限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第二章 皐月(五月)

40.五月二十七日 午後 霊魂離脱

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 バスが走り出すといよいよ帰宅の途につくことになりやることもない。腹も膨れて満足感を得た生徒たちの多数は、口だけでなく目を閉じる者が増えてきた。八早月やよいも実はその一人だった。

「なんだか私も眠くなってしまったわね。
 きっとお腹が満たされたせいでしょう」

「アタシも一眠りしたいかな。
 夢も大人しくしてなさいよ?」

「いつも騒がしいハルに言われたくなーい。
 ふふ、それじゃおやすみなさい」

 本当は寝たふりをしたいだけの八早月だったのだが、二人も眠たくなっていたらしくちょうどいいタイミングで一人の時間を作ることが出来た。

 その理由はもちろん、先ほどの少女と話をすることである。八早月と真宵は相当離れていても意識のみで会話が可能である。しかしさすがに集中を要するため、友人と話しながらと言うわけにはいかない。

真宵まよいさん、その後いかがですか?
 捕まえた鳥はちゃんと逃がしてあげてくださいね』

『はい八早月様、あのカラスはすでに解放済みでございます。
 どうやらかんなぎのことは御神子みかんこと呼ぶようですね。
 先ほどの少女もその一人で、もう一人の少年と二人でこの地を護っているとか』

『やはり神職者だったのですか。
 それにしても、こちらのことを察知してわざわざ顔を見せたことが気になります。
 彼女はなにか言っていましたか?』

『そのことなのですが、彼女と少年の二人ともまだ一緒におります。
 八早月様とお話したいようなのですが、こちらに参られますか?
 あのカラスの妖もですが、八畑とは色々と違いがあるようです』

『ようやくバスの中も静かになりましたし、そちらへ伺いましょうかね。
 真宵さん、そちらから姿引すがたびきをしていただけますか?』

 八早月がそう声をかけると、真宵が意識を集中しはじめた。そして間もなく真宵が分身すると、分かれ出た側が八早月の姿へと変わる。もちろんバスの中には本物の八早月が残ったままである。

「やはり距離があるせいかはっきりとは見えませんね。
 でも聴覚は問題なさそうです」

「力不足で申し訳ございません。
 己の未熟を恥じるばかりです」

「真宵さんのせいではありませんよ?
 本来はこれほど遠くで具現化出来ないものらしいですからね。
 さてと、ええっと私は櫛田八早月と申します。
 十久野郡にある八畑村の者で、昨日今日と学校行事でこちらを訪れていました」

「これはご丁寧に、ウチは高岳零愛こうだけ れあ、高校二年だよ。
 昨日いた海のそばの白波町から、この小山町にある浪西高校へ通ってるんだ。
 こっちは弟の飛雄とびお、双子だから当然同い年さ」

「まだ高校生なのに妖討伐をしているなんて優秀なのですね。
 やはり神社か何かで代々継承しているのですか?」

「違うよ、ウチらの一族に双子が産まれた場合には役目が勝手に決まるのよ。
 なんか知らないけどこのカラスが勝手に従うようになっててさ。
 一応、伝承と伝統に従ってやらなきゃいけないことになってるからってだけ。
 アナタは? まだ小さいのにしっかりしてて固そうだからそういう家柄とか?」

「そうね、私は数千年続いているらしい妖討伐の家系なの。
 確かにまだ中学一年生だけどこれでも当主なのよ?
 私の他にもいるけど全員大人ですからね」

「じゃあウチらとは大分違う感じみたいね。
 ウチの家系は白波町にある祠の近くに住んでるってだけだし。
 でもなぜかウチの八咫烏と弟の金鵄が代々双子の家来になるんだってさ。
 この子たちは神翼かんばねって言うんだけど、そこの剣士さんと役目は同じだと思うよ」

「ところ変われば名も変わるってことなのね。
 私は巫でこちらの真宵さんは呼士よびしというのよ。
 そのカラスとは違って妖ではないけど常世とこよから来ている点では同じかしら」

「なんかごめん、ウチらはそういう教育みたいなの全然なくてさ。
 ちょっとの伝承と、ネットで調べたりして覚えた程度の知識しかないの。
 常世ってことはあの世みたいなもんよね?
 妖もそこから来てるのかなぁ、この辺りでは海の中から来るんだよね」

「先ほどはそういう気配を追って私を探しに来たってこと?
 妖の気配があったから討伐に来たのかと思ってたわ」

「ああ、気配を追ってたわけじゃなくて学校にいただけ。
 でも妖が出たからドライブインの近くに来たのよね。
 そしたら昨日と同じこの真宵さん? の気配に気が付いたってわけなの」

 八早月は初めて他流派というのか、妖討伐を生業とする他の一族に出会って緊張していたのだが、その相手である高岳零愛はそんなことは気にしない様子で話を続けている。元々対人意思疎通コミュニケーション能力に欠けている八早月は、彼女の距離の詰め方に戸惑ってしまうのだった。
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