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第二章 新しい出会いと都市ジスコ編

31.比べないで

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 ミーヤは神妙な面持ちでローメンデル卿の屋敷、の上に建っている小さな建物の前にいた。いきなり来てしまったが、アポを取っておいた方が良かったかもしれない。しかしこういうのはまず勢いだ。飛び込み営業のつもりで行ってみるしかない。中へ入ってみると衛兵が連絡してくれすぐに通してもらえた。なんだか拍子抜けである。

「こーれはこれは神人様、晩餐会まではまだ大分時間がございますが、なーにか急用でしょうか」

「ローメンデル卿、ごきげんよう。
 お忙しいところ突然の訪問失礼しました。
 今回はお願いがあって伺ったのです」

「ほう、そーれはそちらのお嬢様となーにか関係がございますかな?
 たとえば――」

 なにか知られている!? まさか密入で指名手配になっているとか!? とっさにチカマをかばう素振りを見せたが、卿はニコニコと笑顔を変えずに話を続けた。

「警戒は無用です。
 実はこーのようなことは多々ありましてな。
 商人が時折、地方から人を連れ帰ることがあーるのですよ」

「それは奴隷ですか?」

 今まで見聞きしてこなかった、異世界の闇を垣間見たばかりのミーヤはわずかに警戒心を高めた。しかし卿はまたも笑顔でそれを否定する。

「いーえいえ、あくまで村と本人の希望でございますよ。
 少しでも多くの物資を手に入れたい村と、都会へ出たいと言う当人、働き手の欲しい商人の、です。
 そーこで問題となるのが身分登録と言うことになるのです」

「身分登録に来る人がいるのはわかりました。
 今回の用件もそれで間違いありません。
 それで尋ねたいことが出来たのですが、商人は村へ渡した物資の代金をどう回収するのですか?
 村を出た人を無理に働かせるのではないのですか?」

「いーえいえ、そのようなことをすれば、最悪商人としての地位は剥奪となります。
 きーちんと契約を交わして行うことなので、双方とも守ることが殆どですよ。
 もーちろん商人は代金を回収するため、元村人から給与の一部を天引きします。
 でもそれは規定報酬の半分までと決めらーれております。」

 そこを伸ばすのか…… と無関係なことを考えてしまったミーヤだが、一つ疑問を感じて続いて質問してみる。

「仕組みはわかりましたが、その契約はどうやって拘束力を持つのでしょう。
 元村人が逃げ出してしまったら回収は不可能ですよね?
 それとも村へ圧力をかけるとか?」

「まーさか、そんなひどいことは致しませんよ。
 こーれには領主だから可能、いや、個人番号管理機構が可能としているのです。
 契約内容を記録し、守っていない場合は指名手配になーります。
 商人が破った場合は取引権停止で商売がでーきなくなります」

「なるほど、そうすると街への出入りが難しくなってしまうので逃げることはない、と。
 どちらかが嘘をついて相手を陥れようとした場合はどうですか?」

「神人様は疑い深いでーすな。
 そーの場合でも身元はわかっておりますので、捕らえて聴取し裁くだけです。
 個人番号管理機構は本当にすーばらしいものですね。
 実はコレ、神人様が作らーれたらしいですよ?」

「へええええ!! 他の神人は優秀なんですね……」

「こーれはこれは、失礼いたしました。
 そーういう意味で申し上げたのではごーざいません。
 何事も適材適所でごーざいますからね」

 この事実を知ったのは余計なことで、はっきり言ってショックが大きかった。自分が何の能力も持っていないことがわかっているからだ。せめてパパポでもあればプレゼン資料が作れるのに、でもそれがなんの役に立つかは全然わからない! ただ単に細工屋と拘束力のある契約ができないか考えたかっただけなのに、ミーヤがダメージを追うなんて……

「色々と興味深いお話ありがとうございました。
 それでは身分登録をお願いいたします」

「かーしこまりました、では係の者を呼びましょう。
 ちーなみに、登録後九十日以内に犯罪を犯しましたら、そーの罪は保証人の罪となります。
 そーこだけはごー承知おきくーださいませ」

 マジですか…… そんな重大なこと知らなかったし、せめて先に言っておいてほしい。別に決断に変わりはないけれど、心構えと言うものがある。ふと振り返るとチカマが少し震えているように見えた。彼女の不安を取り除くために精いっぱいの虚勢を張ってやる! と気合を入れたものの、へたくそな物真似にしかなっていない。

「もーんだいございません!
 私の娘みたいなかわいい子でーすからね!」

「そーれは結構なことですね。
 娘と言えば、もし子宝の種を入手することがあれば、わーたくしへの譲渡をご検討ください。
 わーたくしには娘が六人おりますが、息子がおりませんのーでね」

 六人も子供がいるなんて、養うだけでも相当の財力が必要だろう。それよりも子宝の種は一つで相当の財産になると聞いたことがある。それを六つも使ったことがあるなんて想像を絶するすごいことのはずだ。

 そういえば、カナイ村では子宝の種が発見されたときには使用の優先順位が決められていて、働き手が絶えないようにしていると言っていた。しかし、ある日突然いなくなる者もいたらしいので、まあそう言うこともあるのだろう。

 ほどなくしてアノ管理機構担当者が現れて、案内に従い身分登録を行った。特にミーヤが何かすることは無かったのだが、おそらくはミーヤの保存データにも保証人であることが記録されたことだろう。これでチカマには九十日間、いや気持ち的には永遠にだけど、何事もなく過ごしてもらいたいものだ。

「ミーヤさま、ボクのためにごめんなさい。
 でももう悪いことなんてしないから、絶対にしないよ」

「わかってるわよ?
 大丈夫だからこちらへいらっしゃい」

 ミーヤはそう言ってチカマを抱きしめた。のだが…… 今のミーヤには人の体臭が気になるものになっていた。これは急いで宿へ向かい水浴びをさせなければならない!

「本当は道具屋へ寄りたかったけど、その前に宿へ行って体をキレイにしましょ。
 今まで一度も洗って無さそうだから、私がキレイに洗ってあげるね」

 チカマはバツが悪そうに、しかし嬉しそうに微笑んだ。ほんの数日前までのミーヤも似たようなものだったのかと思うとぞっとする。暮らしは人を変えるのだと考えるいい機会になった。

 宿屋へ向かっているとレナージュからメッセージが返ってきた。まさかようやく起きたのか? と確認してみると、本当に今起きたばかりとのことだ。イライザはすでに帰宅してたようなので、ちゃんと準備を始めていることを期待する。道具屋へはレナージュが行ってくれると言うので、ミーヤ達はマーケットへ寄ってから細工屋へ行き、そのあと宿へ帰ると伝えた。チカマの件に触れていなかったのが気になるが、戻ってからまた説明すればいいだろう。

「チカマはお酒飲めるの?
 私は結構弱いから飲みすぎてたら止めてね」

「ボクもあまり飲んだことないので先に酔いつぶれるかも。
 それよりほかの人に嫌われないか心配……」

「そんなの会ってから気にすればいいって。
 何があっても私は味方だから安心してね。
 だって保証人なんだからさ!」

 チカマはヒーっと言いながら肩をすくめ、それを見たミーヤは笑顔で応えた。

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