魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)

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悩める少女

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 今日はサクラが風呂へ入る際に置いていかれてしまった。やはり小娘と言えと恥じらいはあるらしく、こうして部屋に投げ出されることがある。

 まあ理由はそれだけではなく、考え事をしたいときにも俺様を外すこともある。今日はおそらく後者だろう。二人の友にどこまで話をするのか、そして今後どうするのか。じっくり考えると言ってから何日かたったがまだ答えが出ていない。

 いくらなんでもそろそろ決めるのだろうが、どのような答えであっても俺様は小娘の希望に応えるのみ、というよりそれしかできないと言った方が正しい。

「神具様、お待たせしました。それじゃ次は神具様のお風呂っスね」

 いくら話しかけられても眼鏡としてかけてくれねば返事はできぬ。まったく不便な身体だ。だがどんなに考えようが身体を手に入れることはできないわけで、僅かな自由を手に入れるにもこの小娘にかけてもらうしかないのだ。

「はい、キレイになりましたよ。曇り止めを塗っておきましたから今日のお鍋も安心ですね」

『そうか、今日は鍋料理なのか。俺様は水炊きがいいがなあ。きっと湯豆腐であろう』

「味もわからないのに好みがあるなんておかしいっスね。神具様って時々面白いです。アタシも水炊きがいいですけど湯豆腐率高いですからねえ」

 まあ確かに味はわからんのだが、鍋の中でサクラが一番好きなものが水炊きだから言ってみたまでだ。使用者の感情まではわからないはずなのだが、なぜか幸福感だけは感じ取れるのだから小娘の好物なぞお見通しである。

 だがこんなことを知られようものならまたヘンタイ呼ばわりされてしまうので、うっかり口を滑らせないよう注意しなければならん。勘の良い娘だ、隙を見せるとすぐに感づいてしまうに違いない。

『湯豆腐は親父の好みだから仕方あるまい。それなのになぜあやつはあれほど肥えているのだ。外に女でも囲ってそこで食べて来てるのではないか?』

「ちょっとなんてこと言うんですか! お母さんがそんなこと聞いたらお父さんの命が危うくなりますよ」

『お前が言わなければいいだけの話よ。実際にそんなことあるわけないしな』

「ならいいんですけど…… ああ見えてお父さんは女の人にやさしいですからねえ。以前も一触即発の修羅場になりかけたことがあったじゃないですか」

『よく修羅場なんて言葉を知っているな。だがもう数年前の話ではないか。あのころはもう少しスリムでキリっとしておったはずだがなあ』

「今は店にいることが多いですからねえ。配達へ行かない分、運動不足っスよ」

『運動と言えばお前も少し体を鍛えた方が良いぞ。今のままでは蛇を追いかけまわしただけで動けなくなってしまうからな』

「そう言われましてもですねえ。アタシ一人で決められるわけではないっスから」

『まだ決めかねている、といった様子だな。ちなみにだな、剣士の娘はやはり本格的な魔法訓練か討伐経験がありそうだぞ』

「ええっ!? どういうことっスか? いつ? どこで? どのように!?」

『はっはっは、いつになく取り乱しているな。先日の終業式の日だったか、あの娘が手に怪我をしていただろう? あれはおそらくやけどだろうな』

「やけど、ですか? 確かに手に包帯巻いてましたけどささくれが刺さったって言ってたっスよ?」

『あやつは炎属性だからな。だがやはり身体が未成熟なのだろう、魔法の負担に耐えられなかったとみえる』

「またそういういやらしい言い方をする…… それはともかく炎属性ってなんですか?」

『今まで俺様を通して世界を見てきたと言うのにわかっていなかったのか。人間や動植物に色のついた魔力が見えることがあるだろう? お前の場合は全身に青い魔力、剣士の娘の左手には赤い魔力が見えているはずだ』

「そうですね、見えてるのが魔力だってのは何となくわかってました。あとは色によってなにか違いはあるんだろうなってくらいで」

『そこまでわかってるなら話は早い。赤は炎、青は水属性と言うことになっている』

「じゃあモミジの緑は何属性っスかね。たまーに指先が緑に光ることがあるじゃないですか」

『緑は風属性だな。ちなみにあの蛇は水属性ってことになるわけだ。光の三原色は知っているか?』

「えっと、なんとなくはわかるっス。赤白黄色のですよね?」

『バカ者、それではチューリップではないか。三原色と言ったら赤緑青の三色だろうが。理学の教科書を出せ、あれに載っていたのを見た気がする』

 サクラが出してきた教科書に載っていた図を見ながら説明するとすぐに理解できたようだ。俺様自身には戦う力はないため知識くらいしか与えられない。だからこそ魔竜をはじめとする魔物を倒すのならば小娘三人組の力が必要になる。

 こやつらを鍛え魔物と戦わせる、なんて刺激的で楽しめそうな響きなのだ。多少の危険はあるかもしれないが俺様の力をもってすればまあ何とかなるだろう。いよいよ数千年に及ぶ退屈が解消される時が来たのだ。

 娯楽の実現を果たすにはまずサクラを鍛えるのが第一歩だ。幸い魔力量は膨大だし飲みこみも早いと素材としての適性は言うこと無しである。あとはもう少しやる気があれば申し分ないがそれも解消されつつある。

「―― ということは青い魔力の魔竜にはアタシの力は無力だって意味ですよね? 青を白くするのにモミジとカタクリさんの力が必要なんですかあ。むしろアタシの存在意義ってどこにあるって言うんですか?」

「なにもこの世にあの魔竜しかいないわけではない。別の色の魔力をまとったものもおるし、そもそも色なしも存在する。特に悪意の塊と化した人間は黒い魔力をまとうようになるのだ」

「悪意の塊、ですか? なんだか物騒な響きっスねえ」

「うむ物騒だな。人間が抱いた負の感情は大気中へあふれ出て拡散されて消えていく。しかし近くに吸収するやつがいると餌のように取り込まれてしまうのだ。それが常習化するとある種の依存関係のようになり吐き出す側の行動が止まらなくなる」

「えっともっとわかりやすく説明してくださいよ。あの魔竜が学校のどこかで発生する負の感情を食べているところまではわかりました。でも学校で常習的な負の感情が発生するなんてことありますか?」

『はあ、本当にお前はめでたい奴だ。自分が今まで受けてきたことを考えればすぐにわかるだろうに。幼少のころから人の悪意を目の当たりにしてきたではないか』

「それっていじめられてたことですかね…… 確かに悪意と言えなくはないですが、しょせん子供のすることですよ? 話がちょっとおおげさじゃないっスか?」

『そんなことは無いぞ。子供のいじめというのは社会の縮図と言っていい。容姿や成績、親の地位などなどくだらないことがきっかけとなる。同様に、大人の世界では仕事上の力関係や財力が加わるくらいだろ』

「じゃあ学校内で起きているいじめが元で魔竜が生まれたってことっスか? 学校なんて集団がある限りいじめなんて無くなりませんよ。そしたらずっと魔物が生まれ続けるってことになりませんか?」

『サクラは賢いな。確かにいじめをはじめとする負の感情をなくすことはできない。他人と比較し合うのは競争心の一面で本能に近いものがあるからな。ただな、悪意の塊と呼べるほど膨らむ前に食い止める方法はあるんだよ』

「なんだ、ちゃんといい方法があるんじゃないですか。怖いことばかり言うから心配しちゃいましたよ」

『その通り、魔竜を倒せば万事解決と言うわけだ』
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