限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
43 / 376
第二章 皐月(五月)

40.五月二十七日 午後 霊魂離脱

しおりを挟む
 バスが走り出すといよいよ帰宅の途につくことになりやることもない。腹も膨れて満足感を得た生徒たちの多数は、口だけでなく目を閉じる者が増えてきた。八早月やよいも実はその一人だった。

「なんだか私も眠くなってしまったわね。
 きっとお腹が満たされたせいでしょう」

「アタシも一眠りしたいかな。
 夢も大人しくしてなさいよ?」

「いつも騒がしいハルに言われたくなーい。
 ふふ、それじゃおやすみなさい」

 本当は寝たふりをしたいだけの八早月だったのだが、二人も眠たくなっていたらしくちょうどいいタイミングで一人の時間を作ることが出来た。

 その理由はもちろん、先ほどの少女と話をすることである。八早月と真宵は相当離れていても意識のみで会話が可能である。しかしさすがに集中を要するため、友人と話しながらと言うわけにはいかない。

真宵まよいさん、その後いかがですか?
 捕まえた鳥はちゃんと逃がしてあげてくださいね』

『はい八早月様、あのカラスはすでに解放済みでございます。
 どうやらかんなぎのことは御神子みかんこと呼ぶようですね。
 先ほどの少女もその一人で、もう一人の少年と二人でこの地を護っているとか』

『やはり神職者だったのですか。
 それにしても、こちらのことを察知してわざわざ顔を見せたことが気になります。
 彼女はなにか言っていましたか?』

『そのことなのですが、彼女と少年の二人ともまだ一緒におります。
 八早月様とお話したいようなのですが、こちらに参られますか?
 あのカラスの妖もですが、八畑とは色々と違いがあるようです』

『ようやくバスの中も静かになりましたし、そちらへ伺いましょうかね。
 真宵さん、そちらから姿引すがたびきをしていただけますか?』

 八早月がそう声をかけると、真宵が意識を集中しはじめた。そして間もなく真宵が分身すると、分かれ出た側が八早月の姿へと変わる。もちろんバスの中には本物の八早月が残ったままである。

「やはり距離があるせいかはっきりとは見えませんね。
 でも聴覚は問題なさそうです」

「力不足で申し訳ございません。
 己の未熟を恥じるばかりです」

「真宵さんのせいではありませんよ?
 本来はこれほど遠くで具現化出来ないものらしいですからね。
 さてと、ええっと私は櫛田八早月と申します。
 十久野郡にある八畑村の者で、昨日今日と学校行事でこちらを訪れていました」

「これはご丁寧に、ウチは高岳零愛こうだけ れあ、高校二年だよ。
 昨日いた海のそばの白波町から、この小山町にある浪西高校へ通ってるんだ。
 こっちは弟の飛雄とびお、双子だから当然同い年さ」

「まだ高校生なのに妖討伐をしているなんて優秀なのですね。
 やはり神社か何かで代々継承しているのですか?」

「違うよ、ウチらの一族に双子が産まれた場合には役目が勝手に決まるのよ。
 なんか知らないけどこのカラスが勝手に従うようになっててさ。
 一応、伝承と伝統に従ってやらなきゃいけないことになってるからってだけ。
 アナタは? まだ小さいのにしっかりしてて固そうだからそういう家柄とか?」

「そうね、私は数千年続いているらしい妖討伐の家系なの。
 確かにまだ中学一年生だけどこれでも当主なのよ?
 私の他にもいるけど全員大人ですからね」

「じゃあウチらとは大分違う感じみたいね。
 ウチの家系は白波町にある祠の近くに住んでるってだけだし。
 でもなぜかウチの八咫烏と弟の金鵄が代々双子の家来になるんだってさ。
 この子たちは神翼かんばねって言うんだけど、そこの剣士さんと役目は同じだと思うよ」

「ところ変われば名も変わるってことなのね。
 私は巫でこちらの真宵さんは呼士よびしというのよ。
 そのカラスとは違って妖ではないけど常世とこよから来ている点では同じかしら」

「なんかごめん、ウチらはそういう教育みたいなの全然なくてさ。
 ちょっとの伝承と、ネットで調べたりして覚えた程度の知識しかないの。
 常世ってことはあの世みたいなもんよね?
 妖もそこから来てるのかなぁ、この辺りでは海の中から来るんだよね」

「先ほどはそういう気配を追って私を探しに来たってこと?
 妖の気配があったから討伐に来たのかと思ってたわ」

「ああ、気配を追ってたわけじゃなくて学校にいただけ。
 でも妖が出たからドライブインの近くに来たのよね。
 そしたら昨日と同じこの真宵さん? の気配に気が付いたってわけなの」

 八早月は初めて他流派というのか、妖討伐を生業とする他の一族に出会って緊張していたのだが、その相手である高岳零愛はそんなことは気にしない様子で話を続けている。元々対人意思疎通コミュニケーション能力に欠けている八早月は、彼女の距離の詰め方に戸惑ってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...