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第六章 未知の洞窟と新たなる冒険編

123.窮屈な道のり

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 どういう話の流れか、今後は六鋼から三名、四重奏から三名でパーティーを組んで探索することになった。昨晩の話し合いを最後まで聞いてなかったのでうろ覚えだが、確かもう進めるのが真ん中の洞窟だけであり、その先は地下水脈が流れているところまで探索済みである。

「ミーヤさまおぼえてないの?
 ボクが泳げないから行かれないってなったでしょ?」

「ああそうだったわね。
 疲れてうとうとしながら聞いてたからすっかり抜けちゃってたわ。
 それで私とレナージュにヴィッキー、トラックさんにダルボさんとルカさんで行くんだったわね」

「ああ、うちからはその三人だな。
 まあ気楽に行こうぜ、もちろん冒険者同士呼び捨てで構わねえぜ。
 回復役が一人なのは心もとない気もするが、姫様も剣術使いだし平気だろう」

 念のためにミーヤが作った回復の巻物を数本ずつ持ったが効果は微々たるものだ。できれば使わずに済むようにと祈るしかない。

「それじゃ留守番よろしくね。
 チカマはもう一つの洞窟見に行ってくるの?
 危険は無いんでしょ?」

「うん、行ってくる。
 トカゲくらいしかいないからだいじょぶ。
 ナウィンと探検いく」

 チカマがいればよほどのことがない限り平気だろう。それにもう一つの洞窟はほんの少し進んだだけで行き止まりらしいので、気分だけの探索と言うところでナウィンにはちょうどいいかもしれない。

「ナウィンはちゃんと魔術使って頑張んなさいよ。
 自力でトカゲ十匹持って帰って来られたら初級冒険者ってところね」

「レナージュ? そんな基準あるの?
 まさか適当なこと言ってないでしょうね」

「いやいや本当のことよ。
 ナードの入り口辺りにも小型のトカゲが沢山いるんだけどね。
 案外すばしっこいし外せばマナの無駄遣いにもなるからいい練習相手なのよ」

「なるほどねえ、でもどうせなら森で鳥でも狩った方がいいんじゃない?
 弓使いが二人もいるのだし、ナウィンは矢とか弦が作れるじゃない。
 きっと有効活用できるわよ」

「まあどっちでもいいかな。
 予備はまだまだあるからね、任せるわ」

 こうして合同パーティーはそれぞれの探索へと出発した。それにしても相変わらず後続の探索隊がやってこない。王都でどんな説明をしているのか知らないが、明らかに旨みのなさそうな話なのだろう。

 洞窟へ入ってから竪穴を通り酸欠の広間を抜けて別れ道まで進む。その後真ん中の道を行くとまた竪穴があった。巨大な魚らしきものがいたのはこの先と言う話だ。

「随分下ったけどまだ底までつかないのね。
 途中の横穴と言うのもまだ先なの?」

「横穴はもうすぐのはずだ。
 問題はどっちを優先するかだな。
 底まで行くなら地下水脈を泳いで進むことになるぜ」

「泳ぐのも濡れるのも構わないけど先へ進んでいかれるの?
 先に横穴へ行ってみた方がいいんじゃないかしら。
 ミーヤはどう思う?」

「うーん、私はどっちからでもいいけど、濡れた後は早目に戻りたいわ。
 ずぶ濡れのままであちこち回るのは嫌だもの」

「そりゃ真理だな。
 んじゃま横穴から探ってみるとするか」

 六鋼が昨日の探索で来た際に縄梯子をかけておいてくれたので楽々下っているが、なにもなかったらこの竪穴を進むのは結構大変そうだ。装備品の中には縄梯子なんてなく用意するなんて思いつかなかったが、今後は携行しておいた方が良さそうである。

 それからまたしばらく下っていくとようやく底が見えてきた。ここからだと暗くてよくわからないが、そこまで下りると結構広いらしい。

「ほれ、ここに横穴があるだろ。
 打ち合わせ通り行ってみるとするか」

 トラックの合図で次々に横穴へ入っていく。立ったままでは進めないほど細い穴だが自然に出来たものなのだろうか。とはいえ人が掘ったにしては狭すぎる。

 一番身体が大きいのはトラックだが、さすが虎の獣人だけあって猫背なので狭いところも苦にならないようだ。ドワーフのダルボや人間でも背が高くないヴィッキーやルカは余裕がありそうだし、ミーヤもまったく問題なく、苦労しそうな狭さに見えるわりにすいすいと進めている。

 問題なのはレナージュだった。背も高いがそれよりも体が固いのか、かなり苦しそうに腰を曲げながら歩いていく。これでは腰を痛めてしまいそうである。

「ねえレナージュ、大丈夫?
 かなり辛そうだけど腰痛いの?」

「なんのこれしき、平気よ。
 それよりこの湿気、ヴィッキーの頭を心配してあげなさい」

「はあ? こんなのへっちゃらよ。
 髪の毛は固くなんかないからね」

「私の身体が固いって言いたいわけ?
 そりゃミーヤみたいにしなやかとは言い難いけど洞窟通るくらい困らないわよ!」

 かなりムキになっているところを見ると相当辛いのだろう。残念ながら手伝えることもないし、代わってあげることもできない。出来るのは応援するくらいのものだ。

「おいおいお嬢さん方、先がわからねえんだからあまりはしゃいでると疲れちまうぜ?
 腰が辛けりゃ一休みしても構わないがどうする?」

「先が広くなってることを期待して進みましょ。
 いったん座りこんだら立ち上がるのが嫌になりそうだもの」

「やっぱり辛いんじゃないの。
 無理しないで休憩した方がいいわよ?
 なんなら板に乗せて引っ張っていってもいいしね」

「そんな罪人みたいな運ばれ方まっぴらごめんよ。
 ちゃんと歩くから心配しないで。
 でも気遣ってくれてありがとう、ミーヤ」

 しかしその後も地下道は一向に広くなる気配はないし、どこまで続くのかもわからない。地上を歩くよりも大分ペースが遅いので進んだ距離すらあやふやではっきりしないため、ここがどのあたりなのかもわからないくらいである。

「もう村の外へ出たくらいまで進んだんじゃない?
 なんであの時盗賊たちはここから逃げなかったんでしょうね」

「そりゃおめえ…… この先が外へ繋がってないからじゃねえか?
 もしかしたら最後まで行ったら行き止まりかもしれねえなあ。
 運が良ければなにかある場所へ出るかもしれねえけど期待できそうにねえ」

 私の疑問にトラックが即答したが、その答えは今ここにいる全員に絶望感を与えるセリフだった。さすがにレナージュが弱音を吐く。

「ちょっと休憩してもいい?
 なんだか先が見えなさ過ぎてやる気が削がれてきたわ。
 トラックもミーヤも夜目が効くんでしょ?
 どのあたりまで続いてるか見えないの?」

「うーん、暗いところで見えると言っても遠くまで見えるわけじゃねえしな。
 少なくとも見える範囲はずっとまっすぐだな」

「私もそれほど遠くまで見えるわけじゃないわ。
 試しに光精霊を投げてみようかしら」

「いい考えね、それなら私が矢に乗せて射ってみるわ。
 ちょっと通してくれる、まったく狭くてやになっちゃうわ。
 ―― って! どこ触ってんのよ!」

「勝手に押しつけといて何言ってやがる。
 大体そんな…… なんでもねえ、ちくしょう」

「ちょっとトラック? 何が言いたいわけ?
 ことと場合によっちゃ容赦しないわよ?」

「なんでもねえよ、そんなことやってねえで早く矢を射れって言ってんだ。
 せめえんだからさっさと頼むぜ」

 なにやらむなしい諍いが起きているような気もするがあえて聞かなかったことにしよう。ヴィッキーはなにか言いたそうだったがこれ以上騒がれてもたまらないので、ミーヤはその口を覆って黙っているようにと諌めた。

 気を取り直してレナージュは矢の先に光の精霊晶を乗せて弓をつがえた。ほぼ水平に打ち出すのであまり遠くまでは見えないだろう。それでも夜目で見るよりも随分先まで様子がわかるのはありがたい。ヒュッっという音とともに撃ちだされた光の矢はだいぶ先まで行ってから地面へ落ちて光っている。残念ながらそこまではこの横穴が続いていると言うことになる。

 その結果に落胆したのか、レナージュは再び矢をつがえてもう一本撃ちだした。今度は少し上へ向けて射ったらしく天井すれすれをかすめてから少し遠くまで飛んでから消えていった。

「あら? 下り坂なのか竪穴なのかわからないけど光が消えてしまったわね。
 もう少しでこの窮屈な通路を抜けるってことじゃない?
 早くいきましょうよ!」

 休憩と言いだしたのはレナージュなんだけど…… なんて口にすることはできないので、大げさに頷きながら再び歩き始め、一行は先を目指すのだった。

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