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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

30.魔人の少女

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 フードコートへ着いたミーヤと魔人の少女は、それぞれ好きな物を頼んで席に着く。もちろんミーヤのおごりだ。

「名前を聞いてもいいかしら?
 別に根掘り葉掘り聞くつもりはないけど、名前くらい知らないと話しづらいでしょ?」

「あ、ごめんなさい、名乗りもしないでお金だけ出してもらっちゃって。
 ボクはチカマ、ここへは、あの…… 旅をしてて……」

「無理に話す必要はないわよ?
 まずはお食べなさい、冷めちゃうわ」

 チカマは頷き、手に持ったベーコンサンド的な物へとかぶりついた。ミーヤは昨日レナージュが食べていたラーメンがどうしても気になり自分でも頼んでみた。麺は想像以上にツルツルしていて完全にラーメンの食感だ。生地を伸ばさずに塊を削って作っている刀削麺だが、駅前の汚い中華屋で食べたものよりもおいしいかもしれない。

 しかしスープはダメだ…… 鶏がらの出汁は効いているが塩気が少なすぎて味にパンチがない。どこへ行っても塩不足が付きまとうことが嘆かわしい。具材の野菜はまあ当たり障りなくといったところだが、チャーシューの代わりの鶏肉はやわらかでおいしかった。おそらく塩漬けなのだろうが、塩をふんだんに使うポイントを間違えていると感じる。

「ごちそうさまでした。
 チカマ、おいしかった?」

「うん! 何から何までありがと!
 こんなちゃんとしたご飯久しぶり!」

「もし良かったら、なんであんなところにいて、こんな格好しているのか聞かせてくれる?
 知ってどうなるというものでないかもしれないけど、困ってるのなら力になりたいのよ」

「…… そう…… でもボク、密入者なの……」

 チカマは小さな声でボソッとつぶやいた。密入者と言うことは身分登録していないのにこそっと入ってきたってこと? だからあんな路地に隠れていたのかもしれない。

「別にそんなの構わないわよ?
 なんなら私が身分登録してもらえるよう掛け合うわ。
 突然言われても信じられないかもしれないから、まずは私のことを話すわね」

 ミーヤは自分が神人であることから始め、カナイ村で受けた恩、旅に出たことなどを話していった。流石に転生前のことは黙っていたが、わずかな間に何人もの友達が出来たことや、今また友達が出来たことが嬉しいのだと伝えてみたところチカマは突然泣き出した。

「そんな…… ボクのこと友達だなんて……」

「ごめんなさい、勝手に友達になったつもりになってたから気を悪くした?
 でも、なんだかあなたとは仲良くなれそうな気がしてしまったから……」

「いいえ違うの、そう言ってもらえたことが嬉しい。
 ボクは生まれてすぐに親に捨てられて放浪してて、この二年ほどずっと一人……
 だからこうやって優しくされたことも、友達って言われたことも初めてで……」

「そうだったのね…… 一人って辛いもんね。
 でもこれからは私が一緒だから安心して。
 もちろんチカマがそうしたいと思ってくれるならだけど」

 ミーヤとチカマとは大分違ってはいたものの、七海の境遇と重なる部分があると感じていた。それだけに放っておけず、今後の面倒を見ていくつもりでいた。何より、チカマの黒い髪とショートカットがマールに似ているように感じて、とても他人のようには扱えなかった。

 しかしチカマはそう考えていない様子で自分のことを語り始めた。

「温かい言葉をかけてくれて本当にありがとう。
 でもボクは一緒に居られない……
 だってボクはバタバ村の出身だから……」

 そう言われても、世間知らずのミーヤには何がなんだからわからない。そのことを正直に話すとチカマは驚いた様子で話を続けた。

「バタバ村は窃盗団が支配する村。
 ボクはそこで首領の子として生まれたの。
 跡目を継ぐ子を得るために、首領は随分危ない橋を渡ったって言ってた。
 それなのにボクには才能が無かった、窃盗スキルを持たず産まれてしまったから……
 だからせめて金に換えると言って口利き屋へ売られたの。

 窃盗スキルのないボクは窃盗団の一員にはなれなかったけど、隠密スキルがあった。
 だから隙を見て逃げ出して歩き続けたんだ。
 王都についた時はすごくうれしかった…… でも入れてもらえなくて……

 次についたのがこのジスコなの。
 ここにも入れてもらえなかったけど、荷馬車に潜り込んで街へ入った。
 それから一年くらいは落ちている食べ物を拾ったり…… 悪いこともした……
 でもここ何日かは食べる者が手に入らないし、井戸には近づけないし、辛かった……」

「そうだったのね…… 辛かったね……
 だから今度は私がその辛さを取り除けるよう力になりたいのよ。
 私は与えられて、恵まれて、何も苦労しないで今ここにいる。
 その境遇は、誰かに今の幸せを分け与えるために授けられたものだと思うの」

「でもそれってハーベスさまにはなんの利点もないでしょ?」

「だから信じられない? そんな寂しいこと言わないでよ。
 でも騙されてたっていいじゃない? その間あなたが生きていくに困らないならね。
 我慢できなくなったら私から離れて旅に出たっていいわ」

「そんなありがたくて幸せなこと…… ボクに許される!?
 窃盗団首領の子供なのに……」

「チカマはチカマ、生き方を決めるのは自分自身よ?
 だから私は自分がやりたいように、生きたいように、あなたを友達にしたいの。
 わがまま言ってゴメンネ」

 チカマは静かに泣いている。つられてしまったのか、共感しているのかわからないが、ミーヤの目からも涙がこぼれていた。ミーヤの心は完全に決まった。あとはチカマがどうするか決めるのを待つだけだ。しかしその前に……

「ねえ、話をし過ぎて疲れたわね。
 なにか甘いものでも食べようよ」

 そう言うと、チカマは笑顔になって元気よく返事をしてくれた。

 二人でフルーツの入ったクリームを「木の皮ごと食べずに」味わいながら、ミーヤはレナージュへメッセージを送った。もちろん新しい仲間が加わることについての相談である。しかし返信はない。まさかまだ寝ているのだろうか。念のためもう一度、今はフードコートにいてこれから裁縫店へ行き、その後細工屋へ向かうことも知らせておいた。

「それじゃチカマ、行こうか。
 一緒に来てくれる気になったんでしょ?」

「はい、ハーベスさまへついていく!」

「もう、その呼び方は止めてミーヤって呼んでよね。
 まずは服を買ってあげるから着替えましょ
 お代は気にしないでいいけど私に選ばせてね」

「そんな、色々してもらっちゃって……
 本当にいいのかな……」

「いいのいいの、私のために、だからね」

 そう言いながら再び裁縫店を訪れたミーヤは、チカマにどんな服を着せようかと散々悩み、何度も着替えさせて楽しんだ。きっと店主も困っていたはずだが、高価なドレスを購入してもらった上客なのだから文句は言えなかっただろう。

 最終的に、えんじ色のワンピースと白いパイピングのついた黒のフードつきポンチョ、中には白いブラウスをあわせてみた。とってもかわいいと褒めると顔を赤くして照れていて、それがまたかわいい。

「瞳の緋色とワンピースがよくあっていると思うわ。
 元がいいんだからやっぱりかわいい格好をしなくちゃね。
 肌着も多めに買っておきましょ」

 しめて…… ――そこそこの額を支払った。ミーヤはちょっと使いすぎたかも、と思ったが、チカマの笑顔を見たらすべて吹き飛んでしまう。さらに色違いで水色のワンピースも購入し自分のポケットへ仕舞い込む。そう、これはマールへのお土産だ。ミチャへは淡い緑色のワンピースと小さな宝石のついた髪飾りを選んだ。

「さあ、次はちょっと気合を入れていく必要があるわね。
 行くわよ! チカマ!」

 きれいな服に着替えたばかりなのに、そんな険しい顔をして何処へ行くのかと聞きながらチカマは後をついていく。しかしミーヤは行き先を教えずにただ歩いた。

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