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第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編

64.理不尽に屈す

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 フードコートには十四時過ぎについた。三人で遅い『朝食』を取りながら今後について話をしたいが、イライザがいないので細かい話はできなそうである。

「チカマは何食べる?
 またパンがいいのかな?」

「ボクはあれがいい!」

 チカマの指差した場所に出ている看板にはこう書いてあった。

『神人様レシピ! 目玉焼きとゆで卵の専門店』

 一瞬目を疑ったがどう考えてもフルルの、いや商人長のお店だろう。びっくりしながら近寄ってみると、そこには空っぽの屋台があるだけだ。その上には立て看板のようなものが置いてあり『本日品切れ』と書いてあった。

「どうやら好評のようね。
 売り切れてしまうなんてすごいじゃないの」

「でもこの看板はちょっとないんじゃない?
 こんな大きく書かれたら恥ずかしいわよ」

「でもミーヤとは書いてないし、知らない人にはわからないでしょ。
 なんにせよ儲かってそうだからいいじゃない。
 売り上げに応じてミーヤの懐にもがっぽり入ってくるんでしょ?」

「がっぽりなんてとんでもない。
 いくらなんでもそんなには売れないと思うよ?
 それよりも店を閉めてるならなんで返信くれないんだろう」

「昨日のうちに連絡しなかったから怒ってるんじゃない?
 フルルも酒癖は悪いからねえ」

 こうやってまた脅されると、そろそろ本気にしてしまいそうだ。気を取り直して、レナージュはラーメン、チカマはベーコンフルーツを挟んだパン、ミーヤも細切り肉と野菜の入ったパンにした。

 腹ごしらえが済んだら次は治療院だ。もちろん分配金を渡すためである。事前に連絡を入れると、少し経ってから返事が来た。どうやら二人とも在宅しているようだ。

 冷やし果実をかじりながら治療院へ向かうと、どうぞ入ってくださいと言わんばかりに玄関が開いていた。まあ治療院だから気軽に入れるようになっているのだろう。遠慮なく中へ入っていくとすごい匂いがするし目に沁みる。

「イライザ! いるの!?」

 レナージュが声をかけると、奥の部屋から二人が這い出すように出てきた。

「ごめんね、ちょっと臭うでしょ?
 マルバスが薬作りに失敗して凄かったのよ」

「錬金術も大変ねえ。
 料理だったらいい香りがするか素材が無くなるかどちらかだし、商売替えしたら?
 今ならミーヤがいろいろ教えてくれるわよ?」

 レナージュがまた勝手なことを言っているがもちろん冗談に決まってる。商売と言えば、野外食堂の卵料理屋についてマルバスは何か知らないか聞いてみた。

「あそこへはあまり行かないから知らないですね。
 変わったと言えば、最近マーケットで卵を見かけるようになったくらいでしょうか」

 スガーテル氏関連の店だろうか。おそらく卵をたくさん買っているのは宿屋のおばちゃんだ。と言うことは、それほど噂になっているとか評判で行列が出来てると言うこともなさそうか、と思ったところでイライザは口を出してきた。

「いやあ、マルバスは食い物に興味の無い珍しい奴だからね。
 いつもマーケットで肉とかパンとか同じ物ばかり買って来るんだよ。
 だからフルルの店が評判かどうか聞いても当てにならないよ」

「食べるものに興味の無い人って初めて見たわ。
 もしかして普段から薬草食べたりしていませんよね?」

「流石にそれはないですね。
 でも今流行の薬草茶は好んで飲んでますよ」

 マルバスも味音痴なのか…… とガッカリしつつ、本題の分配をすることにした。出してくれたお茶が薬草茶だったのは言うまでもなく、当然ミーヤは口を付けなかった。

「えええっ!? こんなに貰っちゃっていいの!?
 これってチカマのと合わせて二人分よね?」

「いいや一人分よ?
 チカマの分もミーヤへ渡しておく?」

「チカマだって一人前なんだし自分で持っていた方がいいんじゃない?
 どうする?」

「ボクはお金いらないよ?
 ミーヤさまが食べさせてくれるし、泊まるところもあるし、飴玉買ってくれるし」

 謙虚なのか欲がないのか、はたまた興味がないのかわからないが、数十万ゴードルを預かって正確に管理する自信は無い。そう伝えてもチカマは受け取ろうとしない。

「だって私がチカマの分まで使ってしまうかもしれないわよ?
 そうしたら困るでしょ?」

「ボク困らない。
 ミーヤさまがいなくなったら困るだけ」

 はー、かわいい! チカマったらなんてこんなに愛らしいのかしら。ミーヤはまたいつものように抱きしめて、頭をくしゃくしゃしていたが、エスカレートしすぎて思わずほっぺへキスしてしまった。するとチカマはビックリしたようにミーヤの手を振りほどいた。

「チカマごめん、驚かせちゃった?
 あまりにかわいいからついやり過ぎちゃったの、許してね」

「ううん……
 なんでだかわからないけど、急にすごく恥ずかしくなっちゃった……」

 懲りずにもう一度抱きしめてしまったが、今度は優しく頭を撫でた。チカマはニコニコしながらその行為を受け入れてくれ、ミーヤはとても安心したのだった。

「これでひとまず今回の旅の清算が済んだってわけだ。
 そんでフルルだけど、まだ連絡つかないのか?
 今晩は祝杯と行きたかったんだけどな」

「今晩も、でしょ?
 昨日あれだけ飲んだのに今晩も飲む気だなんて、相変わらずすごいわね。
 マルバスはまたお留守番なの?」

「いいんだよ、旅に出ていない時は昼間ずっと一緒なんだしな。
 恋人でも結婚してるわけでもないんだからお互い自由さ」

「本当は一緒にいたいくせに。
 そういうところ素直じゃないわよね」

 レナージュまでイライザをいじりはじめた。だがイライザもまんざらではないようだ。それよりも、目の前で話題に出されたマルバスのほうが顔を赤くしている。

「まあ女性同士のほうが話も弾むと思いますし、遠慮なく楽しんできてください。
 できれば帰りに噂になっている神人様の料理を……」

「朝まで残ってたら持って帰ってきてやるよ。
 まあ難しそうだけどな」

 イライザはそう言って大笑いしていた。しばらく談笑しているとようやくフルルから連絡があった。今日はとても忙しかったらしく、短文で後で宿屋へ行くとだけ記されていた。

「なんか元気無さそうね。
 でもきっと、飲み始めたらすぐ元気になるわよ」

「そうだな、あいつの酒の強さには驚かされるよ。
 あの体でアタシより飲むんだからなあ」

 確かにフルルは小柄だが、お酒を飲む量はすごいものがある。しかも朝には引きずらないのだから恐れいってしまう。だがそんなことはどうでも良く、ようやく連絡が取れた安心感でいっぱいだ。

 その後、夜遅くなってからフルルは宿屋というか酒場に現れた。心なしかやつれて見える。

「フルル、待ってたわよ。
 全然返信来ないから怒ってるのかと心配しちゃったわ」

「ああ、昨日帰ってきてたのに連絡くれなかったから?
 そんなことで怒ったりしないわよ…… その程度で……」

 やっぱりフルルの様子は変だ。卵料理屋がうまくいってないのだろうか。早い時間から品切れで閉店していたのと何か関係があるのかもしれない。

「やっぱり怒ってる? 野外食堂のお店見たわよ?
 開いてなかったけど何かあったの?」

「ちょっと別の場所へ行っていて今日は開けられなかったのよ。
 でも怒ってないわ、本当よ…… 疲れてるだけ。
 おばちゃん! 蒸留酒をジョッキで!」

 フルルが注文するとおばちゃんが、こっちへ取りにに来ておくれ! と叫び返す。ぶつぶつ言いながらフルルはカウンターへ向かう。

「ねえ、やっぱり何かあったんでしょ。
 絶対おかしいわ」

「そうだな、あの様子じゃ全然売れなくて商人長に怒られてるんじゃないか?
 それとも失敗してちゃんと料理を出せてないとかな」

「どちらにしても心配だわ。
 いつも元気なフルルがあの調子じゃ、飲むのにも気を使うわねえ」

 チカマ以外はフルルの様子が気になって仕方がない。チカマは注文した番号札を眺めながら、いつ呼ばれるのかとソワソワしている。そこへフルルがジョッキ片手に戻ってきた。そしてテーブルの上にドンッという音を立てて全員を見回してから一言。

「ミーヤのせいよ!
 私もう何日もろくに寝てないんだからね!!」

 そう言われても何の事だかさっぱりわから…… なくもない。卵料理屋のことを言っているに決まってる。やっぱりうまくいってないのだ。

「まあそんなに落ち込まないでよ。
 売れてないのか調理に失敗してるのかわからないけど、改善できるよう一緒に考えよ?」

「考えたって私の体は一つしかないのよ!
 いっぺんに何十人も押しかけてきてそりゃ大変な毎日なんだからね!
 明日からミーヤにも手伝ってもらうからね!」

 まさかそっちだったのか。でも屋台で販売なんてやったことがない。うまくできるだろうか。

「この番号札いいわね。
 まさかこれもミーヤの案なのかしら? 私には教えてくれなかったのに?
 こういうの教えてくれてないからさ、割り込みや順番間違いでいつも騒ぎになるのよ……
 そのせいでもうすぐ野外食堂から追い出されてしまうんだからね」

「ええ、私のせいなの!?
 この番号札も昨日思いついたばかりなのに」

「と・に・か・く! 明日は絶対手伝ってもらうんだから。
 移転先の設備も見に行かないといけなくて忙しいのよ!
 とりあえず毎日卵二百個用意して毎日売り切れてるのよ?
 覚悟してちょうだい!」

「わかりました……」

 フルルの放つものすごい殺気に、もうイエスと答えることしかできないミーヤだった、

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