魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)

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少女の告白

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 春休みに入ってから数日、サクラは家の手伝いをするかたわら魔法の練習も欠かさなかった。やることと言えば手のひらでマナを練って凝縮するだけの地味なもの。しかしこの小娘は文句ひとつ言わず実直に繰り返している。教えている身で言うことではないのだが、付き合っているこちらが退屈してしまう。

『なあサクラよ、こんな基礎練習ばかりでつまらなくは無いか? 少しくらい息抜きをしてもいいのだぞ?』

「自分でやらせておいて不思議なことを言いますねえ。基礎計算や単語書き取りみたいなもんですから気にならないっスよ。ただじっと電話番してるよりは面白いですしね」

『だが俺様は退屈だ。お前は優秀だが失敗が少なくことが予定通り運びすぎる。結局他の娘どもにはなにも話していないしな』

「アタシは神具様の息抜きのために生きてるわけじゃないっスよ。まったく無茶な事ばっか言いますねえ。カタクリさんとモミジは魔竜のことなんて聞いて信じてくれますかね」

『なんだ怖いのか? 信じなかったからといって何が起きるわけでもあるまい。こうしている間にも魔竜は成長を続けているだろう。そのほうが心配ではないか?』

「それなんですけど、学校が休みに入ったから成長は止まってるんじゃないですか? 悪意を出しているのが誰かわかりませんけど、少なくとも学校にはいないですし。とは言っても魔竜にとっての餌が無くなったらどうするんでしょうかねえ」

『そりゃ餌を探し求めて徘徊するだろうなあ。もちろん学校の敷地内から出ていくことも十分考えられる。というかすでに出ているかもしれん』

「あちゃー、春休みに入ってからも監視した方が良かったっスねえ。探しに行った方がいいのかなあ」

『池に落としたビーズを探すようなものだがな。ただ、どこかから行ったり来たりしていたようだから痕跡はあるかもしれん。一応見に行ってみるか?』

「それはいい案っスね。せっかくだからみんなも誘ってみますか。伝えたいこともありますしね」

『ようやく、か。決断までにずいぶん時間がかかったもんだな。お前にしては珍しく慎重ではないか』

「そりゃ自分一人の問題じゃないですしね。友達になにか起きたら嫌じゃないっスか」

『まあそんな大げさなものではないぞ。大昔の神話のように世界を救うだの人類の未来のためになんて話ではない。せいぜい自分たちの身の回りの安全を保つ程度だ』

「とりあえず二人には連絡入れましたけど、まだなんて言うか考えてないんですよねえ。突然おかしなこと言って頭おかしいって思われたらショックっス」

『本当に魔物を退治する気なら三人の力が必要になる。それが無理なら大人しくしているのが吉とも言えるな。俺様は決して無理強いしないぞ』

「でもそうしたら学校とか近いところで被害が出るって脅すじゃないですか。いったいどうすればいいのかわからないっスよ。警備兵に通報するんじゃだめなんですか?」

 そんなことをしたら誰が俺様に娯楽を提供すると言うのだ。討伐隊に取り上げられたとしても会話できるとは限らん。それに年端もいかぬ子供が困難に立ち向かうところこそ見どころであり最大の見せ場ではないか。などとはとても言えず適当にごまかすことにした。

『警備兵団や討伐隊へ通報すると俺様の存在は知られてしまう。おそらくは、いや絶対に取り上げられるだろうよ。お前がそれで構わんのなら俺様に止めるすべはない』

「はあ…… それはなんというか悩みますねえ。せっかくこんな貴重な体験できてるわけですし、手放すのはもったいない。―― あ、もちろん神具様とお別れするのが寂しいから嫌だってことです」

『いまいち釈然としないがそう言うことにしておこう。まあ選択肢は増えたと考えておいても良いな。自分たちで倒すか、放っておくか、俺様を手放すか』

「わかりましたよ。とりあえずお母さんが帰ってきたらお昼食べて出かけましょ。学校で待ち合わせにしておきますね」

 ようやく方向性が定まり行動に移すことになって何よりだ。これで春休みの間中退屈すると言うことも無くなるだろう。昼飯を食い終わったサクラはカバンにおやつを突っ込んでから家を出た。

 学校へ着くとすでに二人はやってきていた。サクラはどうにもとろいと言うかのんびりしすぎるきらいがある。

「サクラ自分で呼んでおいて遅いよー。どうせまたご飯ゆっくり食べてたんでしょ」

「モミジはせっかちすぎるわよ。ウチだって結構早く来たのにもう来てるんだもん。でも呼んでくれたおかげで午後の訓練抜けられたから感謝だわ」

「二人ともすまないっス。大した用じゃなかったんですけどね。ところでカタクリさんはやけど大丈夫っスか?」

「えっ!? やけど? 手の怪我のこと? やけどじゃなくて切り傷だよ」

 サクラのやつ、随分いきなりぶっこみやがったな。これから話をするのに警戒心を解こうと思ったのか、信憑性を増そうとしたのかわからないが、どちらにしても悪い方向へは向かなそうな気がする。

「隠さなくてもアタシにはわかるんですよ。炎の魔法が強すぎちゃったんですよね?」

「そ、それは…… なんでわかっちゃったの? もしかして誰かから聞いたの?」

「いえいえ、実はアタシには魔力が見えるんですよ。カタクリさんは炎属性の魔力を持ってますよね。アタシは水属性なんです。ちなみにモミジは風属性ですよ」

「マジで!? 私にも魔力あるの!? と言うことは魔法使えるってこと!?」

「うーん、ちょっとわかりません…… そこんところどうなんですか?」

「いや、私に聞かれてもわかるはずないでしょ? 魔法なんて士族しか使えないと思ってたんだからさ」

『バカかお前は、口に出す奴がどこにいる! 訓練すれば使えるようにはなるはずだが、どうやって訓練するかが問題だな。お前と同じようにマナを練ればいいが、目に見えないので続けていかれるかどうかわからん』

「とりあえず属性のことは忘れてください。カタクリさんはきっと家で炎を出す訓練をしているんですよね? それはやけどしたりするので子供のうちはやらない方がいいらしいです」

「随分詳しいのね。うちの親はそんなこと教えてくれてないわよ? 第一炎を出さなかったら訓練にならないじゃないの」

「問題はそこなんですよねえ。まずは目に見えない魔力を感じ取れるようになるのが一番なんです。手のひらに魔力が乗っているようなイメージを持てますか? 絶対に炎のことは思い浮かべないでください」

「うーん、やってみるけど普段とは全く逆ね。いつもは炎が乗っているのをイメージするところから始めているのよ」

「それだと体に負担がかかってしまうんです。手のひらに無色の球体が乗っているような感じがいいんですけどね。難しそうなら手のひらに膜が張っているようなイメージでもいいっス」

「ねえねえ私は? 風属性って何ができるの? どうやったら魔法使いになれるの?」

「モミジの場合は魔力があるの指先だけなんですよ。だから指先に魔力を感じられるようにしてください。と言っても見えないしわかり辛いですよねえ」

『両手の指先を付けたり離したりして間に魔力を練るのだ。続ければそのうち魔力が感じられるようになる』

「だそうです、じゃなくて、指先を付けたり離したりしながらイメージしてください。間になにかあるような気がして来たらイイ感じっス」

「わかったわ、やってみる」

 小娘ども、思っていたよりも素直に受け入れたな。サクラのように変に現実的ではなく子供らしさがあると言うことだろうか。しかし問題はここからで、数十分ほど経つと二人とも飽きてきてしまったようだ。

 予想はしていたことだが先が思いやられる。将来の目標があるカタクリはともかく、普通の裁縫屋を継ぐであろうモミジは目的意識も持てず、聞こえのいい魔法と言う言葉に惹かれて参加しているだけだ。

 さてこの先どうするか、やはり未熟なものが成長してく様は本当に美しい。サクラがどうするかが楽しみである。俺様が直接動けないことはこういったときに恨めしいものだ。
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