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第四章 目指せ!フランチャイズで左団扇編
65.目が回る
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はっきり言ってフルルはブラック経営者の才能があるに違いない。ミーヤを無理やり働かせるだけではなく、アレコレ理由をつけて、チカマとレナージュにまで手伝いをさせているのだ。しかも無給……
「ミーヤさま、番号呼んでもこない。
どうしよう」
「マーケットのほうまで行ってしまってるのかもね。
ちょっと回りながら探してきてちょうだい。
それでも見つからなければ後回しね」
あまり話し込んでいると目玉焼きが焦げてしまうし、茹で卵は固ゆでになってしまう。ちゃんと見ながらすべてこなすのはなかなか大変だ。
とにかく忙しい。ひたすら忙しい。いくらなんでも食に飢えすぎた人ばかりで恐ろしくなってくる。しかもコンロは小さいものが二つだけだし、これでは効率が悪すぎる。
せめてスキレットが五つくらい置けたら全然違うんだけど、なんて思いながら茹で卵の蒸し器を火からおろし水をかけて冷やす。その間に目玉焼きを皿に移し番号を叫ぶ。
呼んでも来ない場合はチカマとレナージュの出番だ。フードコートを周りながら番号を叫ぶことに最初は抵抗感があったレナージュも、今ではもうヤケクソで叫んでいる。
「ミーヤ、お皿回収してきたわよ。
洗った方がいいわよね?」
「お願いできるかしら。
使い捨てなら良かったのに、あの木の皮みたいなやつ無いのかしら」
ミーヤがそう言ったのは、木の皮にくるまれたフルーツクリームをクレープと間違えて食べてしまった経験からだ。そうか、クレープを焼いてそれに乗せて提供すればいいんじゃないか? だが、こう言うことを思いついてしまうと、結局後から苦労するような気がしてフルルにはとても言えない。
確かまだ麦粉があったような、とポケットを探ると、あと少しだけ入った袋が出てきた。試しに水で溶いて薄く焼いてみると、意外にうまくいきそうだ。
試しに次のお客さんへ、このお皿ごと食べられますと言って出してしまった。そしてこれは後々まで続く大失敗の始まりだったのだ。
茹で卵はそのまま手づかみで持って行ってもらうので皿を回収する手間が無くていいが、殻をむかないといけないのが大変だ。焦っているせいで数個は殻剥きに失敗して消えてしまうし、一度は手からすべって地面に落としてしまった。まあそれはチカマが飛んできてあっという間に食べてしまったのだが。
「ミーヤさま、ボクもうだめ。
お腹すいた」
こうなるともうチカマは全然働こうとしない。仕方ないのでまたパンを買ってあげると言ってお金を渡した。やっぱり少し持たせておいた方がいいのではないだろうか。でもチカマはミーヤに何か買ってもらうこと自体を楽しんでる節があるので、結局はねだりに来るだろう。
パンを片手に戻ってきたチカマは、なぜかミーヤの前の行列に並んでいる。レナージュがサボっているチカマをにらみつけるが全く気にしない様子で大人しく並んでいた。
大分待ったはずなのに、そんなのどうってことないという顔でミーヤの前に現れたチカマは、目玉焼きひとつと言ってお金を支払う。そんなことしなくてもこっちへ入ってくればいいのに、と言うと、他のお客さんが怒るよ? とまともなことを言っていた。
その目玉焼きを、ベーコンとフルーツが挟んであるトルティーヤ風の薄焼きパンにはさんで食べ始めると、それを見た人たちがトルティーヤ屋さんへ群がっていった。うーん、ジスコの食文化恐るべし……
こんな風に口を利く暇もなく時間が過ぎていき、二百個あった卵は十四時頃には売り切れてしまった。
「ようやく店じまい……
お客を見つけに行くだけで疲れたわ……」
「ミーヤさま大変だった?
飴玉あげようか?」
「二人ともありがとうね、チカマ、飴玉頂くわ。
四つダメにしたけど全部で百九十六個売り上げたわけだ。
そりゃ疲れるはずよねえ」
たかが目玉焼きとゆで卵にすごい群がりようで、見聞きするのと体験するのはやっぱり違うことだと改めて思う。しかし…… まさかこれを毎日やれなんて言わないよね? フルルへ連絡し、売り切れたので宿屋へ帰ると伝えたところ、新店舗の設備を見に来てくれと言われてしまった。場所を聞くと今まで武具屋だったところらしい……
「ええ!? あそこを借りたわけ!?
おかげで武具屋が無くなって大迷惑よ!」
「いやそれは順番が違うんじゃない?
武具屋が閉めたから商人長が借りたわけでしょ?」
「そんなのどっちでも同じことよ!」
レナージュは疲れすぎたからか理不尽に文句を言っている。それよりも新店舗へ行かなければならない。できれば今の内にコンロ周りは考え直してもらわないと、捌く速度が遅すぎてまた同じように混乱が起きてしまう。
「とりあえず今はフルルに逆らわないことにするわ。
なんだか殺気立っていて怖いんだもの」
「私はさっきまでのミーヤも怖かったけどね。
屋台をやるとみんな短気になるのかしら」
「パンに目玉焼きおいしかった。
ミーヤさまにおすすめ」
チカマだけは平常運転で癒される。ああ、フルルったらとんでもないことに巻き込んでくれたわね。絶対ミーヤのせいじゃないんだから! そんなことを考えながら元武具屋へ急いだ。
「ミーヤさま、番号呼んでもこない。
どうしよう」
「マーケットのほうまで行ってしまってるのかもね。
ちょっと回りながら探してきてちょうだい。
それでも見つからなければ後回しね」
あまり話し込んでいると目玉焼きが焦げてしまうし、茹で卵は固ゆでになってしまう。ちゃんと見ながらすべてこなすのはなかなか大変だ。
とにかく忙しい。ひたすら忙しい。いくらなんでも食に飢えすぎた人ばかりで恐ろしくなってくる。しかもコンロは小さいものが二つだけだし、これでは効率が悪すぎる。
せめてスキレットが五つくらい置けたら全然違うんだけど、なんて思いながら茹で卵の蒸し器を火からおろし水をかけて冷やす。その間に目玉焼きを皿に移し番号を叫ぶ。
呼んでも来ない場合はチカマとレナージュの出番だ。フードコートを周りながら番号を叫ぶことに最初は抵抗感があったレナージュも、今ではもうヤケクソで叫んでいる。
「ミーヤ、お皿回収してきたわよ。
洗った方がいいわよね?」
「お願いできるかしら。
使い捨てなら良かったのに、あの木の皮みたいなやつ無いのかしら」
ミーヤがそう言ったのは、木の皮にくるまれたフルーツクリームをクレープと間違えて食べてしまった経験からだ。そうか、クレープを焼いてそれに乗せて提供すればいいんじゃないか? だが、こう言うことを思いついてしまうと、結局後から苦労するような気がしてフルルにはとても言えない。
確かまだ麦粉があったような、とポケットを探ると、あと少しだけ入った袋が出てきた。試しに水で溶いて薄く焼いてみると、意外にうまくいきそうだ。
試しに次のお客さんへ、このお皿ごと食べられますと言って出してしまった。そしてこれは後々まで続く大失敗の始まりだったのだ。
茹で卵はそのまま手づかみで持って行ってもらうので皿を回収する手間が無くていいが、殻をむかないといけないのが大変だ。焦っているせいで数個は殻剥きに失敗して消えてしまうし、一度は手からすべって地面に落としてしまった。まあそれはチカマが飛んできてあっという間に食べてしまったのだが。
「ミーヤさま、ボクもうだめ。
お腹すいた」
こうなるともうチカマは全然働こうとしない。仕方ないのでまたパンを買ってあげると言ってお金を渡した。やっぱり少し持たせておいた方がいいのではないだろうか。でもチカマはミーヤに何か買ってもらうこと自体を楽しんでる節があるので、結局はねだりに来るだろう。
パンを片手に戻ってきたチカマは、なぜかミーヤの前の行列に並んでいる。レナージュがサボっているチカマをにらみつけるが全く気にしない様子で大人しく並んでいた。
大分待ったはずなのに、そんなのどうってことないという顔でミーヤの前に現れたチカマは、目玉焼きひとつと言ってお金を支払う。そんなことしなくてもこっちへ入ってくればいいのに、と言うと、他のお客さんが怒るよ? とまともなことを言っていた。
その目玉焼きを、ベーコンとフルーツが挟んであるトルティーヤ風の薄焼きパンにはさんで食べ始めると、それを見た人たちがトルティーヤ屋さんへ群がっていった。うーん、ジスコの食文化恐るべし……
こんな風に口を利く暇もなく時間が過ぎていき、二百個あった卵は十四時頃には売り切れてしまった。
「ようやく店じまい……
お客を見つけに行くだけで疲れたわ……」
「ミーヤさま大変だった?
飴玉あげようか?」
「二人ともありがとうね、チカマ、飴玉頂くわ。
四つダメにしたけど全部で百九十六個売り上げたわけだ。
そりゃ疲れるはずよねえ」
たかが目玉焼きとゆで卵にすごい群がりようで、見聞きするのと体験するのはやっぱり違うことだと改めて思う。しかし…… まさかこれを毎日やれなんて言わないよね? フルルへ連絡し、売り切れたので宿屋へ帰ると伝えたところ、新店舗の設備を見に来てくれと言われてしまった。場所を聞くと今まで武具屋だったところらしい……
「ええ!? あそこを借りたわけ!?
おかげで武具屋が無くなって大迷惑よ!」
「いやそれは順番が違うんじゃない?
武具屋が閉めたから商人長が借りたわけでしょ?」
「そんなのどっちでも同じことよ!」
レナージュは疲れすぎたからか理不尽に文句を言っている。それよりも新店舗へ行かなければならない。できれば今の内にコンロ周りは考え直してもらわないと、捌く速度が遅すぎてまた同じように混乱が起きてしまう。
「とりあえず今はフルルに逆らわないことにするわ。
なんだか殺気立っていて怖いんだもの」
「私はさっきまでのミーヤも怖かったけどね。
屋台をやるとみんな短気になるのかしら」
「パンに目玉焼きおいしかった。
ミーヤさまにおすすめ」
チカマだけは平常運転で癒される。ああ、フルルったらとんでもないことに巻き込んでくれたわね。絶対ミーヤのせいじゃないんだから! そんなことを考えながら元武具屋へ急いだ。
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