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第六章 未知の洞窟と新たなる冒険編

121.仕込みは上々

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 大きな水牛を仕留めて意気揚々と馬車まで引き上げたミーヤとチカマだが、戻って最初に目に入った光景の前にガックリとうなだれることになった。

「あの、えっと、あの……
 私はなんとかしようとしたんですけど……」

「こんな事なら無理にでも起こしてから行けば良かったわ。
 まさかいい歳の大人ばかりなのにこんなことになってるなんてねえ」

「ボクたちのほうがいい子。
 飲みすぎたりしないし朝も早起き」

 チカマのそのセリフは微妙にミーヤの胸へ刺さらないでもないが、ここ最近はきちんとした生活を送っているので大丈夫、ええ、大丈夫ですとも!

 それよりも今は地面を這いつくばっているこの人たちを何とかしなければいけない。レナージュだけならまだしもヴィッキーや六鋼の男性陣まで頭を抱えてのたうちまわっている。せっかくミーヤが置いて行った酔い覚ましは、激しい戦闘の後を物語るかのように地面へばら撒かれていた。

「ねえレナージュ? 深酒も二日酔いも構わないわ。
 でもね、せっかく用意しておいた酔い覚ましを取り合って台無しにしたのはどういう了見なのよ!」

「怒鳴らないで…… お願い…… 次はこぼさないから……」

 こんな状態では会話もままならない。仕方ないので酔い覚ましを溶かした水を作って全員へ手渡していった。それにしても、トラック達のように屈強な戦士でも二日酔いには勝てないものなのかとあきれるほかない。やっぱりフルルのように二日酔いにならない体質はまれなのかもしれない。と彼女のことを思い浮かべたらなんだか心配になってきたので久しぶりに連絡してみることにした。

『久し振り、お店の調子はどうかしら?
 フルルのことだからきっとうまくいってるわよね?
 私はまだ王都にいるから様子を見に行かれないけど、ジスコへ戻ったら必ず寄るわね』

 今はまだ昼を少し回ったところなので忙しいさなかだろう。返事がすぐ帰ってくるはずないし確認することが出来なくて当然だ。でももしかしたら確認だけして怒っている可能性もある。そんなことを考えていたらなんだかおかしくなってきて思わず吹き出してしまった。

「ミーヤったら人が頭痛くて苦しんでるのに笑うなんてひどいわね……
 そりゃこうなったのは自分のせいだってわかってるけどさ。
 もう少し優しい人だと思ってたわよ」

「やあねヴィッキーったら考え過ぎよ。
 ジスコのお友達が今忙しくしてるだろうなって思っておかしくなっちゃったのよ。
 私が手伝ってた頃だって建物五件分くらいの行列が一日中、毎日だったんだもの」

「そこはなに? やっぱりミーヤの料理を出してる店なの?
 どんな食べ物なのか聞かせなさいよ……」

 二日酔いが大分良くなってきたからか元気を取り戻しつつあるヴィッキーは、食い意地だけは復調したらしく未知の料理に興味津々といった様子だ。説明して聞かせるのは簡単だけど、今すぐ食べたいと言われても作ることが出来ない物ばかりなのが気にかかる。

 それでもはいつくばりながらしつこく食い下がってくるのでミーヤはしぶしぶ説明した。するとヴィッキーは突然元気に立ち上がり驚くべきことを口にした。

「もうこんなところの探索は止めてジスコへ行こう!
 そのお友達のお店ってやつへ早く案内してよ!」

「ちょっとちょっと、そうは言ったって王様と約束してるんだから勝手なことできないわ。
 それにこの件のリーダーはレナージュだもの」

「わかったわ、じゃあレナージュ、いいでしょう?
 あなただってこれが終わったらジスコへ帰るんだしちょうどいじゃないの。
 早いか遅いかだけの違いよ」

「そうねえ、このまま続けても何も見つからないような気もするし。
 念のため明日の探索でめぼしいものや洞穴が無かったら引き上げてもいいわね。
 ジスコへ帰れば宿代飯代もかからないしさ」

「レナージュがそれでいいなら異論はないけど……
 本当にここには何もないのかな。
 あの盗賊はなにか知らなかったのかしら」

「そうね、それを聞いてからでも遅くないかもしれないわ。
 でも莫大な富を得られるようなものがあったなら盗賊なんて続けてないでしょ。
 つまり何もないか、やつらも知らないかのどちらかよ」

 ヴィッキーの言った言葉には説得力がある。確かになにもせず財産を築ける何かがあるのなら、危険を冒してまで盗賊を続ける意味がない。だが換金性の低いもの、たとえば遺跡や資源とかならどうだろう。少なくとも地下水脈はあるのだから水産資源があってもおかしくは無い。

 とはいえ、ミーヤもあまり期待していないのは確かで、このまま六鋼の人たちへ任せてしまっても構わないと言う気持ちが半分以上ある。とりあえず今後どうするかはレナージュに決めてもらうとして、今は他にすることがある。

 二人へそう伝えてからミーヤは少し広い場所へ移動した。そしてポケットバンクを呼び出して先ほどしまっておいた水牛を足元へと取り出すと周囲から歓声が聞こえてくる。だがミーヤはニコリともせずその声の主たちへと振り返り大き目の声で話しかけた。

「誰も起きないから私たちで狩りへ行ってきたのよ?
 だから今日は食べさせてあげません、干し肉でもかじってなさい!」

「そりゃねえぜ、昼過ぎに起きても十分間に合う予定だったんだって。
 それにこんな大物、早く使わねえと痛んじまうぜ?」

「そうよミーヤ、起きなかったのは謝るから勘弁して。
 今日は深酒せずに明日こそちゃんと起きるから!」

 皆が思い思いに弁解の言葉を並べている。それほどこの水牛の肉は魅力的なのだろう。全員が一通り懺悔し、それを聞き終わったところでミーヤが笑顔を見せると、これまた全員から安堵の声が上がる。まったく現金なものである。

「まあ私たちだけじゃ食べきれないし、仕方ないから分けてあげるわよ。
 その代り明日からきっちり働いてもらうんだからね!」

「ははあ、なんなりとお申し付けください、ミーヤさまあ。
 ほら、ヴィッキーも拝んで拝んで」

「もう、レナージュったらふざけてないで解体手伝って。
 皮はいい値段で売れるかしらね。
 それとも革鎧作ってくれるところがあるかしら」

 すると六鋼のドワーフが王都の裁縫屋で革鎧を作っているところがあると教えてくれた。水牛の革は表面のきめが細かいので水はじきがよく、返り血がすぐ取れるので高品質品だそうだ。さらに嬉しいことに水牛の角を使ってチカマの武器を作ってくれると言ってくれた。

「この村に鍛冶工房があるだろ?
 そこで打ち合わせしようや、魔人のお嬢ちゃんや。
 ノームのチビちゃんは細工できるんだよな?」

「ボクお嬢ちゃんじゃなくてチカマだよ。
 こっちはナウィンだからね」

「そうかそうか、ワシのことはダルボと呼んでくれ。
 素材さえあれば基本的な武具は作れるから遠慮なく言ってくれよ」

 そう言ってから三人で鍛冶工房へ向かった。ミーヤとレナージュは水牛の解体、ヴィッキーと六鋼残りのメンバーは焚き木と果物を探しに森へ入っていった。

「それにしても水牛仕留めてくるなんて驚いたわ。
 一般的には群れで生息してるから狩るのは簡単じゃないのよね。
 一体どんな技を使ったのかしら?」

「うふふ、このマントが役に立ったのよ。
 このマントを尻尾へ結んでね――」

 と得意げに説明しているうちに水牛はすっかりと解体された。まだ時間は早いので今からならかなりの時間煮込むことが出来る。ミーヤはさっき見かけた空き家から大鍋を拝借しモツ煮込みを作り始めた。量が多いので貴重な醤油をたっぷり使う羽目になってしまったが仕方ない。

 あとはサーロインとランプにリブロースをキレイに切り分けてステーキにしよう。人数分を切り分けた後余ったものは、肩ロースやバラ、モモと一緒に端皮でキレイにくるんでポケットへしまっておく。

 さらに鍋をもう一つ用意してから玉ねぎを放り込み炎の精霊晶を入れて直火焼きにする。さらにすねやしっぽ等の固い部位を小さく切りながら同じ鍋に入れて焼き目をつけていく。こんがりと色がついたら水を入れて煮込めばブイヨンが出来るはずだ。

 その時レシピが降ってきた。どうやらブイヨンは既知の調理と言うことだろう。しかも嬉しいことに煮込み続ければ固形スープが完成するようである。この辺りの仕組みはいまだにさっぱりわからないが、頭の中へ勝手に浮かんできて理解できるのだから便利である。

「ホント、ミーヤは次から次へと色々な料理を作るわよね。
 今日の夕飯も楽しみでよだれが出てきちゃったわよ」

「今日は比較的シンプルに肉をそのまま焼いたものをメインにするつもりよ。
 あとはこのモツ煮込みとテールスープね」

「なんだかわからないけど絶対おいしいに決まってるわ!
 ああ、早く夜にならないかしら。
 もちろん酒は控えめにするつもりだから安心して」

 どうやら飲まないと言う選択肢はないようだ。まあそれがレナージュのいいところでもある…… とは言い切れないが、悪気はないし人生を楽しむ姿勢は尊重したい。

 他にも手持ちの果物と人参を使って野菜ジュースを作っておく。レナージュ達にあんなことを言った手前ミーヤが酒を飲んで潰れるわけにはいかない。チカマとナウィンも酒を好んで飲むわけじゃないのでミーヤと一緒に野菜ジュースを用意しておくことにした。

 その時、果物を絞った香りに誘われたのか、あのシルフがミーヤのところへ飛んで戻ってきた。水牛狩りで慌ただしくしているうちに逃げてしまったと思っていたのにちゃんとついて来てくれていたのは嬉しいことだ。

 しかし――

「ミーヤ!? そ、それって!!」

 まさか予想もしていなかったレナージュの狼狽ぶりにミーヤのほうが驚いたのだった。

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