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第三章 戦乙女四重奏(ワルキューレ・カルテット)始動編
49.魔獣
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三人は、イライザが指定したローメンデル山手前の窪地へ到着してから救護用としてベッドを広げた。あとは連れ帰ってくるのを待つだけ、と言いたいところだが、魔獣がどこにいるのかわからない現状では加勢に行くことも考えておかなければならない。
「レナージュ? 中型の魔獣って普通なら麓にはいないんでしょ?
なんで降りて来てるのかな?」
「うーん、あんまり聞かないケースだからねえ。
上で遭遇して逃げてきたとか、わざわざ連れてきたか、そんな所じゃないのかな。
魔獣はマナを持ってる獣って意味だけど、逆に言うとマナを補充し続ける必要があるの。
だから地表よりも大気マナ濃度の濃いところに集まる傾向があるのよね」
「だから山の上のほうにいるの?
地下迷宮にいるのも同じ理屈?」
「うん、地表を基準にして上でも下でも遠くなればなるほどマナ道度が濃くなるって言われてる。
まあ誰かが測ったわけじゃなくてそう言われてるってことだけどね」
それならば山で元いた場所あたりへ戻っていっている可能性もあると言うことか。イライザの身に危険がないことを願うしかない。その時レナージュの元へモーチアからメッセージが入った。レナージュの顔が曇りながらも引き締まる。
「魔獣の詳細が分かったんだけど、どうやらナイトメアって馬型の魔獣だね。
大きさ的には中型に分類されてるけど、中型上級っていってちょっと手ごわいよ。
イライザだけならやられることは無いはずだけど……」
「まさか、けが人を抱えてたら危ないかもってこと!?
私も行ってこようか?」
「何言ってるの! 神人様で普通より強くてもあなたはまだレベル1なのよ?
いくらなんでも無茶すぎるわよ。
それにけが人を見つけたら即応急処置して、走れるくらいにはすると思うから心配いらないわ」
「そっか、治療師だもんね。
じゃあこで連絡を待つよ」
イライザからの連絡を待つ間にナイトメアのことについて聞いておいた。
ナイトメアは、中型上級に分類される馬型の魔獣で、高い攻撃力と耐久力を持つため戦士職との打撃戦でもかなりの手ごわさらしい。それに加えて魔の咆哮(ブレス)と言われる中距離攻撃を持ち、魔法職でも油断できない。
話を聞くだけでも恐ろしい魔獣だと言うことがわかる。確かに今のミーヤでは歯が立たないだろうし、チカマなら一撃でやられてしまうかもしれない。
「チカマ、もしナイトメアが見えたら全力で上空へ逃げるのよ?
とにかく高く、真上にはブレスが来ないから、絶対に守って!」
レナージュが真剣な口調で指示をすると、チカマは黙ってうなずいた。
それにしても待っている時間と言うのはとても長く感じる。この場所へ着いてから何分くらい経ったのだろう。もうかれこれ三十分くらいは経っているように感じる。レナージュに指示されていたミーヤは、マナの回復を考えながら鍋に水を張って湯を沸かしておく。もちろんけが人の体をふく可能性があるためだ。
さらに数分経過した辺りでイライザから連絡が来た! なんとミーヤを呼んでいる!? 戸惑うレナージュだが、イライザの判断を信じているのかすんなりと送り出してくれた。
「十分注意してね。
危なかったら絶対無理をしないで逃げるのよ?」
「うん、わかってる! きっと無事に帰ってくるからね。
チカマのことよろしくお願い!」
ミーヤがローメンデル山へ向かって走っていくと、イライザが三人の冒険者をかばいながらナイトメアとやりあっているのが見えた。少し遠いが生体研究でステータスを確認すると、確かにとんでもない強さだと言うのがわかる。
『足手まといにならないだろうか』
死んでも生き返るという安心感はあるが、誰かがミーヤをかばって代わりに死んでしまったら生き返ってはくれない。それだけが心配である。
「ミーヤ! よく来てくれたよ!
アタシがコイツを止めるから、蹴り飛ばすか飛び乗るかして数秒だけ時間を稼いでくれ!
それを三回だ!」
「わかったわ! 任せて!」
どうやらイライザは神術でバリアみたいなものを作り、ブレスや突進を止めているようだ。と言うことはその間、けが人へ回復(ヒール)を使うことができないのだ。そのためミーヤが足止めすることで回復時間を稼ぎ、怪我を治して逃がそうと言うことに違いない。
なぜかわからないが、ミーヤは頭をフル回転させてそこまで思いついた。よし、やれるだけやってみようと意気込んでイライザの横から飛び出していく。イライザへ向かってナイトメアが真っ直ぐに突っ込んできたところを狙い、全力で走っていき横っ腹へ殴りかかった。ナイトメアはたじろいで数メートルほど吹っ飛んでいく。その瞬間にイライザは回復を唱えて一人目の怪我を治した。
「向こうのくぼみまで走るんだよ! 行きな!」
回復を受けた冒険者はまだ痛そうな顔をしているが、それでも走ることはできるようになったらしく馬車の方向へ走り出した。うまくいった、よし、次だ。二人目も同じようにナイトメアの攻撃を妨害している間に回復させて、この場を離脱させることが出来た。よし、順調に行っている。あと一人!
ナイトメア三回目の攻撃はブレスだった。首を少し後ろへ引いてから口を大きく開け、イライザへ向かって叫ぶようなしぐさをすると、なにも見えないのにイライザが魔法の盾ごと後ずさりしている。
ここでミーヤはひらめきを見せ、獣化の妖術で四足の狐へ変身した。これで走るスピードはナイトメアにもひけを取らなくなった!
真っ直ぐに突っ込んでいってから急に方向転換し、狙いを定まらせないように気を散らす。そのまま上を飛び越えるように跳ねた後、上空からナイトメアの顔へ水の精霊晶を放った。そしてすぐに炎を浴びせると蒸気が立ち上る。どうやらうまく妨害できたようだ。ダメージはほとんどないだろうが、視界と呼吸への影響はあっただろう。その間にイライザは残りの一人を回復させてすでに逃がしていた。
「こっちへ向かわせるんだ! 尻を蹴飛ばしてやりな!」
イライザの指示でナイトメアの後ろ脚辺りへ噛みつくと、大きくいなないたあとものすごい速度で走り出した。
「ここで受け止めるから調教するんだ!
そのまま跨っちまいな!」
ミーヤはお尻辺りに噛みついたまま連れて行かれている。ここからどうすればいのだろうか。考えているうちにナイトメアがイライザの元へたどり着いてしまった。マジックシールドと呪文を唱えたイライザががっちりと二匹分の重さを受け止めたその時、魔法の盾にぶつかったナイトメアがよろけた。
ミーヤもイライザもその瞬間を見逃すことは無かった。
「うおおおっりゃあああ!」
イライザは棍棒でナイトメアの顎を掬い上げるように殴りかかった。これには我慢できなかったのか、ヒヒーンという鳴き声と共に後ろ足で体を大きく立てる。
その瞬間、ミーヤは変身を解除して首にしがみつき背に乗ることに成功した。
「落ち着いて、怖くないのよ、大丈夫だから言うこと聞きなさい? これ以上危害は加えないわ」
ミーヤがナイトメアへ語りかけると、今まで怒りにまかせて荒れ狂っていた態度が収まっていく。あとは笛で合図をして使役するだけだ! だがホイッスルで号令するもうまく言うことを聞かない。今のところ大人しくはなっているが、すぐにでもまた暴れだしそうに唸り声を上げている。
「ごめんね、私が未熟だから不安になったんでしょ? でも信じて! きっとあなたの力になるわ」
もう一度優しく声をかけてから笛の音を聴かせると、ナイトメアはブルルウンと低い声で鳴いた。すぐに生体研究スキルを使いステータスを見てみたところ『ナイトメア(ミーヤ・ハーベス)Lv4』と表示されていた。
「イライザ! すごい! うまくいったわよ!
なんてことなの! こんなこと!」
大興奮するミーヤのそばにやってきたイライザは、子供へするように優しく頭を撫でてくれた。
「レナージュ? 中型の魔獣って普通なら麓にはいないんでしょ?
なんで降りて来てるのかな?」
「うーん、あんまり聞かないケースだからねえ。
上で遭遇して逃げてきたとか、わざわざ連れてきたか、そんな所じゃないのかな。
魔獣はマナを持ってる獣って意味だけど、逆に言うとマナを補充し続ける必要があるの。
だから地表よりも大気マナ濃度の濃いところに集まる傾向があるのよね」
「だから山の上のほうにいるの?
地下迷宮にいるのも同じ理屈?」
「うん、地表を基準にして上でも下でも遠くなればなるほどマナ道度が濃くなるって言われてる。
まあ誰かが測ったわけじゃなくてそう言われてるってことだけどね」
それならば山で元いた場所あたりへ戻っていっている可能性もあると言うことか。イライザの身に危険がないことを願うしかない。その時レナージュの元へモーチアからメッセージが入った。レナージュの顔が曇りながらも引き締まる。
「魔獣の詳細が分かったんだけど、どうやらナイトメアって馬型の魔獣だね。
大きさ的には中型に分類されてるけど、中型上級っていってちょっと手ごわいよ。
イライザだけならやられることは無いはずだけど……」
「まさか、けが人を抱えてたら危ないかもってこと!?
私も行ってこようか?」
「何言ってるの! 神人様で普通より強くてもあなたはまだレベル1なのよ?
いくらなんでも無茶すぎるわよ。
それにけが人を見つけたら即応急処置して、走れるくらいにはすると思うから心配いらないわ」
「そっか、治療師だもんね。
じゃあこで連絡を待つよ」
イライザからの連絡を待つ間にナイトメアのことについて聞いておいた。
ナイトメアは、中型上級に分類される馬型の魔獣で、高い攻撃力と耐久力を持つため戦士職との打撃戦でもかなりの手ごわさらしい。それに加えて魔の咆哮(ブレス)と言われる中距離攻撃を持ち、魔法職でも油断できない。
話を聞くだけでも恐ろしい魔獣だと言うことがわかる。確かに今のミーヤでは歯が立たないだろうし、チカマなら一撃でやられてしまうかもしれない。
「チカマ、もしナイトメアが見えたら全力で上空へ逃げるのよ?
とにかく高く、真上にはブレスが来ないから、絶対に守って!」
レナージュが真剣な口調で指示をすると、チカマは黙ってうなずいた。
それにしても待っている時間と言うのはとても長く感じる。この場所へ着いてから何分くらい経ったのだろう。もうかれこれ三十分くらいは経っているように感じる。レナージュに指示されていたミーヤは、マナの回復を考えながら鍋に水を張って湯を沸かしておく。もちろんけが人の体をふく可能性があるためだ。
さらに数分経過した辺りでイライザから連絡が来た! なんとミーヤを呼んでいる!? 戸惑うレナージュだが、イライザの判断を信じているのかすんなりと送り出してくれた。
「十分注意してね。
危なかったら絶対無理をしないで逃げるのよ?」
「うん、わかってる! きっと無事に帰ってくるからね。
チカマのことよろしくお願い!」
ミーヤがローメンデル山へ向かって走っていくと、イライザが三人の冒険者をかばいながらナイトメアとやりあっているのが見えた。少し遠いが生体研究でステータスを確認すると、確かにとんでもない強さだと言うのがわかる。
『足手まといにならないだろうか』
死んでも生き返るという安心感はあるが、誰かがミーヤをかばって代わりに死んでしまったら生き返ってはくれない。それだけが心配である。
「ミーヤ! よく来てくれたよ!
アタシがコイツを止めるから、蹴り飛ばすか飛び乗るかして数秒だけ時間を稼いでくれ!
それを三回だ!」
「わかったわ! 任せて!」
どうやらイライザは神術でバリアみたいなものを作り、ブレスや突進を止めているようだ。と言うことはその間、けが人へ回復(ヒール)を使うことができないのだ。そのためミーヤが足止めすることで回復時間を稼ぎ、怪我を治して逃がそうと言うことに違いない。
なぜかわからないが、ミーヤは頭をフル回転させてそこまで思いついた。よし、やれるだけやってみようと意気込んでイライザの横から飛び出していく。イライザへ向かってナイトメアが真っ直ぐに突っ込んできたところを狙い、全力で走っていき横っ腹へ殴りかかった。ナイトメアはたじろいで数メートルほど吹っ飛んでいく。その瞬間にイライザは回復を唱えて一人目の怪我を治した。
「向こうのくぼみまで走るんだよ! 行きな!」
回復を受けた冒険者はまだ痛そうな顔をしているが、それでも走ることはできるようになったらしく馬車の方向へ走り出した。うまくいった、よし、次だ。二人目も同じようにナイトメアの攻撃を妨害している間に回復させて、この場を離脱させることが出来た。よし、順調に行っている。あと一人!
ナイトメア三回目の攻撃はブレスだった。首を少し後ろへ引いてから口を大きく開け、イライザへ向かって叫ぶようなしぐさをすると、なにも見えないのにイライザが魔法の盾ごと後ずさりしている。
ここでミーヤはひらめきを見せ、獣化の妖術で四足の狐へ変身した。これで走るスピードはナイトメアにもひけを取らなくなった!
真っ直ぐに突っ込んでいってから急に方向転換し、狙いを定まらせないように気を散らす。そのまま上を飛び越えるように跳ねた後、上空からナイトメアの顔へ水の精霊晶を放った。そしてすぐに炎を浴びせると蒸気が立ち上る。どうやらうまく妨害できたようだ。ダメージはほとんどないだろうが、視界と呼吸への影響はあっただろう。その間にイライザは残りの一人を回復させてすでに逃がしていた。
「こっちへ向かわせるんだ! 尻を蹴飛ばしてやりな!」
イライザの指示でナイトメアの後ろ脚辺りへ噛みつくと、大きくいなないたあとものすごい速度で走り出した。
「ここで受け止めるから調教するんだ!
そのまま跨っちまいな!」
ミーヤはお尻辺りに噛みついたまま連れて行かれている。ここからどうすればいのだろうか。考えているうちにナイトメアがイライザの元へたどり着いてしまった。マジックシールドと呪文を唱えたイライザががっちりと二匹分の重さを受け止めたその時、魔法の盾にぶつかったナイトメアがよろけた。
ミーヤもイライザもその瞬間を見逃すことは無かった。
「うおおおっりゃあああ!」
イライザは棍棒でナイトメアの顎を掬い上げるように殴りかかった。これには我慢できなかったのか、ヒヒーンという鳴き声と共に後ろ足で体を大きく立てる。
その瞬間、ミーヤは変身を解除して首にしがみつき背に乗ることに成功した。
「落ち着いて、怖くないのよ、大丈夫だから言うこと聞きなさい? これ以上危害は加えないわ」
ミーヤがナイトメアへ語りかけると、今まで怒りにまかせて荒れ狂っていた態度が収まっていく。あとは笛で合図をして使役するだけだ! だがホイッスルで号令するもうまく言うことを聞かない。今のところ大人しくはなっているが、すぐにでもまた暴れだしそうに唸り声を上げている。
「ごめんね、私が未熟だから不安になったんでしょ? でも信じて! きっとあなたの力になるわ」
もう一度優しく声をかけてから笛の音を聴かせると、ナイトメアはブルルウンと低い声で鳴いた。すぐに生体研究スキルを使いステータスを見てみたところ『ナイトメア(ミーヤ・ハーベス)Lv4』と表示されていた。
「イライザ! すごい! うまくいったわよ!
なんてことなの! こんなこと!」
大興奮するミーヤのそばにやってきたイライザは、子供へするように優しく頭を撫でてくれた。
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