々と問題も起こしたりしていて、あまり健全とは言えなかったのだし。
結局、昼のミーティングなんてとてもできる状況ではなく、昼飯を食べるのがやっとだったし、その隙にと言った感じで逃げていったチビベンにとっては良かっただろう。置いていかれた丸山はブーブー言っていたが、紹介してもらったバレー部の後輩とはまだそれほど親しくなれていないらしいから踏ん切りがつかなかったのかもしれない。
そして一番はしゃいでいたのは嶋谷だった。自分から積極的に活躍の情景を披露し、それはもう得意げでほほえましかった。今日の嶋谷は本当にいい活躍をしてくれたと思うし、これからに期待が持てると感じていた。まあ、それはバッティング以外でということではあるのだけど……
それでも多少の伝達事項が伝えられ、今日は放課後の練習は希望者のみでの特打だけとなった。僕は先発完投したから完全休養と言うことで不参加だが、嶋谷はやる気が満ち溢れているらしく、当然特打参加するとのことだ。意外にほかの部員も大体が参加するつもりらしく、チビベンさえもメールで参加を伝えてきていた。
結局不参加は僕と三年生の一部、それと珍しく由布だ。どうやら父親が遠征から帰宅するらしく、今日の結果を報告しながら食事へ連れて行ってもらうのだとご機嫌だった。
僕も帰ってから報告会、それと祝勝会になるだろう。咲と二人きりになれるチャンスがあるといいけどなあ、なんて考えつつ午後の授業へ向かった。
「なんであいつって偉そうなんだろうな。
何もしてねえし、なんなら邪魔することだってあったのによ」
丸山は副校長が大嫌いで、事あるごとに文句を言っている。それは去年、三年生部員の一部ともめたときに間に入った副校長は理由もなく上級生の肩を持ち、その結果丸山は実力に反して長い間干され、レギュラーにしてもらえなかったのだ。
「まああんなことがあったんだから恨むよな。
僕だったら辞めてシニアに行ってたかもしれないよ」
「あの時は本当に悪いことをしたわね。
私がメンバー自体には詳しくないって言っちゃって、昔顧問だった副校長へ任せて失敗だったわ」
「いやあ、真弓ちゃんは悪くねえさ。
悪いのはあいつらだからな。
さっさと辞めてくれて良かったよ」
今残っている三年生以外は、部内のいざこざで辞めてしまったのだが、それがあったからこそ木戸が主将になり、今のまとまったチームが出来たということになる。
「まあ不幸中の幸いだよな。
あいつらがいたら決勝までなんて来られなかったわ。
そんで俺が活躍できなくて彼女もできてないってことになるな」
「おっ、もう付き合うことになったのか?
結構手が早いな、マルマンのくせに」
「いや、今のは今後の願望だった。
実はまだ先が長そうな気がしてる……」
丸山のトーンが急激に落ちていき、僕たちは各々の教室へ散らばる前に廊下で大笑いしてしまった。すると教室から誰かが顔を出して叫んだ。
「野球部が返ってきたぞ! やったなー! おめでとう!!」
「「松白に勝つなんてすごいね! おめでとう!!!」」
まだ授業中だと言うのに、廊下側の窓が次々に開いて大勢の生徒が祝福の言葉をかけてくれる。これはかなり恥ずかしいけど嬉しいものだ。
指笛や拍手の音は、静かだった県営球場のスタンドと違って心地よく聞こえる。でもさすがにうるさすぎたのか副校長から校内放送が入った。
「ちぇっ、またあいつかよ、ホントウッゼー。
んじゃま、また昼休みに部室で会おうぜ」
丸山にとっては気分の良くない凱旋だったかもしれないが、祝福の騒ぎはとても嬉しい喧噪だった。
しかしこの時間になっても咲からは返信が来ておらず、僕はちょっと残念な気分ではあるが、咲がいた場所は学校なので想定内とも言える。
それでも席へ座った僕に、背中越しではあるけどおめでとうとつぶやいてくれたので、僕は舞い上がってウキウキ気分になっていた。我ながら単純すぎるが、これも咲が魅力的過ぎるので仕方ない。
結局、教室へ入ってからも騒ぎは続き、他のクラスも同じようだった。というか、木戸たちが大声で話しているのか二つ隣のここまで聞こえてくる。
この興奮はいつ納まるのだろうか。僕はまだまだ収まらなそうに感じている。きっとチームメイトも同様だろうし、それはいつまでも騒ぎ続けている一組の様子を聞けば分かる。まあ羽目を外しすぎないようにしてくれよ、と、野球部員が僕しかいない三組でひとり余韻に浸るのだった。
席に座って授業が再開され他所までは記憶があったのだが、いつの間にか昼になっていた。木戸たちはまだ興奮から覚めていないのか、いつもよりさらに大声で打ちの教室へ近づいてくる。
このままではまた小町にうるさく言われるだろうと考えるだけでうんざりだ。僕は席を立ってから咲へ目配せし、やつらが入ってくる前に教室を出た。
弁当持ち以外は購買へ寄ってから部室へ向かう。しぶしぶながら今日はチビベンも部室飯だと諦めていた。僕は購買へ並んでいる間に江夏さんへメールを打ち、学校が終わったら連絡すると伝えておいた。
ダブルシャケ弁当を片手に部室へ到着すると、そこには野球部員以外の運動部や、全く無関係の生徒が押しかけていて大変なことになっていた。特にメディア研究部はカメラやビデオを持ちこんでインタビューすると息巻いているらしい。
勝負の前に応援してくれていたらもっと嬉しかったけど、勝ったからこそ注目されるというのもまあ当たり前の話だ。去年までは色々と問題も起こしたりしていて、あまり健全とは言えなかったのだし。
結局、昼のミーティングなんてとてもできる状況ではなく、昼飯を食べるのがやっとだったし、その隙にと言った感じで逃げていったチビベンにとっては良かっただろう。置いていかれた丸山はブーブー言っていたが、紹介してもらったバレー部の後輩とはまだそれほど親しくなれていないらしいから踏ん切りがつかなかったのかもしれない。
そして一番はしゃいでいたのは嶋谷だった。自分から積極的に活躍の情景を披露し、それはもう得意げでほほえましかった。今日の嶋谷は本当にいい活躍をしてくれたと思うし、これからに期待が持てると感じていた。まあ、それはバッティング以外でということではあるのだけど……
それでも多少の伝達事項が伝えられ、今日は放課後の練習は希望者のみでの特打だけとなった。僕は先発完投したから完全休養と言うことで不参加だが、嶋谷はやる気が満ち溢れているらしく、当然特打参加するとのことだ。意外にほかの部員も大体が参加するつもりらしく、チビベンさえもメールで参加を伝えてきていた。
結局不参加は僕と三年生の一部、それと珍しく由布だ。どうやら父親が遠征から帰宅するらしく、今日の結果を報告しながら食事へ連れて行ってもらうのだとご機嫌だった。
僕も帰ってから報告会、それと祝勝会になるだろう。咲と二人きりになれるチャンスがあるといいけどなあ、なんて考えつつ午後の授業へ向かった。
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